282 白い魔王との決着と乱入
真っ黒な腕は血しぶきをあげながら俺の体から離れた。
その黒い腕は俺の想像以上の強度を誇っていたらしく、拘束を受けながらも結構全力で切りつけたにもかかわらず切断まではいかなかった。
精々、半分切り裂いたくらいだ。
「なんで!!?どうして平気なの!」
俺が追撃をしようとしたところ危機感を覚えたのか白い魔王は後ろに飛び退いた。
しかし、それを追いかけるように一陣の風が俺の後ろから吹いた。
「逃がさないよ!タクミ、網はボクが切るからすぐに追いかけちゃって!!」
風の刃が俺の体にまとわりついていた白い物体を切り裂く。
それと密着していた俺も当然ダメージを受ける。
しかし俺の体力からしたらそれは微々たるダメージだ。
「やっぱり、その黒い腕は武器にして弱点だったみたいだな。」
不思議だったんだ。どうしてあの腕だけ黒いんだろうなって。
そして戦いの中、あの腕を伸ばすときだけ隙だらけの動きをするんだろうなって。
「ちぃ、舐めるんじゃないわよ!!」
白い魔王は下がりながらこちらに向かって何かを投擲きた。
ボールのような何か、俺の目はそれをはっきりと捉えて少しだけ怯んでしまう。
「うわっ、気持ち悪っ!!」
ここは無視して突っ切るべきところだ。だが、人間のような頭がこっちを見ながら高速で飛んでくるのを見て反射的に避けてしまった。
その隙をついた白い魔王は頭部を再生させる。
だが、どうにも黒い腕についた傷は治せないみたいだ。
黒い腕の傷にはカサブタのように白い物体がくっつくもどこか不恰好なものにしかなっていなかった。
その隙間からは血液のようなものが依然として流れている。
白い魔王は右腕をかばいながら俺から距離をとった。
「すまんミスったノア、牽制を頼む!」
「全く、タクミはしょうがないな〜。」
後ろから高圧水流が白い魔王に向かっていくのが見えた。
白い魔王はとっさにそれに反応して体をそらして回避する。
だがその間に俺は『一閃』を使って距離を詰めた。
俺は庇われている右腕を狙って剣を振り上げる。
「ギィ、、、この、痛いわね!」
白い魔王から放たれるカウンターの蹴り。だがそれははじめのような鋭さはない。
つまり避ける必要すらない。
避けて体勢を崩した間に変なことをされでもしたら面倒だ。
それなら足を踏ん張って受けることを選ぶ。
「どうした?素人が力任せにやったみたいな蹴りだな。」
こちらには余裕がありますよ。そう見せるための笑みを浮かべながら俺は次の一撃加える。
普通にやってもあの黒い腕はろくにきれないからな。
狙うは白いやつで蓋をされている傷口だ。
だがそれはギリギリのところでそらされてしまい浅めの傷を1つつけるだけにとどまった。
『斬鉄』の冷却時間は10秒と比較的短いんだけど、こういったクロスレンジで殴り合うと途端に長く感じるんだよな。
「うるさいわね!!雑魚の分際で!」
そしてそこから少しの間俺と白い魔王はお互いを削り合う。
拮抗したような戦いかもしれない。
だがその均衡はすぐに崩れ去る。
このままじゃラチがあかないと思った白い魔王が動いた。
必殺の黒い腕を多少無謀だがこちらに向かって伸ばしたきたのだ。
それも、俺を押し倒すように、多少引かれても一緒に倒れて触れるように。
だが、俺は知っている。この黒い腕を使うとき、その時が1番の隙になることを。
「その攻撃は何度も見たぞ。右腕の扱いに慣れてなさすぎだ。ノア、今だ!!」
「はいはい、一旦戻ってきてタクミ!!」
普通にやって避けづらい攻撃なら避けなければいい。
避けられた時、相手に隙ができるとわかっているならそこを狙い打てばいい。
俺の体はノアの召喚によって一気に後方に転移し、白い魔王の周りには誰もいなくなった。
「ボクが後ろで見ていただけだなんて思ったら大間違いだからね!!いっけーーみんなー!!」
そしてそいつしかいなくなったその空間に大量の魔法が叩き込まれた。
風の刃、小爆発、水圧レーザー、竜巻、ノアが俺と白い魔王が殴り合っている間にコツコツ召喚して配置しておいた召喚獣から放たれた魔法は寸分の狂いなく白い魔王に直撃する。
「ぎゃっ、、おのれえええええ!!」
白い魔王の悲鳴が聞こえてくる。その声にはじめの頃のような優雅さはない。
ただただ恨みのこもった声だった。
だが、この程度で安心はできない。
悲鳴が聞こえるということはまだそこで生きているということだ。
白い魔王はどういうわけか黒い腕以外にはダメージを与えてもほとんど意味をなさない。
だからあれを庇われていると思うようにダメージが通らないのだ。
「タクミ、今だよ!!」
「おう、いくぞお前ら!」
俺はノアの召喚獣による魔法がまだ鳴り止まぬ中、彼女の号令に従い前に出た。
その際、ノア数体の召喚獣を借り受ける。
まず1体目は最近大忙しの『エマネージ』だ。これの使い方はわかっていると思う。
だが、それだけでは安心はできないため念のためにノアは『マジックイーター』を渡してくれた。
その禍々しい球体は手に持つとどんどんと俺のMPが減っていく。
早急に配達しなきゃな。
「ん?エマネージ、これは?」
「タクミはもう魔力ほとんど残ってないでしょ?ボクので余ってたの全部、君に渡すよ!!」
「すまん、ありがとうな。ここで決めて見せる!」
白い魔王との削り合いは瞬間的に幾つものスキルを使う戦いだったためMPの温存ができていなかった。
それでなくても、はじめにもらったMPはほぼ全て一気に使い切ってしまったからな。
だが、ノアがここで俺のMPを補充してくれた理由は戦闘の継続をさせるためではない。
むしろその逆、出し惜しみなしで一気に決めろということだろう。
全く、お前は俺がこんなに大量にMPが必要だとでも思っているのかね?
まぁ、助かるんだけどさ。俺は彼女の心の中で感謝の言葉を告げながら口では別のことを口ずさみ始める。
そして魔法の嵐の中に飛び込んだ。
俺は頭の上のはりねずみを体のうちに保護しながらその中心地に向かう。
そして必死に魔法を防御している白い魔王に突っ込んだ。
白い魔王は左腕を大楯にすることで魔法を防いでいるみたいだった。
だが、削り合いが聞いているのだろうか?その表情には疲労が見え、大楯の耐久力もそれほどでなくなっていた。
ーーーーさぁ、エマネージ、全部持ってきてくれ!!
俺はその大楯に向かってエマネージを突きつける。
するとそのはりねずみは俺の意図を汲み取ってくれたのか、それともノアから指示でももらっていたのか白い魔王のMPをできる限り抉り取った。
その瞬間、白い魔王の白い盾が魔法に耐えきれなくなり崩壊する。
ーーーー続いてこっちだ。回復する側から喰らい尽くしてやれ!!
崩壊した盾ーーーー突然の出来事に対応できない白い魔王は俺の姿を見る。
どうして俺がこの中にいるのかわからない、そんな顔だ。
多分盾で隠れて今まで見えていなかったのだろう。
だからこそ、突然の崩壊にも俺の出現にも、そしてその投擲にも対応ができないのだ。
俺の手から『マジックイーター』が離れる。
魔法の効かないそいつは白い魔王の首元に食らいついた。
ーーーーやっぱり、あの白いのはMP消費で生み出されていたみたいだな。
だから『エマネージ』によってMPを持っていかれて盾を維持できなくなったし、『マジックイーター』で自然治癒するMPを端から食っていけば新しく増やせない。
「な、なんでいきなり!?」
自分の体の変化に理解が追いつかない白い魔王は飛んできている魔法によってどんどんと体が崩されていく。
風の刃が当たったところは溝ができ、水圧レーザーが当たったところには穴が開く。
小爆発が当たったところは小さくひび割れ、竜巻が全身の傷を深くしていく。
そして最後、その中でも動く俺の剣が白い魔王の黒い腕を付け根から切り離した。
普通にやったら切れないが、白部分との境界線ーーーというより微妙に白い部分を残せば切断は容易だ。
黒い腕が宙を舞う。
「あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“ぁ”ぁ“ぁ”ーーーーー」
断末魔のような声が聞こえてくる。
そしてそれはある時を境にプツンと切れてしまった。
多分、声を発するための頭部がなくなったからだろう。
「よしっ、もういいよみんな!中にいるタクミが心配だからもうやめて!!」
自分で突っ込んでいったから俺が死んだとは思われていないみたいだが、それでも心配はされているようだった。
ノアが攻撃やめの合図をする。
すると彼女の周りに展開していた召喚獣たちは仕事を終えたというふうに満足した顔を見せて煙のように姿を消した。
そして俺はというとーーーーーー
「まさかの無傷!!」
「嘘っ!!?タクミってそんなに頑丈だったの!!?」
攻撃の中心地にいたにもかかわらず傷1つなく出てきた俺に驚いていた。
そして見当違いな方向に考察を向けている。
実際は俺はあの攻撃の中、無傷というわけにはいかなかった。
『闘気鎧』のスキルでいくら魔法防御力が上がっていたとはいえイドルの竜巻まであったんだ。
あ、一応ウンディーネの水圧レーザーだけは察知して回避した。
あれは当たるとシャレじゃないくらいダメージ受けるからな。
俺が無傷で出てこられたのは単に飛び込む前に『星幽回帰』を使っただけだ。
突撃の前に性能を一度元に戻してそれから詠唱時間を10秒まで縮めておいた。
普通これでは発動できなくなるだけなんだが、今回はノアがMP補助をしてくれたからな。
あれがなかったら最後の突撃の後血にまみれた匠くんをノアに見せることになっただろう。
この魔法は対象を正常な状態に戻す究極の回復魔法だ。
だからこそ、黒い腕に触れても死ぬ前に発動すればなにもなかったように動けるし、さっきの魔法の嵐の中でもHPの減りを見ながら安心して行動できた。
「まぁ、簡単に言えばノアのお陰ってことだな。」
「そう?やっぱりボク達2人揃えば最強ってことだね!!」
「それより、今はこの残った黒い腕を処理しないとな。」
「う〜ん、よくわからないけど、そっちが重要な部分なんだよね?」
「多分な。核的なものがこっちにあるのかもしれん。念には念を入れて壊しておこう。」
俺は切断されて落ちたままの黒い腕を破壊しようと動き出した。
またここから白い体が出てきそうだからな。
だが、その時ーーーー
「悪いが、それはやめてくれないか?」
突然野太い声が聞こえて目の前にそいつは現れた。
「お前はっ、、」
「あー!この人、あの時いた人だよ!!」
「偽獣王か・・」
偽獣王ーーーーもとい獅子面の魔王だ。仲間がやられたのを察知してすぐに飛び込んできたのか?
魔王2連戦ーーーー俺達はHP的には無傷だけどMP的には壊滅してるぞ。やれるか?
最後と思って大判振る舞いしてしまったのが仇となったか。
そう思い俺は獅子の魔王を睨みつける。
「ーーーー?傷まみれ?」
獅子の魔王はこの場の誰よりも痛々しい姿をさらしていた。
顔には幾つもの切り傷が、毛皮は燃やされたのかところどころ禿げて火傷跡をむき出しにしている。
左腕はだらりと下げられたままで、足も引きずっている。
また、そいつのいる地面は体から落ちる血液でどんどんと汚れていく。
「タクミ!よくわからないけど今ならやれそうだよ!!」
「お、おう!!」
なにがあったか知らないが満身創痍で助けに来たのならそこを狙うしかない。
あとで元気になられてお礼参りにでもこられたら困る。だからこいつはここで確実に仕留める。
「悪いが、お前達に構っている余裕はないんだ。『世界を駆ける水晶』起動。」
そう思い飛び込んだのだが、獅子の魔王は最低限の目的だけを行いすぐ撤退を選んだ。
そいつは現れた時と同じように、一瞬にして姿を消した。
◇
閑話 一方その頃
「あっ、この紐、ちょっと使えそうかも?ここをこうしてーーーーー」
エンドルシアは服の前を閉じるための紐を使って自分をラッピングしていた。
次回予告 (嘘)
ノアと一緒に宿に戻った匠。そこに待ち受けていたのはほぼ全裸で待ち受けるエンドルシアの姿だった!!
そしてそれは彼だけでなく一緒にいるノアも見るわけでーーーー
次回、『浮気現場と痴話喧嘩』お楽しみに!!