264 紳士的な発案と色々とアウトな提案
少し短いです。
「あー、やっぱりというべきか、結構荒れてるね。」
宿屋の二階の窓から通りを見下ろす律識がそう呟いた。
彼の視線の先では些細なことから言い争いが始まり果ては殴り合いにまで発展している現場が見える。
彼はそれを他人事のように見下ろしていた。
まぁ、実際他人事なのではあるが。
「・・・はい、そうですね。」
リアーゼがそれを身もせずに力なく返す。
そんな彼女を見た律識ははははと苦笑した。
今、彼らがこの街に転移してきてから二週間が経っていた。
情報が出回るのは早いもので、たった一週間で人族側の王が全員魔王だったという情報は大きな街にはある程度知れ渡っている。
それを聞いた住民たちは初めは信じられないという風に多少疑う程度でしかなかったが、その疑いの気持ちと言う名のストレスを抱えたままの次の一週間で街は荒れ始めていた。
国の上層部はこの自体を把握してはいるだろう。だが、徒らに民衆を混乱させないために獣王国では情報統制を行い下々の民にその情報を公にすることはなかった。
だが、そうしたものも絶対ではない。
情報とは人から人に伝わっていくものだ。人の口には戸は立てられないとはよく言ったもので、その情報は商人や冒険者と言ったものたちから次々と伝えられていった。
そして数々の筋から入ってくる情報にだんだんとその疑いは確信めいたものに変わってくる。
すると今度は逆に周りが信じられなくなってくるのだ。
数週間前まで自国の王だったものは魔族が成り代わっていたものだったのだ。
他の魔族がどこにいてもおかしくはない。
いつもよくしてくれる隣人は?本当は魔族でいつか自分を食おうとしているのではないか?
あのいつも食料を買っている肉屋は?
もしかしたらあれは人間の肉だったのではないか?
そんなありもしないことまで考え出す始末だ。
「よくもまぁ、肩がぶつかったってだけでガチの殴り合いにまで発展するものだよ。」
窓から見える光景を見ながら律識はため息をついた。
ここは危ない。
だからすぐにでもどこかに逃げてしまいたいのだが、どうせ他の街も同じものだと、そう気づいているのだ。
「・・・はい。私が悪いんです。」
「リアーゼちゃんは悪くないよ。悪いのは魔王さ。」
リアーゼはあの日から落ち込んだままだった。少しずつ荒れていく街の様子を窓から見て、それの原因が全て自分のものであるかのように心を荒ませていった。
律識は必死になって元気付けようとしているがそれが効果を成したりはしなかった。
(う〜ん、、、リアーゼちゃんずっと元気ないなぁ・・・罪の意識、これが原因で落ち込んでいるんだろうね。自分は悪い子だって思い込んでいる。ん?ならその逆をすれば・・・・)
二週間、律識は色々考えそれが今一つの案として形になって彼の頭に現れた。
律識はその名案を実行しないわけにはいかなかった。
『紳士の十戒』
『紳士たるものの義務』
『紳士の誓い』
『紳士協定』
に則って神を落ち込んだままにさせるわけにはいかなかったのだ。
ちなみにこの4つ、それぞれ立法者は別々のため内容が重複していることがある。
それ故にどれか一つだけでも徹底していれば他のものに抵触したりすることはほぼないのだが、律識はその紳士さゆえに全て丸暗記して実行するほどの重病者だ。
律識は思い浮かんだ案を口にした。
「ねえ、リアーゼちゃん。」
「・・・・はい?」
「リアーゼちゃんは自分が悪いこと思っているみたいだからさ、、、、僕と一緒にいいことをしないかな?」
律識的には慈善活動をして心を改めようという発想だったのだが、、、、その発言は色々とアウトだった。
「・・・はい、、それで気がすむなら、私を罰してください。」
気落ちしているリアーゼはそれを真正面から受け止めるべく身を強張らせながらも目を閉じた。
「あれ?」
律識が自分の発言の危うさとその勘違いに気づいたのは日が暮れてからのことだった。
投稿ペース、ちょっと落ちるかも。少し忙しい?