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001「南国の魔女」

 少女の門出は、雲ひとつない快晴と、ときおり吹きつける心地よい潮風によって祝福されている。

 

「今日は私の、十六歳の旅立ち記念日だ・か・ら~。フンフ、フーン♪」


 調子の外れた自作曲をハミングしながら、パーマっ気のある赤毛でそばかす顔の少女は、海沿いの開けた道で使い古されたトランク片手に、ルンルン気分で縁石の上をスキップしている。その動きに合わせて、首から下げている小ぶりの懐中時計のようなロケットペンダントも、少女の胸元で右に左に揺れる。


「エマ。その恰好で海水浴したくなかったら、ちゃんと歩道を歩きなさい」

「はーい」


 エマと呼ばれた少女は、中年の色気が漂う金髪の女の注意を受け、弾みを付けて歩道に降り立つ。言動では素直に従いつつも、表情には「そんなこと、いちいち注意しないで欲しい」とでも言いたげな不満の色が浮かんでいる。

 その景色を読み取ったのか、女の横を歩いていた初老の男がエマに近付き、凛とした声の女とは正反対の間延びした声で、ご機嫌を確かめつつ、オーバーに身振り手振りをしながら嘆いてみせる。


「まぁ、ママもエマを心配して言っただけだから。子供が危ない目に遭わないように見張るのは、親の責任なんだ。あぁ。出来ることなら、このまま魔女の修業になんか行かせないで、ずっとココで可愛がってあげたいくらいなのに」

「もう、パパったら、心配性なんだから」


 そう言うと、少女は男の身体にドンと肩をぶつけてじゃれる。すると、男はヘラッと相好を崩し、愛おしげに赤毛を撫で回す。


 そうして和気あいあいと歩くこと数十分。三人は、客車を牽く蒸気機関車が待つ駅に到着する。


「よく聞きなさい、エマ。修業中は、けっして正体を見られてはいけないわよ。それから、恋愛は御法度。禁忌を破ると、決して一人前の魔女になれないから、くれぐれも気を付けるように。いいわね?」 

「はーい。よーく、気を付けるわ」


 エマは「もう、その話は耳にタコが出来るほど聞かされました」とでも言いたげなウンザリした顔をしながら返事をする。すると、すかさず男がエマに確認する。


「着いたら、すぐに手紙を出すんだぞ、エマ」

「もちろん。聖誕祭の前には、ママもビックリするくらい立派な魔女になって戻るつもりだから。期待しててちょうだい。――それじゃあ、行ってきます!」

「行ってらっしゃい、エマ」

「エマ。くれぐれも、都会の危険には気を付けるんだぞ~」


 立派な魔女になるという憧れを実現せんとばかりに張り切るエマは、手を振る両親に見送られながら、満面の笑みを浮かべて汽車に乗り込む。その背中が徐々に小さくなるのを、駅に残る二人は名残惜しそうな様子で、脳裏に焼き付けるように注目するのであった。

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