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ゲーム攻略者とゲームの世界  作者: Fis
第2章 不安な悪魔と曲がらない考え
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47 愉悦と救い


その戦いの決着は一瞬だった。


そもそも、まともな戦いになんて、なるはずはなかったのだ。


そいつーーーリリスがエリックに向かって無造作に近づいて一撃、それだけで彼らの戦いは幕を下ろした。


何か特別な力を使ったわけではない。


ただ単純に、能力値が違いすぎただけだ。


「はあ、英雄の子孫と聞いて少し期待したけど、この程度なのね。」

リリスは残念そうに呟く。


「がっ、は、、、」


エリックはもらった一撃が重すぎたのだろう。

血を吐きながら部屋の隅に仰向けで倒れ伏し、必死に呼吸をつないでいる。


「はあ、、拍子抜けすぎて少し萎えたわ。もういい、あなたは死になさい。」

リリスが倒れているエリックの方に歩き始める。




「、、、何のつもり?」


「エリックは殺させないわ。彼はいつか、最高の冒険者になる男なの。」


両手を広げ、オリビアがリリスの前に立ちふさがる。

決意に満ちた表情とは裏腹に、その足は震えている。


「そうは言っても、彼は私に勝負を挑んだのよ?それなのに私を楽しませることなく負けた。その報いは受けるべきじゃない?」


それが当然のことであるかの様に、リリスは答える。


「彼が無礼を働いてしまったのは謝るわ。だけど、それとこれとは別、どうしてもと言うなら私を倒してからにしなさい。」


あまりにも無謀な台詞だ。

彼女では、リリスに勝つどころか足止めすらできるはずはない。


それなら、何も言わず、自分の身を守っていた方が賢い選択だった。

ああ、でもこの場合、放っておいてもスライムになるから変わらないか。


もしかすると、自分がああなる前に誰かに殺して欲しいのかもしれない。


「はあ、、分かった。勝負は受けてやるよ。そうだな、お前らが私を少しでも楽しませることができれば其方の勝ちでいい。」

面倒そうにリリスはそう言う。


「それが出来たら、エリックに手を出さないって約束してくれるのよね?」


「ああ、約束は守ろう。」


「それなら、、フリッシュ、ビカイア、やるわよ!!」


オリビアは残った2人に声を掛ける。


「はい!!エリックさんを助けましょう!!」


「………………」


軽装の男のフリッシュは即座に動き出したが、法衣の女性のビカイアは戦闘に加わる様子はない。


「ちょっと!?何やってるの!?」

その場から動かず、ただただ事の成り行きを見守り続けるビカイアに、オリビアが声を上げる。


「………」


だが、彼女は動こうとはしない。


「はは、強大な敵の前に統率が取れなくなる程度の結束とは、恐れ入るよ。」


「チッ、仕方ない、二人で何とかするわよ!!」

オリビアはリリスに向き直り、即座に詠唱を始める。


だがその行動は、ただの愚策でしかない。


俺からすれば何故、敵の目の前で無防備になる様な行動をとるか、理解に苦しむ行動だ。


リリスが目の前で悠長なことをしているオリビアに向かい、蹴りを放った。


これで彼女も終わりだな。


と思ったが、リリスの蹴りは間一髪でフリッシュが手に持った短剣を使って受け止める。


「くぅ、、これは、想像以上に、、」


綺麗に受け止めたが、その衝撃は確実に彼の身体に伝わる。


俺にレイピアを壊され、素手で戦いを挑んだエリックとは違い、それだけで吹き飛ばされる様なことはなかっなが、存外苦しそうだ。


あの様子では、あと2、3発受ければそれだけで腕が上がらなくなりそうだ。


だが、彼らとしてはそれだけ時間が稼げれば十分だ。


「お願い、効いて!!ライトレイ!!」


詠唱が終わり、オリビアの魔法が放たれる。

彼女の杖の先端に、光が集まりそれが光線となってリリスに向かった。


その一撃に内包された威力はおそらく、ノアのフレイムピラーよりは上なのだろう。


しかし、


「はあ、ヤッパリこの程度か、、」


リリスには通用しない。


オリビアが放った光線は、リリスが軽く体をずらすだけで外れてしまう。


「嘘!?あれを避けるなんて、、」

避けられることを考えていなかったのだろう。

自分の放った魔法をいともたやすく回避され、目を丸くするオリビア。


俺にレイピアを切り飛ばされたエリックと、全く同じ反応だ。


そして結果も、、、



リリスは隙だらけとなったオリビアに向かって蹴りを放った。


フリッシュが止めに入る。


彼の短剣と、リリスの足がぶつかり合う。


弾かれる短剣、無防備になるフリッシュ、次の攻撃の準備をすでに済ませているリリス。


その次の瞬間、何が起こるのかは想像に難くない。


リリスがフリッシュに向かって、拳を突き上げる。


「、、!!がはっ、、」

そしてそれは見事に腹部に命中する。

蹴りの様な派手さは無いが、そこに込められた威力は尋常では無い。


もう、フリッシュは立ち上がることができなさそうだ。


「あ、、う、、」

目の前の絶望に叶わないと知り、その場に座り込むオリビア。


その間には涙を浮かべていた。


「誰か、、誰か助けて、、」

もう、彼女には戦う意思は残っておらず、ただただ、何者かの救いを願うのみだった。


「はあ、結局、何も変わらなかったな。」


「うぅ、、誰でもいい、私達を、、」


「さて、ここに1人、必死に誰かの救いを求める人間がいるが、、お前ならどうする?」



ーーえ?


リリスは泣きながら助けを求めるオリビアから目を逸らし、俺の方を向きそう言った。


ここで俺に振るのか。

出来ればこのまま忘れていて欲しかったが、そうはいかないらしい。


見ると、先程まで下を見るだけだったオリビアが、何か希望を見出したかのように顔を上げ、こちらを見ていた。


「俺は、、俺なら、、」


どうする?

前提条件、あれは今の戦力では勝てない敵であり、ここで俺が助けに入っても無駄死にするだけだ。


正義の味方、はたまた物語の主人公なら、ここで迷わず助けに入るだろう。


だが、俺にその選択は出来ないでいた。

ただ、戦うだけが脅威を退ける方法では無い。


交渉などの話術にだって、状況をどうにかする力がある。

ここは丁度意見を求められている。


言葉を発することを、許されているのだ。

だから俺は、リリスに振られ、与えられたこの発言権を有効に使うことにする。


そうで無いと、この場で生き残ることは出来ない。


「俺は、俺なら、」


「あなたなら?」


「俺なら、リリス、お前の子供達の安全と、命を交換してもらう。」


俺は意を決してその言葉を口にした。


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