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269 縛りと誘拐

【とあるサリー視点】


リツキさんはリアーゼちゃんがコップを倒してジュースをこぼしたことに対して一切怒らなかった。

それどころかニッコリと笑みを浮かべてお礼まで言う始末だ。


「もう一度言うけどありがとうねリアーゼちゃん。でもリアーゼちゃんジュースがなくなっちゃったけどいいの?まだ飲みたかったならお礼に俺がおごってあげるよ?」


「ぁ、、うん。、、、ありがとう、ございます。」


「わかった。じゃあ同じものを注文するね。すみませーん、ミックスジュースを1つお願いします!!」

リツキさんはそうやって注文を済ませた後、彼の服が吸わずに床にこぼれてしまった液体を拭き取った。

そして食事を再開したリアーゼちゃんの方を見て微笑んだ。

、、、なんだろう。なんだかむず痒い気持ちだ。


「にゃ〜。少年、それはダメだにゃ。」


「ミーナ?」

リツキさんの言動にミーナが突っかかる。

何が言いたいのか、それは私にもわかった。


「少年、おみゃーがこの子を大切にしているのはいつも見ていて知っているにゃ。でもこう言う時はちゃんといってあげないとダメなのにゃ。」


「ミーナさん、やめてください。」

リツキさんの、それまでとは違う雰囲気の声が私の耳に飛び込んでくる。

いつも柔らかな会話をするときのものではない、まるでちょっかいをかけてきた相手に叩きつけるような、そんな威圧感を放つ声だった。


「だ、ダメだにゃ。ここは年上としてはっきりいっとかにゃきゃだめだにゃ!おい、お前、リアーゼといったな!!」


「えっ、は、はい!!」

視線を下げていたリアーゼの顔が前を向く。その顔はどうして呼ばれたかわからないといった様子だった。

私にもわかる。これは良くない。


ちゃんと悪いことをしたら叱らないと、将来立派な大人にはなれない。

私には子育ての経験はないが、人付き合いの経験はある。ずっと甘やかされて生きてきた人間は大人になっても自分を全ての中心として考えてしまうのだ。


「そこの少年が言わないならにゃーぎゃっ、・・・」

そこでミーナの言葉は止まった。

「ミーナ!!?」

呻くように遮られたその声につられて私が見たものは口元と手足を鎖によって縛られているミーナの姿だった。


誰がやっているかなど考えるまでもない、この光景はひと月前、嫌という程見たものだった。


「ちょっとリツキさん!!?」

私はそれをやっている彼を睨みつけたーーーーと思ったら体が動かなくなった。

体の周りからガチガチとした金属が擦り合うような音が聞こえてくる。


どうやら、私もミーナと同じ目にあっているらしい。気づけば口も塞がれていた。


「えっと、、ミーナ、さん?どうかしましたか?」

リアーゼちゃんはこの状況を見ても何も動じた様子はなかった。

まるで私たちが鎖に縛られているのが見えていない様子だった。


「リアーゼちゃん、ミーナさんはトイレに行きたいらしいよ。それでいってもいいかなっていっているんだ。」


「そ、そうなんですか。どうぞ行ってください。」

リアーゼちゃんがそう言うとミーナの体は1人に動き出した。

ぎこちない足取りで、言葉の通りトイレの方に向かう。


「ところでリアーゼちゃんは大丈夫なの?辛くなったらいつでも言っていいからね?」


「は、はい。じ、実はちょっとだけ・・・でも、、」


「いい子だから行っておいで。ちゃんと手は洗ってくるんだよ?」


「は、はい・。」

リアーゼちゃんがトイレの方向に行くのを私は目の動きだけで追った。

その後ろ姿はただのあどけない少女のもの。だが、どうしてだろう?


どこか壊れているような気がした。


そこでふっと、私の体にのしかかっていた重圧が消える。

体の周りに鎖はいつの間にか消えていた。


「あの、」

そのことを確かめていたとき、リツキさんが私に話しかけてくる。


「は、ふぁいっ!!」

・・・不覚にも噛んでしまった。変な女だとか思われていないだろうか?

そう思ったがこちらを見る彼の目はまっすぐで、そんなふざけた思考を許すつもりはないように思えた。


あぁ、、、その目、、、素敵だわ。



「リアーゼちゃんを責めるようなことは絶対に言わないでもらっていいでしょうか?」


「それは、、、どうしてですか?あの子の将来を考えたら今、怒っておくべきではないのですか?」

はっきりとしたものいいではあったが、私も引く気はなかった。

ひとりの少女の未来がかかっている。そう考えたら、引くという気持ちになれなかった。


それとももしかして、ミーナを、友達をあんな風に扱われて少し怒っていたのかもしれない。


「将来なんて、今を乗り越えなきゃ来ないもんなんですよ。いつの日も大切なのは今だけです。」


彼は何を言っているのだろうか?私には詳しいことはわからない。

ただ、どんな人間にも過去があるように、彼らにも何か事情があるのだと読み取ることはできた。


「何か、あったのですか?」


「何もなかった、はずなんですけどね。とりあえず、ああいうのはやめてもらっていいですか?この一月で彼女も結構回復しているんです。それをお釈迦にはされたくありません。」

そこには確固たる意志があった。まるで何か、重い罪を背負うことを決めた騎士のように、まっすぐな目であった。


トクンーーーーー


その目を見たとき、私の胸が少しだけ跳ねた気がした。


「えっと、不躾かもしれませんが私にできることはありますか?」

彼の方を見て話をするだけで、少しずつ顔が熱くなっているような気がする。

なんだろう。彼がこうしてくれ、といえば二つ返事で受けてしまいそうだ。


「そうですね。じゃあ褒めてください。」


「はい!リツキさんはかっこいいですね!その黒い髪もそうですし、まっすぐな目も素敵です。他の冒険者の方と比べて華奢なのに絶対に負けないところもいいです!!そんなに強いのに私みたいな女の子には優しくしてくれたり、いつも仕事終わればプレゼントをくれたりとか、気遣いも素敵だし。それから、ちょっと危険な匂いがするのもーーーー「ちょっと待ってください!!」」


「どうかしましたか?」

「褒めてくださいっていうのは俺の話じゃなくてリアーゼちゃんのことです。ちょっと事情の説明は難しいのですけど、彼女、悪いことが起こったら全て自分が悪いと決めつけちゃう子なので、、、ってことです!」

私の賞賛にリツキさんが慌てたような、困ったような顔で訂正をしてくる。


あわ、あわわわわ、、、、私ったらなんて勘違いを、、、それより今私、どんなこと言ったかしら?


かっこいいとか、素敵とか、、、、


「ぁ、、、あ、、、ち、違いますからね!!私がさっき言ったのは世間一般そう見られているだろうという客観的意見、そう!あくまで客観的意見なのです!!だからあれは私がいつもそう思っているとかじゃなくて、別にじっと見てたりとかしているわけじゃなくて・・・あぁ〜〜もう、、忘れてください!!」


「は、、、はい。」

よし、これでよし!!

誤解は解けて一件落着。心なしか私の顔も少しだけ熱くなくなったような気がーーーー しないでもない。



私が自分のクールダウンを行なっていると先ほど注文したジュースが持って来られた。

何の変哲も無い、普通のジュースだ。


「おう、サリーちゃんそいつは彼氏かい?やっとサリーちゃんにも春がきたってことかなはっはっはっは!!」

・・・・大声でそんなことを叫び散らかすおっさんがいなかったらの話だが。

私とリツキさんが彼氏って、、、そ、そんなん違うし。


「違いますからね!!」


「あ、うんそうですね。」

ほら、当人が両方違うって言っているから違うんです!!

・・・・うぅ、、そんなにあっさり。

君がどうしても言っていうならちょっとくらい考えてあげても良かったのに。


そんなことを思うと私の顔はまた熱くなり始める。


「そ、そういえばミーナはあのままなんですか?」

そこで私は強引だと思ったけど話を変えることにした。


「あー、そういえばそろそろ戻したほうがいいですよね。リアーゼちゃんに変なこと言う前に注意勧告をしないといけないし。」

リツキさんがそう言うと再びぎこちない動きを見せるミーナが現れる。


彼女は離脱させられた時から全く変わらない拘束状態で元の位置に座らされる。

目だけしか自由にできないからなのか、その目は充血していた何かを主張したがっていた。



「ミーナさんも、リアーゼちゃんに責任という言葉を思い出させるようなことを言わないでくださいよ。」

そう言ってリツキさんはミーナの鎖を外した。と、同時にミーナはリツキさんに襲いかかった。

両肩を掴み、そのまま地面に押し倒す。


「やっ、ミーナ大胆・・・じゃなくて何やってるのミーナ!!リツキさんにも悪気があったわけじゃ無いの!怒る気持ちもわかるけど、ひとまず話を聞いて!!」

私は横からミーナの腕を掴む。

他の客は騒動を察知しなんだなんだとこちらに視線を向けていた。


「サリー!!そんなこと言っている場合じゃ無いにゃ!!リアーゼちゃんがさらわれたにゃ!!」

えっ?

「えっ?」

私の心の声と、リツキさんの声が完璧に重なった。


リツキさんはミーナの言葉を聞き一瞬だけ呆然とした顔をしてすぐにーーーーー今までにないくらいの怒りを感じさせる顔を見せた。


遅れてしまって申し訳ない。

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