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262 混乱と蒐集


その日、世界中で騒ぎが起こった。

その情報はアレスの街を中心に瞬く間に広がり、多少の尾ひれをつけながら大陸の端まで伝えられる。


その内容とは魔王の降臨。


というよりかは今まで自分たちが信奉してきた国のトップに魔王が成り代わっていたということだ。

これにより人類種の街は混乱に包まれ、逆に魔族の住まう国、魔国領では歓喜の祭りが開催されていた。


そしてこの混乱を抑えようとするものがほとんどいないのも問題であった。

何せ国の頭が揃いも揃って敵勢力、つまり現在混乱を納めるために本来表に立つべき王がどの国も存在しないのだ。

そうした中で人々は疑心暗鬼に陥っていく。


昨日まで笑いあった隣人すら信じられなくなるのはもはや時間の問題であった。







・・・・と、全く関係のない場所でも大きな騒ぎが起こっていた。

その場所は神国の都、神の住まう街テンゲン。

今この街の人間たちは突如として街の近郊に集まり始めた魔物の大群を発見し騒ぎになっていた。



そしてその現象を起こした人間が1人、集まり始めた魔物を見て満足げに頷いている。


「想像以上だな。」


「むー、本当に大丈夫なんだよね?無茶はダメだよ?」


「このくらいしないと一気に強くはなれないからな。ちょっとくらい大目に見てくれよ。」

騒ぎの元凶たる2人に全く悪気はなかった。





時は少し前に遡る。

時間軸としては弘人の住まう社から出て、案内の任務を終えたソーカが匠たちを解放して門の警備に戻ったところだ。


「ねえタクミ?どうしてあんなことになってたの?聞かせてくれるよね?」

ノアがどうして匠が弘人と戦っていたのかを問い詰めていた。

匠はどう答えるべきか悩む。それを正しく説明するためには自分のことを話さなければならないからだ。


そして少しの葛藤の後、匠はノアには正直に話すことに決めた。

この世界に来てずっと一緒にいて、それで恋人関係にまで発展した相手だ。

匠とて隠し事はしたくなかった。


「ノア、ちょっとだけ荒唐無稽な話をするけど、信じてくれるか?」


「信じるも何も内容次第だけど、ボクはタクミのことは信じるつもりでいるよ。」


「そうか。」

匠はその言葉で少しだけ安心する。それを話してもいいんだと言われたような気がしたからだ。

そして話し始める。

自分が異世界からやって来た人間ということと、故郷に帰るための手段を弘人が知っているらしいということを。


少し言葉足らずな部分があったが、彼なりに真摯に説明をしたしノアもちゃんと理解ができていた。

「それで力ずくても教えてもらおうとしたってことかな?」


「いや、ちょっと違うな。あいつは自分よりは強くないとその手段を教えてやらないって言っていたんだ。だからあの場で戦って勝ったら教えてくれってことで勝負を挑んでな。」


「それで負けたってわけだね!」

「うっ、、まぁそうだけど。」

ノアのはっきりとした物言いは匠の心にぐさりと突き刺さった。彼としては出来るだけノアには無様な姿を晒したくない、そう言った男のプライドのようなものがいつの間にか根付いていたからだ。


「というわけでだ、俺は今から強くならなきゃいけない。最近はサボっていたけど冒険者家業をまた全力で取り組もうかなって思っている。」


「むー。」

匠の言葉にノアはあまり乗り気ではなかった。それを彼は不審に捉えた。

いつのもノアならここで勢いのいい返事を聞かせてくれるはずだからだ。


「どうしたんだよノア。」


「う〜、、、やっぱりタクミ、元の世界に帰りたいの?」


「帰りたくないって言われたら嘘になる。もし帰流手段があるんならそれを手にしておきたいんだ。」


「、、、ボクを置いて行っちゃうの?」

匠が元の世界に戻る際、自分が置き去りにされてしまうならば協力はしたくない。

それが紛れも無いノアの本心だった。それが匠を悲しめる行為であったとしてもそう考えるだろう。

そのくらい、ノアにとって匠はいなくなってほしく無い存在になっていた。


ノアの目にはいつの間にか涙が溜まっていて、必死に流れでないように堪えているようだった。



そんな悲しげな目で見つめてくるノアを見た匠は一瞬たじろいだが、すぐに誤解を説かなければいけないと思い弁明を口にした。


「いやっ、違うぞ!!そんなことは絶対にしない。こっちから向こうに行く方法は難しいかもしれないけど、向こうからこっちにくるのは簡単なんだ。それこそ、簡単すぎて知らぬ間に落ちて来たのが俺だからな!!」

こっちの世界から元の世界に行く方法は教えられていない。


だが、逆なら簡単だ。

VRマシンに『Eternal Reality 』のソフトを入れて電源をつけるだけだ。

匠は向こうに戻りたいのは少しだけの心残り、残して来た母親に挨拶をしたいのと、自分を追うように巻き込まれてしまった律識を送り届けたいからだと主張した。


ノアの目の涙が少しだけ引っ込んだ。


「・・・本当だね?ボクを捨てるわけじゃ無いんだね?」


「当たり前だろ!!むしろノアこそ俺を見捨てないでくれよ?」


「そんなことボクがするわけないよ!!」

ノアの目にもう涙は溜まっていなかった。彼女は匠に飛びついてその体をぎゅっと抱きしめた。

その顔は満たされている顔だった 。


「というわけでだ、俺は今から強くならないといけない。だからノア、手伝ってくれるか?」


「うん!!匠のためにボク頑張っちゃうよー!!それで?まずは何をすればいいのかな?」


「そうだなー、手っ取り早く強くなるにはやっぱり多くの魔物を倒すのが一番だよなー。よしノア、『災禍の渦中ディラプサー』のスキルを自分から使って魔物を集めてくれ。そしてそれを俺たちで倒す、これで行こう!!」


ノアの固有スキルである『災禍の渦中ディラプサー』は持っているだけで多くの魔物と出くわすスキルだ。

本来なら忌まれるべきスキルなのだが、匠にとっては敵を効率よく集めるための便利な道具程度にしか感じていなかった。


「え〜、、多分自分から使うこともできるけど、それをやっちゃうと多分今までの比じゃないくらい集まると思うよ?」

例えるならこれまでであった魔物の大群は密閉された箱から少しだけ漏れ出ている力によって集められた魔物だった。


それを解放したらどれだけの敵が集まるのだろうか?検討もつかない。ただ、集まりすぎるということだけは言えるだろう。

能力の持ち主であるノアはそのことを危惧している。


「大丈夫だ。今までの統計から俺たちの実力よりふた回り以上弱い魔物しかそのスキルに反応しないはずだ。それならどれだけこようが問題ないさ。」

匠は割と早い段階で集まってくる魔物の強さに上限があると気づいていた。

初めはゴブリン、そしてマタンゴ。

ハイスケルトンからウルフ、そして姑息狐。

アードラや毒蛇の魔術師サーペントゼニス

それも簡単に倒せてしまうものばっかりだった。


いつのものを見てもその時倒せない質の魔物は来ていない。

明らかに彼らの成長に合わせるように集まってくる魔物も強くなって行くようだった。



「それなら大丈夫・・・かな?危なくなったらすぐに逃げるんだからね?それだけはちゃんと約束してよ?」


「おう、じゃあ街に迷惑にならないようにある程度離れてから集めるとしようか。」


「よーし。久しぶりの2人きりでの冒険、腕がなるなー!!」

その1時間後、街は騒ぎに包まれた。



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