028「最初に分かっていれば」
「キレイに使ってるわね。大変だったでしょう、片付けるの。まっ、散らかした本人が言うのもアレだけど」
「フフッ。たしかに、ドアを開けてすぐは驚いたわ」
夕陽が斜めに差し込む部屋で、マリーとエマはベッドの端に並んで座りながら、いたってリラックスした状態で会話を楽しんでいる。ベッドの上には、大小さまざまな色と大きさの三角形の布が縫い合わさって作られたカバーが掛けられている。
マリーは、ふと何かを思い出したかのように天井を見上げると、すぐにエマのほうを向いて質問する。
「ねぇ、エマ。あの空色髪のハンサムボーイとは、あれから会ってないの?」
「テオくんのこと? 今日のお昼過ぎに会ったけど、……何なの、急に?」
恋バナのムードが漂い始めたことに勘付いたエマが、話をはぐらかそうとしてわざとらしく驚いてみせると、マリーは、エマの額を人差し指で軽く弾きながら、マイペースに話を進める。
「気付いてないとでも思ってるの? とぼけるのも、いい加減にしないと、……エイッ!」
掛け声を発するとともに、マリーは両手でエマの無防備な脇腹をくすぐりだす。エマは、突然の攻撃にキャッキャと笑いながら、マリーとともにベッドに転がり、コチョコチョ攻撃から逃れようとしつつ、息を弾ませながら言う。
「やめて、やめて。わかった。わかったから、話す。話すわよ」
「最初から、素直に言えば良いのよ。それで、どこまで関係が進んでるの?」
マリーが期待を込めた目でエマを見ながら訊ねると、エマはポッと頬を赤らめつつ、照れ隠しにマリーの背中をバシバシと叩きながら言う。
「そんなんじゃないんだって。今日は、たまたま再会することが出来ただけだし、お互いの幼馴染やドミニクくんも一緒だったから、大したことも話さないまま、楽しくお喋りして終わったの。だから、特に進展は無いわ」
俯きながら、エマは、そのときの様子を頭に浮かべつつ、アッサリと答える。すると、マリーは詳細をしらんとばかりに、グイグイ質問を重ねるので、エマは簡潔に受け答えをする。
「一対一になる機会は無かったの?」
「無かったわ」
「あら、そう。でも、かえってそのほうが良かったかもね。二人っきりだと、まだ何も言えないでしょう?」
「そうね。きっと、恥ずかしくて言葉が出ないわ」
「そうでしょう、そうでしょうとも」
マリーは、腕を組んで大きく頷きながら一人合点すると、やや声のボリュームを落しつつ、質問を続ける。
「ねぇ、エマ。ホントは、あなたの口から言ってくれるかと期待してたし、このことは兄さんには黙っててほしいんだけど、実は、兄さんの部屋にあった手紙を見てしまったの。それで、気を悪くしないでほしんだけど、……エマ。あなた、魔女よね? ――あっ、待って!」
顔面からサッと笑みを消し、スッと立ち上がって部屋から出ようとするエマを、マリーは腕を掴んで引き留め、早口で補足する。
「誤解しないで、エマ。別に私は、エマが魔女だからどうのこうのという区別をするつもりは、微塵も無いの。ただ、修行中に異性を好きになってはいけないと思えば思うほど、そのハンサムボーイのことを考えてしまって悩んでやしないかと思っただけなの。私は、あなたの心の葛藤を紐解いてあげたいだけなのよ!」
マリーが長口上を終えてひと呼吸おいているあいだに、エマは、マリーから顔を背け、諦めにも似たため息をひとつこぼしてから、再びマリーのほうを向いて応じる。
「数日ぶりに会って、確信してしまったんだけど……」