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290 決裂と脅迫

お偉いさんとの会話は言ってしまえばギャルゲーであると俺は思っている。

相手の話の端々から相手の望むものをチラつかせつつこちらに対する好感度の管理をする。


そして最終的に自分が望む結果を最小限の労力、消費で回収する。

それが数々のゲームで権力を持つ人間と会話を強いられて来た俺の見解だ。


そもそもギャルゲーというのは言ってしまえば会話シュミレーションゲームである。

この場合はコーダ子爵が攻略対象なだけで普通のそれと変わらないのだ。


「それでだ、お前達には是非とも俺の下で働いてもらいたい。」

コーダの話を半分聞き流しながら俺はこの会話における勝利条件を整理する。


・まず第1に安全の確保。


変に機嫌を損ねて追われる立場になったらいかん。


・第2にこの申し出の拒否。


貴族の下で働くとか罰ゲームか何かですか?

そもそも俺とノアは常世から帰還方法聞き出してリリスと合流したら律識探しの旅に出なきゃいけない。


他にもあるがとりあえずはこの2つを最優先だな。


「え〜。嫌だよ。」


「今、なんと?」

あ、思考を整理するために少しの時間何も言わずに放置してたらノアがイベントを勝手に進めやがった。

その態度には少し思うところがあるが、方向性があっているので概ね大丈夫だ。


「嫌だって言ったの!ボク達はまだやりたいことがあるしやらなきゃいけないことがあるの!こんなところで足踏みしてられないの!」

ノアが腹の中をざっくりとぶちまけてくれたな。


「貴様!冒険者風情がコーダ様になんて口の利き方だ!!」

リンナがノアを睨みつけた。

あれだな。さっき馬車の中で適当にフォローしたのがここで響いて来ているな。

リンナの態度が完全に上からだ。お前、一応俺たちは招待された側だということを忘れてないか?


「ん、お前こそ私の旦那様に対して、なんて態度?」

それに対してエンドルシアが睨み返した。あまりに鋭く冷たい視線にリンナは怯む。

しかし直ぐに気をとりなして高慢な姿勢を見せた。


「エンドルシア、一応立場は相手の方が上なんだ。たとえこちらが感謝される名目で呼ばれているのだとしても、だ。」


「ははっ、手厳しいね。そうだ、一応こちらは街を守ってもらったことに対して感謝する立場だ。だからリンナ、多少の無礼は見逃さなければならない。」


「・・・はい、コーダ様。」


ふーむ。ふむふむ?

これまで会話して来て思ったがイマイチこのコーダという人間がわからない。

馬車の中では砕けた感じを見せたと思えば、館に入れば一瞬で貴族の皮をかぶる。

かと思えば多少の指摘で直ぐ腰を低くする。


とても1つの街を治める男の態度の動きとは思えない。

こういう場合、どういうパターンが考えられたかな。


「それで、本当に俺の下で働く気はないのか?」

コーダは俺の方を見てそう言った。

おそらく集められた3人の中では俺が一番会話ができると思ったのだろう。


「はい。どうにもそういうのは肌に合わないもので。」


「俺がどうしてもと頼んでもか?」


「はい。それにしてもえらく執着するんですね?俺たちは所詮冒険者ですよ?」


「少しでも強い防衛戦力を得ようとすることは統治者としては当然だろう?」


「通常ならそうですが、この街には『武神』がいますよね?すでに他の街より防衛力の点で言えば上なのでは?」


「ーーーっ、。」

リンナが忌々しげな表情を浮かべたのを俺の目は見逃さない。

ん、ヒットか。割と早かったな。

俺は少ない手札をちまちまと切って相手の内情を探るつもりだったのだが、まさか1発目で引き当てるとは。


「確かに、『武神』ソーカはこの街を根城にしている。だが彼女は正式な兵士ではない。」


「正式な兵士ではない?」


「ああ、彼女は・・・そうだな、彼女は確かに強力な戦力だが正規兵ではない以上どうしても有事の時に毎回協力をしてもらえるわけではないのだ。」

今、露骨に逸らしたな。そして誤魔化したな。

俺はすこだけ目を細めながらコーダを見る。そこには貼り付けたような自信がくっついているだけの男がいる。


「では、強力な戦力が手の届く場所にいるのにどうして正規兵ーーーいや、俺たちと同じように手元に置いていないんですか?というより、どうしてその状態で俺たちに話が?」


「ーーーくっ、」

またリンナがこちらを睨みつける。コーダに1つアドバイスをするなら、足手まといな味方は戦場には連れてこない方がいいってことかな?

リンナの表情から俺の発言がどれほどのダメージを与えているのかが簡単に測ることができる。


その反面、コーダの方は貴族の顔というのを出来るだけ崩さないように努めている。

彼だけであったら俺も確証が持てずに大胆に踏み込めないかもしれなかった。


「彼女にもこちらにくるようにと言ったさ。だが断られてしまっただけだ。」


「そうですか。なら俺たちが断っても問題なしですよね?」


「うっ、」

言葉に詰まったのはコーダだった。彼の主張はこうだった。

・街の防衛のため強者を手元に置いておきたい。

・以前は『武神』を勧誘して見たが断られた。

ざっくりまとめるとこの2つだ。

だがその中に秘められた意味は少し別のものになるだろう。

リンナの態度とこれまでの情報を駆使しての仮定ではあるが、おそらく今の状況は

・コーダは街の領主だが、常世とは敵対、ないしは干渉不可状態にある。

・『武神』は常世側に付いているため自分たちの指示は聞かない。

・その対抗馬として最低限の戦力を保証されているだろう俺たちを確保しておこう。


ざっくりこんな感じじゃなかろうか?

誰の指示かは知らないが、多分兵士のまとめ役みたいなナンゾウさんだっけ?引き込みは彼の判断ではないかな?

多分財政担当とか、それかそこにいる秘書が怪しいな。

ダークホースでコーダ本人の可能性も?


「コーダ様。・・・」

悲壮な表情をコーダに向けるリンナ。

おーい、1つ教えてやるとそっちの内情を半ば垂れ流しにしているのはお前だからな?

そんな心配そうな目で見てやるなよ。恋する乙女かっての。


俺は嫌がらせ程度に一押しすることに決めた。

「どっちかで言えばここで働くよりあの神社で働いた方が有意義だろうし、今からそっちに行くのもありかもしれないな。」


リンナとコーダの視線が突き刺さる。

そこには少なからず怒りが孕まれているのが感じられた。

その態度で仮定がより確定に近づいた。


「では、話は終わったみたいですので自分たちはこの辺りでお暇させていただきますね。ノア、エンドルシア、帰るぞ。」


「ん?もういいの?」


「豪華なご飯は?」

ん?豪華なご飯って何だ?一瞬疑問に思ったがここで議論しても仕方ないと俺は立ち上がった。


「ま、待ってくれ!」


「どうかしましたか?勧誘なら受けませんよ?」


「少し考え直してはくれないだろうか?子爵家に仕える事はそれなりに名誉な事なのだぞ?それと、他の者たちより多く給料を出そう。それでどうだ?」


「100万G」


「へっ?」


「あの魔物が大量に現れた日に俺が稼いだ金額です。日に100万稼げる人間が満足するだけの給料をあなたは払い続けるとでも?」

この世界に関して俺は金に興味はない。毎日の生活費とたまの贅沢が出来るだけの金があれば満足することができる。

だからそもそもいくら給料を増やそうが従うつもりはない。


「それに、初めにうちのノアが言ってたじゃないですか。俺たちにはやることがあるから無理だって。」

俺はコーダたちに背中を向けてその場を後にしようとした。

だが、それを良しとしない奴は間抜けにも動いた。


「な、ナンゾウ殿!!出てきてくれ!!」

リンナがそう叫ぶとコーダの後ろの扉が開きどこか見覚えがある男が姿を現した。

それも、完全武装だ。

彼が出てきたのを確認してからリンナは再び叫び声をあげる。

「ナンゾウ殿、そこの無礼者を捉えてくれ!!」


「コーダさん・・・」

ナンゾウは出てきたはいいものの秘書のいうことに妄信的に従うのではなく、一応トップの指示も仰ごうという判断をした。

コーダは数秒間苦虫を噛み潰したような顔をしてから決断する。


「ナンゾウ、捉えてくれ。」


「・・・了解。すみませんお三方、これも仕事なんでね。」

上から指示があったら従わなきゃいけないのが部下の辛いところだよねぇ。

それも含めて諸々嫌だからこうして断ってやりを向けられているわけだが。


「ところでナンゾウさん。1つ質問なんですけど、、、」


「・・・どうぞ。」


「俺たちがここに連れてこられたのってなんか街を守ったとかのお礼って言ってましたけど、それはどうなったんですか?」


「すみません。その事に関してはなかった事にしてくだせえ。」


「それがまかり通るとでも?この話を適当に吹聴して回ればタダじゃすみませんよ?」


「黙れ!!そんなデマを民衆が信じるわけがないだろうが!!」

リンナがまたも叫ぶ。しかしデマ、ねぇ。これはこの場で今現在進行形で起きている事実なんだけど?

「それに、民衆が信じるにしても信じないにしても統治に悪影響はあるだろうがな。」

コーダは黙ったままだ。ナンゾウが出てきて許可を出したあたりから青い顔で事の成り行きを見守るだけだった。

彼の元来の気性は小心者なんだろうな。

だから自分に匹敵する権力がすぐ近くにいて自信が持てないし、それに対抗しようとして俺たちという戦力を躍起になって確保しようとしている。


確証はないが、そんな感じがした。


「それと最後に1つ、ナンゾウさん。」


「・・・」

ナンゾウは黙ってこちらに視線を送るだけだった。その顔はどこか申し訳ないと思っている人間のものだった。

槍を突き出してこないということはもう1つの質問も聞き入れてくれるのだろう。


それならばと俺は笑みを浮かべながら言った。


「あの白い魔王相手に手も足も出ずにぶっ飛ばされたあなたがそれを打倒した俺たちにたった1人で対抗できると思うんですか?」


「な、ナンゾウ殿、やりなさい!まずはその男からよ!」

答えたのはリンナだった。そして彼女の指示に従いナンゾウが俺たちの確保に向かう。

彼の槍は穂先が潰されており刺さらないようになっている。要するに鈍器になっておりあれを食らっても死ぬことはないだろう。

だが、代わりに動けなくなりそうだ。


「その程度の攻撃が当たる俺ならまずここに呼ばれてないんだろうなぁ。」

俺は突き出された槍を体を横にずらして回避してから掴んだ。

そしてステータスに物を言わせて思いっきりひねった。


ただそれだけで俺たちの戦闘は終わってしまう。

ナンゾウは槍から手を離した状態で床に叩きつけられた。

やっぱりというべきか、圧倒的にステータスが足りていないなこいつ。

俺は手に残った槍をその場に放り捨てて今度こそその部屋を後にした。

「はぁ、帰るぞー。なんとも無駄な時間だった。」


「そうだね〜。お礼っていうから来たのに、ボク達騙された?」


「違うぞ、ああいうのは登録したら貰えるタイプの報酬なんだ。つまり内容をちゃんと確認しなかった俺たちが悪いんだ。」


「戻ったら、さっきのもう一回やる。」


「さっきの?」


「剣の試合。」


「それもいいかもな。」


「あ!!じゃあ先にボクがもう一回やるからね!今度こそ1発入れるよ!」


俺たちは不審な目でこちらを見ながらも近づいてこない使用人をスルーしてそのまま領主の館から立ち去った。

今日の成果は


第2目標は達成したけど第1目標は微妙だったって感じだな。

そこそこいい地位にいそうな兵士を軽くあしらう程度の力はありますよ〜的な演出はしておいたから徒に兵を送ってくる〜みたいなことはよしてほしい。

正確には、そんなバカをやらかすのはやめてほしい。

あー、でもさっきの見た感じだとリンナはやりそうだな。ナンゾウの乱入はコーダ知らなかったみたいだし。


はぁ、これだから権力者って嫌いなんだよ。


俺たちはため息混じりに街に戻った。



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