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277 治療と勘違い


どれだけの間戦っていただろうか?

少なくとも既に2時間以上は戦っているような気がする。空が黒ずみ始めている。


まだまだ戦えるがまだ長引くようだと俺の集中はそのうち切れてしまいそうだ。

俺は白い人形がエンドルシアを追いかけに行った後は自分からの攻撃は一切考えずに防御と挑発を続けていた。



そしてその過程でわかったことがある。


目の前の白い魔王。これはベルフェゴールとは違い近接戦闘タイプだ。

一応、能力で手数は増やせるようだけどそっちはおまけみたいなものだった。


単純に殴り合いが強い。


「はあっ、はぁっ、、、」


「だいぶ息が上がっているみたいだけど、辛いんじゃない?諦めれば楽になるわよ。」

俺の息は白い魔王が言う通り荒くなっている。流れるような連続攻撃を延々と受け流し続けた代償だ。

まだまだ動けるが少しずつ動きが鈍くなっている。


その内、あいつが幾度となくやろうとしていた「真っ黒な右手で俺を触る」という行為に捕まってしまうのは時間の問題と言えた。


「もうちょっと、、耐えれば大丈夫の、はずなんだ。だからもう少しだけ頑張らせてもらうよ。」


「はぁ、『世界』が街に逃げ込めようとそうでなかろうとあなたは私からは逃げられない。つまり死ぬのよ?」

お前はそれで満足なのかと白い魔王は微妙な顔をしてこちらを見る。

勿論、俺としてはエンドルシアの命よりは自分の命を優先したい人間だ。


あれが人類のために必要、と誰かに言われたところで結局は自分の命を優先してしまう。それが一般的な人間というやつではないだろうか?


それも俺は一緒だ。


「死なないさ。ノアが逃げ切れれば俺も死なない。」


「まだそんなこと言っているの?あ、知らないかもしれないから言っとくけど、私の周りには今、転移系のアイテムの使用を阻害する空間ができているわ。それと、転移スキルの発動もね。あなたは情報によれば転移スキルを使えるみたいだけど、それをは今封じられているの。」

へぇ、それは初めて知ったな。あれだろうか?魔王からは逃げられないみたいなやつだろうか?


「転移スキルの発動の阻害エリア・・・」


「そうよ?どう?絶望した?なら私のおもちゃとなって死んでいってもいいわよ。」


「ところで、」


「ん?」


「阻害するのはアイテムの使用と発動だけなんだな?」


「は?それがどうし、、、、」


「悪いけど、時間切れみたいだな。じゃっ、俺もう帰るから。」

話している途中、俺の体が浮遊感につつまれる。もうこの感覚にも慣れたものだな。

俺はニッコリと笑顔を浮かべる。

相手を少しバカにするように、そしてなんとなく左手でピースもしてみせた。


そして俺はそれを咎められるよりも早くその場から姿を消した。



白い魔王が阻害していたのは「転移アイテムの使用と転移系スキルの発動」だ。

それはそもそも圧倒的効果範囲外で発動するノアのスキルには関係ないし、そもそもこれは転移というよりかは召喚だからな。

そもそも引っかからなかった可能性もある。


まぁ一応、両方対策がとられていてノアによる強制脱出が封じられていたとしてもなんとか自分だけなら逃げ出すことができたとは思うけど・・・・



ともあれ、俺はこうして絶対強者の1人である白い魔王の前からおめおめと逃げ延びたのだった。



















「おかえりタクミ!」

「ああ、ただいまノア。」

ノアは当然のごとく街にたどり着いて俺を喚び寄せてくれた。

ほんの少しだけだが俺の意図を察していなくていつまでたっても召喚してくれないんじゃないかと思ったんだがそんなことはなかったな。


さて、ここで2時間ぶりの再会を喜んでイチャイチャしたい気持ちもあるけど、それより先にやることがある。


「まずはノアの背に背負っているやつの治療が第一だな。」


「あ!そうだタクミ、今いうことじゃないかもしれないけどなんか兵士の人がボク達のこと呼んでたよ?なんでも、さっきの魔物を討伐したことでなんかあるんだって。」

さっきの魔物の討伐、兵士ーーーーまさか俺たちが呼んだことがバレたかこれ?

そう一瞬思ったがさすがに固有スキルは通常の鑑定とかじゃ見えないならしいし大丈夫だろう。


多分手伝ってくれてありがとうとかそんな話だきっと。


「でも確かに今いうことじゃねえなそれ。とりあえず魔物いっぱい討伐したしノアは冒険者ギルドで素材売るとか討伐達成とかでお金もらってきてくれないか?」


「ん?それだとボク1人分の討伐報酬しか出ないけど?」

そういえば長い間冒険者やってなかったから忘れかけていたけどこの世界では冒険者の魔物討伐履歴はその人物がとどめを刺したもののみという判定だっけ?

だから冒険者は報酬の話で時折揉めるのだとか。それは俺たちには関係ないけど。


「とりあえず1人分でもいいから受け取りに行ってくれ。そしてその金で食糧やら薬とか買ってきてくれないか?お前気づいていないかもしれないけど俺たち今ほぼ無一文だぞ?」


「あっ!!」

ノアがそうだったと目を丸くした。

俺たち2人は金がかさばるという理由でリアーゼに頼んで魔法鞄に入れてもらっていた。

そして強制転移でそのリアーゼと離れ離れになった今、俺たちの金はその時身につけていた小銭程度のものしかないのだ。


まぁ?


俺は孤児院の建設にほぼ全ての金を使っちゃったからそんなことがなくても切り詰めた場合の数日分の生活費しか持ってないけどな。


ついでに、他のアイテムも持っていない。

リアーゼの鞄には縄とかテントセットとか布とか鍋とか入ってて便利だったんだけどなぁ・・・


こうなって初めてあいつがどれだけパーティのことを思って準備してくれていたかが分かる。

・・・再会したら欲しがっているものを買い与えてやろう。


あ、そのためには金がいるか。


「ということで色々必要なものを揃えるためにもお金は必要だ。ノア、俺はこいつを治療しているからお前は資金調達と物資補給に行ってくれるか?」


「う、うん!!」

ノアは一度大きく頷いてから俺にエンドルシアを受け渡した。

ノアがエマネージで体力を譲渡したり気を利かせていつのまにか傷口を布で塞いだりしているおかげか出血は少なくなっている。

多分途中で応急手当てしたんだろうな。


エンドルシアは俺の背中にぐったりとした感じに乗っかった。

その際、彼女の大きな2つのアレが思いっきり当たっていたが非常事態なのであまり意識しないようにした。


放っておいたら死にゆくような人間相手にそんな劣情抱いていたら罪悪感半端ないし、それでなくてもバレた時のノアが怖いしな。


「ところでタクミ、どうやってその人のこと治療するの?」

そりゃ勿論『星幽回帰アストラルリライフ』で、と俺がいうことはない。

これの存在はノアにだけは秘匿しておきたい。これの効果を知ってしまうと必然的に彼女が考え、あの時のことに行き着いてしまう可能性が出てくるからだ。


だから俺は適当な言い訳を口にする。


「そりゃあ勿論、教会に連れて行くつもりだよ。あそこは神官が所属する団体だからな。回復魔法使える人いっぱいいるはずだろう。それかもしそれでこの傷が治らなかったら神頼みでもしてみるよ。」

神頼みの内容は文字通りだ。

丁度さっき顔見知りになった神様にこの傷の治療をさせようと思う。

神様だからなんとかなるはずだ、という強い意志で俺はノアを説得した。


実際は俺がなんとかするからそこに行くつもりはないけどな。


「それなら大丈夫だね!じゃあ、ボク行ってくるよ!」


「ああ、終わったらギルドにでもいてくれ。変なのに絡まれても相手にするんじゃないぞ?もし手を出されそうになったらぶっ飛ばしても構わないけどな。」


「わかってるよ!!」

ノアは駆け出してしまった。

冒険者ギルドはこの何処か和風な建物群の中では少しだけ目立つ外装をしているから間違えることはないだろう。

一応、ギルドも神国エディションなのか他のとは違う見た目をしていたが、それでも元がそれを前提としていないので目立つ。



俺はノアの背中が小さくなるのを見てから背中に意識を向けた。


「じゃあっ、俺はこいつの治療をしないとな。」

そう行って俺が向かった先は宿屋だった。

どこかそこらへんで治療してもよかったんだけど、それをもし誰かに見られた場合面倒なことが起こりそうだったのと20分も怪我人を地べたに寝かしておくのは気が引けたという理由だ。



適当な宿を見つけて俺は迷わず中に入る。この際評判とかは度外視だ。

ひと時の間誰にも見られない室内ならどこでもいいからな。


「あらいらっしゃい。」

宿に入ると受付と思しき場所に1人のおばちゃんが座っていた。

年齢は40代中盤程度か?少しだけ茶色がかっている黒い髪を後ろで1つの団子にしている。

体系はふくよかな感じだ。これぞ宿屋の女将という見た目をしていた。


「一部屋、お願いできますか?」


「あら?背中の人大怪我してるじゃない!!部屋なんて取るより早く神殿に連れて行ったほうがいいよそれ!」

俺の背中でぐったりしたままのエンドルシアを見て女将、絶叫。

でもすまないけど本当にそんなやりとりしている暇はないんだよ。


「だからですよ。高級な薬を使って治療するのでその後に安静にさせてあげるために一部屋早くお願いします。」


「あ、あぁ、、、早く治療してやんな。これ、部屋の鍵だよ!あ、その状態じゃ開けるのも一苦労か。こっちだよ!」

この女将はいい人なのだろう。俺を先導するように歩き出す。

そして案内された先の部屋の鍵と扉をあけてくれた。

「早くここに寝かせてやんな!」


俺は案内された部屋の中に入り素早くエンドルシアをベッドの上に横たえさせた。


「ありがとうございます。もう大丈夫です。血で汚れた布団の代金などは後で支払いに行きますので。」


「あ、あぁ、、そんなことより早く治療してやりなよ。そんな傷を治せるほどの高級な薬だから見られたくないだろうしあたしは出て行くからさ。」


「そうですね。気遣い感謝します。あ、高い薬といってもこの傷を一瞬で治せるわけでは無いので少なくとも代金の支払いとかは30分か1時間待ってください。」


「わかったよ。一刻したら様子を見がてらまたくるよ。」

女将はそういって出ていってくれた。とっさに薬を使うといってしまった手前何かを投与しないといけない。


だけど今俺の手持ちの全てはノアに使ってしまって持っていないので追い出すしかなかったのだが、何を勘違いしてくれたのか出ていってくれた。


これは好都合だ。

俺は振り返り横たえられたエンドルシアを見る。そして少しだけだが驚いた。


彼女の目はこっちを見ていた。

確かに俺が街に戻ってきた時も意識はあったみたいだけど目は開いていなかった。

痛みに耐えるようにぎゅっと瞑られていた。


その目がこちらを向いていたからだ。

だが驚いてても仕方ない。

俺は治療のために彼女に近づいた。



「今、辛いから、優しくしてくれると助かる。後、服は、腕がなくなってて脱げない、から、自分で脱がして。」

ん?治療に優しいもクソも無いし服を脱がす必要もないんだけど?

俺が不思議そうな顔をしているとエンドルシアも首を傾げた。


「あ、服は着たままする?」


「そうだなぁ。別に服脱ぐ必要性皆無だよなぁ。」

俺はそう言ってエンドルシアの横たえさせられたベッドの隣に椅子を持っていって座り『星幽回帰アストラルリライフ』の詠唱を始めた。


相も変わらず勝手に動く口だこと。3回目となるともう慣れたもんだけど。

暇な時に自分が何いっているのかちゃんと聞いてみようかな?


ボソボソと呟くような自分の詠唱を聴きながらそんなことを考える。

これであと20分待てばミッションクリアだ。



そんな俺を見たエンドルシアが更に怪訝そうな顔を見せる。

傷が痛むだろうに、喋ったり表情変えたり案外余裕?


「ーーーーー?魔法詠唱、、、本当に治療するつもり?」

おい、本当にってどういうことだよ。お前には俺がどう見えていたんだよ。

そう言いたいが詠唱という行為に口を使っている関係上声は出せない。

俺は目だけでその気持ちを訴えかけた。


するとそれが伝わったのかエンドルシアは爆弾を投下した。


「ーーー性行為が目的だと思ってた。」


「ぶっふぉっ、、、!!」

その爆弾によって俺氏、無事詠唱失敗であります。

詠唱中は別の言葉を発してしまった瞬間失敗に終わるのだ。

仕方ない、、気持ちを切り替えてもう一度ーーーと思ったが爆弾を処理しないとまた失敗しそうだな。


「なんでそんなことを、、、」


「教会に行かずに真っ先に宿に来たから、、、昔知り合いが男が女の人を宿に連れて行くのはそういった行為をする時だって聞いた時がある。わたしにも、その時がーー花を散らす時がきたのかと思っていた。」

ひゅー、こいつはとんでもない早とちり野郎だぜ。そんなことを吹き込んだ知り合いとやらのせいかな?HAHAHAHAHA!!


さて、現実逃避しても仕方ないな。

とりあえず説明だけして作業に取り掛かろう。


「そんな動けないやつを無理にする男に俺が見えるか?」


「見えなくも、ない。」

これはやっぱり切り口が悪かったんだな。まぁいいや。ちゃんと治療さえ完遂させればその考えは誤解だったとわかるだろうし、チャチャッとやっちゃおう。


「兎に角!今から最強クラスの回復魔法を行使するからな!後これ、詠唱時間クッソ長くて20分もあるからその間ちゃんと体力持たせるためにもう喋るなよ?」

俺は問答無用で詠唱を開始した。

エンドルシアはコクリと頷いてもう口を開かなくなった。

じっとこちらを見つめるだけだ。




・・・・怖えよ!!なんでこいつずっとこっち見てるの!?

彼女は特徴的とも言える真っ赤で綺麗な目を俺の方に向けたままじっと動かなかった。

瞬きの回数も心なしか少ないように見える。

素直に上むいて寝ていようよ。そう思いは下が口にしない。口にするとまた始めからだ。



よし、、ここは無心になろう。

俺は機械、、魔法を詠唱するために機械なのだ。

そう心に決めて周りのことは一切気にしないことにした。














そして大体16、7分ほど経った頃だろうか?どこか街中で大きな破壊音が鳴り響いた。

それと同時に悲鳴のような声が離れた場所から聞こえてくる。


ただ、機械な俺はそれを気にしない。

俺はただ詠唱をするだけだ。


後約3分、秒数にして180秒、時間にして0、05時間。それだけの時間じっとしていればいいのだ。

ただ、一応剣は手に持っておこう。

詠唱中は口が使えないだけで動くこと自体には影響はないからな。


なにかきて俺の仕事を邪魔する奴がいたら切り捨ててやろう。

そう思って身構えていたが、、結論から言って詠唱終了まで特に俺たちがいる場所には何もなかった。

拍子抜けもいいところだ、と思ったが街の外からきた何らかしらの脅威が街を襲っていることには変わりない。


あんまり軽く考えるのもよくないだろうな。何がきているのかは大体予想ができているし。


「さて、お待ちかねだ、『星幽回帰アストラルリライフ』発動!!」


凄まじい光の奔流がエンドルシアを中心に解き放たれた。



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