35 ウッドゴーレムと違和感
「あぁ、やっぱり、ダンジョンには入らなきゃいけないんだな・・・」
「当たり前だよ!!ちゃちゃっと入ってあのダンジョンを踏破するつもりでいくよ!!」
街の中央にある大樹の下、そこにあるダンジョンの入り口を前に、俺たちはこんな問答を続ける。
ノアはあそこに入りたがり、逆に俺は入りたくないからだ。
別にお金を稼ぎたいなら、街の外でやればいいのに、ノアは頑なにダンジョンに入りたがっている。
「ほら!!もう決まったことだし早く入る!!」
「はいはい・・・」
俺は渋々と入り口からダンジョンに入るべく歩き出す。
いや、別に特段入りたくないわけではないのだ・・・
だが、ダンジョンの上にそびえたつ大樹を見ると、どうにも不安が募る。
そうあれはどう見ても、
「セフィロトの樹だよなぁ・・・・」
俺は大樹を見上げながらそう呟きをこぼす。
あれがセフィロトの樹だとしたら、この下にあるダンジョンは・・・
そこまで考えて俺は頭を振って何も考えないようにする。
大丈夫だ。
多数の冒険者が入っていっているが、ここに何か大きな問題が起こっている様子はないではないか。
俺はダンジョンに足を踏み入れた。
ダンジョンの中はいかにもといった風な作りになっていた。
何の素材を使っているかわからないような壁、四角い部屋、散発的に襲ってくる魔物、どこをとってもありふれたダンジョンだ。
このダンジョンは階層制のダンジョンではあったが、下に行けば行くほどいいものも強い魔物も多い、というわけではない。
階層やエリアごとに特徴がある感じだ。
ただ、このダンジョンに一つだけ特徴的なものがあるとするならば、どの階層も中央に木の幹のようなものが突き抜けていることだろう。
その木の場所的に、おそらく上にある樹とつながっていると思われる。
はぁ・・・
俺はその木の幹から目をそらす。
「タクミ!!ため息ついていないで早く前に進む!!ほら!まだ朝早くて人が少ないうちにどんどん狩っちゃうよ!!」
俺は言われるがままドンドンと前へ進み続ける。
俺たちはこのダンジョンの第一階層目を探索し続けた。
そしてこのダンジョンに入って初めて魔物に遭遇する。
現れたのは、ウッドゴーレムと思われるものだった。
木でできた巨体、歪に発達した腕を持ったそいつはダンジョンの中央にある木の幹から這い出るように現れる。
俺たちの目の前に突然現れたそいつは、俺たちを見るや否や襲い掛かってくる。
ゴーレムのためか、何も言葉を発することはなく淡々と、作業をこなすかのような感じがする。
あいつらに意思はあるのだろうか?
俺はゴーレムから繰り出された右の大振りを大げさに避ける。
ゴーレムの拳は虚しく空を切っただけにとどまらず、その勢いのまま地面にたたきつけられた。
―――――――ドゴン!!!
爆音があたりに響き渡る。
音源はウッドゴーレムの右腕だ。地面と衝突したその腕が打ち鳴らした音だ。
そんな音を鳴らした腕は、かなりの衝撃が走っただろう。しかし、木製であり、そこまで耐久度がありそうではないその体には、ひとつの傷もついていなかった。
あれは骨が折れそうだな・・・
「ノア!!炎を頼む!!」
後方に控えている彼女にそう伝える。
「よーし!!いっけー!!」
ノアのその言葉とともに、火の玉がウッドゴーレムに対して飛来する。
ウッドゴーレムの体は人より一回り大きい2メートル越えの巨体、その上動きは遅くないそいつは、ノアの放った火の玉をあっさりとその身に受けた。
あたりにまたも爆発音が鳴り響いた。
そしてウッドゴーレムは―――――今だ健在だった。
ノアの攻撃を食らった部位は、黒く炭化したような色をしている。だが、それだけだ。
彼女の魔法は木材の表面を焦がすだけの結果に終わる。
「えぇ!?思ったよりも固いんだけど!!?」
植物に対しては炎が有効、それは彼女もわかっていての行動だったのだろう。
自分の魔法が思うように効果を及ぼさなかったのを見た彼女は驚いた声を上げる。
「次の攻撃来てるよ!!」
リアーゼがそう注意勧告してくる。
彼女の言葉通り、ウッドゴーレムは次の攻撃の動作に入っていた。
次の攻撃は左腕を用いた薙ぎ払いだ。
先ほどの右の振り下ろしよりは威力はないだろうが、その攻撃範囲の広さは折り紙付きだ。
だが、穴がないわけでもない。
俺はできるだけ身を低く、地面にすれすれになるまで身を低くして走った。
――――ブォン!!
俺の頭上を、大質量のものが高速で通過する音がする。
とてつもない風圧が俺を襲うが、俺の全身をそれだけで止められるはずがない。
俺は敵の攻撃を見事にかいくぐり、その懐に入ることに成功した。
「これで、どうだ!!」
俺は《純闘気》と《斬鉄》を併用させた一撃をウッドゴーレムの体に叩きこんだ。全力の横薙ぎだ。
サクッ、
俺の一撃はあっさりとその体を切断した。
ウッドゴーレムの体は上下に分かれてその場に崩れ落ちる。
あれ?
その結果に俺は目を丸くする。
先ほど、かなりの速度で地面に腕をたたきつけ、それでも無傷だったあの体だ。
仮に切断できたとしても、かなりの手ごたえを感じることになるだろうと思っていたのだ。
だが、結果はどうだ。
全く、何の手ごたえもなしに俺の剣はウッドゴーレムを切り裂いた。
どういうことだ・・・・?
「タクミ!!、まだそいつ動いてるよ!!」
ノアの叫び声が聞こえる。
そういえば、こいつはまだ死んでいないんだな。
体を真っ二つにされながらも、俺に手を伸ばしてくるウッドゴーレムを見ながら、俺はそう思う。
そしてそれなら、どうすれば死ぬのか、と。
普通のゴーレムなら・・・・
俺は体を大きく損傷しているからか、ぎこちない動きでこちらに伸ばしてくる手を軽く回避しながら、ゴーレムの胸部を《斬鉄》を用いて切り裂いた。
やはり、ほとんど手ごたえはない。
胸部を切り裂かれたゴーレムは、その身を灰に変える。
「おぉ!!ああいうのはそうすれば倒すことができるんだね!!」
ノアが感心した声をあげながら俺に近づいてくる。
「ああ、あんな感じの物質が動いている感じの敵はどこかに核があるはずだからな。それを壊せば動かなくなるっていうわけだ。」
これはゲームの基本だ。
機械や錬金生物はそれを動かす核が存在していることが多い。
そうしないと、体から切り離された部位も勝手に動き続けるようなことが起こってしまうからだ。
俺が迷なく胸を切り裂いたのは、動いていた部位が真っ二つにした上半身だったからだ。
その反面、下半身は動いていなかった。
それなら、核があるのは胸か頭のどちらかだろう。
「そうだな。お前たちも覚えておいて損はないぞ。ああいう生命といい難い敵は核がつながっていなかったり壊れたりしたら動けなくなるんだ。」
「へぇ、そうなんだね。ボクはてっきり動かなくなるくらいに粉々にすればいいのかと思ってたよ!!」
それは物騒な考え方だな。
それも、ノアならやりかねない。
「もう、ノアおねえちゃん。毎回そんなことしてたらすぐにMPがなくなっちゃうよ。」
「それもそうだね。次からはタクミがやったように胸部だけ吹き飛ばすことにするよ。」
吹き飛ばすことは確定なんだな。
ノアには水魔法や炎魔法もあったはずなんだが、最近はあの火の玉しか使う様子はない。よほどあれが気に入っているのだろうか?
「ほどほどにな・・・」
俺はそれだけ言うと先ほど感じた違和感について考察を始めるのだった。