79 服の出来栄えと工場見学
「えっと、着てみたんだけど、どうかしら?」
「えへへ~、似合ってるかな?」
「私、こういう服はあまり・・・」
「どうでしょうか?」
俺自作の従業員用の服をみんな文句を言わずに着てくれた。
そもそもこの店を購入した動機の一つとしてシュラウドが1人やることがないからという理由があり、外に稼ぎに出るノアたちが着る必要はないのだが、そこについては触れずにいてくれた。
「うん、完璧だな。」
俺は自分の仕事をそう評価する。
ノア、リアーゼ、リリスは女性用の服、シュラウドは男性用のものだ。
シュラウドは性別がよくわからない――――そもそもこいつに性別の概念があるのかはわからないが―――その為間違えた時極力恥ずかしくないように男性物を作っておいたのだ。
本当は2つとも用意するつもりだったのだが、思ったより早く1週間がたってしまったためこれだけしか用意することができなかった。
「完璧・・・うん、タクミありがと!!」
別にノアのことを褒めたわけではないのだが・・・・と、訂正しようとしたが嬉しそうにしているので言わないほうがいいだろう。
「シュラウド、わからないから男用で作っちゃったけど―――大丈夫だったか?」
「はい、自分は一応男性という設定のため、これで間違いではないでしょう。」
あ、こいつ男だったんだな。
なにせその見た目は中性的なところがあって判断できない上、性格が無機質のためそこからもわからない。
面と向かって聞くことでもなかったから今まで謎だった部分なんだよな。
「さてさて、サイズとか問題ないか?あったら言ってくれたら空いた時間に修正を入れるから。」
「私のほうは特に問題ないわ。むしろぴったりで驚いているくらいよ。」
「ボクも問題なーし!!」
「私は少し大きいくらいかな?」
「問題ありません。」
リアーゼが少しだけぶかぶかとのことだがそれ以外の人は特に問題ないみたいだな。
「リアーゼの分はこれから成長するのを加味した結果少しだけ大きく作ってあるんだ。だから少しの間はそれで我慢してくれると助かる。」
実際は大きくなったらその都度作り直したほうがいいのかもしれないが、俺にそこまでやる根気があるとは思えない。
ちなみに今回俺が作ったこの衣装だが――――若干自分の趣味が入っていたりする。
それに付き合わされているこいつらには悪いが言わなければばれないので黙っていることにしよう。
「それで?ここではどんなものを取り扱ったりするのかしら?」
ある程度服の確認も済ませたところでリリスがそんな質問をしてくる。
あぁ、まだ言ってなかったか。
ちょっと考えたらわかりそうな気がしたからあんまり気にならなかった。
「それはシュラウドが作るもの―――要は雑貨店になるのかな?あとは大量に貯蔵してる魔石を一部売りさばいたりできたらとか思ってるんだけど」
「というかさタクミ、」
「ん?どうしたノア?」
「ここに店を構えるってことはもうこの街から出ないつもりなの?」
「ん?基本的にはここを定住の地にするつもりだけど出たくなったら店を閉めるなりなんなりすればいいんじゃないのか?」
無責任だとは思うがこのくらいは好きにしていいのではないか?
別に俺は儲けるためにこの店を開くわけじゃないし・・・・単純にシュラウドに何か仕事を持たせるために開くだけだしな。
「あ、そうなんだ。ボクてっきりもうタクミは冒険に出るつもりがないのかと思っていたよ。」
こいつは今までの話の何を聞いていたのだろうな?
というかこの店がシュラウド用のものっていうのはノアが言い当てたと思ったのだが、違ったっけか?
「と、言うことで、今日からこの店はシュラウドに任せたいと思うんだけど・・・大丈夫そうか?」
正直俺としてはここで無理ですといわれたら結構ショックだったりするのだが・・・・断られないよな?
そんな不安を抱きながら俺はシュラウドの返答を待つ。
彼はそんな俺には全く気にする様子はなく、ただ一言。
「はい、分かりました。」
とだけ言ってくれた。
◇
「さて、店のほうはシュラウドがどうにかしてくれるということだったので、俺たちは俺たちでできることをするぞ。」
時は変わり冒険者ギルド、俺たちは4人で今日受ける依頼を物色していた。
この街は割と高難易度の依頼が多いため、適当に選んだらひどい目に合うのは目に見えている。
その為依頼内容はちゃんと読んでおかなければならないのだ。
「あ!!タクミ、これなんかはどうかな!!?この前ドラゴンは倒せたし大丈夫だと思うんだ!!」
そう言ってノアが指さしたのは―――――飛竜の討伐!!?
「あほか!!あれは飛ばない奴だから簡単に倒せたんだ!!飛竜って、、明らかに飛ぶ奴じゃねえか!!」
「じゃあじゃあこれは!!?」
「んーっと?街の東に湖に生息するというウンディーネの捕獲!!?お前それでも召喚士かよ!!?」
召喚士が精霊と思しきものを捕まえる仕事をしようとするのはどういうことなのだろうか?
「えーっとじゃあ~・・・」
次はないのだろう。ノアが再び依頼板を食い入るように見つめ始める。
「えっと、これなんかよくない?多分ちょうどいいくらいだと思うのよ。」
そこでリリスが提示してきた依頼は今はもう使われていない工場に魔物が集まってきているためそれを殲滅してほしいという話だ。
そしてそこには事前に調査し確認できた魔物の種類が記載されていた。
ゴブリン、屍鬼、スケルトン、ゴーレムetc,,,
とこんな感じに問題なさそうな魔物しか記載されていない。
出現する魔物の種類が統一されていないのが少し気になるが、そこらへんは出てくる敵の弱さを考えたらどうでもいいことだろう。
「これなら大丈夫そうだな。報酬もそこそこいいし今日はそれを受けに行こうと思う。」
「むー、タクミはやっぱりリリスの意見は尊重するんだ。」
不貞腐れたようにノアがそういうが、それに関しては俺も言いたいことがある。
「そう思うならお前ももっとましな意見を出してほしいんだけど・・・」
ノアが言うことはいつも少し無茶なのだ。
もう少し自重してくれてもいいのではないか?そう思うほどに・・・
「えー、ボクの意見のどこがましじゃないのさ!!」
「自覚ねえのかよ!!?それにびっくりだわ!!」
「ほらほら2人とも、あんまり喧嘩しない。」
言い争いをする俺たちを軽くなだめにかかるリリス。
俺はその制止の言葉をすぐに受け入れる。
ここで熱くなって言い争っても仕方ないしな。
「それもそうだな。じゃあ今から依頼を受けてくるよ。」
俺はその依頼書を手に取り受付までもっていった。
そしてそのまま冒険者ギルドを後にする。
俺たちは基本的に何かを準備するということはない。
武器はいつも木の剣で、いくつもの代えを完備しているし、回復アイテムはリアーゼがいつも鞄の中に持ち歩いているらしい。
リリスは防具をつけずに槍を持っているだけだ。
つまりいつでも出発できるということ―――
そのこともあって俺たちは寄り道などをすることはなく、そのまま依頼にあった工場とやらに向かうことにした。
「えーっと、もういつものことだから驚くことはないんだけどさ・・・・多くね?」
そこではいつものように大量の魔物が生息していた。
もう恒例行事のようになってしまっている大量発生、いつも俺たちが何とか対処できる魔物しか大量に出てこないのが救いだよな。
これがクリフォト第三階層とかで起こっていたらもう無視してそのまま逃亡しているところだ。
「今日もいっぱいいるねー!!これ、全部倒したら報酬はどのくらいになるんだっけ?」
「えっと確か依頼書を見た限りでは固定で150万Gだな。あの時は結構いい依頼だと思ったんだが・・・」
「流石にこれは割に合わないかもしれないわね。」
遠目から見ただけで魔物の総数は軽く500は超えている。
そして工場内にはまだいることだろう。
その為総数は推定ではあるが1000を超えていることだろう。
大体1体につき1500Gくらい・・・・あれ?結構打倒じゃね?
中にはゴブリンとかスケルトンとか・・・結構弱いのもいるし普通の類じゃね?
そう思うと、ずいぶんと気が楽になってきた。
「よし、このままここで見ていても魔物たちは減らないからな。ちゃちゃっと終わらせて帰るとしようぜ。」
「うん!!そうだね!!じゃあボク、先制攻撃としてここから魔法を打つけど・・・いいかな!!?」
ノリノリのノアがそう言って首をかしげるようなしぐさで俺のほうを見てくる。
ちょっ、おま
「それだけはやめてほしいんだけど・・・」
あの数の魔物のヘイトを一身に集めて生き残る自身なんて俺にはない。
「ええ~、やっぱりボクの意見は聞き入れてくれないんじゃん!!」
そんなことを言うノアの表情はどこか楽しそうだった。
ブックマークとpt評価をしてくださるととても助かります―――助かります?
作者が嬉しくなるので助かります!!