91 便利と安易
「ん、どんどん集まってくるな。」
俺の周りを飛び回る妖精さんは時間が経つにつれてその数をどんどんと増やしていっている。
どうやらどこかから飛んできているみたいだ。
「それが何なのか、そんなことはどうでもいい。俺は自分の仕事を成し遂げる。それだけでいいんだ。」
上からそんな声が聞こえてくる。
彼は俺の周りに集まってくる妖精さんを無視して攻撃に移るようだ。
「では、行くぞ・・・」
その呟きが聞こえてきた瞬間、俺は体を大きく前へ投げ出した。
一瞬遅れて、俺の後ろを何かが通り過ぎるような音が聞こえてくる。
俺の周りにいる妖精たちはそれぞれが散り散りになることで回避していた。
「ほう、先ほどは簡単にくらってくれたのだが、今度は避けたか・・・」
地に足をつけたそいつが興味深そうな声色でそう言ってくる。
「知らなかったか?聖闘士に同じ技は通用しないんだぞ?」
実際、俺は聖闘士ではないし(まぁ、一応魔闘士ではあるんだが・・・)同じ攻撃も通用しないことはないだろう。
しかし、この男が繰り出してくる攻撃を見切ることは可能だった。
「スキルによる敵の背後への移動、即時発動、ディレイが0,5秒といったところか?連続使用しないところを見ると冷却時間はそこそこ、長くもなく短くもない程度のもの・・・かな?」
俺を一度落とすことに成功したスキルの詳細は大体こんなところだろう。
性能を上げただけでもわかるそこそこいいスキルだ。
それと、わかり切っていたことではあるがこいつはやっぱりローグ系の二次クラスみたいだな。
「ふん、たった2度見ただけでそれを読み解くか。だが、たった1つのスキルを読み取っただけでどうするのだ?俺がそれしか使えないとでも思っているのか?」
「いやぁ?そんなわけないだろう?それに、スキルの本質はあくまで補助だからな。動きのメインに置くものではない。」
勘違いされがちだが、スキルは主体として戦うのは間違っている―――と、俺は思う。
確かに、スキルというのは強大な力を秘めており、使用するだけで多大な影響を与えることだろう。
ゲームの形式がVRになったとしても、それはさほど変わっていない。
だが、スキルやキャラ性能に頼り切った戦い方をしていれば、いつか絶対に行き詰まる。
自分より強いキャラ、強いスキルを持っている敵にあった時、絶対に勝てないという状況に陥る。
そんな敵にあってもいいように、俺は基本敵に動きに影響するようなスキルはとってこなかった。
身体能力や属性値、武器の性能などの強化や耐性をこの身体に付与してきたが、それだけだ。
確かに、習得可能なスキルの中には先ほど目の前の男が使ったもののように発動した瞬間に体の動きが決定するものもあった。
だが、それはできるだけ避けてスキルをとってきたのだ。
「さて、お前はスキルに頼った戦い方をする奴なのかな?」
その答えはもう出ている。
俺との戦闘を終わらせようとしたとき、真っ先にスキルによる移動を優先したのが答えのようなものだった。
「ふっ、お前には関係のないことだろう。」
んー――流石に、というか知らないスキルだ。
まぁ、先ほどの移動技でなければ知らないスキルしかないから当然なのだが・・・・
目の前から男の姿が掻き消える。
そして消えたまま、姿を現そうとはしない。
「んー―、この手のやつは簡単だな。多分――ここかな?」
俺はタイミングを合わせて後方に飛んだ。
すると先ほどまで俺のいた位置に、男の姿があらわれる。
「視覚情報に乗らなくなるスキルかな?制限時間が切れるか何か攻撃行動に移ることで解除されるタイプっぽいか?音とかそこら辺は普通に聞こえるから足音でもろばれだな。」
あ、それを隠すためにあんな服装なのかな?
よくは知らないが足音、出にくそうだし・・・・
今回は庭ということもあって足元の草がうごくから分かりやすかっただけかも。
「ッチ、ならこれならどうだ?」
今度は男はどこからともなくナイフのようなものを取り出し、軽く後ろに引いた。
多分、あれをこっちに向かって投げてくるんだろうな。
俺は一応体を腕でガードしながら横に跳んでくるであろう投擲に備える。
俺の予想通り、そのナイフは俺の方向に向かって飛んできた。
ただ、俺の対応が早すぎたせいで修正を許してしまった。
ナイフは俺の回避先に先回りするような形で飛んできている。
あー、ちょっとミスったな。
まぁ、万が一に備えて急所だけはガードしているから――――痛――――
回避途中、俺の腕に一本のナイフが深々と突き刺さった。
真っすぐに突き立ったナイフはその半ほどまで俺の腕に刺さりそこで動きを止める。
戦闘中ということもあってアドレナリンが出ており、感覚が麻痺しているのだろうがそれでも俺の腕には痛みが走る。
だが、ここで痛みに負けるわけにはいかない。
俺は投擲を行った後、男が何をするのかをしっかり観察しておく。
っと?動かない?
「ということはあれか?さっきの投擲はスキルによるもの、効果は必中で威力が上がるがディレイが長い、ということかな?」
多分これであっているだろう。たかが―――というわけではないがナイフ投げが当たっただけでここまでダメージを受けるのも何かおかしい気がしたし、場所的に綺麗に心臓を守っていた腕に直撃したのも不思議だったしな。
相手の技量が高いとも思ったのだが、そういうわけではなくスキルの補正とすれば割と納得はいく。
「くそっ、これもだめか。」
「おっと、口調が乱れてきてるぞ?さっきまでの余裕はコンビニにでも行っているのか?」
こうやっていくら敵の使うスキルを分析していこうとも、結局俺には今武器はなく、反撃が難しいためやることといえば挑発くらいだ。
少し危険を冒せば素手でも戦えるだろうが、今はそこまで切羽詰まった状況ではない。
俺はそう判断して安全策をとる。
「ほざけ!辛うじて避け続けるのが精いっぱいな分際で!!」
お、怒った。
暗殺者っぽいのに感情をそうやってすぐに表に出すのはどうだろうか?
っと、こんなこと考えている場合じゃないな。多分俺の経験上、こうやって激怒した相手がまず最初に取るのが・・・・
「貴様は俺の全力をもってひれ伏せさせてやる!!」
スキルの連続使用による攻撃だよな?
ただただがむしゃらに、自分の持てる力を片っ端から使うだけ。
怒りにとらわれたキャラがとる行動は大体どのゲームでも一緒だ。敵の使うスキルを知っていれば知っているほど、対応が簡単になっていく。
俺としては今回一番やってほしくなかったことはスキルをほとんど使わず、技量だけで戦うことだった。
空中で睡眠玉をキャッチするようなやつに技量勝負を挑んだら流石に負けるだろうからな。
だが、こうやって激昂してくれればこっちのものだ。
動きは読みやすく、敵は疲れやすくなる。
そして多分、俺が攻撃しなくても時間さえ稼げば――――――
俺は迫りくる男に、少しだけ余裕を取り戻しながら対峙するのだった。
◇
「あ!!タクミたちが見つかったよ!!」
どれだけの精霊を生み出したのだろうか?とにかくたくさん、としか言いようがないほどの精霊に街中を探させたノアは、ついに目的の人物を見つけることに成功していた。
「それで!!?場所はどこかしら!!?」
「ここから少しだけ離れた場所、シルフちゃんがそこに集まっていくからそれを目指せばいいはず!!」
「えっと、じゃあ早くいってあげようよ!!タクミお兄ちゃん、困ってるだろうし!!」
「うん!!2人とも、準備はいいかな?いいならすぐに出発するよ!!」
「ええ、私は大丈夫よ。でもノア、あなたはここで休みなさい。ふらふらじゃない。」
ノアは長時間魔法を行使し続けたことで大量のMPを消費していた。
足りなくなった分はアイテムを使って補ったとはいえ、第二の血液ともいえるMPを体から抜かれ続けたノアの体力は、はたから見てもわかるくらいに消耗していた。
彼女はいつものように何もないようにふるまっているが、今にも倒れそうだ。
「えー!!?大丈夫だよ!!ほら!!」
だが、ノアは自分の手でタクミを助け出したい。そんな思いが先行し、リリスの指示を聞く様子はない。
何としてでも、彼女自身が駆け付けるという意思がそこには見て取れた。
「大丈夫?これでも同じことを言えるの?」
リリスはそんなノアの足を軽く払った。
それだけでノアは床に倒れてしまう。
「何するのさ!!早くいかないとタクミが危ないかもしれないんだよ!!?」
ノアはそう言って即座に立ち上がろうとする――――がしかし、体を起こそうと腕をついたら肘が曲がりうまく起き上がることができない。
「リアーゼ、ノアを見ていてくれるかしら?彼の救出は私一人で行ってくるわ。」
「はい!!わかりました!!気を付けてくださいね!!」
リアーゼがノアを取り押さえるのを軽く見てから、リリスはその場を後にした。
「リアーゼちゃん!!ちょっとどいてー!!ボクも行きたいんだよー!!」
「ノアおねえちゃんはもう十分頑張ったから休んで!!」
「あとちょっとだけだからー、いいでしょ?」
「だめだよ!!」
店の中には、リアーゼに押さえつけられるノアと、縛られた3人、そして、もはや誰からも忘れられて眠ったまま放置されているヴィクレアの姿があった。




