278 責任と2番目
エンドルシアを中心とした光はやがて収束していく。そしてその中からは五体満足の状態の彼女の姿が現れた。
パッと見て確認して見た感じ体のどこにも傷が残っていないし、なによりも先ほどまでは存在しなかった両肘から先もちゃんと再生されている。
本人もそのことを1つ1つ動かして確認していっている。
そんなエンドルシアに俺は視線を向ける。
彼女は俺の視線にわかっている、と言わんばかりに一つコクリと頷いた。
「じゃあ治療も終わったことだし早速ーーーー 」
確認がてら街中の暴動を鎮圧しに行こうかというよりも早くエンドルシアは動いた。
彼女は再生された両手を使って自分の服に手をかける。
そして服の前が開かないように固定している紐をシュルシュルとほどき始めていった。
「ちょっと待てどうして服を脱ぐ?」
「ーーー?どうしてって、それが普通?やっぱり服は着たまま?」
「は?」
なんの話ーーーじゃねえわこれ。詠唱開始前の話題まだ引きずってやがるこいつ。
くそぅ、さっきの目を合わせた時にわかりあったみたいな感じな奴気のせいかよ。
お互い何を考えているか全くわかっていなかった。
こんなことならカッコつけずに最初から口頭で説明していればよかった。
そんなことを考えている間にも街の破壊音とエンドルシアの脱衣は続く。
彼女は服の前紐を慣れた手つきで緩めて解いていく。
「ストップ、ストーップ!!一度止まってくれ!」
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもねえよ。それはお前の勘違いだ。今から俺たちがやるのは騒動の沈静化だ!!」
今度は勘違いしないようにはっきりとした口調で俺はそういった。
すると彼女は自分の勘違いに気づいてくれたのか顔を俯かせる。
どんな表情をしているのかは俺にはわからない。だけどただ一つ思うのが、恥ずかしかったのだろうなということだけだ。
エンドルシア、さっきの話を聞く限り未経験みたいな感じだったし、それでから回っていた感じだ。
少しの間その状態で止まった後、彼女は意を決したように顔を上げた。
キッーーーっという感じに俺の方を見る。
珍しい赤い目は俺を怯ませるには十分の迫力があった。
顔を上げたエンドルシアの表情は覚悟というものが感じられるものだった。
そして彼女は俺を見た後その両手を解きかけの服の前紐に持っていき、そして紐を一気に解き放った。
「ええええええ!!?」
エンドルシアの服の前がぱっくりと左右に分かれてその下を晒す。
幸いにもすぐに肌がご開帳ということはなくインナーを着ていた。だがそれはあまりにも薄い。
ボディラインを隠すつもりの一切のないその姿は豊満な双丘と相まって男を魅了する覇気を出す。
エンドルシアは突然の行動で混乱した俺に気を向けずに両手を下に持っていってインナーの裾を持ち上げ始めた。
最後の砦の崩壊も時間の問題だ。
「ってちょっとまってエンドルシアさん!!?いきなり何を!?」」
「責任。」
「はい?」
「責任を取って。」
責任といっても何の?俺の顔を見てその疑問を察してくれたのか話は続く。
「私をこんな気持ちにさせた責任、取ってよ。」
これはつまり勘違いして恥ずかしくなったからそのまま押し切ってそれが自分の勘違いでなかったことにしようということだろうか?
目の前のエンドルシアは半ばやけっぱちになっている気がした。
そんな彼女に俺は近くにあった布を被せた。
俺が無造作に取ったそれは案外大きく、エンドルシアは頭から被さり顔を出してこちらを見てくる。
この行為の意味は拒絶だ。
その想いには答えられないという意味が込められている。
流石のエンドルシアもこれは正しく読み取ったのだろう。キョトンとした顔を一瞬した後悲しみの目で俺を見てくる。
一瞬うろたえそうになったがここで俺が引いてはいけない。
「どうして?」
「この街が今危機にさらされているっていうのに、そんなことしている場合じゃないんだろう。」
「じゃあ、終わったら責任取ってくれる?」
「・・・」
「どうして?」
「俺にはノアがいるからな。少しの間の快楽より彼女との関係を優先したい。」
「私じゃ、だめ?いや?」
「お前が嫌、というよりはノアがいいってことだ。あいつは俺にとって特別だから。」
エンドルシアは客観的に見たらかなりの魅力的な女性だと思う。
綺麗な赤い目に雪のような真っ白な長髪。整った顔立ち。女性らしさを存分に前に押し出す体。
能力も世界トップレベルだ。
でも、ノアとエンドルシアを俺の天秤にかけた時間違いなくノアの方に傾く。
俺の心はもう既にそのように出来上がっている。
「それに、一時の気の迷いでそういったことをすることはよくないと俺は思う。もっと自分の体を大切にしたほうがいい。」
ちょっと勘違いして恥ずかしかったからって、何もそこまでしなくてもいいんじゃないかと俺は思う。
後になればきっと後悔する。
「私の体、大切にーーーーうん、わかった。」
「わかってくれたか?」
ちょっとだけ考えた後、エンドルシアはまっすぐとこちらを見てコクリと首を縦に振った。
俺の思いは伝わってくれたみたいだ。
「うん。私は、二番目でいい。」
「はい?」
「ノアって人が、あなたの一番なら、私は、二番目になる。」
「えっと、なんの話?」
「正妻の座は、そのノアって人に譲る。でも、2番目は私。」
ヤベェ。『世界』のエンドルシアは俺の思っていたより危険なやつだった。
どこで何を間違ったら話がここまで拗れるんだよ!
俺は心の中で大声で吐き捨てた。
「ところで。」
俺の叫びは当然心の中の話であるため目の前の女性には届かない。
だから彼女は俺の混乱も一切気にせずに軽い声を上げた。
「街のやつ、まだ続いているけど行かなくていいの?」
「あっ!!」
忘れていた。街の破壊音は依然として鳴り止まない。
ということはまだどこかで破壊行為ないしは戦闘が続いているといことだ。
正直、ここでこんな問答をしている場合じゃない。
「そうだった。とりあえずこの話は後にしよう。事態の沈静化に行くぞ。」
「私戦えないけど、私もいったほうがいい?」
あれ?戦えないの?
「傷は治ったはずだけどどうして?」
まさか治りきっていなかった?
「傷は確かに癒えた。でも、魔力は戻らない。」
確かに、これ色々たいそうなこと書いてあるけどただの回復魔法だからな。
消費したMPまでは回復してくれない。
「でも確かお前近接戦闘やってなかったっけ?」
ただの体術だけでライガたちのパーティ翻弄していたと思うんだけど?
「今の私は魔力不足で『世界』の身体能力補助を受けていない。つまりあの時よりどうしても弱くなる。今の私じゃあ、あなたの足手まといにしかならないと思う。」
成る程。つまり魔力的何かの補助が切れたから身体能力がガタ落ちしているってことか。
それならノアあたりから魔力譲渡してもらえれば大丈夫か?
「ちなみにどのくらい回復すればその『世界』の身体能力補助とやらを受けられるんだ?」
「えっと、、、数値にしてMP33000くらい?」
はい、解散。ノアのMP最大値は8000弱だからノア4人分のMPは必要になるという。
それほどのMPを他所から調達するのは困難だ。
「それなら仕方ないか。じゃあ俺はちょっといってくるからお前はここでゆっくりしていてくれ。荷物とかも置いておくから留守番頼んだぞ!」
俺はエンドルシアが戦えないと理解すると同時に駆け出した。
なんだか結構無駄な時間を過ごしたような気がしたのでできるだけ急いで現場に向かいたかったのだ。
「あ、いってらっしゃい。」
「あぁ、行ってきます。」
小さく手を振るエンドルシアの声に反射的に俺はそう返した。
扉を閉めると彼女の姿は見えなくなった。
そして俺は戻ってきてこの行動を後悔した。
どうして俺はーーーーーこの時戦えなくてもいいからエンドルシアも一緒に来させなかったのだろうか?
どうしてーーーーーー
色々勘違いしている状態のままのエンドルシアをそのまま1人放置して部屋に残してきてしまったのだろうか?
自分の行動を止める者のいない状態のエンドルシアを放置することの意味を俺はまだ知らない。
※ネタバレ
最後のはシリアス展開の前触れとかじゃないです。
※補足?
基本的に人の服装って変わるものだと思うのでこの作品ではあんまり描写していません。
ただ、そのキャラの基本の服装というのは確かに存在するわけで、作者はそれのイメージを持って書いています。
普段はそれで問題ないのですが、今回みたいな話はそのイメージがないと脳内補完しにくいと思います。
その為もし読者様が「このキャラは作者の脳内ではどんな格好なの?」と思った場合は聞いてくださればキャラ紹介ページを作ってそこに挿絵でも突っ込んでいきます。
ただ、作者はそこまで絵が下手でもうまくもないのでそれでうまく伝わるかはわかりませんが・・・・