34 馬鹿キャラとその対応
「わー、こっち来てみてよ!!」
「ほら、これこれ!!」
「あ、あれは何かな?」
「おぉー!!これはまた・・・」
ノアに振り回され続ける俺。
彼女の観光は空が茜色に染まるまで続き、その間俺は彼女に必死についていく。
自分が楽しむ余裕はほとんどなく、日が暮れるときには俺の体力は残っていなかった。
俺がノアについていくのが精一杯な一方、リアーゼは彼女にすまし顔でついていく。時にはリアーゼのほうから行動を起こすほどだった。
これはあれと一緒だ。
荷物持ちとして女性の買い物に連れていかれた男性。それと同じ現象が今日、終始繰り広げられていた。
時間が経つにつれてただただ苦痛と化していくこの時間が、俺に強いた精神的労力はかなりものだった。
「今日はこれくらいにしてもうかえろっか。」
「はい!!また来ましょうね。」
2人のこの会話を聞いたとき、俺の心はどれだけ救われたことか・・・
もう帰って休める。そう思っただけで俺は一種の安寧を得たかのような気分だった。
「ふぅ、今日は楽しかったよ!!じゃあ、おやすみ!!」
「おやすみなさい」
「あぁ・・・おやすみ・・・ゆっくりと・・・」
そう呟き、俺は部屋に戻った。
あぁ、そういえば、リアーゼが『また、来ましょうね』とか言ってたな・・・・
俺は宿のベッドに入り、そのまま意識を手放した。
◇
「ほら!!タクミ、早く起きて!!」
昨日同様にノアが俺を起こしに来ている音が聞こえる。
昨日の疲れもあってか、それが非常に煩わしく思える。だが、やはりあのまま騒がせておくわけにはいかないだろう。
俺は思い体を引きずりながら、扉の前まで行き、それを開いた。
「あ、起きてきた。ほら、昨日は一日遊んだんだから、今日はお仕事に行くよ!!」
俺はあんまり楽しめなかったんだけどな・・・・
ノアの台詞を聞き、そんなことを思いながら準備を始める。
「準備できたし、そろそろ行くか」
冒険者家業は地味につらい。だが、昨日よりはましなはずだ。
そう思うとこで、自分を無理に奮い立たせていつもの調子を取り戻した俺は部屋の前で待っていたノアとリアーゼにそう言った。
「そうだね!!まずは依頼を受けなきゃいけないから、冒険者ギルドに行くよ!!」
昨日確認した限りでは、冒険者ギルドも街の中央、ダンジョン付近にある。
これも数々の店と同様の理由だろう。
冒険者ギルドの景観は前のものとほとんど変わりはない。
俺は何の迷いもなく、その扉を開き冒険者ギルドの中に入った。
「さぁ、みなのもの、僕に続くのだ!!今こそ、あのダンジョンの正体を暴いて見せようぞ!!」
その時、騒がしい集団をみた。
5人で構成された集団で、そのうちの1人を囲むようにしているその集団は、朝っぱらにも関わらずギルドの一角を占拠して大声で演説をしていた。
真ん中にいるのは男性で、それを囲むのは2人ずつの男女だ。
俺は真ん中にいる男を確認する。
金髪で碧眼の整った顔立ち、いかにも貴族ですといった服装、腰に下げている高価そうなレイピア、その口調、間違いない、あれはこの作品の馬鹿キャラ枠だ!!
危険に勝手に飛び込んで危機に陥ったり、主人公に高圧的な態度で突っかかってきたりするキャラといえばわかりやすいだろう。
そいつの演説が終わったのだろうか?彼らはぞろぞろとこちら―――ギルドの入り口に向かって歩いてきた。
「おや?君たちは見ない顔だな?新米冒険者か?」
先頭に立つ男が、俺たちの横を通りざまにそう話しかけてくる。
うんうん、やっぱりこう来るよな。
「はい、一昨日こちらに来たばかりで・・・ここには大きなダンジョンがありますからね。」
俺は下手に出るように答える。
「そうか、君たちもあのダンジョンに挑もうというのだな。」
「そうですね。あそこを攻略して冒険者として名を上げることができたら、と思っております。」
「それはたいそうな志だが、残念ながらそれはできそうにないな。」
「そうですか?理由をお聞きしても?」
「そう!!この僕、エリック=オーベルが近いうちにあのダンジョンを攻略するのだから!!」
エリックと名乗った男は自分の胸を叩き、大声で宣言した。その表情はまるで失敗するなんて考えていない、そんな様子だ。
「あぁ、それは残念ですね。では、俺たちも仕事をしないといけないのでこれで、エリック様も頑張ってくださいね」
「うむ、君は冒険者にしては礼儀正しいな。よし、今度僕に助けてほしいことがあったら遠慮せずに言うがいい!!オーベル家の名に懸けて僕が解決してやろうではないか。さあ、皆の者、行くぞ!!」
エリックはそう言ってそのままギルドを出ていってしまう。
彼の演説を聞いていた4人も彼についていくように、出ていってしまった。
「何あの人、ボク、彼みたいな人苦手なんだけど・・・」
「私も、あれはあんまり好きになれないよぉ・・」
うちのパーティの女性陣は立ち去ったエリックに対してそう言っている。
「まあまあ、2人とも落ち着いて・・」
「タクミもタクミだよ!!なんであんなの相手に下手にでてるのさ!!あんなのにいいようにされて、君はそれでいいの!?」
「そうだよ!!タクミお兄ちゃん!!ちょっとは言い返してよ!!」
「いや、そうしてもいいことなんて一つもないし、あいつだって悪い奴じゃないはずだぜ?」
まぁ、これは多分なんだけど・・・
それに、俺は馬鹿キャラは結構好きだ。
確かに、1週目はあまり好きになれないかもしれない。だが、2週目3週目とプレイしていると、自然と好きになってくる。
それが馬鹿キャラという奴だ。
この世界はゲームでありながら現実でもある。
周回プレイなんて、できるはずはない。ならば、1週目から彼に暖かい目で見てやっても文句は言われないだろう。
「そうだね。悪い人ではなさそう・・・もういいから依頼を受けに行こ?」
ノアが少し不貞腐れたようにそう言って依頼が貼ってある掲示板のほうに歩いて行ってしまう。
「あ、おねえちゃん、待ってよ!!」
それを追いかけるようにリアーゼが小走りで行ってしまう。
ノアはそれほどエリックのことが気に入らなかったのだろうか?
俺はそう思いながら、掲示板で依頼を選ぶノアのもとに歩いていった。