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011「平凡と特殊のはざまで」

「アランさんがアズマヤだなんて言うから、もっとお粗末な家を想像してたわ」

「ハハッ。子供が作る秘密基地とは違うんだ。ちゃんと住める家を建てるさ」


 ログハウス風の平屋の、傾斜の緩やかなスレート屋根の上で、伸ばした腕を後ろで支えにしているエマと、頭の後ろで腕を組んで寝そべっているマリーが、油断すると眠ってしまいそうな陽気に照らされながら、のんきに雑談に華を咲かせている。


「空気がキレイで、緑が豊かで、見晴らしのいい土地ね」

「そうだろう。近くに自然にできた蓮池もあるんだ。私のお気に入りスポットさ」


 眼下を見渡せば、東の青空の下に、市の中央駅から放射線状に伸びる鉄路と石畳の道、その路と道のあいだに立ち並ぶ建物の群れが視認できる。駅に向かって行く汽車が吐き出す黒煙や、煙突から立ちのぼる煤煙が風になびくのを、二人は見るともなしに見る。


「マリーさんは凄いですね。こんな立派な家を、自力で建てちゃうんだから」

「そりゃあ、どうも。まぁ、私は設計図を書けないし、他人が設計した家に住みたくなくてね。何でも自作でカスタマイズしないと気が済まないところは、クリエイターの気質だよ」

「へぇ。いいですね、芸術家らしくて」

「らしくて良いかどうかは、微妙な問題だけどね。世間一般では、ひねくれ者で厄介な性格だと思われてるから」

「でも、普通のことをしてたんじゃ、独創性は生まれない」

「その通り」


 エマが視線を送ると、マリーはエマの視線に気づいてアイコンタクトを返し、二人は自然と小さく微笑み合う。すると、二人のあいだを、ツバメに似た小鳥が通り抜ける。エマが小鳥に目を奪われ、飛び去った方角を見つめると、マリーはスレートの上に両手をついて上体を起こし、どこか遠い目をしながら、声のボリュームを抑えて話し出す。


「鳥は良いわよね。広い空を、自由に飛び回れるんだから。私も、箒に乗って空を飛べたらなぁ」

「何ですか、急に?」


 エマが、顔では微笑みを絶やさぬようにしながらも、やや警戒を帯びた声音で訊ねると、マリーはエマの胸元に視線を注ぎながら言う。


「快晴と温暖な気候に恵まれた常春の楽園、と呼ばれたのも今は昔。魔術と科学が共存していたこの街の均衡は、有権者の政治的無関心を発端にして反魔教団が支持する政党が過半数の議席を占めたことによって、徐々に綻びを見せ始めてる。それと同時に、多様性を認めない、ろくでもない男たちが幅を利かせてるせいで、傷付く人たちがいる」

「どうしたのよ? そんな小難しい話をして、何が言いたいの?」


 苛立ちを隠せない様子で、エマが眉根を寄せながら結論を急ぐと、マリーはエマのペンダントを指差しながら断言する。


「そのペンダントは、普通のペンダントじゃないって言いたいんだ。もっと言えば、それを持ってるエマだって、一般人じゃない。違うかい?」

「それは……」


 目の下のクマも相まって、ただならぬ威圧感を醸しながらマリーが言い切ると、エマは効果的な反論も思い浮かばずに口ごもる。


「言いたくなきゃ、言わなくていい。言えない事情があるなら、これ以上は何も言わない。だけど、この街は見かけ以上に窮屈なところだから、目立ったことをしないほうが良いわ。――さて。そろそろ、コーヒーが出来上がったころかしらねぇ」


 言い淀んでいるエマを置き去りにして、マリーは言いたいことを言ってスッキリしたという様子で立ち上がり、屋根の端に立て掛けてある梯子を下りて行く。エマは、俯いてペンダントに視線を落としたあと、すぐに顔を上げてマリーのあとに続いた。

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