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ゲーム攻略者とゲームの世界  作者: Fis
第3章 終わった機械と刻む歯車
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63 最低限の準備と出発の朝

「さてエリック、お前に頼みがあるんだが・・・」


明日はもう出発の日だ。

だからこの街でやるべきことは今日、やっておかなくてはならない。

そう思った俺は早朝、まだ薄暗い時間帯に冒険者ギルドに行き、エリックに話しかけた。


「む?タクミではないか。どうしたのだ?改まって。」


エリックはそう言って俺を迎えてくれるが、彼の仲間からの視線が痛い。

特にオリビアなんかは視線だけで俺を射殺す勢いだ。


「あ、あぁ、あのダンジョンの話なんだけどな。あの第三階層の敵を定期的に掃除するようにしてほしいんだ。」

俺がこの街から離れたらもうできなくなるからな。

長期間放置して手が付けられなくなる前に手を打っておく必要がある。


「む?第三階層?またどうしてだ?」

事情を知らないエリックはそう聞いてくる。

そういえばこいつは第二階層で足踏みしていたんだな。


「あそこの敵、放っておくと共喰いをして強化され続けるんだよ。そうなる前にとめておいたほうがいいとは思うんだが、俺は明日からこの街を去ろうと思っているからな。」


「む?この街を去る?またどうしてだ?」


「いやね、リリスが一緒に行動するようになったんだけど、彼女の姿を知っている奴らからの視線が痛いと思ってな。」


「そうか、そういうことなら仕方はないな。この僕が引き受けてやろうではないか。」

彼は納得したように言う。しかし彼は簡単に引き受けてくれたがそれでいいのだろうか?


彼のパーティはそもそも第二階層で苦戦していた上に、壁役となる戦士がこの前離脱―――もとい魔物化してしまって今いないのだが・・・・


「ああ、心配しなくてもいい。冒険者ギルドには悔しいが僕以上の猛者はたくさんいるのだ。彼らにお願いしてみるよ。」


俺の懸念を読み取ったのだろう。彼はすかさずそう言った。

それなら大丈夫そうだな。


「そうか、ありがとう。」

俺は礼を言ってその場を立ち去ろうとしたが、それを許さないものがいた。


「ねえちょっと。」


振り向いた瞬間、オリビアに話しかけられる。


「えっと、何ですか?」

高圧的な態度に反射的に下手に出てしまう俺。

だって仕方がないじゃないか。睨みつけてくるこいつの顔、怖いんだよ。


「あなたそれを私たちにただでやれっていうの?」

俺が一方的に頼み事だけしてどこかへ行こうとしたのが気に入らなかったみたいだ。

彼女は俺の肩をつかみ逃がさないようにしてからそう言ってくる。


「それもそうだな。どのくらいほしい?」


実は俺、今結構お金は持っている。

というのもリリスの部屋で過ごした2週間、暇つぶしに倒していた三階層の魔物の報酬が入ったからだ。

あのダンジョン内の魔物の報酬は結構高額のため、かなりの金額を持っている。


その額数字にして93万Gだ。


一部食費などで飛んで行ったりはしているが今これだけ手元に残っている。


この街に来た目的である、資金面の強化という目的はもう達成されているといっても過言ではない。


「そうねえ、これからずっとということで――――――1000万Gでどうかしら?」


「1000万!?」

いやあ、結構吹っ掛けられたな。

流石にこれは払えないぞ。


目を丸くした俺を見て、払えないことを察したのだろう。

優越感に浸ったような顔をしたオリビアが言う。


「あら?払えないの?じゃあこの話はなかったことで・・・」


「オリビア・・・ちょっとそれは・・・」


「エリックは黙ってて!!」

助け船が出航したが、嵐に飲み込まれてしまった。

俺を助けようという者はもういない。


普通ならここで引き下がるのがいいのかもしれないが、俺としては第三階層の問題は結構重要になってくるものだと思うため、引くわけにはいかない。


はぁ、俺は一度ため息をついて打開案を口にした。


「そうだな。払えないからこれでどうだ?」


俺は一本の剣を目の前に差出した。

それは以前、エリックから拝借したもので、そのままずっと俺が預かっていたものだ。


「そ、それは聖剣ではないか!!返してくれるのか!?」


「ああ、俺の話を受けてくれるなら返してやろうと思うが・・・どうだ?」

そもそもこれは彼から奪ったものだからいつかは返さないといけないと思っていたの物だ。

今渡すのは少しもったいない気もするが、渡してしまっても問題はないだろう。


というか、次会うのがいつか分からないから今渡しておいたほうがいい。


「よし!!決まったな!!」

エリックは差し出した聖剣を受け取り、報酬をそれでいいといった。


「ぁ、エリック、それはもともとあなたの・・・」


オリビアが何か言おうとしているがもう遅い。

何があろうと、報酬を提示した後にそれを受け取ったら交渉は成立なのだ。


「じゃあ、そういうわけで。」


俺はその場からそそくさと逃げだすように立ち去る。

一応、この場に留まり続けてもやることはないし何か言われると困る。


まだ俺に何かを言いたそうなやつが若干一名残っている気もするが、それは放っておいたほうがいいだろう。


俺は早朝の冒険者ギルドを後にして、失ってしまった武器を補充しようと武器屋に走った。



まあ、早朝ということもあってまだ店は閉まっていたんだけどな。












「おっきろー!!朝だぞーー!!タクミ―!!」


さて、次の日の朝、今日も一応リリスの部屋に泊めてもらっている。


宿代がかからないし結構便利なものがそろっているし、それに、今日でこことは当分お別れだしな。

リリスも快く受け入れてくれたので、今日の目覚めは彼女の部屋だ。


それにもかかわらず、もはや懐かしくも感じるあの音は何だろうか・・・?


いや、言わなくてもわかる。

いつものノアのモーニングコールだ。

あいつは宿に泊まっているらしいのだが、まさかここにいてもそれが響くことになるとは思わなかった。

一応、ここダンジョンのそれも二階層目なんだけどなぁ・・・


「ん・・もぅ、なんなのぉ?」

今まで触れてこなかったことだが、寝起きのリリスは普段とはまた違った雰囲気が味わえる。

寝起きは弱いのだろう。


「ほら、リリス、朝だぞ。」

別に俺は朝弱いタイプではないので、ノアの呼びかけに応じて即座に起きることが可能だ。


それができなければ昨日のエリックに間に合わなかったし、オンラインゲームとかでは朝にも平気で重要なイベントをぶち込んでくるときがあるからな。


「ん、あと五分だけ、」


「それ絶対五分じゃすまない奴だから、ほら言ってないで出発に遅れるぞ。」

二度寝に入ろうとするリリスを無理やり引き起こして準備をさせる。


昨日のうちに馬車の予約はとっており、出発が今日の日の出のころになるといっていたのであまり悠長にしている暇はない。

といっても、流石に早すぎる気はするけどな。



それから三十分後、俺たちの準備は完了した。

準備といっても大体のことは昨日のうちに終えていたのでやったことといえば身支度と朝食を軽くとるくらいのことだけだ。


「さて、そろそろ行こうか。」


「ええ、少し名残惜しい気もするけど、こことは少しの間お別れね。」


俺たちはリリスの部屋を後にする。


外ではノアが不貞腐れたような顔をして待っていた。

隣には眠そうに眼をこするリアーゼの姿もある。


「もう、遅いよタクミ!!どれだけ待たせるつもりなの!!?」


思えば、朝食中はこいつのことを忘れていたな。

流石に悪いことをした。と心の中で反省しておく。


まあ、そんな態度を見せてしまえばまたこいつがうるさくなるから表には出さないようにしておくんだけど・・・


「悪かったって。ほら、早くいかないと遅れてしまうかもしれないぞ?」


「そうだったそうだった。早くいかないとだった。」

俺の言葉で思い出したかのように急ぎだすノア。

リリス張りにころころと表情を変える奴だな。


俺たちはそんなノアの後を追うようにダンジョンの中を歩く。


「じゃあ、いままでありがとね。ばいばい」


最後、第二階層を後にする瞬間、後ろからそんな声が聞こえたような気がした。

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