43 暴くものと守るもの
「いやー、今日はボク、大満足だよ!!」
ダンジョン第二階層を歩きながら、ノアが体を伸ばしながらそう言った。
今日の討伐はもうすでに切り上げており、今は地上に帰る途中だ。
「そうだな。俺もこっちに来て初めて純粋に楽しんだ気がするわ」
「だよね!!明日もまた来ようね!!」
「いや、流石に明日もここに来るつもりはないぞ?やりたい事があるしな」
「えー、なんでー、明日も来ようよー」
「ノアおねえちゃん、たまにはタクミおにいちゃんの要望も聞いてあげたほうが良いんじゃないかな?」
他愛のない会話をしながら歩く俺たちの表情は明るい。
それもこれも全て、今日の冒険が大成功に終わったからだろう。
あと数十分も歩けば、第一階層に着く、そうして仕舞えばもう出口はすぐそこだ。
俺は今日の充実感と、これからもらえる報酬額を考えながら歩く。
行きとは違い帰りは元来た道を戻るだけのため、思考を別の場所に回すことができるのだ。
「それにしても、スライム、いないね。」
少し残念そうに、ノアがそう言った。
「そういえばそうだね。他の冒険者さんたちが倒しちゃったのかな?」
「でも、それにしては誰にも会わないよな。まぁ、できるだけ敵が出にくそうなところを通っているから、それが原因かな?」
このダンジョンの魔物は全てあの木から生まれて来る。
その為、ダンジョン端の方を通れば必然的にエンカウント率は下がるのだ。
隔離部屋に溜まっている量を見るとそこそこ通るのだろうが、今は運良く避けられているのだろう。
俺はそう思っていた。
少し考えれば可笑しいことになんか全く気づかずにーーー
「あれ?誰かいるみたい?」
もう直ぐ第二階層を抜ける、そう思いながら歩いていた時、唐突にリアーゼが声を上げた。
彼女は獣人の為、感覚に優れている。だから早めに気づいたのだろう。
「誰かいる?まあダンジョンだからそれはいるだろうけど、どうかしたのか?」
「なんかね、結構数がいるんだけど、揉めてる?いや、戦ってる?」
「はえー、リアーゼちゃん、結構ってどのくらい?」
「多分、20人はいるかなあ?」
自信がなさそうに彼女はそう言った。
しかし彼女の言葉が本当ならば、この先では20人以上の人間が戦闘を起こしていると言うことになる。
「場所はどの辺か分かるか?」
この答え如何では、ルート変更もありうるだろう。
「多分、階段の前かなぁ、、」
ある意味最悪な答えだ。
リアーゼの言うことはおそらく合っているのだろう。
だがそれゆえに、この先の面倒を回避できないことに若干の苛立ちを覚える。
いや、まだ冒険者同士が揉めている訳ではないかもしれない。
「そうか、教えてくれてありがとうな。よくやった。」
俺はリアーゼの頭を撫でながらそう言った。
彼女の頭を撫でる行為は、彼女に対しての賞賛の意味もあったが、一番は自分を落ち着かせるためだったのだろう。
頭を撫でられ、少し嬉しそうに尻尾を振るリアーゼを見た俺の心は、少しだけほっこりした気分になっていた。
そしてーーーーーー最悪の事態が起こっていた。
結論から言えば、冒険者同士が争っている訳ではなかった。
だが、俺の目の前にはもっとひどい状況が広がっていたのだ。
第二階層と第一階層をつなぐ階段の前には、確かにリアーゼが言った通り多くの冒険者が戦っていた。
相手はこの階層名物のスライム達だ。
そこはまだ良い。
そこは自然な光景だ。
だが、問題はスライム達の行動にある。
スライム達は何かを守るように、否、何かを邪魔するかのように一心不乱に進み続けている。
そしてその先にはーーーーーーーー
ーーーーーーーーーエリックのパーティの姿があった。
エリックは前線でスライムを押しとどめ、ローブの女性と法衣の女性は後方から支援をする形だ。
そしてちょくちょく戦況を変えるのが軽装の男。
この4人がスライムの進む先に立ちふさがっているのだ。
そう、4人だ。
あと1人、重装の男の姿はそこには確認できなかった。
ではどこにいるのか?
そんなもの、考えなくても分かる。
重装の男はスライムが行きたがっている場所、ダンジョンの中央部の木の幹の前にいた。
そしてその手には、巨大な斧が握られており、男はそれを木の幹に向かって振り下ろし続けていた。
そして斧が振り下ろされる度、木の幹が紫色に輝く、、、、、
ーーーーーーあれはダメだ!!
俺は知っている。あの光が何なのかを、
だから誰よりも早く、その危険性に気づくことが出来た。
「ノア、お前も手伝え!!」
俺は一目散に駆け出した。
「あの男の人を止めるんだね!?リアーゼちゃんはどこか安全なところへ!!でも、いつでも武器補充が出来るようにある程度は近くにいて!!」
「はい!!」
流石は俺の仲間達だ。
俺の言いたいことを瞬時に理解し、実行に移す。
今日初めて連携を意識させる様な戦闘をしたとは思えない。
だが、それはとてもありがたいことだ。
俺は心の中で微笑みながら、スライムをせき止めている男の元に向かう。
当然のことながら、俺は人間だ。
その為、戦闘中の冒険者が俺に意識を向けるはずもないし、誰かが俺の邪魔をするはずはない。
俺はすぐにエリックのパーティの位置まで移動することに成功した。
そしてそのまま彼らの横も通り過ぎようとするが、、
「おお!!友よ!!来てくれたか!!」
この問題を引き起こしているであろう当の本人に引き止められる。
「邪魔だ!!」
俺は間髪入れずに彼を剣で殴り飛ばし、先へ向かおうとする。
だが、
「何をする!?貴様、さてはスライムが化けているのだな!?」
何も言わずに仕掛けた攻撃を躱され、警戒させてしまう。
その結果、1人をのぞいた彼のパーティを敵に回す。
「エリック、あれを早くやめさせろ!!」
俺は叫ぶ。
あのまま続けさせることによる悲劇を起こさせないために。
「黙れスライム!我が友の声まで真似、僕を騙そうとしても無駄だ!!」
だが、先の行動のせいか俺の言葉は聞き入れられない。
このまま話してもどうせ無駄だろう。
エリックみたいなキャラは、自分以外は信じないのだ。
俺はそれをよく知っている。
だから、
「ノア、やっちまえ!!」
今度はエリックではなく、後方には変えるノアに向かって声を飛ばした。
その直後、四方八方から火の玉がエリック達に襲いかかった。
彼女はいつでも攻撃ができる様に、ずっと火の玉を待機させていたらしい。
それらは エリック達に近づき、そして爆発する。
爆心地を中心に、黒い煙が上がる。
「よし、早く止めるぞ!!」
俺は彼らへのダメージを確認しないまま、その横を走り抜けようとする。
だが、
ーーーーーーヒュン、
俺はその途中、身を大きく仰け反らせることで自分の身に迫っていた危険を回避する。
見てみると目の前にはレイピアの物と思われる剣の腹があった。
「ほう、これを躱すか、、、魔物のくせに随分と体を動かすのが上手いみたいだな。」
煙の中から、エリックの声、俺はそれを聴き終える前に、元いた場所まで飛んだ。
その直後、先程まで俺のいた場所の足元が爆ぜた。
「チッ、ごめんなさいエリック、外したわ。」
「なに、気にすることはない。次は当たるのだろう?」
「ええ、任せときなさい。」
煙が晴れる。
そこにはレイピアを構えこちらを睨みつけるエリックと、魔法を放った体制のままそこに立っているローブの女性の姿。
そしてその少し奥には、気怠そうな顔をした法衣の女性。
驚いたことに、彼らは無傷だった。
ーーーん?
そう言えばもう1人は、、、
俺は身の危険を感じ、頭を大きくかがめた。
すると俺の後ろから、1本の釘の様な物体が通過する。
間違いない、軽装の男だ。
彼は自分の攻撃が外れたのをみるや否や、速攻でその場を離脱、エリック達の元に戻ってしまった。
「あいつ、結構勘も良いらしいですね。」
「何、今はなんとか凌がれているかもしれないが、いつかは捕まえられるさ。大事なのは焦らないことだ。」
おぉ!?エリックが賢い人みたい。
っとと、あまりふざけている時間はないな。
「おい、お前ら、道を開けるつもりは無いんだな?」
「当たり前だ!!貴様ら魔物の先にはさせない!!貴様らを倒し、僕達がこのダンジョンの正体を暴いてやる!!」
そうか、、あくまで俺と戦うつもりなのか、、、
俺は一度ため息をつく。
そして次の瞬間ーーーーーー大きな笑みをこぼした。
「なら、お前達を速攻で叩きのめし、すぐにあいつを止めに行ってやるよ!!」
俺は容赦しない、全開戦闘をすることを決意した。
そしてその顔は、すこし邪悪に笑い続けていた。
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