025「上か下か」
「胸の発育が良いのは認める。だが、傲慢で金食い虫だから駄目だ」
「エー。食べ頃のメロンちゃんなのに、もったいない」
「なら、ドミニク。君が貰ってくれ。そうすれば、これ以上、僕に被害が及ばない」
「いやいや。イザベルさんは、テオと同い年なんだろう? 年上は、いささか遠慮したい」
「年下好きか。でも、クロエちゃんに手を出すなよ」
「さすがに幼女は、守備範囲外だって。僕をロリコン扱いするな」
ほがらかに他愛もないやり取りをしながら、テオとドミニクは廊下を並んで歩き、寮の自室の前に立つ。すると、ドアにはノブの横に張り紙がしてあるのが目に入る。テオは、その張り紙を手に取ってピッと剥がしつつ、そこに書かれている金釘流の文字を読み上げる。
「鍵が欲しくば、談話室に来い」
「あちゃー。サボって抜け出したのが、上級生にバレたか。すんなり戻って来られたと思ったのになぁ」
ドミニクが額に手を当てながら、天井を仰いで大袈裟に嘆いているあいだに、テオはノブを握り、奥へと押そうとするが、ガタガタと不快な音がするだけでビクともしない。
「駄目だな。しっかり施錠されてる」
「なぁ、テオ。ヘアピンを持ってないか? 縫い針や針金でも良いけど」
「この長さで、留める必要があると思うか?」
テオが青髪をひと房持ってドミニクの疑問に反語で返すと、ドミニクはドアの表面を撫でたり軽く叩いたりして質感を確かめながら言う。
「ピッキング作戦は不発か。う~ん、いよいよ困ったな。こうなったらドアに体当たりするか、蹴破るしか方法が無いぞ?」
「足を挫いても良いつもりなら、強いて止めはしない」
「あっ、協力してくれないんだ。僕ひとりじゃ、骨折り損のくたびれ儲けじゃないか。そいつは、いただけないよ」
「ここは、大人しく下に降りるべきだ、ドミニク。これ以上、ここで変な真似をして、余計な説教の種を増やすのは、得策ではない。ホラ、行くぞ!」
「グギギ……」
未練がましくドアを睨むドミニクを、テオは腕を掴んで連行していく。
このあと、二人は上級生の長話に付き合わされた上、面倒な雑用を言いつけられるのだが、それは改めてお話しよう。