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ゲーム攻略者とゲームの世界  作者: Fis
第2章 不安な悪魔と曲がらない考え
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46 お茶会と変容

「おお!?結構うめえなこれ。」


木の中は特に変わった所のないただの部屋と言って差し支えなかった。


いや、木の中にこんな部屋があるのがそもそも変わっていると言う話だが、


そこで俺たちに待っていたのは、そいつによるもてなし。

そいつの言う所の、お茶会だった。


アレンは差し出された飲み物や菓子を、頬張る様に食べている。


甘い匂いを漂わせる飲み物、手作りと思われるクッキー、ふわふわのパウンドケーキ、確かに、どれも美味しそうだ。


「そう、それは良かった。遠慮せずにお前達も食べるが良い。」


「では、お言葉に甘えてそうさせてもらう。」

差し出したものを食す様に促すそいつと、その言葉を受け取るエリック、、て、これは不味い。


「おい、エリック、それを口にするんじゃねぇ。」

彼にしか聞こえない様に、小声で注意する様にと促す。


だが、


「貴様、まだ我が友のふりを続けるつもりか?良い加減本性を表したらどうだ?」


彼は聞く耳も持たない。

これは完全に不味い状況だ。


見てみると、彼のパーティメンバーは皆、出されたものを口にしている。

無警戒にもほどがあるだろう。


「いやー、部屋に招待されただけでなく、こんなものをご馳走してもらえるなんてラッキーだな。」


「えぇ、疲れている体には本当にありがたいわ。」


「そうだな。それに関してはこのものに感謝せねば。」


会話を弾ませながら、並べられた物を口に運ぶ彼らは、まるで今、自分がどこにいるのかを忘れているかの様だった。


ここはダンジョンの中で、今いる場所はその中枢でからとも言える邪悪の樹の内部


後者の情報は彼らは知り得ないだろうが、それでも異常なあり方であると言える。


「ふふふ、ゆっくりくつろいでいくと良い。」


優しげな微笑みと甘い言葉、それが俺により一層の恐怖を与える。

今の俺は、自分が助かることを考えるので精一杯だった。


最悪、エリック達を助けることは不可能だろう。

それなら、それで良い。

彼らは自分の手で、そいつを呼び起こしたのだから、、、


俺の思考の中では、もうすでにエリック達の死は確定していた。


これはこの世界、ひいては魔物のいる世界においては当然の考えだったが、現代に生きる日本人としては歪なものになりつつあった。


だが、俺はそれに気づかない。


自分の考えが少しずつ、別のものになり始めていることに、、、


「そういえば、ご褒美ってこの食べ物のことか?」


『ご褒美』ーーーーそいつが口にしたその言葉に、一番期待していたアレンはそれについて聞いてしまう。


そいつは笑う。


「ああ、最高のご褒美だろう?」

まるで今から楽しいことが起きることを知っているかの様に


「確かに、最高だな。なんてったって、こんな美人さんの部屋で、こんなに美味いものがががが、、、?」


気分良く話していたアレンは突然、その様子を豹変させる。


「ああ、ついに始まったか、、ふふ、楽しみだ。」


「アレン!?どうしたの!?」


「あ、、が、?何か?が入って、」


「おい!!アレン!!僕の声が聞こえるか!?」


「アレンさん!!しっかりしてください!!」

苦しむアレン。


心配する仲間達、そして楽しむそいつ。


俺はその光景を、何の気なしに眺め続けていた。


ーーーーああ、やっぱり、こうなるんだなー


無関心


彼らがどうなろうが、今の俺にはさして気になることではなかった。


いや、これからアレンがどうなるのか、それが気になるな。


「アレン!!アレン!?ちょっと、どういうこと!?」

ローブの女性は、彼が突然苦しみ始めたのは、そいつの仕業だということに気づいたのだろう。


彼女は問いただす様に、そいつを睨みつける。


「どういうことも何も、彼が楽しみにしていたご褒美だよ。」

楽しい感情を抑えきれない。


そういった声が帰ってくる。


「おい、アレン!!気をしっかり持つんだ!!今、僕がなんとかしてやる!!」


なんとかする。そう言っているエリックも、どうしたら良いのか分からなさそうな様子だ。


だが、この状況で、何かが出来るとしたらそいつしかいない。

それくらいは、分かっているのだろう。


「おい、お前!!アレンに何をした!?」


「はあ、その質問になら、先程も答えただろう?褒美をくれてやっただけだ。」


「褒美だと!?」


「ああ、褒美だ。まぁ、安心すると良い。君たちにも、もうすでに配ってある。」


「何?何を、、」

何かを貰った覚えはない。

そう言った様子で、少し後ずさりするエリック。


「ん?さっきお前も食っただろう?直ぐにそこの男と同じ様になるさ、って言っても、まだ何のことか分からないだろうがな。」


「さっき、、食った、、、は!?」

ローブの女性は、その言葉を聞いて手で口を押さえた。


何が原因でアレンが苦しんでいるのかに気づいたのだろう。


そう、先程まで皆で囲んでいた菓子類だ。


アレンが一番に苦しみ始めたのは、単純に摂取量が他より多かったからだ。

まあ、そんなこと俺にとっては言われるまでもなく分かっている。


だから俺はそれを口にしなかったし、エリックに注意を促すことが出来たのだが、、、


「ああ、楽しみだ。全ての抑えを外された君たちは、果たして形を保っていることが出来るのだろうかね?」


その言葉と共に、アレンの容体が急変する。


彼の体が徐々に変化し始めたのだ。


「オリビア!!エリック!!アレンの体が」

軽装の男が、慌てた様に声を上げる。


そこでそいつの方に目を向けていたエリックとローブの女性ーーオリビアと呼ばれていたなーーがそちらに目をやり、絶句した。


「………………」


アレンはもう、呻き声すらあげていなかった。


当然だ。


それをする為の価値がないのだから。


アレンはもう、苦しみに身悶えしている様には見えなかった。


当然だ。


彼の体は、もう人のものではなかったのだから。



アレンという男は、徐々にその体の輪郭を歪めさせていった。


本来、多様な形からなる人の体が、その細胞が、必死に何か1つのものを目指しているかの様に。


ーーーーベチャ、、、


そしてある程度その変化が進んだ後、まるで堰を切ったようにその身が床に落ちた。


「あ、、あ、、」

アレンだったものを見て、オリビアが声を漏らす。


アレンの体は、この木の外で徘徊しているスライムと同じものになっていた。


「ほら、人の身で生まれたにもかかわらず、魔物として生きることが出来るんだ。光栄この上ないだろう?」

満足した様に、そいつは口を開いた。


「これの、、これのどこがーーーが!?」

怒り狂うエリックの声だが、その声は突如として何者かに遮られる。


エリックの体に、何かが衝突したのだ。


それは先程まで、アレンだったスライムだ。

もう、自我は残っていないのだろう。


そのスライムは、目の前の敵を倒そうと飛びかかる。


「くっ、、」


あんな姿になったとしても、エリックはアレンの事を仲間だと思っているのだろう。

彼は攻撃を受け止めこそすれ、反撃はしない。


「アレン!!やめて!!」

オリビアが叫ぶ。


だが、当然のことながらその声が届くことはない。

スライムは止まることなく、エリックへ襲いかかる。

このまま受け続ければ、彼はやられてしまうだろう。


そう思った時、この状況を変えたのはある意味、予想通りの人物だった。


「こらこら、やめろって。」


彼をこの姿に変えた張本人のそいつは、飛びかかるスライムをその手で掴み、エリックへの攻撃を止める。


彼を助けた?いや、そんなはずはない。


「こいつらも直ぐにお前の仲間になるんだ。仲間割れは良くないだろう?」


そいつは楽しんでいるだけだ。

放っておけば、エリックもまた、スライムに身を転じさせる。

それが楽しみなのだろう。


「貴様ーー貴様は僕が倒さなければならない!!このオーベル家の名にかけて!!」


彼を動かすのは怒りか、それとも信念か、彼はようやく目の前の存在の危険性を理解し、戦いに挑もうとする。


「おお!?私とやるのか?いいだろう。かかってくるといい」


少し嬉しそうなそいつ、そしてそれに対してエリックは高らかに名乗りをあげる。


「かつての大英雄の子孫が1人、エリック=オーベル、いざ参る!!」


「ふむ、英雄の子孫か、面白い。さあ来い、この私、リリス様が直々に相手をしてやる。」


そうして、戦いの火蓋が切って落とされた。

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