76 心機一転とドラゴン狩り
「今日はみんなでドラゴン狩りに行こうと思う。」
ノアと2人で街に帰った後、驚くほどことが早く進んだ。
ノアがリリスに謝りに行ったとき、彼女は何も言わずに微笑みかけることで全てを許してあげたのだ。
これには俺も少しだけ驚いた。
てっきりリリスのことだから烈火のごとき怒りをあらわにするものかと思ったのだが、ただ優しく接するだけだったのだ。
ノアとリリスの仲が少し良くなったとたん、リアーゼがリリスのことを少しだけ怯えたような目で見るようになったのが気になるのだが、・・・今度はリアーゼがどっかに行ってしまうとかないだろうな?
仲直りすることはできた。
そこで俺たちはみんな一緒に何かをやろうということになったのだが、そこで俺が出した提案がこれだった。
「へぇ~、ドラゴン狩り・・・・ってドラゴン狩り!!?」
ノアが言われた言葉を確認するように俺のほうに顔を寄せてくる。
「うん、竜退治。さっき依頼を見てたら見つけたから、これ、みんなで行こうぜ。」
「そうは言うけどタクミ、ドラゴンだよ!!?勝てると思ってるの!!?」
さらに顔を突き出しノアが言う。
「そこについてはちゃんと空を飛べない奴を選んだから大丈夫だって。」
今回の目標は翼は生えてはいるが飛翔能力のないアースドラゴンというドラゴンだ。
そのくらいなら多分何とかなるだろう。
「ノアはそういうことを言ってるわけじゃない気がするけど・・・・どこが大丈夫なの?言っておくけど私も無理だと思うわよ?」
ここでリリスからも反対意見が飛んでくる。
しかし、どうして無理だと思うのだろうか?
「え?だって飛ばない奴だぞ?それならどうとでもなりそうじゃないか?」
「お兄ちゃんのその自信はどこから来るのやら・・・」
・・・・!!
今気づいたのだが、この世界の住人と俺とのドラゴンに対する認識は少しずれがあるみたいだな。
俺からしたら飛ばないドラゴンとかただの餌でしかないのだが・・・この世界の人からしたらそうではないみたいだ。
「あー、実は飛ばないドラゴンって結構な欠陥品でな?致命的な弱点があるというか・・・」
「ちなみに、その弱点とはどのようなものなのですか?」
シュラウドが手を上げて俺に質問してくる。
「いいか?今から説明するな・・・・・・・」
ということで俺たちは今、アースドラゴンの住まうという山まで来ていた。
この時のために血のにじむような準備を―――――したわけではなく、あくまで普通に探索に行く時と同じような格好で、何ならこと、このような大型獣を相手するにおいて邪魔になりかねないリアーゼやシュラウドさえも同伴している。
「さて、今回は武器がいいから、それがどのくらいの性能を誇るかを見るのも楽しみだな。」
まだこちらの気づかず、遠くでくつろいでいるドラゴンを見ながら俺は自分の手に持っている武器を軽く振った。
それはいつもと変わらない木の剣だったが、心なしかいつもより強そうに見えた。
それもそうだろう。
この木の剣の攻撃力値は通常のものより10も大きい13になっているのだから。
それもこれもシュラウドのおかげだ。
シュラウドは魔石と武器を掛け合わせることでその性能を引き上げることができる。
当然、いい魔石を使えば上昇値も大きい。
その上限は1つの武器につき10個までという条件はあったものの、それでも限界まで詰め込めば最低でも10は上がるのだ。
10の上昇は、俺にとっては99の上昇と同等のため、かなりの強化といえた。
そしてもう一つ、ここに来る際にいつもと違うところがある。
「そうだね~、ボクも自分の魔法がどう生まれ変わったのか早く試してみたいよ~。」
ノアのスキルの内部ステータスだ。
いつも使っている火の玉の召還については何も触ったりしていないが、ウォーターに関しては結構いじらせてもらった。
それも安全にドラゴン狩りを遂行するために必要なことなのだ。
「じゃあ2人はちゃんとここで待っているのよ?危なくなったらすぐに逃げちゃっていいからね?」
リリスが笑顔で後ろで待機しているリアーゼとシュラウドに向かって注意を促す。
「はい、皆さんご無事で」
「みんなも危なくなったら早く逃げるんだよ?」
「ああ、それについてはそのつもりだから安心してくれていいぞ。」
まず第一に危なくなる可能性のある橋を渡るつもりは毛頭ないが、もし万が一不穏な空気が漂ってきたら即撤退だ。
別にこのドラゴンは倒さなくてもいい奴だからそこのところは間違えてはいけない。
俺とリリスは準備が大体終わったことを確認して、ドラゴンに気づかれないように物陰に隠れながら少しずつ接近した。
そしてその間にノアは強化?したウォーターの詠唱をしている。
俺たち2人は気づかれないで近づけるであろう最大の場所で待機し、ノアの魔法が放たれるのをただただ待っていた。
ドラゴンは全く動く気配はない。
あくびをしながら空を見上げているだけだ。
今回、ノアの魔法は詠唱時間と消費MPを限界まで大きくすることで威力を最大値まで引き上げている。
その威力たるや俺の《純闘気》+《斬鉄》もびっくりな威力に変貌している。
そしてその詠唱時間は20分、消費MPは驚異の1500、戦闘に使う魔法としては使いにくいことこの上ないが、こうやってじっくり詠唱時間さえとれば使えないことはない。
消費MPが大きすぎるので試し打ちはできていない。だが、何も問題はないだろう。
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そして、ノアが詠唱を開始してから20分が経過した。
いよいよ、戦闘が開始される。
目の前のドラゴンはそんなことはつゆも知らずにのんきにしている。
「よし!!終わったからいくよ―――!!」
後方からそんな声が俺たちの耳に届いた。
そしてそれと同時に、俺たちの頭上を一つの水球が高速で通り過ぎた。
それはいつか見た水球とは比べ物にならない。もはやこれは砲弾か何かだ。
ノアの放った水球は真っすぐにドラゴンに向かっていき――――その右前足に直撃した。
「グッ!!?ガアアアアアア!!!」
突然飛んできたその一撃を食らったドラゴンは、その場につんのめるようにして倒れた。
ドラゴンの巨体が倒れたことであたりに小さな地響きが起こる。
だが、俺たちはそんなことを気にすることなく、ノアの魔法がドラゴンを転ばすことに成功したのを見た瞬間に飛び出した。
「リリス、そっちは任せたぞ!!」
「ええ!!任せなさい!!」
俺たちは左右に分かれるように走り、それぞれが戸惑って対応が遅れているドラゴンの目に向かって各々の武器を突き立てた。
俺にはスキルが、リリスには持ち前の力があるため、軽々とドラゴンの目を壊すことに成功する。
これでこいつはもう光を見ることはかなわない。
俺は突き立てた木の剣はそのままに、今度はドラゴンの後方に向かって走った。
リリスは強引に力で槍を引き抜いていたが、俺のスキルは力を増やす能力じゃないので抜けないからだ。
後方に回った俺は予備の木の剣を腰の剣帯から引き抜き、それを全力でドラゴンの足にたたきつける。
ドラゴンは必死に抵抗しようと手足を振り回すが、まず目が見えないこと、それと前足が片方、ノアの魔法によって大ダメージを受けていることが重なってその攻撃は俺たちには当たらない。
もしこれが空を飛ぶタイプの竜だったら翼ひとつでこの状況をすべて解決することができるのだが、事前情報でそれができないことは俺は知っている。
「タクミ!!こっちは終わったわよ!!」
ドラゴンの後ろ脚を重点的に攻撃し続けているリリスが大きな声でそう言った。
見るともうそちら側の脚はほとんど動いていなかった。
「そうか、こっちはもう少しだけかかりそうだ!!」
俺のスキルは冷却時間の概念がある。
その為永続的に高火力で攻撃できるリリスよりDPSが劣っている。
その為俺のほうがダメージの蓄積が少しだけ遅かった。
だが、そんなことはどうでもよかった。
俺が回ったのは左側から、つまりドラゴンから見た右側からだ。
右足はすでにノアの魔法によって再起不能。
左後ろ脚もリリスによって壊された今、ドラゴンはその巨体を支えることはもう不可能――――つまり起き上がることはできない。
ちまちまだが安全に削ることができるのだ。
たまにそのドラゴンは大暴れするように身を震わせようとするが、それすらもうまくいっていない。
門司通り大暴れするだけで、周りに与える被害といえば周りの岩が崩れるくらいだった。
俺たちはその間遠くに離れて見ていればいい。
ともあれ、リリスより少し遅れて俺はドラゴンの足を完全に壊すことに成功した。
「後はとどめを刺すだけだ!!リリス、好きなように攻撃していいぞ!!」
俺はそう指示を出し、安全なところまでさがる。
ドラゴンという種族は基本的にデカい!かっこいい!強い!が基本であり、最強の代名詞として使われがちだが、弱点がないわけではない。
確かに単純な能力値だけを見れば俺たちはこのドラゴンに勝つことは不可能だろう。
だがドラゴンは体が大きいという特徴がある。
大きい―――ということはそれだけ重いということだ。
そして重いということはそれだけそれを支える足に負担がかかっているということ。
一つ一つの足が担当している重さはバカにならない。
それこそ、その一つを何かの拍子に失ってしまうだけでバランスがとりづらくなってしまうほどに・・・
しかし4つあるうちの1つを奪っただけではまだ安心できない。
人間が片足立ちができるように、ドラゴンだって3本脚立ちくらいはできるだろう。
その為、俺たちは速攻で3つの足を破壊した。
流石にいつも4本の足で支えていた体を、急に1本の足で支えろと言われて急にできるはずはない。
それも目が見えない状況でだ。
3つの足と視力を奪われたドラゴンはもはや大きな置物と何ら変わらない。
確かに左前足は健在だが、そんなもの右側から攻撃を加えてしまえば何も問題にはならない。
「タクミ、終わったわよ!!」
リリスがやり切ったような顔で俺のほうに歩いて来た。
見るとドラゴンは完全に動かなくなっていた。
「お疲れリリス、」
俺は手を上げ、彼女とハイタッチをかわす。
「あー!!2人だけずるいよ!!ボクもやる!!」
そこでいつの間にか俺たちのもとまでやってきていたノアが両手を上げてジャンプする。
「ノアもよくやった!!お疲れ!!」
「お疲れ様。」
「うん!!2人もお疲れ!!」
俺たちは各々の手を掲げ、それを高い場所で交差させる。
―――――パン・・・
手と手がぶつかり合う、乾いた音があたりに響くと同時に、、ドラゴンの体が灰になって風に飛ばされて行くのが見えた。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。