016「罪と罰と清掃作業」
「あ~、もう。どうやったら、こんなに水回りが汚れるんだ!」
「あんまり叫ばないでくれよ、ドミニク。タイルに反響して耳が痛くなる」
デッキブラシを片手に、ドミニクとテオは、学生用のシャワールームを掃除している。床や壁には水垢がこびりつき、排水溝には抜け毛が渦を巻いている。
「まったく。気付いてて泳がせるなんて、陰湿だよ。こうやって罰則として宿題や掃除をさせるから、学習意欲が削がれたり、整理整頓を嫌がったりするのさ。――ちっとも汚れが落ちないな」
「その意見は、ごもっともだけど、元はと言えば、君が蒔いた種じゃないか。巻き添えになった僕の身にもなってくれよ。――軽くこすったくらいでは、落ちそうにないね。洗剤があれば楽なのに」
目地に向かって八つ当たりしつつ、ドミニクが乱暴にデッキブラシを前後させると、テオは同意しつつ自身の不満を口にし、そして建設的な意見を出す。
「悪かったって。でも、楽しかっただろう? ――根性論、はんたーい! 洗剤よこせー!」
「まぁ、……否定はしない。今日の一件で、いろいろと吹っ切れた気がするよ。――うるさいな。そもそも、誰に向かって言ってるのさ?」
換気のために開けている天井付近の突き上げ戸に向かって、ドミニクが握り拳を振り上げながらシュプレヒコールまがいのことをすると、テオは顔を顰めて片手で耳を塞ぎつつ、ドミニクに向かって苦言を呈する。
ドミニクは、それを柳に風と受け流しつつ、ヘヘッと小憎たらしく笑いながら続ける。
「そいつは、重畳だよ。やっとテオらしくなってきたな」
「どういう意味だ?」
「君の背後には、ずーっと父親の亡霊が付きまとってたのさ」
「勝手に殺すな。まだ存命だ」
「怒らないでくれよ、モノのたとえなんだから。で、そいつが、きれいサッパリ成仏されたと思ってさ」
「ほー。君は、いつから祓魔師になったんだい?」
「おっ、いいね。怨霊、モノノケ、悪鬼退散! うりゃー!」
「こらっ。こっちに水をかけるな、この野郎!」
このあと二人は、掃除のことを忘れて、靴もズボンも水浸しになるまでバケツで水を掛け合ったのであった。それから、そろそろ反省しただろうと思って見回りに来た上級生に呆れられたのは、言うまでもない。