269 ミーナとサリー
遅れて申し訳ない
【とある受付嬢ーーサリー視点】
「は〜、、ねぇ、どう思う?」
獣王国、エキューバの街の冒険者ギルドで受付をやっている私は同僚であるミーナに声をかける。
今は昼を過ぎた頃でこの時間は冒険者たちは街の外に出ていることが多いので暇になる時間帯なのだ。
「どうってなんのことかにゃ〜?」
私の問いかけにミーナは頭の上の猫耳をぴこぴこと反応させながら首を傾げた。
質問の意図がうまく伝わっていなかったみたいだ。
「あの2人のことよ。」
私は付け足すようにそう言った。その言葉でミーナも何を言われているかわかったみたいだ。
あの2人、とは最近この街のギルドに顔を出すようになった2人の冒険者のことだ。
片方は私たちと同じ獣人、年齢は十代前半くらいだと思われる。
そしてもう片方は多分普通の人間だ。
「あ〜、サリーが最近ずっと気にかけてる2人にゃね。いいんじゃないかにゃ?仕事もちゃんとこなしてくるし、自分から喧嘩を吹っかけることはしないみたいだしにゃ〜。」
「べ、別に私はアレを気にかけたりなんてしてないわよ。」
「そうかにゃ〜?サリー、昨日もにゃーに同じことを聞いてきたにゃ。絶対気になってるはずにゃ。サリーは発情期かにゃ?」
全く、ミーナは冗談ばっかり口にするんだから。確かに気になってはいる。でもそれは単なる好奇心であって、今ミーナが思っているような想いはないのだ。
そこを間違えないでほしい。
「そ、その話は置いておくとしてミーナはあの2人をどう思っているの?」
「あの2人はよく働いてくれてるにゃ。それにたまに美味しいものをおすそ分けしてくれるから大好きにゃ!!」
「だ、大好きって!!?」
「大丈夫にゃよ。サリーの狙っている獲物を横から奪い取ったりはしないにゃ。」
「違うってば!!」
話を元の場所に戻したはずなのに一瞬でまたその話題。人のことを発情期呼ばわりしたミーナこそそうなんじゃないかと疑うくらいすぐそっちに話を持っていく。
それにしても、ミーナはあの2人に対してなんの違和感も覚えていないらしい。
「でもやっぱり少しおかしいと思わないかしら?」
「おかしいかにゃ?確かににゃーたちにおすそ分けしてくるのは発情しているオスくらいだにゃ。そういう奴はすぐにアプローチをかけてくるにゃ。でもあの人間は全くその気配はないにゃね。」
「そうじゃないわよ。あの2人がここ一月で受けた依頼。何か思うところはない?」
「にゃーは別に発情サリーじゃないからいちいち他の窓口で受けた依頼なんて知らないにゃ〜。何かおかしいことでもあったのかにゃ?」
発情サリー・・・・そこに対して言いたいことがあるが、そのことに関してはまた後で説教することにした。
ここでそれに食ってかかっては一向に話が進まない。
「あの2人がこの一月で受けた依頼ね。『薬草採取』『街の清掃』『荷物の運搬』『工事の手伝い』『鉱石の採掘』『屋根の修繕』他、諸々こんな感じよ。何か思うことは?」
私があの2人の達成した依頼を数件読み上げてミーナに何か違和感はないか問いかけた。
ミーナは最初は首を傾げていたが、途中で何かを閃いたみたいだ。
「・・・全く冒険者らしくないにゃね。ボランティア精神がすごいにゃ。」
「そうなのよ!!あの2人、ずっとこんな雑用見たいな仕事ばっかりなの。」
リツキとリアーゼが姿を見せてから一月、彼らは誰でもできるが誰もやりたがらない低賃金の仕事ばかりを受けていた。
私はそれが気になった。彼らが初めてこのギルドに顔を出した時、ちょっかいを出したギャオのパーティが一瞬でやられていた。
喧嘩の理由はリツキが仲間のリアーゼを貶められたとかなんとかだった。
その後も始めの一週間くらいは同じことが続いた。その度にリツキはどこからともなく鎖を出現させてゴロツキどもを縛り上げていったのだ。
そして二週間が経つ頃にはリツキたちにちょっかいを出すものはいなくなった。
その実力を認めたからだ。つまり彼らは強いのだ。
にもかかわらず、実入りの少ない雑用の仕事ばかりで魔物の討伐系の依頼を一切受けない。
そのことに私は首を傾げているのだ。
薬草を10房取るよりゴブリンを3匹見つけて倒した方が儲かるのに、と。
勿論、リツキがリアーゼを危険な場所に連れて行きたくないというのはあるだろう。
だが、彼の実力ならオークくらいなら危なげなく封殺できそうなものだ。
「あ、噂をすれば、にゃ。おーい、リツキ、リアーゼ、こっちだにゃ〜!!」
ふぇっ!!?
ミーナが入り口の方向に向けて手を振った。
そこには今話題のその2人の姿。
彼らはミーナに呼ばれたせいか少しだけ早足になって私のところに来た。
「サリーさん、薬草採取の依頼を達成したので手続きをお願いします。リアーゼちゃん、だして。」
「う、うん。」
リツキの言葉にリアーゼが反応する。彼女は小さな肩掛け鞄から薬草を取り出してカウンターの上に置いた。
私はそれが依頼にあった薬草であることを確認して、依頼達成の手続きをする。
「おー、少年。今日はなにかないのかにゃ?」
「あー、ごめんなさい。俺の方からはないですね。」
「にゃ〜、残念にゃ〜。明日は期待しているにゃ〜。」
「あ、俺からはって話ですよ。」
「?」
「あ、あの、これミーナさんが好きだって言ってたから。」
私が手続きをやっている間隣のカウンターのミーナとリツキたちが楽しげな会話を繰り広げる。
耳だけでそれを認識した私はなぜかムカムカしてくる。
どうしてだろう?リツキがミーナと話している。それだけなのに・・・・
リアーゼは鞄の中から今度は魚の干物を取り出した。
・・・いつも思うんだけどあの鞄どう見ても魔法鞄よね?それが買えるくらいの実力はあるってことか。
魔法鞄は冒険者の三種の神器の一つと言われているアイテムだ。
かさばるものも関係なし、重いものもへっちゃら、何かの拍子に薬瓶が割れることもない。そんな冒険者の憧れる道具があの魔法鞄だ。
そしてその性能ゆえ、結構な値段がする。
「にゃ〜、リアーゼちゃんはいい子だにゃ〜。お姉ちゃんが褒めてあげるにゃ〜。」
ミーナがカウンターから身を乗り出してリアーゼの小さな頭を撫でる。
リアーゼはそれを嫌とは言わずに受け入れていた。
「もっと褒めてあげてください。今日の依頼の薬草もほとんどリアーゼちゃんが見つけたんですよ。」
「そうなのかにゃ?すごいにゃ〜、」
「あ、、、、ぅん。」
リアーゼはミーナの褒め言葉に少しだけ嬉しそうな顔を見せる。だが、笑顔になりきれていない。まるで自分を責めることがあってそれが頭をよぎっている、そのせいで手放しに喜べない、という感じがした。
私は手続きが済んだためリツキに声をかけた。
「はい、これで依頼は完了です。これが報酬の1200Gになります。」
「ありがとうございます。あ、サリーさんには俺の方からこれ、おすそ分けです。」
報酬金と交換するかのようにリツキは私の前に何かを置いた。
なんだろうこれ?回復薬・・・に似ているけど違う。
「なんですかこれ?薬?」
「あ、それ栄養剤です。最近何か疲れているみたいだったから、よかったらつかてください。」
えっ、リツキくん。私のことちゃんと気にかけてくれていたんだ。
ちょっと嬉しいな。
「あ、ぁりがとう。」
「にゃ〜、サリーが真っ赤になっているにゃ〜。お前も隅に置けないにゃ〜。」
ミーナがリツキの肩をバンバンと叩いている。ちょっとミーナ!そんなんじゃないって!!
「あ、じゃあ俺はこのくらいで。また明日来ます。」
「あ、ちょっと待つにゃ。」
「はい?どうしました?」
立ち去ろうとしたリツキをミーナが呼び止める。
彼はそれに嫌な顔は一切せずに振り返った。
「今日の夜、空いてるかにゃ?」
ちょっとミーナ!!?
「あ、はい。今日はこれで仕事終わりなので宿に戻ってゆっくりするくらいしかないですね。」
「じゃあちょっと夜付き合ってほしいにゃ。一緒に食事をするにゃ!!」
「あー、はい。それはリアーゼちゃんも一緒でも?」
「それでいいにゃ。リアーゼちゃんも一緒にくるにゃ。今日はにゃーのおごりにゃ!」
「あー、それはありがたいですけどお題はちゃんと出しますよ。じゃあ、日暮れごろにまたここにくればいいんですか?」
「それでいいにゃ。にゃーたちの仕事終わりくらいに来てくれたら助かるにゃ。」
「わかりました。では、さようなら。」
リツキはリアーゼと一緒に行ってしまった。私は呆然とそれを見ている。
そして彼らの姿が見えなくなってから、隣にいるミーナに掴みかかった。
「ちょっとミーナ!!?あなた何を!!?」
「あ、サリーも参加するにゃ。」
「ふぇっ!?」
「あの少年が気になってるんにゃら、積極的に行くべきなのにゃ。」
「べ、別に気になってないって何度言ったらわかるの!!」
「でもサリーさっきその栄養剤もらった時すんごい嬉しそうにしてたにゃ。あれは恋する乙女の顔だったにゃ。」
もうこうなったらミーナが止まらないことは今までの付き合いでわかっている。
となると、私はミーナに無理やり食事に連れていかれて、、、そこにはリツキがいて・・・
で、一緒にお話とかして、、、そのあとは、、、、
「ふしゅぅ〜〜・・・」
「あ、サリーがオーバーヒートしたにゃ。やっぱりサリーは発情サリーだったにゃ。」
私は思考についていけずに目を回した。
今後は獣王国のリアーゼ編を重点的に書いて、そのあと主人公たちに視点を戻す予定です。