281 呪いと禁忌
ーーーぎゃああああ!!ちょっと、溶ける。このままじゃ溶解しちゃううううう!!
女声の叫び声が俺の頭の中にだけ響く。このままだと溶けてしまうから早く対比させろという声だ。
しかし魔剣ティルフィングはその言葉とは裏腹に一つの傷も付いていなかった。
さすが魔剣。
簡単には壊れない。
「な、なんなのよその剣。私に触られても傷一つつかないなんて。」
驚愕の表情を浮かべる白い魔王。絶対の自信を持っていたのだろう。
「これか?これはお前のお仲間さんの討伐をした時に褒美としてお前のお仲間さんからもらった剣だよ。」
俺はそうやって相手の怒りを誘う。
戦う相手はムキになっていればムキになっているほどいい。
思考能力が落ちた人間なんてただの獣と大差ない。
寧ろ体の形が違う分獣の方が相手がしにくい。
「それで?ティルフィング、実際今の攻撃を受けた感想どんな感じだったんだ?」
ーーーーうわっ、人を盾に使っておいて真っ先に感想を聞く!!?鬼!鬼だわあんた!悪魔より悪魔だわ!!
「ーーーー?タクミ?誰と話しているの?」
ティルフィングの声は予想通りと言うべきか、俺にしか聞こえてないみたいだった。
側から見たら独り言を言う狂った奴だろう。できればこいつとの会話は控えたいな。
「魔剣ティルフィング・・・・成る程ね。会話をしているけどまだ顕現していないところを見るとまだ1つ、と言うことかしら?一瞬だけあの骨野郎を恨んだけど、結構いい仕事したじゃないあいつ。」
白い魔王の反応は俺が予想したものとは違ったものだった。
もっとこう、あいつのせいで。みたいな感じに激昂してくるのかと思ったのだけど、、、、
「どういうことだ?」
「ふん、知る必要はないわ。ただ1つ言えることが、あんたはいずれその剣に喰われるってことくらいかしらねぇ?あいつがそれを渡してからまだ一年も経っていないのに1つ使ったところを見ると、あと二年もすれば、、、ふふふ、あははは。」
なんだか楽しそうだ。
1つーーーーというのは多分使った願いのことだろうな。
いずれ身を喰われるっていうのは?
俺の予想が正しければこの願いを3つ全て使った時に俺に破滅が訪れることを言っているのだろう。
元の世界の伝承を基にしているなら、魔剣ティルフィングという剣は呪いの武器らしいからな。
武器説明文にもそれっぽいこと書いてあった気がするし。
俺はそう思いつつちらりとティルフィングのアイテム詳細を確認する。
名称 ティルフィング
効果 武器攻撃力+80 3つの願い(2) 願望の呪い
説明 あなたの願いをあと2つだけ叶えてあげる剣。
ただし、1つ叶えるたびに代償をもらう。
サービスとして私ティルフィングちゃんがサポートもしてあげるよ。
あ、あと君はもっと私を大切に扱って。
あれ?なんかいろいろ変わってる。
攻撃力もなんか上がったような気がするけどそれよりツッコミどころが多いのは説明文の方だ。
まさかこいつ、自分のアイテム説明の欄をある程度自由にできるの?
規格外な武器だなぁ。この武器に関しては考えたいことがまだあるけど、とりあえず今は目の前にいる白の魔王だ。
こいつをどうにかしてゆっくり考えることにしよう。
「それで?ティルフィング、お前の見立てで今の攻撃、俺は耐えられそうか?」
ーーーー無理だね。いくら君が他の人より多少強くても触ったら1分持たずに燃え尽きるよ。
成る程。その身に直接受けてくれた感想だ。大切にしよう。
「むぅ、タクミどうしちゃったの?さっきからブツブツと・・・」
「悪いノア、ちょっと作戦を考えていただけだ。」
ノアが訝しんでいたから俺はそれを慌ててごまかした。
「そう?それでこれからどうするの?あんまり時間はかけられないよね?」
「おう!だからノア、俺にくっついて一緒に戦ってくれ!一気に勝負をつけるぞ!」
そう言って俺は左手で視界の端にあるウィンドウを軽く操作した。
目的は当然あるスキルの調整のためだ。
これがこの戦いで重要になってくるだろうと俺は確信している。
ノアが俺の後ろにぴったりとつく。
腕を振り回せばそれだけで彼女に当たってしまうほどの距離だ。
だが、俺はそんなヘマはしない。
いくら近くにいても、それこそ密着されていようとも俺が間違えてノアを攻撃してしまうことはない。
ノアの召喚したハリネズミが彼女の方から俺の頭の上に跳躍、着地してポーズを決めた。
案外こいつは愛くるしいやつなんだな。そう思っていると俺の視界の端でステータスが変化した。
彼女のMPの半分以上が俺に譲渡されたのだ。
自分の器を大きく超えた力が頭の上のハリネズミから流れ込んできた。
「さて、行くぞノア!」
「了解だよ!ボク達2人のコンビが最強だってことを教えてあげないとね!」
俺とノアは同時に駆け出した。
「何を企んでるか知らないけど、こっちだって無策ってわけじゃないよ!」
白い魔王は左腕を大きな盾に変えて前に構えた。
あれで勢いを削いでから安全に攻撃するつもりなのだろう。
「ぬるいぞ白いの!!」
その程度で俺は止まらない。
スキルによって強化された一撃は難なくその白い大楯を切り裂いた。
「それくらいしてくることはわかっている。でも、さすがにあれを壊すには剣を振り切る必要があったのではなくて?」
盾を切り開いた先では鎌のようになった白い魔王の左腕が迫ってきていた。
大楯は何とも繋がっていないただの壁だった。
成る程、あれを作り出したあとすぐに切り離して新しい部位を生成したのか。
あの白い体は能力によって生み出される白い人形と同じ素材なのだろう。
だから部位を新しく作るのなんてお茶の子さいさいということだ。
現に、俺が初めに与えた腹の傷は白い濁流の時についでのように塞がれていた。
「それはボクが弾くよ!!」
俺の首を狙う鎌をノアの火の玉が弾く。
1つの爆発では軌道を変えることが関の山だっただろうが、ノアはそれを『ソロモンの指輪』の同時召喚を使用して12つ同時にぶつけることで爆発の衝撃を増大させていた。
白い鎌は大きく弾かれたーーーーと思ったらどこかに飛んでいった。
ダメージによって壊れた、というよりは自分で外したんだろうな。
相手に同様の気配はないし、すぐに行動を開始している。
だが、もうここは俺の手の届く距離だ。
俺は4つのスキルを同時に発動させる。
1つ目は『理力結晶の剣』
魔力依存の剣が俺の周りに浮かび上がる。これが2本。
2つ目『気操法』
生み出した剣は見えざる手でもあるかのように白い魔王に向けて叩きつけられる。
精密な動作は難しいしMPをバカぐいするこのスキルだが、こうやって一瞬だけ力を加えるのには案外適していたりする。
3つ目『一閃』
ただの高速移動スキル。今回はこれを相手の目の前で使い急な速度変化で動揺を誘う。
そして4つ目がさっき調整したーーーー
「ほらぁ、捕まえた。」
鎌が外れた左腕から次に出てきたのは蜘蛛の巣のように広がる網だった。
チッーーーこれが普通の武器だったら無視してその首狙ってやろうと思ったが、拘束目的のアイテムが出されたなら対処しないわけにはいかない。
なまじ『一閃』を使ってしまったが為に回避が難しくなっているな。
俺は『一閃』を一度解除するべく目の前の網に向かって剣を振った。
所詮は切れるものでできた網だ。
簡単に切り裂かれてその役割を全うできない形になるーーーーーが、その側から白い魔王が補充する。
「対処しないといけない。だけど対処するとこっちの自由にさせてしまう。勝負あったみたい。」
白い魔王は勝ち誇り網の生成を続けながら必殺の右腕を伸ばしてくる。
そこで『一閃』によって移動速度に差が出てしまった為少しだけ後ろにいるノアが声を上げようとした。
「タクミ!!一旦こっちに、、」
『待てノア、これでいい』俺は口に出しては言わないがノアに向かって視線を送る。
その意味をちゃんとわかってくれたのだろう。彼女は俺を召喚して退避させようとはしなかった。
よかった。さっき視線だけで超絶な誤解を生んだばっかりだったから少し不安だったんだ。
でも、あいつにそんな心配いらなかったな。
ノアは俺がここから勝てると信じてくれている。
俺が伸ばしてくる右腕にカウンターを合わせるように白い魔王の首を切りつける。
それと同時に敵の網が俺を捉えた。
剣で軽く斬り裂けると言っても魔王の出す能力だ。
無防備で受ければ動きは確実に制限される。
「タクミ!やった!!」
ノアが歓声をあげる。俺の一撃は白い魔王の首を確実に切り裂き、そして胴体と切り離すことに成功していたからだ。
その場にいた誰もが俺の勝利を確信しただろう。
その心に油断が生まれる。
白い魔王は首が切り離されたまま右腕を伸ばすことをやめなかった。
そしてそれはついに動きの悪くなった俺に到達する。
真っ黒な腕が俺の胸板を触る。
その瞬間ーーーー
「があああああああああああああつうううう!!」
触られたところを中心に全身が焼き焦げるような感覚に襲われた。
「きゃははははははは!!首を落として勝ったと思った?そんなの飾りにすぎないのにねぇ。人間って本当にバカ、首がポロってなればすぐに油断するんだから。正直、首を落とされたり色々おちょくられたりで最悪な気分だったけど、あんたのその叫びっぷりを見たらちょっとずつ心が晴れていくようだわ。精々、ゆっくり苦しみながら、叫び声をあげながら死になさい!」
「ああああああああああ!!」
白い魔王は笑う。目の上のたんこぶが取れたかのよに笑う。
燃えるような痛みに悶える俺を見て笑う。
なぁ、、、白い魔王さんよ。
「お前、今勝ったと思っただろ?」
次の瞬間、俺の剣が黒い腕を切り裂いた。
◇
閑話 一方その頃
「こう?それとも、、こんな感じかな?う〜ん、誰も教えてくれないからわからない。」
エンドルシアは誰もいない部屋でただ1人、匠が戻ってきた時のことを考えて扇情的なポーズの練習をしていた。
設定的な話。
この世界の技は基本的に『スキル』と呼ばれています。
ただしその中で一部詠唱を必要とするものなんかは『魔法』とカテゴライズされています。
『スキル』はうまく発動させれば一度に幾つでも重ねることができますが、『魔法』は詠唱という行為を行う口が人間には1つしか付いていない関係上1つずつしか使えません。
ただし、『詠唱破棄』のスキルを持つ者はそもそも詠唱を必要としない為『スキル』と同じように『魔法』が使えます。