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ゲーム攻略者とゲームの世界  作者: Fis
第3章 終わった機械と刻む歯車
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90 脱出と使いま


「っと、ここは・・・」

見渡すとそこは牢獄だった。

隣を見るとシュラウドまで一緒に投獄されている。


牢屋の前には見張りの看守が1人立っているだけで、ほかに人の気配はない。

「シュラウド、聞こえているか?」


俺は小声でシュラウドに話しかける。

彼は俺が目覚めるより先にもうすでに起きていたみたいだ。それなら、この状況に関して俺よりは詳しいことだろう。


「はい、聞こえています。」


「そうか、俺が気を失った後のこと、わかる範囲でいいから教えてくれるか?」


「そうですね。といっても特に何も起きてはいません。連れ去られてそのままこの牢屋に入れられてそのままです。」

ということは俺がやられてからそれほど時間はたっていない?


「それでタクミ様、これからどうなさいますか?」

不安なのだろう。彼はこちらの様子を伺うように尋ねてくる。


これからどうするべきか?


助けを待つのが普通だろう。

しかし助けなんてものが来るのかが謎である。

この場所はおそらく俺たちをここまで連れてきた『メルクリウス』が管理している牢屋であるはず。

そんな場所を特定して助けに来るということが残されたメンバーにできるだろうか?


戦闘能力面では間違いなく問題はない。

だが、そもそもこの場所を彼女たちが見つけてくれるかという疑問は残る。


そう考えるとこっちのほうでも何か行動を起こしておいたほうがよさそうだ。


せめて、自由に動けるくらいにはしたほうがよさそうだ。


「よし、脱獄だな。」


「逃げるのですね?しかしどうやって・・・」

牢屋の中には何もなく、鍵がかかっており、加えて見張りまでいる。

そんな場所からどうやって出ればいいのか?そう思っているのだろう。


「そうだな。じゃあこういうのはどうだろうか?」


俺はシュラウドの耳元で一言だけ、彼にしか聞こえないようにつぶやく。


―――――話を合わせてくれ。


彼は俺のつぶやきに対して頷くことだけで返事を返すと、次の言葉を待つ。


「おっと、牢屋に入れられるときに武器は取り上げられたみたいだが、流石に隠しておいたものは無事みたいだったな。」

俺は少しだけ声を大きくしてその言葉を口にする。

実際はそんなものはどこにもない。取り上げられてなくなったというわけではなく、そもそも用意すらしていないものだ。


「本当ですね。これなら問題なく脱出ができそうです。」

だが、そんな嘘にシュラウドは全力で乗っかってくれる。


「あ、シュラウド、なるべく看守から見えないようにカバーしてくれるか?俺はこっちで作業しているから。」


「了解しました。」

俺はそう言って牢屋の扉の目の前にある壁に背を向けながら、音を立てるように壁を弄りはじめた。

その行動を異常と見た看守は、俺が何をやっているのかと覗き込もうとするが、看守と俺の間にシュラウドが体を挟み込むことによってそれを許さない。


明らかに何かをやっている。


そんな認識が看守の中に芽生えたことだろう。

その為に俺たちが脱出の手段を持っている―――という旨の会話をギリギリ聞こえるくらいの声の大きさで話したのだ。


「おいそこのお前!!何をやっている!!」


慌てた看守が牢屋の鍵を開け、中に入って俺たちを止めようとしてくる。

自分は鎧を着用し槍を持っているという完全装備状態で、俺たちは武器を取り上げられ店の制服しか着ていない状態、そんな俺たちだからこそ、まったくの無警戒でこうして制圧に来させることができる。


俺は後ろの扉が開き、看守が牢屋の中に入ってきたことを確認した瞬間、目の前の壁を全力で蹴って後方に跳躍した。

ステータスの力の値のせいか、俺の体はかなりの速度で打ち出される。


「残念でした!!何もやってねえよ!!」

挑発するような台詞を吐きながら俺はそのまま看守に体当たりをお見舞いした。


流石にこの一撃では転ばすくらいのことはできても気絶させるのは無理だろう。

そう思った俺は念のため男の手から落ちた槍の石突きを使い追撃を食らわせておく。


これで多分当分起き上がってくることはないだろう。

槍はちょっとの間貸してもらうことにしよう。


「お見事ですタクミ様。」

シュラウドが賛辞を述べながら牢屋の中から外に出てくる。

まぁ、俺がうまくやったというより看守が馬鹿だったというほうが大きいからその誉め言葉はあんまりうれしくはないのだが、素直に受け取っておこう。


「それでこれからどうしようか?外に向かうのが普通なんだろうけど、まず外ってどっちだ?」


「あ、それでしたら運ばれている最中に既に意識があったのでわかります。」


そうか、それはよかった――――ってんん!!?


「そういえばシュラウドって基本的に機械だよな?襲撃の時の睡眠ガスってくらったのか?」

機械に状態異常が入るって聞いたことないんだけど?


「自分には効きませんが体を動かしているスライムたちが眠ってしまって動けませんでした。今回はそれが幸いして意識を保ったまま連れてこられたのですが・・・」


ああ、そうだったな。

シュラウドの体をゴブリンに作らせるの、結構急いだほうがいいかもしれないな・・・


「じゃあ、案内してくれるか?索敵は俺がやるから道を教えてくれ。」


「了解しました。では、まずはこちらです。」

俺はシュラウドの差した方向に歩き出した。



シュラウドが言うにはこの場所は屋敷の地下に当たる部分にあるそうだ。

ここから外に出るまでの道はそこまで複雑というわけではない。むしろ道さえわかってしまえば一直線に出ることができる。


問題があるとするならば・・・・・


「見張りのやつらはどうしたものかなぁ・・・・」


屋敷―――というだけあってこの建物内にはそこそこの人がいる。

見張りの人間だけではない。使用人や家主など、警戒しなければならない存在は多い。


それに俺たちをここに連れてきたであろう奴も、この場所にいる可能性は十分にある。


ぶっちゃけて言うと、この場所から見つからずに脱出するのが困難なのだ。


「それでは、どうするのですか?タクミ様なら強行突破してしまわれたらよろしいのでは?」


「それじゃあ万が一の時にお前が逃げ遅れる可能性が高いだろ?それに、確実に勝てる保証はないしな。」


「いつものような、この状況を安全に打開する手は?」


「う~ん、もういっそのこと強行突破でもいい気がしてきた・・・」

色々考えたが、それが一番楽な気がする。

俺はリリスみたいに壁を壊して新たな道を作ることはできないし、ノアのように大量の火の玉を用いて敵の動きを操作するとかもできない。

リアーゼのように誰の気に留められないように立ち回ることもできない。


正直、俺にできることはこの状況ではほとんどないのだ。


それなら、一か八か特攻して短期決戦を狙うのもいいのかもしれないな。


「では、どうすれば?」

このどうすれば、はシュラウドがどう動くべきかを聞いた台詞なのだろう。

彼は戦闘技能においてはそこら辺のゴブリン未満だ。


特攻に参加してもたいして役に立たない。

そのことを自身で理解しているのだろう。


「シュラウドは――――「置いていかれたらよいと思います。」

俺の指示より早く、彼はそう口をはさんだ。

自分は足手まといだから、ここに置いて俺だけでも逃げるべきだ。

そう言った意志が彼の顔からは感じられた。


「おい、馬鹿なこと言ってるんじゃねえぞ。ここにお前を置いていって何の意味があるんだよ。」


「少なくとも、タクミ様1人ならあの見張りを突破して逃げることは簡単なのでは?」

シュラウドは状況の分析能力はうちのパーティの中で高いほうだ。

この位置から見える入り口を守る見張りの兵士は2人、左右に一人ずつ配置されている。


そして入り口すぐの階段の上にもう2人、こちらは最速で入り口の見張りを処理できれば考慮する必要はない。


そして俺たちは階段の陰に隠れるようにして入り口を見ている。


確かに、俺が全力で入り口に向かって突進してそれを壊し開いた勢いでそのまま外を駆けてしまえば、ひとまずこの屋敷から逃げおおせることは可能だろう。

だが、それでは敏捷性で俺より大きく劣り、なおかつ戦闘技能を持たないシュラウドはまず確実に助からない。


そんな作戦、俺がとるはずがない。


「では、どうするのですか?」


再びこの質問だ。

しかし今度はシュラウドから、少し主張じみたものが感じられた。


「どうするかなんて決まってるだろう?さっきも言った通り強行突破だよ。ただし、入り口の扉はスルーだ。」


「扉はスルー?」


「ああ、当然俺たちを見つけた見張りは俺たちを取り押さえようとするから、俺はそいつらを足止めする。そのすきにあれに向かってダイブだ。」

俺は遠方に見える一つの窓を指さした。


別に扉を開いて出ることに固執する必要はないのだ。

脱出なら窓からでもいい。

こっち側には不幸なことに―――というか地下牢に続く道のため若干当然なのかもしれないが―――窓の類はない。

だが、ここから見える向こう側には、ひとつ、だれも守っていない窓があるのだ。


そこに向かって飛び込ませてもらおう。


「じゃあ行くぞ、、、1―――2――――3!!いまだ!!」

「はい!!」


俺の合図とともに、2人同時に飛び出した。

先ほど述べた通り、シュラウドは敏捷性に欠けている。

そんな彼を連れたまま走るとどうしても扉の前の2人が俺たちの対応に間に合ってしまう。


「どこから逃げた!!?見張りは何をやっている!!?」


「おい!!とらえていた奴らが逃げ出しているぞー!!」


俺たちを視認して、即座に武器を構える見張り達、そいつらに対して俺は先ほど牢屋で拝借していた槍を返却してやった。


「―――ふふっ、リリスには武器を極力投げるなとか言っておいて、俺はこれだもんな。」

そんな笑みをこぼしながら、俺は飛んでくる槍に焦る見張りの横を通り過ぎる。


シュラウドは走ることにだけに専念しているため、俺の少し前にいる。


そして彼は、その勢いを使い窓にたたきつけた。

彼は小さめな体であるといえどその半分は重い機械によってできている。


そんな大質量が勢いよくたたきつけられて、一介の窓が無事であるはずはない。


窓は綺麗ともとれる音を立てながら、シュラウドの体は建物の外に投げ出された。

俺も割れた窓から即座に外に出る。


外に出る途中、窓枠に残ったガラスで体を切ったりもしたがそれを気にかけている余裕は俺たちにはない。


「シュラウド!!まだ油断するな!!とりあえず敷地の外、街の仲間で走るんだ!!」


「了解しました!!」

シュラウドは俺の指示に応え、一目散に逃げだした。


後は俺も―――――っと!!?

そこで俺は何かに足をとられた。


俺は前に倒れるように転びそうになりはしたが、何とか転ばないように持ちこたえる。


俺は下に向いた視線を上に向ける。

目の前には誰もいない。

では後ろは?


誰もいない。


こんなこと、すぐ最近あったな。

俺は上を向く。


「やはりというべきか、逃げ出したか。」

そこには俺をここに連れてきた張本人がいた。

そいつは木に張り付くようにして俺を見下している。


「なんか、2回連続で同じ登場の仕方をされると、芸がないって思うよな。」


「ふん、余裕ぶってはいるが、内心は焦っているのだろう?なにせお前は一度俺に何の抵抗もできずにやられているんだからな。」


「うん、正直焦ってる。今こうして目の前を飛んでいる妖精さんとかが助けてくれないかな~?とか結構思ってる。」

俺は何故かさっきから俺の周りに集まってきている半透明の妖精のようなものを見ながらそう言った。


「む?待て?なんだそれは?」


これについては俺が用意したものでも何でもない。

というか俺自身、これが何なのかはよくわかっていない。大体予想はつくが、それが正解かどうかはわからない。

俺について、ひいては俺の店の周りについては大体調べたらしいが、これについては知らないらしいな。


「さあ?なんだろうな?」


俺は頭上から俺を見下ろす人物に対し、少し挑発的にそう答えた。

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