42 今日のエリックとみんなでの戦い
「全く、彼はいったい何が気に入らなかったというのだ?」
早朝の冒険者ギルドの中でエリックはそう呟いた。
先ほど、一緒に冒険に行ってやるといって断られ、そして逃げられた後のことだ。
「この僕が同行してやるというのに・・・彼も馬鹿なことをしたものだ・・・」
何がいけなかったのか?そう考えながら唸るエリック。
「まあ、いいじゃない。そんなこと忘れて今日もダンジョンに行きましょう。」
そこに、今来たばかりの女性が話しかける。
見た目は二十代前半、赤い髪に長いローブ、言わずと知れたエリックのパーティメンバーのオリビアだ。
彼女は若くして魔法使いの枠組みを超えた天才、エリックの誇る仲間だった。
「あぁ、オリビアか。そうだな。彼も目的地は同じみたいだし、向こうに行けば会えるだろう・・・」
何故だかわからないが、そんな気はあまりしない。
そう思いながらも、エリックは普通に考えて出てきた答えを口にする。
「お、もう出発か?今日は遅かったな。」
「今日こそ、何かお宝のひとつでも持って帰りたいです。」
そこで、先ほどからずっとギルドの机についていた二人が、会話に入ってくる。
「あぁ、今日もあの忌まわしきダンジョンを踏破するんだ!!と、言いたいところだが、今日は別の方向から攻めてみようと思う。」
「「「別の方法?」」」
三人とも、エリックの言葉に同じような反応を返す。
当然だろう。今まで彼は、目的に向かって真っすぐ突き進むことしか知らなかったからだ。
パーティメンバーたちも、一人を除いてみな、そんな彼に感銘を受けてついてきた者たち、そこに違和感を覚えないはずはないだろう。
「別の方法って言ったって、何をするんだ?」
重装備の男―――アレンがそう問いかける。
「あの男・・・確か名は・・・」
「タクミ」
「そう!!タクミといったか。彼はあのダンジョンの上に、階層に対する答えがあるといっていただろう?」
途中オリビアに補足を入れられながらも、エリックはそう言い切る。
「そういえば、そんなことを言っていたような気がします。」
軽装のフリッシュが思い出したかのように同意する。
「ん?なら今日はあのダンジョンの真上にある神様の樹を調査するっていうこと?でもあそこは厳重に管理されているから、一定以上上に行くのは難しくない?」
「そうことを焦るなオリビアよ。あのダンジョン、ひとつおかしいことがあるだろう?」
オリビアの問いに、エリックは自信満々に答える。
「?・・・何かあったかしら?しいて言うなら、第一階層が特に何もない、ゴーレムがいるだけっていうこと?」
実のところ、オリビアは勉強はできるが、頭を使うのはあまり得意なほうではない。
暗記などはできるが、応用ができない。そういった類の人間だった。
その為、こういった意見を出す場では、あまり役に立たない。
「それよりかはダンジョン中央にあるあれじゃないですか?」
「っふ・・・よく気が付いたな。昨日あれから考えてみたのだが、どうにもあの木の幹のような物体には何かが隠されている気がするのだ。」
「なら、今日はあの周りを重点的に調べてみるってことでいいんだな?」
「あぁ、今日は最深部を目指すのはあきらめ、ダンジョンの情報を集めることに注力する。みんな、それでいいな!?」
「えぇ、私は構わないわ。」
「俺も構わねぇ。」
「私は報酬をいただけるのであればなんでも・・・」
「俺も特に異論はありません。」
パーティメンバー全員の同意を得たエリックは、早速といわんがばかりにダンジョンに向かって歩き始めた。
――――――――――――――――――――――――――
「はあああああああああああ!!」
俺の一撃が、ゾンビに向かってたたきつけられる。
それは俺の今持つ全力の一撃、《斬鉄》と《純闘気》を混ぜ合わせた一撃だ。
しかも、その攻撃は先ほど防がれてしまったものとは大きく威力が変わっていた。
理由は明白だ。
俺が《純闘気》の内部ステータスをいじったからだ。
このスキルの元々の効果は
スキル 《純闘気》
効果
装備効果 +5
効果時間 30秒
冷却時間 5秒
消費MP 7
こんな感じだったが、これの値を大幅に変更しておいた。
スキル 《純闘気》
効果
装備効果 +25
効果時間 5秒
冷却時間 60秒
消費MP 30
実は効果時間を0、1秒まで削れば大幅に効果が上昇するのだが、《斬鉄》との併用を考えてここいらで止めておいた。
これ以上は焦ったりすると安定しなくなるからな。
消費MPと冷却時間が大幅に増え、その反面効果時間を削ったことによる効果の上昇はすさまじいものがあり、その効果は元の5倍になる。
《斬鉄》の攻撃力倍率が約10倍のため、この二つを併用したときの俺の物理攻撃力は250になる。
鋼鉄の鎧10個分だ。
正直、効果時間が5秒と長めなのは、普段の戦闘でも使いたいという思いもあったが、これで十分だろうと思ったところが大きい。
そしてそんな俺の一撃は――――
「ヴァア!?ゔ・・・?」
ゾンビの手に生えてきた剣を、一撃で切り飛ばすほどになっていた。
俺はそれだけを確認して、一度後ろに下がる。
俺の攻撃はその性質上10秒に一度しか放つことができない。
今は《純闘気》の冷却時間を延長したため、1分に一度だ。その為、一度の攻撃で仕留められなければ1分間敵の攻撃を耐える必要がある。
そしてその時間は――――
ドン、、ドン、ドドドドドッドドド!!!
ノアの火の玉による爆発の連打を用いて稼ぐことにしている。
彼女の出す火の玉は威力が低い分、詠唱時間、消費MPが群を抜いて低い。
ああやって連射をしても、彼女のMPの自然回復量のほうが多いくらいだ。
「あははははははは!!ボクにかかればこんなもんだよ!!それそれー!!」
大量の火の玉が爆発する音とともに、そんな笑い声が聞こえてくる。いつもなら戦闘中に何笑っているんだ!!
と、叱ってやるところだが、今回は見逃してやってもいいかな?
だって、あれ、結構楽しそうだもの。
そして1分が経過する。
先ほどの攻撃は手に生えた剣で受けられてしまったため、致命傷を与えることができなかったが、今度は違う。
もう、俺を阻むものは何もない。
俺はノアによる爆発が収まり次第、一目散に駆けだした。
そして――――――――
「今までため込んだもの、すべて吐き出してもらうぞ!!!」
2つのスキルをタイミングよく発動させ、俺はゾンビの胴体を横一文字に切り裂いた。
ゾンビの体はどれだけの魔物を食べたのか、その予想はつかないが、これだけ攻撃力が上がった状態でも少しだけ手に抵抗が残った。
だが、それだけだ。
俺の一撃は、ゾンビの体を一刀両断する。
「あ″あ″あ″あ″あ″・・・ぁ、」
悲鳴のような声が、宙を舞うゾンビの上半身から聞こえてくる。案外ゾンビにも、痛覚があったりするのかもしれない。
そしてその音は、時間が経つにつれて小さくなる。
ドサッ、
ゾンビの体は数秒間宙を舞い、そのまま地面にたたきつける。
その時にはもう、耳障りにも思えるあの悲鳴は、聞こえてきていなかった。
「勝った・・・よな?」
俺の問いに答えるように、ゾンビの体が段々だと灰に変わっていく。
「そうみたいだね!!やったよタクミ!!」
手放しに喜ぶノア。
「もう、おねえちゃん、ここは魔だダンジョンの中だから油断はしないでね!!」
それを注意するリアーゼ、だが、その声はどこか嬉しそうだ。
俺は安堵のため息をつく。そして先ほどの戦いを振り返る。
思えば、今までの戦いは一緒に戦っているといいながらも、戦う敵は別々、言ってしまえば個人戦だった。
本当の意味で、一緒に戦い勝利したのは、これが初めてなのだ。
そのことをノアもよくわかっていたのだろう。
彼女の表情は明るい。
「ノア、少し休憩したら、次の敵を探しに行こうか。」
両手ばなしで喜ぶ彼女に、俺はゆっくりとそう聞いてみる。
そして、
「うん!!」
ノアは心底うれしそうな声で、俺の提案を受け入れた。
昨日は床に伏していたため投稿できませんでした。
以後、こういうことがないように気を付けますので、何卒よろしくお願いします。
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