260 創造神と罪の声
「うわぁ、すっごいねタクミ!!」
その街並みを見渡しながらノアが目を輝かせる。俺はそれに素直に頷いた。
俺はそれを懐かしいと感じて頷いたのだが、ノアとしては初めて見るものに素直に驚いている感じだった。
その街並みは和風チックなものだったのだ。
王国ではこんなもの見なかったからな。・・・何故か食事情だけは和食もあったけど。だけど向こうは建物は基本石造りのものが多かった。
それと、歩いている人の服も和風だ。
西洋風の装備の俺たちは浮いてしまっている。
俺たちはそんな街中をソーカの先導とともに歩く。
そして俺たちは建物群から一転して軽く山を登り、その後ある建物の前で待機させられた。
「君たちは少しの間ここで待っているように。言っておくが、逃げ出すんじゃないぞ。」
ソーカは俺たちに釘を刺してその建物に先に一人入っていく。
ヒロト様とやらの御目通りの許可を得に行くらしい。
その少しの時間俺たちは二人だけにされてしまう。
「それにしても不思議な建物だね〜。向こうでは見たことないや。」
「これは神社だな。」
「じんじゃー?それはなんの建物なの?」
「んー、神様を祀るための建物、かな?」
「へー、詳しいね。もしかしてタクミって以前にここにきたことあったりするの?」
「いや、ないけど似たような場所を知っていてな。」
「ふーん。」
そんな会話をしながら数分間待っているとすぐにソーカが帰ってくる。
「許可は下りた。では、行こうか。」
「おー、ついに、だね!」
「先に言っておくがこの先におはせられるは我らの神だ。決して失礼のないようにな。」
「わかったよー!」
俺のノアは頷いた。
俺たちはソーカの案内の下そのまま社の中に立ち入った。
その建物の内装は元の世界で見たそれとそっくりだ。
当然、細かなところで違いはあるがそれは本当にわずかな差で、逆にそれは元の世界のものと同じだということを教えてくれる。
俺たちは少しの間通路を進み、そして目的の部屋に連れて来られる。
当然その部屋と廊下を隔てるのは扉ではなく襖であった。
「ヒロト様、連れてまいりました。」
「おー、来た?遠慮せずに開けて入って来ていいよ。」
軽いなヒロト様!!そう思いはしたが口にはしない。変に主人を貶められてソーカにキレられでもしたらおおごとだ。
ソーカの手によってゆっくりと襖が開かれる。
その先にいたのは一人の男だった。
年齢は30後半くらい?黒くて短い髪だ。
来ている服は高級品と一目でわかる和装だった。彼がヒロト様とやらなのだろう。その男は俺たちを一度じっくりと見る。
品定めをされているようで居心地が悪かった。
「ふむ、、、なるほど。やっぱりね。さて、3人ともどこか好きなところに座るといい。座布団はそこから勝手にとってね。」
そう言う彼の口調はやはりどこか軽かった。まるで友人にでも接するようである。
「ヒロト様。あまり適当な態度を取ると侮られるのでおやめくださいとあれほど言ったではありませんか。」
ソーカは普段からこんな様子らしいヒロト様に苦労しているみたいだ。
だが当人はどこ吹く風だ。ただ、表面上は謝罪の言葉を口にする。
「あー、はいはい。今度から気をつけるからここは普通にやらせてね。」
あぐらをかいて座ったままの姿勢で腕を軽く振りながらそう言ったヒロト様に反省の色は見られなかった。
多分だけどまた今度もやるんだろうな。そんなところだけは信頼できた。
「・・・んー、、思ってたのと違う?ボク、もっとすごい人が出てくるのかと思ってたよ。ほら、ソーカさんってキリッとした感じでかっこいいし、その主様ってなるとね?」
そんな彼の言動を見たノアが小声で俺に話しかけてくる。
だがその言葉を拾ったのは俺ではなく他でもないヒロト様だった。
「ごめんな。こんなのがソーカの主人で、もっとすんごい神様とか想像してただろうにな?そうだな・・・こんな感じに髭とか生やしてー、それで黒い法衣とかまとってさ。」
隣にいた俺でもギリギリ聞こえるかどうかの声を彼は正確に聞き分けて返答をする。
彼がそう言うとその通りの姿になっていった。
顎からは長く白い髭が生え、和装だったその服装は黒衣に包まれている。
そしていつの間にか派手な装飾の杖が握られていた。
「っ、お前!!ヒロト様に失礼のないようにといったであろうが!」
そしてその行動でソーカにその発言がバレた。
入り口で言われたことを完全に無視した言動をしたノアに怒りの感情を向ける。
「あー、いいよソーカ。というか僕としては堅苦しい方が苦手だ。そっちの子みたいに遠慮なくいろんなことを言う人の方が接しやすくていい。」
ヒロト様はそう言って髭と杖と服を戻した。どう言う仕組みだろうか?
ソーカは主人に言われたとあってはこれ以上糾弾することはできずに最後にひと睨み効かせて前を向いた。
「じゃあそろそろ本題に入ろうかな?ソーカ、説明を。」
「はっ!!」
そこから少しの間ソーカによる状況の説明が行われる。
そうは言っても起こったことなどごくわずかで、直前んことなので説明はすぐに終わってしまう。一応ここに俺たちを連れいる許可を得た時に説明はしていたようで、これはどちらかと言うと双方に対する確認というものだ。
「ということで、ヒロト様の判断を仰ごうとここに連れて来た所存です。」
そしてすべてを聴き終えた後、ヒロト様は口を開く。
「うん。君の直感が連れて来た方がいいって言っていたね。合いも変わらずよく働くことだ。とにかく、よくやってくれた。」
「ありがたきお言葉、感謝します。」
彼の言葉にひとまず感謝をして頷いたみたいだが、ソーカには何が手柄になっているのかがいまいちよくわかっていないみたいだ。
そんな彼女を放っておいてヒロト様は俺たちの方を向いた。
「さて、よく来たね匠くん。僕は弘人、常世 弘人だ。この名前に覚えはあるかな?」
ヒロト様は自分の名前をフルで名乗った。それに俺は驚愕した。
弘人?常世、弘人?
「常世 弘人だって!!?えっと、同姓同名ではなく!!?」
「うん、というか名前はともかく僕の苗字は結構レアだからかぶることはほぼないんじゃないかな?」
「な、なにタクミ!!?この人のこと知っているの!!?」
突然の俺の反応にソーカは目を見開きこちらを振り返り、ノアも同じような表情で俺にそう聞いてくる。
この人が何者か。という質問に対しては俺は正確な答えは出せない。
だが、なにをやった人なのかは思い出すことができる。
「というか僕も驚いたよ。いつも君みたいな人を見つけてはこの名乗りをやっているんだけど、反応してくれたのは君が初めてだ。どこで知った?」
「俺は、、、、図書館で。『渡り人』を読んで。」
「おお、読んでくれたか。と言ってもあれには仕様とか現状とかくらいしか書いてないからがっかりさせてしまったかもしれないけどね。」
ふっ、と弘人は息を吐いた。
彼は俺と同じ人、つまりは異世界人を見つけては同じ質問をしていたのだという。
「ヒロト様!!?この者たちはあなた様の御知り合いで?」
そこで黙っていたソーカが口を挟む。
自分の主といきなり現れたものが自分の知らない会話をする、ということに何かを感じ取ったのだろう。
「ん〜、、、知り合い、ではないんだけど。まぁ、そっちの男の方は僕と同類って感じかな?いや、色々違うんだけどさ。」
弘人は俺たちの関係をどう答えていいかわからず迷った風に言葉を選ぶ。
確かに、関係を聞かれれば他人だろう。だが、たったひとつの共通点がそう言い切ることを邪魔している。
「えっとタクミ?そろそろ聞かせてもらっていいかな?この人は誰なの?」
ここで1人、一番状況についていけていないノアが挙手をして尋ねて来た。
俺は弘人の方を見る。彼は俺の視線に気づいてしっかりを頷いた。これは言ってもいいということだろう。
「この人が騙っているとかではないならこの人の名前は常世弘人。端的に言ったらこの世界を作った神様・・・で、あってるよな?」
「そうだね。あっているよ。」
神様の言葉はやっぱりどこか軽かった。
ーーーーーーーーー一方その頃獣王国某街。
「あー、みんなどこ行っちゃったんだろうね?リアーゼちゃん、わかる?」
「、、、わかりません。ごめんなさい。私のせいで、、、」
律識の質問にリアーゼが俯きがちに答える。その姿はいつものものに戻っており、どこにも黒いものはまとわりついていない。
「じゃあここがどこかは?」
「多分、獣王国だと思います。」
「おおっ!!それがわかるなんてさすがリアーゼちゃんだ!!賢い、小さい、可愛いの三拍子が揃って最強だね!」
律識はお調子者っぽく答える。
「、、、はい、ありがとうございます。」
律識自身もこれはないなと思える発言だったが、それを受けたリアーゼの表情は暗い。どうやら転移前の悪状況の主だった理由に自分を入れているみたいだった。
律識はため息をつく。
(なんとかして元気付けたいんだけど、ずっと落ち込んだままなんだよな。う〜ん、このままじゃいかんよなぁ。十戒にも書かれているし。)
律識は紳士たちによって決められた十戒、通称『紳士の十戒』の第2項目を思い出しながらリアーゼを見る。
汝、神を落ち込ませることなかれ
これは自分たちでどうこう、というよりも暗い顔をしている神がいたら元気付けてやれという意味である。
そこにそれ以外の感情はなく、得られる神の笑顔によって紳士は救われるのだ。
律識はその戒言を必死に守ろうとしているのだ。
だが、その努力が全く報われる様子がない律識は思わずため息を漏らす。
(おっと、いい紳士は淑女に弱みを見せてはいけないのだ。)
彼は大きく息を吸い込んで吐き出す深呼吸をした。
これで気持ちをリセットだ。
「、、うぅ、、ごめんなさい。私のせいでみんな離れ離れで、みんな傷ついて・・・」
リアーゼは闘技場での記憶を振り返り懺悔する。彼女は転移の直前、ノアの両足がなくなったことも見えていた。
自分が役割を果たさず、それどころか相手に組して戦ったからそうなったのだと思い込んでいるのだ。
実際、リアーゼが動けなくなったのは『世界』の獣型殲滅攻撃にあるわけだし、影化したリアーゼは律識が鎖で完璧に抑えていたから彼女による被害は全くと行っていいほどない。
だが、そのことを律識が伝えても聞く耳を持たない。
それにリアーゼはもうひとつ、みんなに謝りたいことがあっった。
「うぅ、、みんな大丈夫かな?ごめんなさい。」
「大丈夫だって、匠とかはなんやかんやなんとかなりそうだしノアちゃんは匠を呼べる。それにリリさんがどうこうなるのは想像すらできない。むしろ一番やばいのは俺たちだからほら、みんなの心配とかしないでいいって。自分のことだけ見て生きていこうぜ!」
律識渾身の励まし。というかそれはただの彼の主観であった。
ノアと匠は一緒にいるだろうし、リリスは覚醒したので例え魔王が来ても単独撃破もたやすそうだった。
今はむしろ王様が魔王だったと判明した国の街にいる自分たちの方が危ないんじゃね?というのが彼の考えだ。
「でも、、、でも、、みんな、お金持ってないよ?ご飯、食べられてるのかな。。。」
リアーゼが謝りたいこと。それはパーティの資金をリリスのものを除き全てリアーゼが保有していることだった。
果たしてみんなは飯にありつけているのだろうか?もしそうでなければ自分が原因じゃないだろうか?
そんな思いがリアーゼの中にはあった。
「あー、、ま、まぁ、あいつらのことだから金くらい現地調達するだろう。最悪、物々交換で食べ物もらって食いつないでその間に稼ぐとかすればいいし。」
果たしてあの友人でも素寒貧状態で両足のなくなった彼女を養いながら行動ができるのであろうか?
リアーゼの言葉に若干不安になった律識であった。