80 外と中
スケルトン、スケルトン、ゾンビ、ゾンビ、スケルトン、ゾンビ、ゴブリン、ゴブリン、スケルトン、ゾンビ―――――
俺の目の前に出てくる魔物をカウントしながら俺は次々とそれらを屠っていく。
そうしているうちに一つ、気づいたことがある。
「なあ、なんかアンデッドモンスター、特にゾンビとスケルトンが多くないか?」
同じアンデッドモンスターでも少しだけ他より強い屍鬼なんかはそこまで数はいないが、それでもアンデッド系の魔物の数が多いのは事実だった。
遠くから見ただけでは多いという情報だけでどれがどれだけいるかとかはよくわからなかったが、こうやって戦ってみるとよくわかる。
明らかにゾンビとスケルトンの数が多いのだ。
というか、ほかの魔物は通常程度にしか見かけない。
「確かに、多いわね。私としては物理攻撃が効きにくい敵はできるだけこないでほしいんだけど・・・」
アンデッドモンスターは体を壊されようが動ける限りは攻撃を続ける。
そんな敵と、リリスとの相性は最悪に近いものがあるのだろう。
彼女は全力で槍をたたきつけ、敵の体を粉砕することで対処しているが少し苦しそうだ。
「リリス!!無理してそいつらを倒さなくても、止めてればノアが何とかしてくれるはずだから!!」
ノアの攻撃は基本的には爆発攻撃だ。
それならばそいつらの体をばらばらにすることも用意であるはず。
アンデッドは脆い分、ノアの魔法でも簡単に吹き飛ばすことができる。
「そうだよ!!ちょっと待ってね!!今こっちを終わらせたら助けに行くから!!」
俺の言葉を肯定するようにノアがそう叫ぶ。
彼女は今、俺たちの横を通り抜けてしまった奴らの処理をしている。
そんな彼女を見て、敵の攻撃を受け止めるべき戦士職としては少し心苦しいものがあるが、それについては仕方ないといわせてもらいたい。
だって今、見えているだけで少なくとも300は敵がいるのだから・・・
ちょくちょく《挑発》をつかってひきつけてはいるのだが、それでも追いつかない。
というのも俺もそこまでの敵を一度に相手にはできないのだ。
つーかリリスよ・・・・
お前一応神官職の派生ならアンデッドを退散させる魔法のひとつでも持ってないのかよ・・・
心の中で悪態をつきながら、俺は目の前のゾンビの首を軽く切り裂く。
ここでも《魔力切り》の恩恵は大きく出ている。
適当に攻撃しただけのため、ゾンビの首はそのまま胴体にくっついているのだが、その体がそれ以上動く気配はなかった。
ゾンビは腐って入るが肉がついているため、まさか筋肉で動いているのでは?とも思ったりしたがこいつらも魔力で動いているらしいな。
「よし!!こっちは終わったから今からそっちの加勢に行くね!!」」
自分に迫りくる敵をすべて倒し終えたノアがそう言っているのが聞こえてくる。
まだ敵の2割程度しか倒せていないが、敵自体はそれほど強くない為、普通に戦えば負けることはない。
俺たちは堅実に目の前の敵の数を減らすことだけを考えて戦闘を続けた。
そして長時間の末、俺たちは目の前の敵を1匹残ることなく倒すことに成功した。
だが、
「はぁ、流石に結構疲れたな。」
「そうだねー!!でもまだいるんだよね!!?」
ここまでで倒すことができたのは全体の一部、工場の入り口周りにいた奴らだけだ。
少し場所を変えればまたあの程度の数はいるだろうし、正直もう帰りたい気分だ。
「はぁ、またあの数を相手にするのは面倒よね?何かいい手はないのかしら?」
疲れたようなリリスがその場に座り込み工場のほうを見つめる。
そこには窓なんてものはないため、内部がどんなことになっているのかはわからない。
だが、外にあれだけいたことを考えると、中にもかなりの数がいると予想できる。
「いい方法・・・さすがにあれを外から爆破する―――というのはだめだよなぁ?」
それが許されるなら楽なんだけど・・・勝手に爆破なんかしてしまったらあとから何を言われるか分かったものじゃないしやらないほうがいいだろう。
「タクミ・・・それはさすがにだめだよ・・・」
いつもは自分が出しそうな意見なのだが、ノアは少し引き気味になっている。
何か釈然としない。
「みなさーん、全部集め終わりましたー!!」
「おお!!一人に任せてしまって悪かったな!!今度はお前もゆっくり休んでくれ。」
リアーゼが落ちていたアイテムを拾い集め終わったみたいだ。
細かく足を動かしながら駆け足でこちらに向かってくる。
あの量の魔物のアイテムを少女一人に集めさせるのはどうかと思ったが、彼女がアイテムを拾い始めた時俺たちのは疲労でその場に座り込んでいたため、手伝うということができなかった。
それについては反省したほうがいいだろう。
「大丈夫だよ。これが私の役割だからね!!」
彼女はそんなことを気にしない様子でこちらに笑いかけてくる。
小さな体で重いものを背負っているため、疲れていないはずはないのだが、それを一切外に出さずに笑いかけてくるリアーゼを見て、俺も少し元気が出てくるような感じがした。
今なら、同じことをもう1回どころか2、3回できそうだ。
俺はゆっくりと腰を上げる。
「よし!!じゃあ俺たちは工場内の敵を倒してくるから、リアーゼは安全なところで休憩していてくれ。」
「了解です!!」
「よーし!!もう一仕事だね!!」
ノアはまだ元気そうだな。
「はぁ、あの中にはいったいどれだけの敵がいるのやら・・・・」
リリスは少しお疲れの様子。
「リリス、疲れているならお前もまだ休憩していていいからな。じゃあ、突入だ!!」
俺はもう錆びついてしまっていた工場の扉を全力で蹴り破った。
工場の中は予想外というくらいに敵がいなかった。
その中は外に比べて不気味なくらい静かだ。
ただ、1つ、この中で動いている影があった。
それはこの建物の隅で何かをやっている。
これは気づかれないまま近づいたほうがいいか?と思ったが、先ほどノリで扉を蹴破ってしまったため、おそらく気づかれてしまっているだろうな。
「んー?何にもいないね?」
不思議そうに首をかしげるノア、彼女には建物の奥で動く影が見えていないようだ。
「いや、あそこに何かいる。」
俺はそれを小さなつぶやきで彼女に伝える。
何がいるのかはわからないが、人よりは小さい程度の何かがそこにいることは確かなのだ。
「どうするの?近づいてみる?」
「ああ、一応あれが何かを確認しないとどういった行動をとるかが選べないからな。」
俺たちはゆっくりとその何かに近づく。
―――――途中、
「———!!?リリス、ノア、上にも何かいるぞ!!」
工場の天井から、何かが俺たちに向かって落ちてきた。
「え?――きゃっ、」
それはリリスを押しつぶすように着地する。
そして同時に、先ほどまで俺たちが近づこうとしていた影が姿を現した。
そいつは――ゴブリンだった。
しかし普通のゴブリンとは違い、そいつは小綺麗な服を着ており、そしてどこか知的な雰囲気を醸し出している。
「ギギッ、馬鹿ナニンゲンメ!!ノコノコトヤッテ来ヤガッテ!!」
「しゃ、喋った!!?タクミ!!今こいつ喋ったよ!!?」
今まで出てきたゴブリンは鳴き声のようなものを上げているだけで、人語を喋ることはなかったのだが、そいつはすこしだけ違和感を残してはいるが、人の言葉をしゃべっていた。
「馬鹿かノア、そんなことより今はリリスだ!!おい!!リリス、大丈夫か!!?」
「アー無理無理、オレノ最高傑作カラ不意打チヲ受ケタンダゼ?モウ死ンデルッテ。」
そのゴブリンは煽るようにそう言ってくる。
それが非常に俺を苛立たせた。だがそれ以上に、リリスが大丈夫なのかという心配のほうが大きい。
俺はその言葉を無視して、倒れているリリスにさらに話しかける。
「リリス!!?大丈夫なのか!!?」
彼女の上には1人の男が乗っている。そいつはリリスを足蹴にしたまま笑みを浮かべている。
焦っている俺を見るのが楽しいという風に・・・・
「もう、そんなに呼ばなくても聞こえているわよ。」
その時、何もなかったというような声でリリスが俺の言葉に答えてくれた。
そして彼女はそのまま倒れていた体を起こし、俺のほうまで下がってくる。
「―――ギ!!?ナンデ!!?」
目を丸くして驚くゴブリン、先ほどまでリリスを足蹴にしていた奴も驚いたような顔をしている。
当の本人は体についてしまった汚れを落とすように体をはたいている。
どうやら結構余裕そうだ。
ここ最近は忘れていたのだが、リリスは一応強い悪魔なのだ。
聖水をかけられてかなり弱体化したとはいえ、なぜかその耐久性や膂力は全くと言っていいほど衰えてはいない。
その為、通常の人間なら死んでいるかもしれないという場面でも、彼女なら生きていても不思議ではないのだ。
「大丈夫なんだよな?」
確認のために俺はもう一度そう聞いた。
「ええ、ちょっとびっくりしたから返事が遅れたけど、本当にそれだけよ。心配してくれてありがと、うれしかったわ。」
彼女は俺の言葉に冗談を交えながら返答してくる。
本当に、大丈夫そうだ。
「おい、お前ら覚悟はできてるんだろうな?」
彼女の無事を確認した俺は目の前の敵に向きなおる。
そいつらはもうすでに落ち着いたような顔をしていた。意外と早く立ち直ったみたいだ。
「カクゴナンテ必要ナイノサ!!オイ!!ヤッチマエ!!」
ゴブリンが隣に立っている男に命令をする。
その言葉に、男は頷いた。
こいつらは俺たちと戦うつもりらしい。
大事には至らなかったとはいえ、俺の仲間を傷つけた分くらいは返してやらないといけないな。
俺はそう思いながら、木の剣を構えいつ戦闘が始まってもいいような体勢をとった。




