81 最高傑作と綻び
う~ん、思っていたよりは強い?
目の前の男はかなりステータスが高いのだろう。
俺の攻撃をギリギリのところで回避し続け、そしてその合間にこちらに反撃をしてくる。
その攻撃はそれほど鋭いものではないので俺には当たることはないが、こちらの攻撃も中々当たらない。
いや、当たりはするんだがそれはスキルによる強化が乗っていない一撃ばかりだ。
おそらくこいつはどの攻撃が危険ということが本能か何かで分かっているのだろう。
スキルの効果が乗っているのなんて0、1秒しかないため、完全な勘で避けていると思われる。
それか偶然くらっているのが通常攻撃かのどちらかだ。
「ノア、ちょっと大量にもらえるか?」
そこで俺は後ろで見ていただけのノアに火の玉を注文する。
彼女は即座にそれの量産を始める。
次々と量産されるその魔法は、どんどんと俺たちの視界を埋め尽くしていく。
「タクミ―?これくらいでいい?」
「おお、助かる。じゃあそれをこいつに向けて飛ばしてくれるかー?」
「はーい、よーし!!いっけええ!!」
ノアの言葉とともに、周りの火の玉が一斉にその男に向かって飛んでいく。
四方八方から飛び交う火の玉相手に、そいつは防御が追い付かない。
ノアの火の玉は、いくつもの爆発音を響かせ男の体を包み込む。
ただ、見た目ほど威力が出ていないことは俺は知っている。
俺はその爆発の中心に向かって走る。
狙うは全力の一撃、ノアの攻撃はあくまで足止めに使う。
ただ、俺の一撃では倒しきれない可能性があるかもしれない。
「リリス、お前も一撃加えてくれ!!」
一応、追加攻撃を加えてほしいとの旨をリリスに伝えておいた。
俺の剣が、爆発に巻き込まれて動けずにいる男の体を走る。
それと同時に、リリスの突きも・・・
普通なら俺たちの攻撃を受けて生きているのはおかしい。
だが、俺は確信している。
こいつはこのくらいでは死なない。
どうしてこんなことを思ったのだろうか?
そんなことはわからないが、俺の勘がこいつはただの人間ではなく、俺たちの攻撃を一撃ずつ受けたからといって死ぬような存在ではないと伝えてきていた。
そしてその勘は正しかった。
ノアの火の玉が切れ、爆音が鳴りやみ、視界が晴れたころ、そいつの体が再び俺たちの目に映る。
その男はまだ生きていた。
確かに、大きな痛手を受けてはいるが、まだその両足で地面を踏みしめ立っていた。
息は荒く、もう少し攻撃を加えればそのまま倒せてしまいそうではあるが、俺たちの攻撃によってつけられた傷は少しずつふさがっていっているのが見える。
んー?あれは――、
「ケケ!!オドロイタカ?ソイツハ俺ノ最高傑作ト言ッタロ?」
そこで楽しそうな声が俺たちの耳に届けられる。
誰の声かは聞いただけでわかる。先ほどのゴブリンの声だ。
そのゴブリンは、俺たちの戦いに巻き込まれないくらい離れた場所で勝ち誇ったように笑っている。
そして見ると先ほど俺たちが男に与えた傷はほとんどふさがっており、また戦うことができそうなくらいに回復していた。
「そういえば、外にいたアンデッドたちってお前の研究の失敗作だったりする?」
そのゴブリンに向かって俺はそう聞いてみる。
なんか多い気はしていたんだよな。
その割にはこの中には何にもいないし、あの男がそこにいるゴブリンに作られたものだったなら納得がいく節があるのだが・・・
「ヨウヤク気ヅイタノカヨ!!ソウダアレハ失敗作タチダ!!」
ゴブリンは俺の言葉を肯定する。
確か外にいたアンデッドは事前情報を含めると――――スケルトン、ゾンビ、屍鬼・・・
「ということはその男って実はヴァンパイアだったりする?」
「アア!!ドウダ?怖気ヅイタカ!!?」
誇らしげに胸を張るゴブリン。
俺たちがその事実を聞いて青ざめる姿を想像して笑っているようだ。
というか、ヴァンパイアねぇ・・・
俺が知っている情報としては強力な再生能力やら、体を霧にしたりとかそんなんが多いんだけど、先ほどの攻撃を受け流さなかったことを考えると特殊能力のほうはあんまり備わっていないんだろうな。
言ってしまえば下級吸血姫という奴だ。
まあ、再生能力と耐久性だけでも結構面倒ではあるんだけど・・・・
―――あ、そうだ。
「リアーゼ!!いるかー!!?」
「いるよー?どうしたのー?」
あ、もしかしたら聞こえなくて返事がないと思ったんだけど、彼女は結構近くにいたみたいだ。
「あー、この前渡したあれ、そこにいる男に向けて投げつけてくれないか?」
「うん、わかったー!!外れたらごめんねー!!」
リアーゼは鞄の中から1つの瓶を取り出し、それを俺の指示通りに投擲した。
そのヴァンパイアはそれが何かはよくわかっていないのだろうが、自分に向かってくるものをなんとなく避ける。
しかしリリスが空中でそれをつかみ、回避した先の男に投げつけた。
―――パリン、という瓶が割れるとともに、中に入っていた液体が男に向かって振りかかる。
それと同時に、それを受けた男が苦しみ始めた。
「あー、やっぱりこれ、アンデッドにも効くんだな。」
俺たちがそいつに向かってぶつけたのは聖水だ。
いつの日かリリスがくらってしまって今もその影響を残しているアイテム、一部の魔物にしか効かないらしいが、効果の高さはリリスがその身をもって証明してくれている。
なにせ、俺が1対1じゃあほぼ確実に勝てないと思っていた彼女が、今では俺といい勝負になっているのだ。
じゃあ、今現在、俺とそこまで戦闘技能が変わらないこのヴァンパイアが受けた場合、その効果はどのくらいなのか?
その結果が今、俺たちの目の前で起こっていた。
聖水をかけられたヴァンパイアは苦しみながら、その体から煙を上げている。
あのまま放っておけば死ぬまであるんじゃないか?そんな男を見て、遠くで見ていたゴブリンが慌てたように駆け寄ってくる。
「ギギ!!?ナニガ!!?オイ!!ハヤクタツンダヨ!!」
そのゴブリンは男を短い脚で男を蹴りながら命令をする。
だが、その言葉にこたえる様子はない。
男はやがて灰になって消え去った。
いつの日か、『白の翼』が言っていたような気がするが、一定以上弱い悪魔や不死者に聖水をかけるとそのまま死んでしまうらしいな。
ゴブリンはうなだれた様子でこちらを見てくる。
「俺ノ、俺ノ最高傑作ガ・・・・」
・・・・・なんか、かわいそうに見えてきたな。
そんな俺の気持ちは関係なしに、自分の作品が壊されたことへの怒りを俺たちに向けてたたきつけようとしてくるゴブリン。
そいつは素手のまま、拳を振り上げて俺に向かって走ってきた。
「コノーー!!」
だが、そんな攻撃は俺に届くはずがない。
俺は軽くあしらうようにゴブリンの足を払い、そしてそのまま剣を首に突きつける。
「—――ッ、」
ゴブリンは自分の首元に突きつけられている者を見て冷や汗を垂らす。
普通のものなら木製の剣が突きつけられたところで、そこまで恐怖を感じないだろう。
だがこいつはゴブリンだ。
俺がゲーム開始して初めての戦闘、こいつの同種が木の剣の攻撃2発で死ぬことは確認できている。
今その時よりはるかに力のステータスは高いし、攻撃を加える場所が変わればあの時でも一撃で倒すことができたかもしれないのだ。
ともあれ今、ゴブリンの首元にはこいつにとっては純善たる凶器が突きつけられているということになる。
「————タ、、、、命ダケハタスケテクレ!!」
命乞いを始めるゴブリン。
「って言ってるけどタクミ・・・どうする?逃がすの?」
「うーん、俺としてはこうやって喋るタイプの魔物を切るのはあんまりやりたくないんだよなぁ・・・」
罪悪感が凄そうだし・・・
「じゃあ、逃がすのね?」
「まぁ、そうしたいんだけど・・・こいつ放っておくと大量にアンデッドを生み出すんだろ?流石に危険じゃないか?」
今回はあの程度で助かったけど、あれより強いのを作られては困るかもしれない。
それに、あんまり強いのができないとしても大量のアンデッドが生み出されるのは事実なのだ。
そんな存在を、ここで見逃してもいいものか?
「モウツクラナイカラ、ダカラユルシテ!!」
話の流れが不穏な方向にもっていかれそうになっているのを感じたのだろう。
自分の無害さをアピールするゴブリン。
「こういっているしほら、タクミ、逃がしてあげなよ。」
他人事だと思って軽く意見を言うノア。
「口ではいくらでもいえるからなぁ・・・」
「ホシイモノ、オマエノホシイモノ、ツクルカラ!!」
必死に食らいついてくるゴブリン。
だが俺としては欲しいものとか言われてもたいして思いつかないのだが・・・・
そう思いながら悩んでいると、リリスが隣から口をはさんでくる。
「タクミ?ちょっといいかしら」
「ん?どうしたリリス?何かあったのか?」
「実はシュラウドの体を補っているスライムちゃんだけどね?あれって結構無理矢理な感じがあるから私としてはちゃんとしたものにしてあげたいのよ。」
「と、いうと?」
「このゴブリンにシュラウドの足りない部分を作ってもらったらどうかしら?」
「おお!!それはいいアイディアだな!」
彼女が言うにはスライムとシュラウドの体はそこまで相性がいいわけではないらしい。
元々生物だったものにはあのスライムは完璧に働いてくれるのだが、シュラウドはもともとが機械のため完全なものではなかったのだと
そしてその問題をこのゴブリンに解決させたらどうか?という意見だ。
それならこのゴブリンを殺す必要もないし、制作活動で両手を塞ぐことでアンデッドを量産することもできない。
完璧なアイディアだといえた。
「ということで、お前にはこれから機械の部品とかいろいろ作ってもらうから、・・・いいよな?」
「ア、アァ!!ワカッタゼ!!」
ゴブリンのほうも快く了承してくれたことだし、一件落着だな。
その結果に満足しながら俺はそう頷いた。




