32 馬車の旅とウルフ狩り
「さて、このパーティは現在、新たな問題に直面しております!!」
クラスチェンジをした次の日、まだギルドに行かずに宿の中で俺はそう切り出した。
「何かあったっけ?リアーゼちゃんは何か心当たりはある?」
「えっと・・・ないです。」
リアーゼはともかく、ノアはこのことを認識しておいてほしかった・・・少しは付き合いが長くなってきて、互いのことをよくわかっていると思ったんだけどな・・・
いや、こいつはこういう奴だった。
どうやら俺のほうもまだ彼女のことをよくわかっていないらしいな・・・
「問題というのは資金面の話だ。今はまだ余裕があるが、そう遠くないうちに尽きる。」
昨日のオーク討伐では1体につき1000Gだったため、4000Gしか得ることができなかった。
ノアとリアーゼは同じ部屋に泊まっているため、宿代は2000G、食事代も合わせればその収入はもうほとんど残っていない。
思えば、俺たちの生活は魔物の大量発生に助けられていたんだな。そう思わずにはいられなかった。
「それはそうだね。いつも魔物が大量に現れると思わないほうがいいしね。でも、そんなこと言われてもボクにはどうしようもないよ?」
そうだよなあ・・・お金が欲しいといって手に入ったら、誰も苦労はしない。
「それなら、都のほうにいくのはどうかな?あっちには高額の依頼があるって聞くよ?」
そこにリアーゼが打開案を提示してくれる。
「いいね!!ほら、そうと決まったらタクミ、早く準備するよ!!」
その提案に、1も2もなく飛びついたのはやはりノアだった。
もう、決まっているらしい。
「はあ、そうだな。それ以外に何の案もないんだ。いい機会だし別の街に行くっていうのも、いいかもしれない。ちなみに、都ってどこにあるんだ?」
こんな提案をしてきたんだ。当然知っているのだろう。
「あ、はい、確かこの街から西にずっと行ったところのはずです。」
「そうか、ありがとう。じゃあお前ら、今日は冒険は休みだ。各々、明日の移動に備えて準備をしておくこと!!」
その日は、それで解散となった。
女性二人組は、この日もずっとべったりくっつていたみたいだが・・・・
◇
「都までなら1人10000Gだよ。3人なら30000Gだな。」
馬車の受け付けで、俺たちに投げかけられたのはそんな言葉だった。
金がなくなるという話が出ているところに、その額は厳しい。
だが、ハイスケルトンの討伐報酬が丁度そのくらいだったため、一応払うことは簡単だ。
「じゃあ、これでお願いします。」
俺は10000G紙幣を三枚、馬車の御者に渡す。
ちなみに御者は30後半といったおじさんだ。
「毎度あり、じゃあ馬車に乗り込んでおいてくれ。準備してくるから。」
どうやらここは定期便とかではないらしい。
俺からお金を受け取った御者はのそのそと準備を始める。そして少しした後、
「よし、準備できたから出発するぞ。」
という声をかけられる。
俺たちは急ぐようにして馬車に乗り込む。そして備え付けられている椅子に座った。
「わぁ、ボク初めて乗るんだけど、中ってこんな感じなんだね!!」
子供のようにはしゃぐノア。
「ノアおねえちゃん、座ってないと危ないよ!!」
それとは対照的にいつもの様子を崩さないリアーゼが、ノアに注意勧告をする。
「はは、これじゃあどっちが姉かわからないな」
「えぇ!?それはちょっとひどくない!?」
「いや、だってなぁ・・・「よし、みんな乗り込んだな?じゃあ出発だ!!」」
―――ガタン!!
馬車が動いたと同時、その車体が一度大きく揺れた。
「ふぎゃっ!!」
その振動で、ノアが前のめりに倒れてしまう。それを受け止めたのは、リアーゼだ。
「ノアおねえちゃん・・・だから言ったのに・・・」
「うぅ・・・ごめんね?」
「ほら見ろ、どう見てもリアーゼのほうがお姉さんじゃねえか。」
「タクミお兄ちゃんもあんまりおねえちゃんをいじめちゃだめだよ。」
あ、はい。すみませんでした。
俺たちの旅は、そんな感じに順調にスタートを切った。
実に穏やかな、いい旅路だ。
そのまま俺たちの旅は続く。
だが、そんなもの長く続かないのは俺にはわかっている。こういった長距離移動イベントでは、大なり小なり何か起こるのだ。
今回の場合それは――――――――
「おい!!大変だ!!前方にウルフの大群がいる!!このままじゃ進めねえ!!」
慌てた声で御者が馬車の中にいる俺たちに声をかけてくる。
なんで俺たちの行く先々はこう、魔物が大量にいるんだろうな?
今更もうそんなことに疑問は覚えない。
「あー、本当だー。」
俺は気が抜けたように返事をする。
「あ、一昨日はなかったから、クラスチェンジしたらもう大群には出くわさないのかと思って残念だったけど、そんなことなかったみたいだね!!」
旅をするのが楽しいのか、ノアは身を乗り出してウルフの大群を見る。
ちなみに、長時間乗っていたため疲れたリアーゼは眠ってしまっている。
「ん?あぁ、寝ちゃってた・・・あれ?なんで馬車、止まっているの?」
この騒ぎのせいか、リアーゼが目を覚ました。まだ眠いのだろう。
彼女は目をこすりながら、馬車の外を見る。
「わぁ、おおかみさんがいっぱいだぁ」
彼女は寝ぼけたまま、そう口にする。
「おい!!今はそうゆっくりしている場合じゃねえぞ!!」
御者が怒鳴り声をあげる。俺たちの態度に、何か問題があったかな?
ああそうだ、あれをどうにかしないと都までいけないんだったな。
「そうだぞノア、ゆっくりしていたらそれだけ都に行くまでの時間が伸びる。そうすると金銭問題が悪化する。あれを放置していいことなんて全くないぞ。」
「ああ!!そうだったね。じゃあおじさん、早くなんとかしてきて!!」
「そうそう、、、ってそうじゃねえよ!!というか俺があんな中に飛び込んだら死んでしまう。」
あぁ、そういうことか。
要するにあれを迂回するか引き返すかしないといけないと思っているんだな。
だけどなあ、数が多いって言っても、ウルフだろう?なんかあんな奴らのために道を譲るのは癪に障るんだけど・・・
ウルフという魔物はこの世界でもすでに戦ったことがある。
戦ったといえば少し齟齬が生じているかもしれないが、いつであったかと聞かれれば、森のダンジョンからの帰り道だ。
あの時、一番執拗に追いかけてきたのが、あの魔物だったのだが、追い回されている感想としてはさほど強いとは思えなかった。
「ノア、行くぞ。」
馬車の中で長時間座っていたため、少しの気怠さを感じながらも俺は立ち上がり木の剣を手にする。
「はいはい!!一昨日はタクミが先だったから、今日はボクが先に攻撃するよ?」
「なんでもいいからやってくれ」
「おい、あんたら何を?まさかあれと戦うつもりなのか?」
「だってあれがいると迂回なりなんなりしないといけないんでしょ?それなら倒したほうが早いかなって・・・」
「そんな武器で、どうやってあの大群と戦うっていうんだよ!!」
「まあまあ、危ないと判断したらおじさんは先に逃げちゃって構わないから。」
俺はそれだけ言って馬車から降りて駆けだす。
頭上を、火の玉が通り過ぎる。
先日見た、ノアの魔法だろう。
それは前回同様、ウルフの群れの中央付近まで飛んでいき、爆発を起こす。
その爆発は、思ったより威力はないのだろう。ウルフは一匹たりとも倒すことができない。しかし、火の玉は次々と供給されていく。
威力はさほどでもないが、速射性能はかなりのものだ。
次々と巻き起こる爆発は、ウルフたちの体にダメージを蓄積させていく。
ウルフたちも必死に対抗しようとするが、度重なる爆撃、ノアとの距離、それらの要因が相まって一矢報いる、どころか近づくことすら許されない。
「ガルルルルルルル!!」
その光景を見ながら、俺は爆発に巻き込まれていないウルフを標的に行動をしている。
うち漏らしたやつが、何かの間違いで馬車のほうに行ったら大変だからな。
俺は練習の意味も込めて、《純闘気》の上から《斬鉄》を重ね掛けした攻撃を加える。
それで気づいたのだが、この二つのスキルはとてつもなく相性がいい。
武器の効果を引き上げる《純闘気》と武器の攻撃を倍率方式で上げてくれる《斬鉄》、前者の効果で耐久性も克服した俺の攻撃は、次々とウルフを引き裂いていく。
そんな一方的な戦闘が始まった数十分後、あれほどいたウルフは、俺たちの目の前から姿を消していた。
その体はみな一様に灰と魔石、あと時々牙や爪や毛皮などに変えている。
「ここから先は私のおしごと~♪」
俺たちの戦闘が終わり、待ってましたとリアーゼが馬車から飛び降りる。
彼女もまた、数時間の間馬車に揺られ続けて暇だったのだろう。
少し楽しそうにドロップ品を拾い集めていく。この仕事が長いのだろう。
その手際はかなり洗練されたものだ。
「さて、あの子が全部集め終わるまで、少し待っててもらえますか?」
「あ、ああ・・・分かった。」
俺の言葉に、その御者は唖然とした表情で頷くだけだった。
とりあえず第2章の冒頭部分はこれで終わりです。
たくさんのブックマーク、ありがとうございます。元気出ました。