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279 世界の想い


【エンドルシア視点】


私にとって誰かに守られるというのは初めての経験だった。

私は強かった。

『世界』の力は絶大で、初めこそその力の扱いに四苦八苦したものだけどこれが制御できるようになってからはこと戦闘において私について来れる奴はいなかったからだ。


私より強い奴はいない。

何かあっても最後は私が勝つ。


そんな慢心がどこかにあったのだろう。

魔族たちはそんな私に対して策を練り、罠にかけ、すんでのところまで追い詰めてくれた。

のほほんとしている私はそれに対応ができずに相手の思惑通りに動き死にかけた。


死ぬのは嫌だなと思った。

でも、私は十分長く生きたし、心残りと言えるようなものもほとんどない。


私は死ぬ向かう自分というものに対して諦めの心を持っていた。

だから私はそれを受け入れるべく目を閉じた。



だけど、あなたは私を助けた。

自分より強いとわかっている相手に、たった1人で立ち向かった。

私が逃げる時間を稼ぐ為だった。


あなたは「できたら」私を助けると言った。

自分の命は天秤にかけるつもりはない。そう言い切っているようだった。

でも、あなたは、その言葉とは裏腹に私を逃す捨て駒になってしまたのだ。



あぁ、、、ごめんなさい、、、私のために、、、、ーーーーーーー







意識が戻った。

私の体は意思とは関係なく上下に揺れて景色は後ろにが流れていく。

どうやら運ばれている最中みたいだ。


「うきゃああああ!!タクミーー!!なんか怖いのがこっちきてるんだけど!!?時間稼ぎはどうしたのさ!!」

叫び声が耳元で聞こえる。

とっさに両手で耳を塞ごうとしたけど、それは叶わなかった。

そうだった。もう手はないんだった。


私はそのことを思い出して少し落ち込んだけど、すぐに切り替えて状況を整理した。

今、私は運ばれていて、それで白い人形が後ろから追いかけてきている。

あの人形は白い魔王の能力によって生み出されるものであって・・・・


「ということは、、、あの人はもう、、、」


「ん?何か言ったかな?」

口に出したつもりはなかったんだけど、聞こえてしまったみたいだ。

不機嫌そうな声が私の耳に届く。


私は口を噤んだ。

あの人はこの女の人の仲間なんだろう。それを伝えるのは酷な気がしたからだ。


「なんでもない。」


「そんなことより!!聞いてよ君!タクミったらひどいと思わない?見てよあれ!なんかいっぱい追いかけてきてるんだけど!」

その物言いに私は少しだけムッとした。彼は頑張ってくれたはずだ。

命を張って精一杯戦ってくれたはずだ。


それなのにそれで抑えきれなかったからと言って彼のせいにするのは間違っている。

私はそう主張しようとしてーーーーそれができない立場なことを思い出してやめた。


そもそもあれは私が招いた不幸だ。

あの人が犠牲になったのも私のせいだ。

私はそれ以降何も喋らなかった。私を背に乗せて走る少女は騒がしくしながらも走り続けた。




途中、幸運にも街に戻る最中の兵士団のようなものと出くわし、白い人形は一体残らず破壊された。

運は私たちに味方をしてくれているようだった。





そしてそのままの流れで私は街まで運ばれた。

どこに飛ばされたのか、と疑問に思っていたのだけど、街並みを見る限りここは神国みたいだ。

そのどこかまではわからないけど、街の景観が大体こんな感じだったはずだ。



街に戻り、私を背負っている少女は一息ついた。

ここまでくれば一安心、そんな感じだった。


「ふぅ、、なんとか逃げきれたね。」


ーーーー確かに私たちは逃げきれたけど、あの人は・・・・

少女の言葉に私は気を落とす。

今まで、誰かを犠牲に助かったという経験のない私には、自分のせいで直接死んだ人間がいるというのはかなり心に応えた。


「じゃあっ、そろそろタクミを助けてあげよっか!」


そうやって気落ちしているところに聞こえたそんな言葉は、予想だにしないものだった。


「えっ、、、どう、やって?」

戦場からここまではかなり離れている。いくら私が健在でも、あの距離離れた戦いに干渉するのは難しい。

ましてや助けるなど無理だ。


「ふふん、ボクとタクミは常に繋がってるからね

!ボクが呼べばタクミはいつでも飛んできてくれるよ!」

少女が何を言っているのかが理解できなかった。

だが、理解する必要もなかったのかもしれない。


次の瞬間、少女が何かを呟くとーーーーー私たちの目の前にはあの人がいた。

彼は疲れたような顔をしていた。何度も身を打ち付けられたのだろう。

服の下にはそんな傷が見え隠れしていた。


「おかえりタクミ!」

「あぁ、ただいまノア。」

戻ってすぐにそう言い合う2人の姿。

私はそれを少し羨ましく思った。少女のいる場所に自分がいればいいな、なんて思った。

それも初めての経験だった。


人が私を羨むようなことは今まで多々あった。

でも、私が誰かを見て羨んだことはこれが初めてだ。


その気持ちを自覚して、私は自分は醜い人間だなと思った。


「まずはノアの背にの背負っている奴の治療が第一だな。」

だけどあなたは私のことを最優先と言ってくれる。

そのことに少し嬉しくなった。

私はあなたの背中に飛びついた。


少女の方に乗せてもらっているときは特に意識はしていなかったけど、あなたの背中に乗せてもらった時は体を密着させるようにしがみついた。


その時、私の心臓は早鐘を打っていた。

体を密着させているから、それが聞かれてしまうかな?なんてことも思ったりもした。



そのあとあなたは私と2人っきりになって直ぐに宿屋に直行した。

私はこの展開を予想できていなかった。

教会に行くーーーーという言葉を間に受けていたからではない。

教会は切断された部位などを治療してくれない、というかできない。


あなたは初めから教会に行くつもりがないようにも見えた。



でも、まさか宿屋に連れて行かれるのは想定外だった。

私の脳裏にかつて友人が言っていた記憶が思い出される。

ーーー「男の人は気に入った女の人を見つけるとすぐに宿に連れ込もうとするんだから!プンプン!ルシア、あんたも気をつけなさいよ?ああいうのは基本的に相手にしちゃダメ!自分が好きな人以外とは基本的に一緒の宿はダメだからね!!ルシアはぽややんとしてるから心配だわ。」


人との付き合いに疎い私はその友人からいろいろなことを教わった。

これもその一つだ。



そう、あなたに気に入られたんだ。

だからこうやって宿に連れ込まれたんだね?ついに、その時がきたんだね。



あ、私はあなたに求められることは構わない。助けてもらったから。

でも、ひとつお願いがある。


「今、辛いから、優しくしてくれると助かる。後、服は、腕がなくなってて脱げない、から、自分で脱がして。」

運ばれている間に応急処置は受けたけど、傷がふさがったわけではない。

体も痛いままだ。だから優しくしてくれないかな?

・・・一応、私も初めてなわけだし。


私がそういうとあなたは不思議そうな顔をした。


「あ、服は着たままする?」

「そうだなぁ。別に服を脱ぐ必要性は皆無だよな。」


服を着たままっていう趣向があるっていうのも聞いてたけど、あなたはそういうのが好み?よくわからない。

こんなことならもっと話を真剣に聞いておけばよかった。


私がそんなことを考えているとあなたは何か詠唱を始めた。


あれ?何をしているの?


これは・・・

「ーーーー魔法詠唱?本当に治療するつもり?」


私がそう呟くと、あなたは私を睨むような目で見てきた。

その目は「本当にってどういうことだよ。何をすると思っていたんだよ」って言っているような気がした。


心が通じ合ったみたいでちょっと嬉しかった。

だから私は正直に応えた。


「ーーー性行為が目的だと思ってた。」

あなた吹き出した。そして詠唱が止まった。

何かおかしなこと言ったかな?男の人が女の人を宿泊施設に連れて行く。


その意味はこれくらいしかないって言われたことがあるんだけど?


それから少しだけ会話をして、彼は再び詠唱に取り掛かった。

私のためにやってくれていることだ。邪魔をするのは良くないって思って詠唱中は黙るようにした。



でも、あなたの顔を見つめるくらいはいいよね?


真剣なあなたの顔をじっと見ているとそれがすごいカッコよく見えてくる。

自分があなたに守られたことを思い出すと、ますますカッコよく見えてくる。

胸の鼓動も早くなる。


あなたを見つめていると、詠唱はすぐに終わってしまった。

もうちょっと見つめていたかったのに、残念。


そして魔法が発動した。

私の体が光に包まれた。暖かな光だった。


こんなの初めてだ。

私はそれなりに長く生きているだけあって、他の人が知らないこともある程度知っていたりする。


でも、この回復魔法は見たことも聞いたこともなかった。


光が治ると、私の体の傷はまるで嘘だったかのように消え去っていた。

私に傷が残っていないことを確認するとあなたは安心したような顔になった。

そしてそれはすぐに決意の表情に変わる。


彼と私の目があった。

私はその意図を察して頷いて返す。


もう既に私たちは視線だけでお互いの気持ちを理解できるくらいにはなっているようだった。

それくらい心を通わせたといことだろう。


「じゃあ、治療も終わったことだし早速ーーー」


さっきの続きをやるんだね。

私は服の前紐をほどいた 。


彼は慌ててそれを止めた。

あれ?


「やっぱり服は着たまま?」

まぁいいや。とりあえず脱ごう。その後のことはそのとき考えよう。

かなり恥ずかしいけど、あなたのために私頑張る。


その決意を胸に私が前紐を解いていると、あなたからストップがかかった。

そして私の行動は勘違いによるものだと諭された。



それを聞いた私は恥ずかしかった。

まさか私1人だけ舞い上がって、勝手に勘違いしていたなんて。

あなたは好意で私を助けてくれたのに、それを行為のためだと思い込んでいたなんて。


そしてそれを少し嬉しいと思っていたなんて、、、


私は行き場のない思いを発散させるように解きかけの前紐を思いっきり解いた。

そして肩から服を落とす。そして有無も言わさずにインナーにまで手をかけてーーー

そこで再びストップが入る。



「ってちょっとまってエンドルシアさん!!?いきなり何を!?」」


「責任。」


「はい?」


「責任を取って。」

私に恥をかかせた責任、それと私の胸を高鳴らせるこの想いの責任を取って。

男の人は責任という言葉に弱いって、聞いたことがあるから半ば無理やり迫った。


ただ、あなたはそれでも倒れなかった。

彼は私の体を隠すように布を被せてきた。これの意味はわかる。

私は振られたのだ。


「どうして?」


「この街が今危機にさらされているっていうのに、そんなことしている場合じゃないんだろう。」


「じゃあ、終わったら責任取ってくれる?」


「・・・」


「どうして?」


「俺にはノアがいるからな。少しの間の快楽より彼女との関係を優先したい。」


「私じゃ、だめ?いや?」


「お前が嫌、というよりはノアがいいってことだ。あいつは俺にとって特別だから。」


ノアというのはさっき別れた少女のことだろう。あなたはあの少女を心底気に入っているみたいだった。

それを知った私は妬んだ。

でも諦めない。ここで諦めたら全てなかったことと同じだ。いや、諦めようとはした。

でも、私の体を心配する優しさを見せられては諦めきれなかった。


どうしてもあなたと一緒にいたいと思った。


何か、あなたの気をひく何かはないだろうか?


ーーー「ルシアはちゃんと自分だけを見てくれる人を探すんだよ?一夫多妻な家も多いらしいけど、それは妥協だからね。」

その時、友人の言葉がふと頭の中に落ちてきた。彼女が伝えたかったのは前半分のところなのだろう。

でも、私はその意図に反して後ろ半分の一夫多妻な家も多いというところに注目した。


そうだ。これならいけるかも。


「うん。私は、二番目でいい。」


「はい?」


「ノアって人が、あなたの一番なら、私は、二番目になる。」


「えっと、なんの話?」


「正妻の座は、そのノアって人に譲る。でも、2番目は私。」

図々しいかな?でも、これ以上譲渡してあげない。これは決定事項。

私を困難にした責任は地の果てまで追いかけてでもとらせてあげる。


それと、街の中の騒動の鎮圧とかは大丈夫なんだろうか?

私がそのことに対してなんとなく聞いてみるとあなたは焦ったように出発の準備をした。

そして一緒に行こうと言ってくれる。


それは嬉しい。

私をただ守るだけじゃなくて一緒に戦うパートナーとして選ぼうとしてくれたことは嬉しい。


でも、それはいろいろ理由をつけて辞退した。

『世界』の能力補助がなくなって弱くなっているというのは嘘じゃない。

でも、それがなくても最低限は戦えるはずだ。

なのに一緒に行かなかったのには理由がある。



私はあなたに「いってらっしゃい」した後早速準備に取り掛かる。


あなたが戻って着た時、うっかり私を襲っちゃうように誘惑する準備を。


私、エンドルシアの心はいつのまにかあなたーーータクミの方にしか向いていなかった。


エンドルシアは助けられて優しくされるとコロッとなびいちゃうちょろいん属性をお持ちのようで・・・

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