75 青い朝と赤い朝
「タクミ、朝だよ起きて!!起きないとおいて行っちゃうよ!!」
俺の頬をぺちぺち叩きながらノアがそう言っているのが聞こえる。
俺はうっすらと目を開ける。
見えてくる景色は岩でできた天井で、ここが洞窟の中であることがうかがえる。
俺は視線をそらし外のほうを見た。
うん、安定のまだ太陽が顔を出し始めたばかりの時間帯だ。
いつもの朝だ。
「ああ、ごめんごめん、今起きるから置いていくのはやめてくれよ。」
硬い床で寝てしまったため少し痛む体をいたわりながら俺は体を起こした。
見てみるとすっきりとした表情のノアが俺にまたがるような形でこちらを見ている。
「あ!!起きたんだね!!じゃあほら、ご飯を食べたら街に戻るよ!!」
彼女もまだ目が覚めてからさほど時間が経っているとは思えないのだが、どうやってこのテンションを維持ているのだろうか?
「それはいいんだが・・・どうして俺の上にのっかってるんだ?」
「それは今日の気分だね!!」
「気分ですかそうですか・・・」
俺は自分の腹のあたりにのっかっているノアを押しのけて立ち上がる。
昨日ここまで急いできたことや、寝るのが結構遅くなってしまったことからまだ眠気が残っている。
俺はあくびをしながら出発の準備をする。
まずは朝食、何をするにも食事は必要だ。
機械であるシュラウドでさえ食事はするのだから、生き物である俺たちが食事を抜かしていいわけがない。
俺はここに来る際に持ってきておいた食料の残りを広げていく。
「さあノア、好きなものを食べていいぞ。」
「うん!!ありがと、じゃあいただきまーす!!」
ノアの捜索は数日かかると思っていたので、昨日消費しただけでは使いきれない。
それどころか朝食として並べるには多すぎる量だと思われるほどの食料が広げられている。
だがノアはそんなことを気にすることはなくどんどんと食べ進んだ。
そして俺が満腹になるころには、広げた食料はひとつ残らずノアによって食い尽くされていた。
いつもはもう少し早く満腹になるのだが、今日はよほど腹が減っていたのだろう。
「さて、食事も終わったことだし、そろそろ出発しようか。」
「そうだね!!みんなもボクたちのこと待ってるんだよね!!?」
食事を終えた俺たちは、昨日お世話になった洞窟を後にした。
そして・・・・・
街に帰る途中、大量の鳥型の魔物に遭遇した。
やっぱり、ノアと一緒にいるとこういうトラブルによく出くわすんだろうな。
俺はその鳥たちと戦いながらそんなことを考えたのだった。
◇
朝―――太陽が昇り切った時間帯に、リリスは目を覚ました。
目を開いた先には自分が寝ているベッドとは違うもう一つのベッドの姿が見える。
しかしそこには誰も眠っていなかった。
それはそこにいたものがもうすでに起床して、どこかへ行ってしまったわけではない。
そのベッドと使うべき人は、昨日から姿が見えないのだ。
そしてその前日にはパーティメンバーの一人が姿を消している。
普通に考えて、彼はその人を探しに行ったのだろう。
リリスは正しい答えを見つけ出し、だからこそ彼の帰りを待っているだけだった。
だが、一日たっても彼は返ってこなかった。
空けた目に映るその光景に、彼女は残念な気持ちになりながらも体を起こした。
「さて、どうしたものかしらね・・・」
「何がですか?」
ひとりごとのつもりの言葉だったが、彼女が放った言葉に応答するものがいた。
その人形は椅子に座ってこちらを見ている。
「タクミたちのこと、丸一日帰ってきてないから少し心配じゃない?」
「それはそうですね。ですが、タクミ様がどこに行ったとかはわかりませんよ?」
それもそうだ。
ノアもタクミの、どこに行くということを言わずに出ていってしまったため、探すといってもどこを探せばいいのか全く見当がつかない。
リリスはベッドから足を下ろし立ち上がる。
そしてそのままその部屋を出た。
向かう先は隣の部屋だ。
彼女はいなくなったもう一人が泊っていた部屋の扉をノックした。
――――――ガン、ガン!!
あまり力を込めたつもりはなかったのだが、強く打ち付けたような音が鳴り響く。
リリスがノックを始めてすぐあとにその扉は開いた。
中から出てきたのは一人の少女だ。
「あの、リリスさん、どうしました?」
「ちょっと聞きたいんだけど、ノアやタクミがどこに行ったのか聞いていないかしら?」
「えっと・・・ごめんなさい・・・何も聞いていないです。」
当てが外れた。
単純に、そう思った。
だから彼女はそれ以上の言葉をつぐむことはなかった。
だが、目の前の少女には急に黙ったリリスがどこか怒っているように見えた。
「あの、、2人を探すのでしたらお手伝いしましょうか?」
あまり刺激しないような言葉を選び、少女がそう口にした。
「ん?いや、いいわ。タクミが何も言わずに出ていってしまったんですもの。多分一人で見つけて帰ってくるはずよ。」
「えっとそれなら・・・何か手伝えることは?」
「それなんだけど、どうしてノアが出ていったのか心当たりはないかしらね?」
これを解消しておかないと、もし万が一戻ってきたとしてもまたいずれいなくなってしまうだろう。
彼女を探すのはタクミに任せる。
だから自分たちはそれ以外のことをするべきである。
そう思って聞いたことだったが、目の前の少女はあまり言いたそうな雰囲気ではない。
知らないという風ではない。
だが、言いたくない。そんな様子でこちらのことをちらちらとみてくる。
「えっとそれは・・・・」
どう考えても言うのを渋っている。
そんな態度を見せる少女に、リリスはイライラしてくる。
「おい、知ってんなら早く言えよ。」
先ほどまでの柔らかい雰囲気とは違う顔がその時少女に向かって見せつけられた。
明らかに怒っている。
それがわかる口調になり、表情もそれにふさわしいものになっているように見えた。
「わ、わかりました!!言います。言いますから・・・!!」
結局、リアーゼはノアがリリスを嫌っていることが原因で出ていってしまったことを言ってしまうことしかできなかった。
前回長かった分今回は短めです。
年末年始は投稿あくかもしれません。