96 さめたものとつくるもの
目を開く。
目の前には主人2人の姿。
「あ、動いた!!リリス、シュラウドが目を覚ましたぞ!!」
「よかったわ!!このまま動かなかったらここら一体の建物を壊しつくしていたところだわ!!」
両手を上げて喜ぶ二人の姿。
「あの・・・ここは?」
途中から記憶がない。最後に見たのは自分がタクミ様に殴り掛かり、そしてリリス様が戻ってきたところまでだ。
そこから先は全くといっていいほど覚えていなかった。
ただ、最後に見た彼らの姿と比べると、服がよれて埃まみれであるように見える。
状況から判断するに、自分がやってしまったのだろう。
「ここはこの前俺たちが依頼で来た工場だな。工場といってももうすでに破棄したみたいだが」
「ダカラ俺ガ使ッテルンダ!!」
物陰から聞き覚えのない声が聞こえてくる。タクミ様たちは意に介していない様子から知り合いなのだろう。
少し、声がおかしいような気がしたが、それは自分が言えることではない。
「工場、ですか・・・」
自分の体を確認してみる。
そこにはいつもの、リリス様に直してもらった時と変わらない体が存在している。
まるで言うことを聞かないのが嘘だったみたいに自由自在に動く。
「ああ、一応、今回お前を修理してくれたのはこのゴブリンのほうだから感謝するならそっちにしてやれな。」
タクミ様は目を下に落とす。
その方向を見てみると確かに1匹、ゴブリンがいた。
通常のものより知性的に見える。
「この方は?お知り合いでしょうか?」
「ん?まあ知り合いといえば知り合いだな。ここでひっそり色々なものを作ってもらってるんだ。」
「そうですか。治してくれてありがとうございます。」
「オウッ、モット敬エ!!」
「ほら、調子にのらない。」
リリス様の拳がゴブリンの頭に振り下ろされる。
リリス様は軽く小突いた程度みたいだが、ゴブリンはその一撃で沈黙してしまう。
知的な分柔らかいのかな?
それにしても・・・・・
「それでシュラウド、これからどうしたい?」
思考を遮るように自分にどうするつもりかを投げかけられる。
どういうこと?
「何を言っているかわからないっていう顔だな。あれだ。シュラウドはこれからやり返しに行くって選択肢があるけど、どうするっていうことだ。」
やり返す選択肢?
「このまま放っておいてもまた同じようなことを繰り返すだけだろからな。こういうイベントは条件を満たしている限り周期的に起こったりするもんなんだ。だから今からやり返しに行った方がいいか?」
さも当然のごとく、放っておけば今回のようなことが続くだろうということをタクミ様は告げる。
そしてそれを知った自分がどういう判断をするのかも。
「ああ、お前がそれは嫌だっていうなら別の方法で襲撃を回避することもできる。要するに店を縮小させればいいだけだ。」
そして別の案も同時に・・・・
後者の案は自分としては賛成するところがある。
あの店が繁盛するようになったのは、自分の自己愛によるもので、与えられたものをそんなものに使って・・・という負い目があったからだ。
だがその反面、与えられた仕事を完璧に全うするべきではないのか?そんな意見も自分の中では湧き出てくる。
結局、自分は手に入れたものを手放すのが怖いのだ。
「行きます。行きましょう。」
自分はそう、簡潔に述べた。思えば言葉足らずだったかもしれない。
だが、タクミ様はその意図を簡単にくみ取ってくれる。
「そうか。じゃあ今から準備をしなきゃな。幸い、ここにはゴブリンが集めた素材がたんまりあるしな。せっかくだから2人で何か面白いものとか作ったらどうだ?」
優しくそう問いかける主人の顔は、今の自分には直視するには少し眩しすぎた。
◇
シュラウドを救出してから1週間きっかりが経った。
その間は店は閉めている。
シュラウドが工場に通うようになったからだ。
彼なしでは店の運営はままならない為、仕方なく休業させてもらうことにした。
たまに店を見に行ったりするとシュラウド製のアイテムを買いに来た人とかが張り紙を見て少し肩を落としているのも見えたりしたのだが、それについては本当に申し訳ないと思っている。
それに、準備に結構時間がとられてしまってヴィクレアの依頼のドラゴン討伐のほうも滞っている。
どれくらいの期間あけていいかはわからないが、これ以上放置してしまうのも少し問題かもしれないな。
だが、そんなことを気にするのも今日までだ。
今日、『メルクリウス』との問題はすべて終わらせる―――――主に力技によって・・・・
「みんなー、準備はいいか?」
「大丈夫だよ!!シュラウドを誘拐して分解までした人たちはボクがやっつけちゃうよー!!」
元気なノア、
「問題ないわ。準備ならずっと前から終わっているもの。」
自信満々のリリス。
「本当に、大丈夫なんでしょうか?」
不安そうなシュラウド、大丈夫そうだな。
「よし!!じゃあ突入だ!!」
俺たちはいつの日か俺が調査に来た『メルクリウス』的に何か重要な場所であろう場所を襲撃に来ている。
場所としては俺たちが1度とらえられた屋敷だ。
多分ここは何か重要な場所に違いない。
例えば、取締役の居住とかな。
別に組織の心臓部分をつぶそうというわけではなく、頭にちょっとお願いをしに来たので重要人物がいるなら俺的にはどこでもよかったから目についたここにしたわけだ。
店舗のほうを直接襲撃することも考えはしたが、そっちは関係のない人が多くいると予測できたのでやめることにした。
実際襲撃したときはこっちよりも店舗に言ったほうがダメージはデカいと思う。
「頼もう!!」
門の前で大声で屋敷に向かって声をかける。
当然、中からは衛兵が出てくる。
「誰だ貴様ら!!ここを誰の屋敷か知っての狼藉か!!?」
荒い声を上げる。声から判断すると男だ。
顔はフルフェイスの兜に阻まれて見えない。
「ん、知らないけどとりあえず話がしたいから呼んできてもらえる?」
「ふざけるな!!誰ともわからない奴にディサール様と合わせるわけがないだろう!!」
お、屋敷の主人の名前判明。
ディサール・・・ちょっとかっこいい?名前?
「そうか、なら勝手に上がらせてもらうな。」
俺は瞬時に剣を引き抜きそれをそのまま横に振った。
俺の剣は衛兵が装備していた鎧に阻まれる――――が、確かにダメージは通っている。
今日、俺が持ってきたのはいつもの木の剣ではない。
強化された鋼鉄の剣だからだ。生半可な鎧の防御なら簡単に通すことができる。
俺の攻撃には何も乗っていなかったため、それだけで倒しきることはできないがそれでいい。
別に俺は人を殺しに来たわけではない。
ことが終わるまで静かにしてほしかっただけなのだ。
俺の攻撃を受け、うめき声を上げたところにもう一度軽く、体の勢いを利用した蹴りをお見舞いしておいた。
多分、ダメージ的にはこのくらいが適正だろう。
こうして俺たちは屋敷の敷地内に入る。
しかし当然、こんな大きな家だから守っている人もそれなりの数がいるわけで・・・敷地内にはいったらそれらが俺たちを不審人物と断定して即座に襲い掛かってきた。
「あー、これならこっそり侵入したほうがよかったか?まあ、いまさらだけど・・・」
「ボクとしてはこうやって派手に入場したほうがインパクトはあっていいと思うけどね!!」
「それは大事なのかしら?少なくとも、敵を全部倒せば問題は全部解決するのではなくって?」
物騒だなリリス・・・
ちなみに俺の中の選択肢に『メルクリウス』を全滅させるものはない。
どこから恨みをかうかわからない上に、それじゃあやっていることが敵方と何ら変わりない。
俺としてはもう少し平和的に解決したいのだ。
「だからこうやって話し合いに来たつもりなんだけどなぁ・・・・」
「そうはいってもタクミ、君が一番ノリノリで装備整えてたよね?本当は最初からこうやって通るつもりだったんじゃないの?」
ノアが迫りくる衛兵を無力化しながら軽口をたたく。
彼女はいつもの火の玉ではなく、今日は妖精――――後で聞いたが精霊らしい――――を主体として戦っていた。
1体1体はさほど強くはないのだが、数を召喚できるというのが強い。
単体ではハイスケルトンを倒せるかな?程度の能力しか持ってなさそうだが集まればそれなりに強い。
多分数で来られたら俺だって何の抵抗もできないだろう。
「だってどうせ普通に通してくれるはずがないんだ。準備をするのは当然だろう?」
俺も負けじと衛兵の足を払ったりしながら応答する。
敵地真っただ中といっても過言ではないのだが、みんなにそれを気負う様子はない。
どのくらい敵を倒しただろうか?
魔物相手なら問答無用で叩き切ってしまえばいいため楽なのだが、こうやって殺すことをためらわせる相手だとそうはいかない。
力加減が必要になってくるのだ。
そこで見慣れた顔があらわれた。
「フッ、久しぶりだな。」
声が聞こえてくる方向は上から――――で、場所はここだから・・・・まあ、あいつだろうな。
俺は軽く上方向を見る。
「その登場の仕方はもう飽きたからやめたほうがいいって言わなかったっけ?」
天丼は3回までという言葉をなぞれば今回までならまぁ、有効範囲内か。
「貴様をこれより先にはいかせんよ。今回はきっちりと仕事をこなさせてもらう。」
「そうは言うけど、今回の俺たちは前回より数が多いけど大丈夫か?普通に考えて2人相手でも無理だったんだからその倍の数は無理だぞ?」
「そう言うと思ったよ。だからこちらも今回、人員を増やしてきたのだ。」
へぇ、そこらへんは一応強化しているんだな。
そう思って少ししたとき、目の前の男――――確かガリアスとか言ったか?の周りに3人新たに現れた。
それぞれ違う格好をしているが強さはおそらく同程度だろう。
「これで数の上では互角、それに知っているぞ?そっちの少年は戦う術を持たないのだろう?」
そう言ってガリアスが指さした先にいたのはシュラウド。
確かに、彼に戦闘技能はない。
実質3対4ということだ。
「さあ?どうだろうな?」
だが俺はそんなことは全く気にせずに、とぼけたような声を返してやった。
ちなみになんですが、twitterで更新宣言をやっていたりもします。
基本的に毎日更新するので意味はないですが一応・・・話の構成の都合上明記することができていない設定を小出しし始めたので・・・→https://twitter.com/fis25476704