33 大樹と都
「うわー、おっきい木だね~、」
馬車の中に、そんな声が響く。
俺はその言葉につられて、馬車の前方を見てみる。
そこにあったのは、言葉通り大きな樹だった。
樹の周りには、街があるのが見える。どうやら、あそこが目的地みたいだ。
そして樹そのものには、多彩な色がところどころに見える。それは自身で発光しているみたいだった。
「あそこは大きなダンジョンがあることで有名だぞ。」
外を眺める俺たちに、御者が声をかけてくる。
「へぇ~、そうなんですね。まさか、あの樹がそうなんですか?」
「当たらずとも遠からずってところだな。なんでも、あの樹の下がダンジョンになっているっていう話だぞ。」
へぇ、あの下ねえ・・・
俺は遠目から、その樹の全体を俯瞰する。
「なあ、ひとつ確認のために聞きたいんだけどさあ、あの木についている色のついた部分、何かわかる奴はいるか?」
「詳しいことはわかってないけど、神様があの木に与えた祝福か何かじゃないか、という話です。」
俺の質問に答えたのはリアーゼだった。
彼女がここに来るべきだといったのだ。そのくらいは知っていたのだろう。
「へぇ、そうなんだな。」
木にともる色、その下にあるダンジョン。
俺の頭には、ひとつの可能性が浮かび上がる。だが、それを誰かに言うようなことはしない。
あの街はあれで成り立っているのだ。それをどうこう言うつもりはない。
それに、俺が考えているほど危険なものではないかもしれないしな・・・
◇
「じゃあ、ありがとうございました。またお願いします。」
俺はここまで送ってくれた馬車の御者に向かって軽く頭を下げる。
「ああ、また今度も頼むな。あと、ありがとな。」
そう別れの挨拶をした俺たちは、各々同じ方向を向く。
「やっと着いたんだね!!早速見て回ろうよ!!」
終始元気なノアがはしゃぎながら俺たちの手を引く。
「それもいいがまずは宿だ。寝床は明るいうちに確保しておいたほうがいいだろう。」
「そうだよおねえちゃん。私は別に野宿でもいいけど、おねえちゃんは嫌でしょ?」
「それもそうだね・・・観光は明日にしよっか。」
いや、別に俺たちはここに観光に来たわけじゃないのだが・・・まあ、一日くらいならいいだろう。
「ちなみにリアーゼ、宿ってどこにあるか知っているか?」
「えっと、多分街の中央から少し離れたところにあると思うよ?逆にダンジョンが近い町の中央は冒険者たちが好きそうな武器、防具や薬なんかがいっぱいあるんだ。」
あぁ、あれだけ大きな樹の下にあるダンジョンだ、それだけ人も多いだろうし、物も売れるんだろうな。
「一泊ですね。それなら一部屋3000Gになります。」
宿代は初めにいた街の三倍、これはある程度予測できていたことである。やはり都会というのは物価が高いのだろう。
ここに来る前に、木の剣を補充しておいたよかったな。
「お前らはいつも通り二人で一つの部屋を使うんだよな?」
「うん、そうするつもりだよ!!リアーゼちゃんだけだといろいろと心配だしね!!」
「ああ、そうだな。ノア一人だと何をやらかすかわかったもんじゃないしな。リアーゼ、よく見ておくようににな。」
「ちょっとタクミ!!最近ボクに対する態度がひどくない!?」
ノアが叫ぶように俺にそう言ってくる。
扱いがひどいも何も、今までの彼女の行動を振り返ってみればこのくらい言っておかないとまたいつか何かやらかしそうだ。
「じゃあ、これでお願いします。」
俺はノアの言葉を無視して、宿の受付に部屋代を払いさっさと指定された部屋に入る。
今日は結構疲れたし、ぐっすりと眠れそうだな・・・・
◇
「よーし!!今日こそ観光に行くよー!!」
ドンドンドンドン!!
朝っぱらから俺止まっている部屋の扉を強くたたく音が聞こえる。
犯人がだれかなんて考える必要はない。確実にノアのやつだ。
俺はゆっくりと目を開く。
見るとまだ外は薄暗い。時間で言うところの5時くらいだろう。
「ほーらー!!タクミ!!早く起きる!!」
俺の部屋の扉を叩く音は今も絶えずに続いている。寝起きで何もしたくない気分だが、さすがに五月蠅いと感じる。
――――ガチャ・・・・
俺はのそのそとその扉まで歩いて―――開ける。
「あ、やっと起きてきた。ほら!!早く準備していくよ!!」
「馬鹿野郎!!今何時だと思ってんだ!!隣にいるリアーゼもまだ眠そうじゃねえか!!」
目をこまめにこすりながら立っているリアーゼを差しながら俺はそう言った。
「何時?よくわからないけどもう朝だよ。ほら、せっかく早起きしたんだし早く準備して!」
だが、彼女は聞く耳を持たない。
はぁ、こうなったらノアは駄々をこねてでも俺たちを連れ出そうとするだろう。
あまり騒がれるとほかの客に迷惑がかかりそうだし俺が妥協するしかなさそうだ。
「ああ、わかったから少しおとなしくしといてくれ。」
俺は部屋の中に戻って装備を整える。
といってもいつもの冒険家の服と木の剣を持ってくるだけなんだが・・・
ともあれ、そんなこんなで俺たちは眠い目をこすりながら、薄暗い朝の街に繰り出していったのだった。