032「動物クッキー」
エマとテオが、互いの幼馴染と鉢合わせしてから数週間が経った。
街は謝肉祭のテーマカラーであり、街の名前でもある、オレンジ一色に統一されたオーナメントが、街灯や支柱、さらには窓枠にまで飾り付けられ、いつも以上の華やぎを見せている。街行く人々も、年に一度の祭典とあってか、どこかルンルンと気持ちが浮き立っているように見える。
「これは、猫かな?」
「違うわ、パパ。これは、ウサギさんよ。猫さんは、もっと耳が三角じゃない」
「これは失礼」
テラスのテーブルの上に大理石が置き、そこへ小麦粉を振った上で、アランとクロエは、人参のカロテンによってオレンジがかったクッキー生地を平たく形作りながら、並べている。アランは慣れた様子で手際よく卵型の生地を多産し、クロエは、ぎこちない手つきでウサギやクマの形の生地を少産している。
「あとは、これを天板に載せて、オーブンに入れて焼くだけなんだけど、ここまではメモを取れたかい?」
「あっ、はい。なんとか」
「このあと、今度は君にも作ってもらうから、あとは実際に手を動かして身体で覚えると良い」
「はい」
ノートにペンを走らせつつ、エマがアランの確認に応じる。そのあいだに、クロエはエマの懐に割り込み、首を伸ばしてノートを見ようとする。
「わっ。クロエちゃん」
「な~んだ、文字ばっかりなのね。つまらないわ」
「こら、クロエ。エマの邪魔をするんじゃない」
アランが注意すると、クロエはテーブルのそばへと戻り、まだ塊のままになっている生地の一部を捻りちぎっては、ペタペタと粘土細工の要領で形作っていく。
「今度は何を作ってるの、クロエちゃん?」
「うんとね。あっ、そうだ。今度は、リスさんにしよう!」
クロエが宣言した瞬間、少し離れた訓練学校では、ドミニクがくしゃみをしたとか、しなかったとか。