012「過去と未来のあいだに」
「ドミニクたちは、何をしてるんだろう?」
「さぁね。クロエは、すっかり懐いてるみたいだけど」
獣耳と尻尾を持った人影と、それを追う小さな人影が行ったり来たりするのを、ステンドグラス越しに眺めつつ、テーブル席に座るテオと、カウンターを布巾で拭きながら、飲み終わったグラスやカップを片付けるアランが、同じ方向を見ながら会話を交わしている。
「精神年齢が近いのかな、ドミニク」
「いや。あれは、ただ遊んでやってるだけだろう。ハーブの花壇を荒らさなきゃ良いんだけど」
アランは、脳裏にオレガノやセージの姿を思い浮かべながら、少しばかり憂え顔をした。そのあと、ガラス製のポットから粉が入っているフィルターを取り除き、棚で逆さにして乾燥させていたグラスを手に取ると、抽出したコーヒーをそこへ注ぎ、コルク製のコースターと一緒にテーブルへと持って行く。
「お待たせ」
「あっ、僕の分もあったんですね。いただきます」
「パンは、二人分もらったからね。向かいに座っても良いかな?」
「えぇ。どうぞ」
返事をしたあと、テオはグラスを持ち、麦茶のような色の水出しコーヒーをひと口飲む。ゴクッという小さな音とともに、テオの喉仏が上にせり上がり、再び元の位置に下がったタイミングで、アランは感想を訊く。
「どうだろう。まだ水っぽいと思うんだけど」
「あっ、いえ。これくらいで、ちょうど良いです」
「そうか。――さて。マリーたちに席を外してもらってるあいだに、ちょいとばかりセンシティブな問題に触れようと思うんだが、良いかな?」
アランは、丁寧な話しかたを心掛けながらも、その瞳の奥に、どこか有無を言わせないオーラを発して言う。テオは、その射すくめるような視線を感じて一瞬、目を合わせると、すぐにステンドグラスのほうへ顔をそらしながら、ひどく冷たい口調で言う。
「このコーヒーは、情報料も兼ねてるんですね。良いでしょう。でも、僕のほうからも訊かせてくださいね」
「あぁ、いいとも」
クロエとドミニクが平和的に戯れている庭からガラス一枚隔てて、アランとテオは冷たい火花を散らしはじめるのであった。