6 魔法使いと頼み事
ゲーマーは体力がない。そう言われ初めて、どれだけの時が経つだろうか。
確かに、運動せずに家の中でゲームをし続けているのだから、そう思うのも無理はない。
だが、それは正確には間違っている。
VRゲームが普及した昨今、ゲームをしている最中でも、人は体を動かすようになっている。
むしろ、長時間プレイする為に、ゲーマーには体力が必要になっていたのだ。
それに体を動かす感覚もかなり重要になってくる。
ゲームの中で実際に体を動かして魔物と戦うことも珍しくはないからだ。
俺は殴った衝撃や肌に触れる感覚など、違いはあれど、ゲーム内で殴りあうことにはかなり慣れている。
その為、ゴブリンくらいなら、俺の敵ではない。
それでも戦闘を拒んでいたのは、この世界の魔物の強さがまだわかっていなかったからだ。
そして今回確信した。この世界の魔物は普通だということだ。
いや、魔物に普通も何もあるのかという話だが、ここはゲーマーである俺の感覚だ。
たまにあるのだ。
魔物と戦うことがあまり想定されていないゲームや、魔物が異常に巧みな技を使うゲームが。
今回のゲームがそういうタイプではないことが分かっただけでこの戦闘にかけたリスク分は取り戻せたといえる。
本来の予定とは違ったが、結果よければすべてよしだろう。
俺はゆっくりと歩きながら、街の門をくぐる。そこにあいつはいた。
「あ、帰ってきた。」
さっき俺をおとりに使おうとした女性だ。MMOならトレインというかなり悪質な行為だったぞ。
しかしそいつは悪びれる様子もなく俺を見てそう言った。
「あの、そこのあなた。少しだけお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
俺はできるだけ相手に警戒心を与えないように、笑顔で、そして優しく話しかけた。
「あ、あの?少し怖いんだけど?顔は笑っているのに目がマジなんだけど!?」
怖いとは失礼な。それにしても目か。
俺は目が笑っていないのが怖いといわれたので今度は目も一緒に笑う。
「そうおびえなくてもいいではありませんか。俺は少しだけお話をしただけで・・・」
「あの、わかったからその顔、やめてくれないかな?笑顔がゆがみすぎてて怖いんだけど・・・」
全く、注文の多い奴だ。
俺はいつも通りの表情でその女性に言いたいことを言う。
「あの、俺が何を言いたいかわかるかな?いや、わかるよな?」
「は、はい・・・申し訳なくは思っていました。」
「んー――?思って『いました』?」
「いいえ、思っています!!はい、これで満足!?」
少し追い詰めただけで逆切れされてしまう。短気な奴だな。
俺はそう思いながらも、その女性の外見を確認する。
人は外見で判断するな、とはよく言うが、ゲームの中では外見はかなり重要な要素だったりする。
金髪ツインテといったらツンデレ、多くのオタクたちがそう認識するように、外見で中身が分かったりすることがある。
その女性の髪はセミロング。くくるなどのことはしておらず、それをそのままおろしている。
服装はローブで、右手に持つのは木製の杖だ。
魔法使いなんだろうな。
身長は大体155cmくらいか?体系は若干子供っぽい。
そこまで読み取ったところで、俺の視線を感じ取ったのかそいつは体を抱くように両手を胸の前で交差してこちらに話しかけてくる。
「あれ?もしかして、ボクの魅力にメロメロになっちゃったのかな~?」
先ほどまでの反省した態度はみじんも感じられない。完璧に調子に乗った発言だ。
・・・はぁ
俺はこの世界に来て何度目かもわからないため息をつき、そのまま冒険者ギルドに向かって歩き始めた。
今思い出したのだが、依頼の報告がまだだったな。宿も取らないと野宿をする羽目になってしまう。
思えば、こんなやつにかまっている暇はなかったな。
急に自分のことを無視し始めた俺に怒りを覚えたのだろう。その女性は俺を追いかけるようについてくる。
「あの、調子にはのったけど、そんなに怒らなくていいじゃない!?」
「あ、もう怒ってないから帰っていいぞ。」
これ以上付きまとわれても面倒だ。俺は引き留めるような女性の声にそっけなく返す。
すると彼女は少しだけ困ったような顔をしながら、俺の腕をつかんでくる。
「ああぁぁぁ、すみませんでしたー。謝るからお金貸してくれないかな?」
前後の文章が全くかみ合っていないのだが、謝るからお金貸せって、こいつはあほなのか?
「あのなあ、俺がお前の謝罪を受け入れたとして、どうしてお金を貸さなきゃいけないんだよ。」
「いや、さっきゴブリンから逃げてるときに落としたみたいで・・・すぐに返すから、お願い!!」
「そもそも金借りてどうするつもりなんだよ!!」
俺の声は次第に荒くなる。この世界に来て、できるだけ平静を保とうとしていたが、思ったより苛ついているらしい。
普段なら軽く流すだが、俺は半ば怒鳴りつけるような声を上げてしまう。
しかしその女性はそれに臆することなく、
「いや、このままじゃあボク野宿じゃん?か弱い女の子がそれはどうなのかなって・・・」
ん、そう言われるとさすがにかわいそうに思えてくるな。
「ふーん、ちなみにいくら貸せばいいんだ?」
俺は興味本位で聞いてみる。というか、この街の宿代が知りたかったから聞いたのだ。
いつかは誰かに聞かなければいけない為、ここで聞いてしまったほうがいいだろう。
「え?貸してくれるの?とりあえず一泊分1000Gを貸してほしいわ。」
俺はギルドの方向に向かって歩き出した。