64 姑息な狐と鞄の中身
流れてゆく景色を楽しみながら仲間たちとの会話を楽しむ。
くだらないことでも、旅の中だということで不思議と笑えてきて仲間とのきずなが深まる。
そんな優雅な馬車の旅――――――――なんてものはなかった。
まさか道の途中でちょっと魔物の襲撃にあっただけで馬車が俺たちを置いて逃げるなんて考えもしなかった。
普通突き落としてまでおいていくかね?
「はぁ、いつぞやの御者は大量のウルフ相手にも俺たちを置いていくなんてしようとしなかったんだがなあ・・・」
そんなわけで途方に暮れる俺たち。
「本当、私が迎撃に出た時にタクミが投げ飛ばされたのを見て、私、あいつを殺そうと思ったわ。」
おいおい穏やかじゃないな。
「それで?これからどうするの?ずっとここにいるわけにはいかないでしょ?」
「どうするもこうするも、進むしかないんじゃないか?リリス、目的地はここからどのくらいどのくらい歩けばいいんだ?」
遠く、とだけは聞いているがどのくらい遠いのかということは一切聞かされていない。
ただ、確か馬車の運航予定では5日かかるっていう話だったよな。
今は出発してから3日目の昼だから、ちょうど半分くらい?
「人の足では徒歩で20日ってところじゃないかしら?そもそも、私も正確に位置を把握しているわけじゃないから憶測でしかないけど・・・」
うへえ、20日歩き詰めか。
流石に面倒だな。いや、ちょうど真ん中あたりで落とされたから進むしかないんだけどさあ。
「20日、だったら大丈夫だね!!さあさあ、どんどん進むよ!!」
20日歩き続けるのをさも余裕という風に歩き始めるノア。
ここでとどまっていても仕方がないので追いかける俺たち。
長い旅になるとは言っていた気がするが、まさかこんなことになるなんてな。
まあ、馬車イベントは割と定番だったりするからあんまり驚きはないんだけどな。
◇
俺たちが歩き始めてから15日が経過した。
その間、特に何もなく歩き続けているだけだった。
意外にもみんな不平不満をほとんど漏らさず進み続けることができている。
俺と違ってこういうことには慣れているのかもしれないな。
街道が整備されているおかげで、魔物などはほとんど出てこない。
もしかして魔物に出くわすのに慣れていなかったからパニックになってあんな行動をとったのだろうか?
そう思えるくらい何も出てこなかった。
これに対してはノアが一番不平を言っていた。
だが、今日からは森の中を抜けることになるので、魔物に出くわすこともあるだろう。
それで満足してもらうしかない。
俺たちは獣道をかぎわけながら進む。
「ん?なんだだろうあれ・・・」
その時、ノアが急に近くの茂みに姿を消してしまった。
まさか退屈すぎて自分から何かに向かっていくようになったのか?
「お、おいノア、待てよ。」
俺はノアを追いかけるように茂みの中に入る。
「あ、ほらタクミ、これ!!なんか面白そうじゃない?」
茂みの先では待ってましたとノアがそう言ってある方向を指さしている。
俺はその方向に目を向ける。
そこにあったのは――――――――人?ではないな、機械か何かか?
人ではない。
何故なら木に横たえられているそれは大部分が壊れているようで上半身しかなく、断面からは何かの部品のようなものが見えていたからだ。
そしてそれが動くような様子はない。
「確かに、少し面白そうではあるな。」
俺はゆっくりとそれに近づく。
そしてそれの頭部と思われる部分に触れてみる。
危険ではないかと思いもしたが、壊れているみたいだし多分大丈夫だ。
「・・・・・・・・・・・・・・」
やはり、触れてみてもそれが動く様子はない。
しかし、触れてみたら中でまだ、何かが動いているのが分かった。
「ん?歯車か何かの音だろうか?」
「え!!?何々!?これまだ動いてるの!?」
俺の言葉を聞いたノアが駆け寄ってきて、それに触れる。
「あ!!ほんとだ!!タクミ、これまだ動いてるよ!!」
そこでリリスとリアーゼも茂みの先からこちらにやってきた。
「あなたたち、急にいなくなったと思ったら何をしているのかしら?ってあら?何かしらそれ?」
「何か人形のように見えるけど・・・ノアおねえちゃんはさっき動いてるって言ってたよね?」
「そうなんだよ!!これ、結構壊れてるように見えるけど死んでないみたい。」
はしゃぐようにそういうノア。
静寂な森の中でその大声は、周りの魔物を引き寄せるには十分すぎる声量だった。
―――ガサガサ・・・・
周りの茂みが動く気配がする。
結構数がいるみたいだ。
そしてそれはある時、堰を切ったように一斉に茂みの中から姿を現した。
「キューン・・・」
「えっと、何あれ?狸?」
茂みの中から姿を現したのは、可愛らしい狸のような動物だった。
「うわ!!何あれ!!タクミ、触ってみてもいい!!?」
その愛らしい姿にノアが壊れたようにすり寄っていく。
「あ!!待てって、危険かもしれないだろ!!?」
魔物の強さは見た目によらないことがある。
現実とは違い能力値は製作者の匙加減のため、あんな愛らしい姿の魔物が実はかなりの強敵だった。ということは起こりうる。
それを懸念した俺はノアに制止をかけるが、もう遅かったみたいだ。
彼女はのこのことその狸に近づき、そして引っかき攻撃の餌食になっている。
「ああーー!!ちょっと!!痛いって!!」
そう言って手をバタバタさせるノア。
必死に抵抗しているように見えるが、思っているよりまだ余裕そうだ。
「ああ、あれは姑息狐ね。」
そして何か納得したようなつぶやきをこぼすリリス。
「ん?狐?狸じゃなくて?」
「えぇ、狐よ。あれは狐が化けた姿なの。」
「えっと?どうしてそんなことを?」
「確か聞いた話では、姑息狐達は狸が嫌いらしくて、ああやって狸の姿をとって人に襲い掛かることで狸への風評被害を狙っているらしいわよ?」
なるほど、狸を悪者に仕立て上げる卑怯な手を使うからそんな名前がついてしまっているのだな。
姑息狐、卑怯な奴だな。
「それより、あれ、早く助けたほうがよさそうね。」
依然として落ち着いた声でリリスは言うが、その視線の先では悲惨なことが起こっていた。
ノアが大量の姑息狐に群がられて攻撃を受けまくっている。
「ちょ、、ノア!!大丈夫か!!?」
「そういうなら早く助けてよー!!ボクにはこの子たちを攻撃することはできない!!」」
まだ結構余裕がありそうだな。
でもまあ、助けたほうがいいことには変わらないだろう。
俺は木の剣を一本リアーゼから受け取りすでに毛玉と化しているノアのもとへと向かう。
ちなみに、この木の剣は昨日補充しておいたものだ。
結構金が溜まってほかの武器をかおうと思ったのだが、あの街は物価が高いうえに《純闘気》の強化でステータスの底上げができることを考えるとこっちのほうがよさそうであった。
いや、だってさ。
物理攻撃力をたった13上げるだけの武器が20万Gするとかありえないだろ?
俺は木の剣を使い姑息狐の群れをぶっ叩いた。
勿論、ノアを叩かないように配慮するのは忘れない。
「キュー―・・・」
俺に叩かれたそいつは、可愛らしい声を上げてその場に落ちる。
そして―――――ボン!!
という音とともに本来の姿を現した。
「うわぁ、これは・・・」
本来の姿を現したそいつの見た目はかなり不細工だった。
なるほどな。
姑息というのは一時的に見た目を取り繕うという意味から来ているんだな。
ノアもそれが見えたのだろう。
先ほどまで、されるがままだった彼女は急に反撃に入る。
「わああああああん!!可愛い狸かと思ったら、ブサイクな狐だったよーーー!!」
彼女は杖をブンブン振り回して次々と狐たちを撃破していく。
そして数分後には、
「はぁ、はぁ、やっぱり、見た目に惑わされちゃいけないんだね。」
肩で息をしながら何かを悟ったかのようなノアの姿があった。
彼女は少し悲しそうな顔をその場に伸びている不細工な狐たちに向けている。
「それもそうだな。見た目と内面が完全に一致するなんて結構稀なことかもしれないぜ?」
俺は少しだけ気落ちをしているノアを励ますようにそう言った。
「はぁ、はぁ、もいいや。早く次の街に向かおうか・・・・」
「そうだな。」
姑息狐を倒し終わった俺たちは、本来の目的である次の街への進行を再開するべく元の道に戻る。
その後は特に何もなく森の中を進むことができた。
途中、何度かまたあの姑息狐が出てきたのだが、ノアがそれを見つけたとたんに杖で殴り倒してしまうので、俺たちとしては魔物にあってすらいないといっても過言ではない。
そしてついに・・・
「抜けたー!!」
森を抜けることに成功する。
流石に整備されていない道を歩くのは結構つらいな。
「リアーゼ、疲れているようだが大丈夫か?」
リアーゼはしっかり者だが、まだ子供だ。
長期間歩き続けるのはつらいのかもしれない。
「はぁ、はぁ、まだ、大丈夫だよぉ」
「そうか?あ、そうだ。俺がその荷物持っててやるよ。」
リアーゼの鞄は結構重い。
というのも俺たちが今まで倒してきた魔物の魔石や、ドロップ品などは一通りこの中に入っているからだ。
それに加えて俺の木の剣の予備も・・・
思えば子供にこんなものを持たせて歩き続けさせるのはどうにかしていたな。
「いいのですか?」
「ああ、いいさ。疲れているんだろう?遠慮するな。」
「ありがとうございます・・・」
少しだけ申し訳なさそうに、リアーゼは鞄を肩から外して俺に渡してくる。
俺は片手でそれを受け取ろうとして―――――
「うお!!?」
重さに鞄を落としそうになり、とっさに両手でそれを支える。
「リアーゼ、お前こんなものをいつも持ち歩いていたんだな。」
本当に、申し訳ないことをした。
そういう思いが俺の心の中にたまっていく。
「あ、はい。獣人の力は強いんで、あんまり気にしなくてもいいですよ?」
「そうはいってもなあ・・・」
「そんなに重いなら私が持ってあげてもいいわよ?力はまだ結構強いみたいだしね。」
リリスがそう提案してくるが、俺はそれを拒否する。
俺が言い出したことだし、彼女にこの鞄をいつも持ってもらっていたのも俺だ。ここは俺が持つべきだろう。
「それにしても、流石にこれは重すぎないか・・・?いったい中には何が入ってるんだ?」
一応だが、俺は戦士系の二次職のため、力の能力値は結構高めだ。
それなのにここまで重さを感じるというのに違和感を覚えた俺は、中身に何が入っているのか少しだけ確認するように開けてみる。
「ってこれは――――――――――!!?」
そして鞄を開いたときに俺の目に入ってきたのは、
先ほどの森の中で木に横たえられていたあの人型の機械だった。
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