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288 白と獅子の苦悩


「ごめん。・・・」

重苦しい空気が室内に蔓延する。呟かれた声に力はなく、たったそれだけだったが声の主がどれほど責任を感じているかを知らせるには十分すぎるほど痛烈な感情がそこにはこもっていた。


向かいに座る者は痛ましいものを見る目でそちらを見る。

その目には上半身しかない真っ白な女性の体が映っていた。

しかもその体はひび割れており、左腕もない。

唯一真っ黒な右腕は切られた後が残っており血が滲んでいた。


「気にするな。まだチャンスはあるさ。今回は運が悪かった。」

そう諌める声の主もまた、ボロボロであった。

自慢の毛皮は焦げ付いており、幾つもの切り傷やハゲた皮膚が痛ましい。

だが、その者はそれを全く気にしていないようにもう1人を慰める。


「私が、弱いから。あなたがあんなに準備してくれたのに。」


「大丈夫。まだ終わってないさ。ここからでも立て直せる。」

普段は気の強い白い彼女は自分の失敗を悔いているせいか声に力がない。

「でも、あれは絶好の機会だったのに、、、私、それを無為にして。」


「誰にだって失敗はある。大切なのは失敗をどう立て直すかだ。」


「立て直せるの?」

白い彼女は無理だと思っていた。自分の失敗のせいで、今まで積み上げてきたものが全て無駄になってしまったと悲観していた。


だけどまだ、チャンスをもらえるならそこに全てをかけるつもりでいた。


「ああ、我らがどれだけ準備をしてきたと思っている。あんなイレギュラー1つで全て破綻するなどあってはならないことだ。」

手負いの獅子は自信ありげに笑みを見せた。そこに失敗という言葉を感じないほどに。

白はそれを見て安心した。まだ、挽回できる。


まだ自分は役に立てると。

そう思えば心が軽くなる。


「じゃあ教えて。私はどうすればいい?」


「今はお互い休んで体力を回復させることだな。そして万全になったら攻めよう。それまでは回復した後の動きを教えてやる。」


「わかった。すぐに直すから、早く教えなさい。」


「ふふっ、調子が戻ってきたか?でも勘弁してくれ。我も見ての通り大怪我をしているのだ。こちらの休憩時間を削られたらかなわん。」


「あら?ごめんなさい。それでどうするの?今度は確実に決めなきゃいけない。あいつを呼ぶ?」


「いや、やめておこう。あっちも忙しいだろうし、何より次の作戦は我ら2人いれば確実に遂行できる。これ以上の手数は必要ないさ。」


「そう?なら今は休むわね。流石に、疲れたわ。」


「ああ、こちらもそうさせてもらおう。」

白と獅子は傷を癒すための休息期間に入った。彼女たちについた傷は深い。

それもタチの悪いことにどちらも回復魔法が効果のない傷のつき方をしている。

次に動けるのは一体いつになるのだろうか?



獅子は薄れゆく意識の中で思う。

あの男、はじめ見たときは脅威に感じなかった。ただ、得体の知れない、記録の足りないだけの弱い男だと思った。

だから放置しておけばいずれ戦いに巻き込まれて命を落とすと考えた。


だが結果はどうだ?悉くあれのせいで計画が狂ってきているではないか。

初めはどうでもいいちょっかいで、うまくいけばいいな程度にしか思っていなかった。

『骨』に頼んでエリック・オベールに魔王の情報を流した。

そこで自分で始末するつもりだった。オベール家は民衆から高い支持を得ている。エリックという人間も馬鹿だが、民からは愛される人間だった。


殺せば少しくらい国が混乱するだろうと思った。


だが、その途中でリリスに見つかり捕まってしまった。

動きづらくなった。リリスと自分は相性が悪い。

弱くなっていたみたいだが、殴りあえば負けただろう。

そこで初めてあの男を見た。変なところはあるが取るに足らない人間だと思った。


しかし幸いなことにベルフェゴールの奴がこの街に近づいているみたいだった。

それと、エイジスという魔族もいた。

だからそれとなくそれをあの男にぶつけた。何やら魔王に思うところがあったみたいで簡単だった。


だが、エイジスは思っていたより甘い奴だった。あの男はエイジスと打ち解けて家を作っていた。


そこにエリックとエイジスが邂逅を果たした。

『骨』にその情報が届き、それを勇者に伝えて勇者も向かわせた。

勇者たちのスペックはエイジスという男を倒せないものだった。

武器と魔法に頼りきっている人間にとって、エイジスという男は天敵のようなものだった。


エイジスが勇者たちを殺してくれるだろう。

そうなれば人間たちに不和が訪れる。そんなことを考えていた。

加えて、ちょうどいいことにオベール家の跡取りも両方そこにいた。それもついでに殺してもらいたかった。


だが、結果はエイジスの敗北に終わった。

あの男が素手でエイジスと殴り合いで勝ってしまった。

リリスが向こうにいたのがいちばんの敗因だろう。

我はそう思いあの男にはさほど目もくれなかった。


しかしここで丁度いいことに何故か普段は引きこもっているベルフェゴールがその場に現れて戦闘になった。

その際、勇者の仲間が毒に侵された。

あの毒は無効化以外の耐性は貫通する。そして長い時間をかけて確実に殺す毒だ。

治療方法は限られている。そしてそれを人間が知っていると思わなかった。

なにせベルフェゴールは長い間引きこもっていたのだ。その存在を知っていることすら稀だ。


だが、あの男は迷いなく我を連れて来させた。


まるで我の能力が疫病の蔓延と治療であることを知っているかのようだった。

その場の流れのせいで治療せざるを得なかった。


あそこで放置すれば不審に思われると思った。そうなればその後の展開が予想しづらいから、そして別にそいつが生きていても何の問題もないから治療してやった。

ただし、ムカついたから噛み付いてやった。


我はその後神国に行くと言ってその場から逃げた。

あそこにいてはまた、毒を直せと言われそうだったのと、今回のための下見が理由だ。


だが、それがいけなかったのかもしれない。








・・・・ベルフェゴールが殺された。


もし、自分があの場にいて自分が魔王であることを晒して戦えば、彼を守れたかもしれない。

接続アクセス』で彼の死を知った時、我は自分を呪った。

いつになっても仲間が減るのは慣れない。

空席ができるのには、慣れない。



そして我は決意した。

今まで小さな嫌がらせ程度の続けていたが、次の一手で人族を瓦解させてやろうと。

『白』に声を掛けた。戦争を起こせと。

『骨』に指示を出した。あの男を戦争に参加させろと。


あの男は戦争を拒否したらしい。だが、権威の前には従うしかなかった。

こういう時のために王という場所を抑えておいてよかったなと思った。



そしてやってきた運命の日。

初めは人族同士を戦わせて戦力を削いだ。だがこれはあまり期待していない。

そもそも王国と帝国の人間ではトップの強さが違いすぎたからだ。


帝国の人間には常に79人ほど力を持った人間が現れる。

その中でも特に大きな力を持つ人間が22人ほどいるのだ。どういうシステムなのかは我もよく理解していないが、その力が神の欠片と呼ばれるものだということは『接続アクセス』の力を使って突き止めた。


そんな力を持つ人間がいない以上、王国の人間はその国の中で最強であっても帝国では上の下程度にしか慣れないのだ。


戦争は思った通り帝国の大勝利だった。

だが、想定外だったのはあの男が『魔術師』と『隠者』『悪魔』『死神』に勝利したことだろうか?

お互い消耗したから想定内といえば想定内だったが。


そして運命の終戦式。

『骨』が適当な理由で呼びつけてあの男を斬った。

だが、あの男は仲間の声で気づきとっさに防御をすることで九死に一生を得ていた。

それに意味のわからない転移もあの男を救った。


あの男の能力は念のため『接続アクセス』で調べたし、『骨』に鑑定もさせた。

だが、そんな能力は一切なかった。一応注意はしておいたのだが、『骨』は仕留め損ない、あの男はかりそめの腕を手に入れて戦いに参加した。



『白』と『骨』が敵を我らの戦力として取り込んだ。

すると『愚者』が予想通りその力を使い我らを世界各地に飛ばした。

『愚者』はこの能力をランダム転移だと思っていたみたいだが、それは違う。

ランダムではあるが法則性も一応存在する。


そしてその法則は『接続アクセス』を使えばなんとか読み取ることができた。


『世界』のエンドルシアは我の計算通り神国に飛んだ。

我らもアイテムを使い飛んだ。


1人になったエンドルシアは周りを気にせずにその力を使ったが、1つだけならその身を犠牲にすれば破壊できる。


エンドルシアは力を使い果たした。

まだ動けるみたいだが、『世界』の力がなくなればそれも風前の灯火だ。

あらかじめ待機させておいた魔物を使って責め立てれば蹂躙されること請け合いだった。


そして『世界』を滅ぼした後、新たに生まれた覚醒したばかりで力の使い方もわからない『世界』を封印して終わりだと思った。


だが、ここで計算外が起きた。



集めた魔物は我らの指示を無視してある場所に向かい始めた。

その先にいたのはあの男だった。


そしてその男はボロボロの『世界』を『白』から守りきった。

いつの間にか『骨』に切断されて紛い物になっていたはずの腕も元のものに戻っていた。



我は眠りにつく直前、一言言葉をこぼした。


「天川匠ーーーー次こそは、邪魔はさせんよ。」


今は計画を邪魔されたことによる怒りより、体を休ませることが優先だ。

我は目を閉じて意識も閉ざした。



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