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ゲーム攻略者とゲームの世界  作者: Fis
第3章 終わった機械と刻む歯車
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87 新人と襲撃者

実はこのヴィクレア、竜爪の剣は計画性のある買い物ではなく、衝動買いしてしまったため手持ちのほとんど全てを使ってしまったとのこと。


しかし彼女曰く、


「いや、これは君たちの協力を得るための必要な出費なのだ。」

といってそのことを認めようとはしなかった。

いや、それはいいのだが・・・・どうしてうちで働くことになっているんだ?


流石にこの状況は予測できるはずもないので、ヴィクレア用の従業員服はない。

という話をしたのだが・・・・


「それならこのままの格好で構わないから、どうか働かせてはくれないだろうか?」

といって聞かない。

ついには頭を下げ始める始末だ。


先ほど、貴族が頭を下げることの意味について少し深く考えてしまったことが自分で恥ずかしくなってくるほど簡単に頭を下げてくる。


「まぁ、断る理由はないしいいのかな?」

リリスやリアーゼの奮闘ぶりを見ると人手が足りていないのは事実なのだ。

ここいらで人手を増やしとかないといつか処理に限界が来てしまうだろうし・・・・


「本当か!!?ありがとう。」


「あっと、そういえば、給料っていくらくらい必要なのか聞かせてもらっても?」

俺たちはこの店の財産と直接結びついているため給料のこととか考える必要はなかったのだが、外から人を雇うとなるとそうもいかない。


だが、俺はどのくらいが適切な給料になるかはわからない為聞いてみたのだが、これは失敗だったかもしれないな。

1500万Gを衝動買いで消費する人に、普通の感覚が備わっているとは思えない。


「ん?とりあえずこの街で生活できるくらいにもらえればあとは自分で何とかするから大丈夫だ。そこら辺のさじ加減は店主殿が決めてくれ。」


お?結構良心的だな。

てっきり、「貴族を雇うのだからそれ相応の金を出せー!!」とか言われるかと思っていた。


常識があるのかないのか、いまいちわからないな。


「そうか、なら今日の仕事が終わった時に渡すから、上がるときになったら俺に話しかけてくれ。」


「わかった、仕事終わりにまた話しかけさせてもらうよ。」

それだけを言い残して、ヴィクレアは行ってしまった。

このくらいの仕事など、これから戦うドラゴンを考えればたやすいことだ――、とでも言いたそうな、自信満々な背中が見える。


けど少しだけ待ってほしい、まだどんな仕事をしてもらうつもりなのか説明していないから・・・・


俺は店の表に出ようとするヴィクレアの後をすぐに追いかけた。










次の日、今日は情報によれば『メルクリウス』による襲撃があるという日だ。

それも白昼堂々とやるらしいので、今日も冒険者家業はお休みして店のほうに来ている。


そこには当然のごとくヴィクレアも来ていた。


流石にノアの補助がある俺たちに朝の早さで勝つ―――というようなことはなかったのだが、それでも朝一といっても差し支えないほどに早く出勤していた。


もしこれがこの店の定時というのなら、一瞬でブラック企業認定を受けてしまうだろう。


「ヴィクレアさん、おはよう!!早いね!!」

もうすでに着替え終わったノアが店の扉を開いて中に入ってきたヴィクレアに挨拶をする。


「ああ、おはよう。それにしてもみんなはいつもこのくらい早く店を開けているのか?」


「ん?まぁ、基本的にそうかな?それよりこれ、一応つけといてもらえるか?」

少し意外そうな顔をしているヴィクレアに対し、俺は1つのものを放り投げた。


それは放物線を描きながら丁度彼女のいる位置に飛んでいく。


ゆっくりと自分に向かって飛来するそれを、ヴィクレアは何もないようにつかみ、そしてそれの正体を見る。


「こ、これを?」


「うん、やっぱり共通の服を着てないからヴィクレアを店員として認識してない人が昨日結構いたから一目でわかるようにと思ってな。」

俺が彼女に渡したのは首にかけられるように紐をつけておいた『店員』と書かれたプレートだった。

俺が先ほど言ったような問題を昨日のうちに解決しようと思ったのだが、流石に服を一着作るのは一夜では不可能のため、これで妥協することにしておいた。


それに、ヴィクレアがいつまでこの店で働いてくれるかはわからないしな。



「えっと、これでいいのか?」

彼女はすぐさまそれを首に下げ、俺のほうに確認をとってくる。


「うん、大丈夫そうだな。」

家電ショップに行ったときによく見るような首掛けがヴィクレアにかかっているのを見て、おおむね想像通りの結果になっていたため満足した。


「タクミお兄ちゃん、こっちの準備、終わったよ!!あとこれ、シュラウドくんが渡しておいてくれって!!」

リアーゼも着替えが終わったみたいだ。

大量の武器が入った木箱を抱えこちらに向かって小走りで近づいてくる。

木箱の中は木の武具がいっぱいのためそこそこの重量があるはずだが、彼女は小さな体にもかかわらずそれを易々と持ち上げている。


そんなリアーゼが俺のほうに一本の槍を手渡してきた。


それは木製の武具とは違うアイテムだが・・・?


「えっと、これは?」


「シュラウドくんの新作だよ。昨日の夜に作っておいたんだって。」


「それにしては早くないか?あいつ1から武器を作るのに12時間かかるとか言ってなかったっけ?」


「それはドラゴンの素材を使った場合らしいよ?普通の素材だともっと早く終わるんだって。」

なるほど、確かに上級のアイテムと下級のアイテムを作る際に同じ時間しか経過しないのは不自然だしな。


俺は何気なくリアーゼに渡された武器を見てみる。


名前 牙の短剣

効果 武器攻撃力+8

説明 ウルフの牙をさらに鋭利になるように研いで柄を付けたもの。切れ味はそこそこ良い。


ああ、これなら俺でも小一時間くらいあれば作れそうな気がする。

この時の感覚は基本的に当てにならないから俺が作った場合実際には1時間以上かかるのだろうが、ものづくりに特化しているシュラウドが作った場合ならすぐに完成させることができるのだろう。


「ちなみにシュラウドはこれの値段について何か言っていたか?」


「それなら確か5000Gだね。無強化品ということもあって少し高めに設定しておきます、だってさ」


「そうか、じゃあここら辺に置いておくな。」

俺はその短剣を近くに置いてあった棚に置く。

この位置なら定番商品となりつつある魔石武器類を見る際にも目に入るし誰かは手に取ってくれるだろう。



「昨日から思っていたのだが、これで高めとはどういうことなのだろうか?むしろ皆が買っていっている木の武具のほうが私にとって高く見えるのだが・・・?」

あれ?そこらへんって説明していなかったっけ?


「ん?でも知れないならどうしてこの店に来たんだ?みんなその木の武具や石の武具を買いに来てるんだけど?」


「私は一昨日この街に来たのだ。そこで昨日の朝、この店に竜の素材を使った武器が置いてあると聞いたからとりあえず来てみたということだな。」

なるほど、この店の噂が爆発的に広がった初日にいなかったから、詳しいことは知らなかったんだな。


「そういうことなんだな。まあ、簡単に説明するとそこにおいてある武具は見た目こそみすぼらしいけど性能は鋼鉄製のものと大差ないんだよ。」


「えっ!!?そうなのか!!?それを君たちは数千G程度で売りさばいているというわけなのか!!?」


「まぁ、素材の供給もできるし利益も確実に出てるし、安いから苦情が来ることはほとんどないしで結構

楽だからな。」


値段を大きく引き上げていれば今日、『メルクリウス』が襲撃してくることがなかったり、俺たちがここまで忙しくなることがなかったりするのだろうが、シュラウド曰く安さが売りとのことなのでそのうりを捨てるのは気が引けるのだ。


ヴィクレアは少し腑に落ちないといった様子だが、納得してもらうしかない。



「っと、そんな話をしている間にもう日が完全に上がってからそこそこ時間が経っている。そろそろ客が来始めるくらいだから準備を急いでいこう。」

俺はパン、パン、と2度手を叩いて話を打ち切り、店の開店準備を再開した。

















そして昼―――時計がないので正確なことはわからないがおそらく午後3時ごろ、それは起こった。

流石にここ数日、あのペースで大量の人が来たためシュラウド製の武具がいきわたってしまったのかいつもより人が来ていないのだが、それでも一定数は店内に客が入っている。


―――パリン、


その時突如、窓ガラスが割れる音が響き、それと同時に店の中に何か筒のようなものが入ってきた。


「ん!?なに!!?何の音?」

ノアが慌てて音の発生源を見るが、その瞬間、――――シュゥゥゥーッ、という音が筒のほうから聞こえてきた。

空気の抜けるような音、おそらくあの中に入っている何かが外に出ている音だ。


その音の発生源が投げ込まれた筒であることはノアや周りの人間にもすぐにわかったのだろう。

ノアが真っ先にそれが何かを拾い上げようとする――――が、それはかなわなかった。



その場にいた全員は、次の瞬間その場に崩れ落ちた。

そしてみんなが薄れる意識の中で最後に聞いたのは、――――カラン、カラン、という店の扉の開く音だった。


明日は投稿できない為、明日の分を今投稿しておきました。

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