259 神国と武神
槍を突きつけられた俺たちはどう対応していいか分からずに言葉を詰まらせる。
ここが外であり、そして俺たちが先ほどいた場所がやはり洞窟であったということは確認できたのだが、その入り口の扉の前に人が二人も立っていたことを考えるとどうやらここは何者かに管理されている場所ということになる。
そうなるとそこに勝手に入っていた俺達は明らかな不審者でーーーーーー
きゅううぅぅぅぅ・・・
俺がどう対応しようかと状況を整理していると、俺の後ろから可愛らしい音が鳴り響いた。
後ろを確認してみるとノアが顔を赤くしてお腹を抑えている。
「うっ、、、ち、違うんだよ!!これは違うんだよ!!」
まだ誰も何も行っていないのだが彼女は全力でそれを否定した。もしかしなくても先ほどのは彼女の腹の虫が鳴いた音だろう。
そういえば、俺も腹が減ったな。
「・・・そこの二人、何か食べ物持ってない?あるならできれば分けて欲しいんだけど。」
ダメ元で聞いてみる。
「くっ、怪しいやつらめ!貴様らが食えるのは地獄の釜の飯だけだ!!」
男性の方が全力で反発してくる。
「まぁそういうな弟よ。見てみた限り何か事情があるようだぞ?存外、悪いやつではないのかもしれん。」
女性の方は少し好意的だ。今の発言を真に受けるならこの二人は姉弟ということだろうか?
性別が違うせいかあまり似ているようには思えない。
弟と呼ばれた方は気が立ってはいるが無駄にトゲトゲしているだけで臆病そうだ。
とりあえず威嚇する不良そっくりだ。
姉の方は尊厳な感じを漂わせてしっかりと構えている。
「でもよ姉貴!!見覚えのないやつが封印の祠から出てくるのはおかしいだろうが!!そもそも、人がいること自体おかしいんだ!!」
へぇ、この洞窟は封印の祠っていうんだ。
何を封印しているんだろう?やっぱりやばい魔物とかかな?
「確かに、この中に人がいるのはおかしい、か。ということでそこの2人。なぜお前らがここにいるのか、正直に話してくれるな?」
姉の方が俺たちの方へと説明を促す。正直な話、こちらとしても話せることは少ない。
俺はここにいる経緯を軽く話す。
ざっくりとアーカイブ王国のアレスの街の闘技場にいたこと。
転移をさせられたことだ。
「アーカイブ王国・・・といえば海の向こうにあるという国の一つか。そして転移ねぇ・・・」
「そんな奴の戯言信じるなって!!どうせこっそり忍び込んだのがバレたから嘘ついてるに決まってる!」
「しかしだ、ここに忍び込むなどできるはずがなかろう?常に誰かは唯一の入り口であるここで見張っているんだ。」
「どうせ夜勤のやつが居眠りでもした隙に入り込んだんだろうよ。」
「でもそれなら扉はどうする?あれを誰にも気付かれずに開けることなど不可能に厳しいぞ?いくら居眠りしていたとしても音で気づくはずだ。そもそも普通のやつにはこれは開けられん。」
俺たちを放置して議論が進む。いや、あんまり進んでいないように思えるが。
ともあれ俺としては一応味方のような気がする姉の方に加勢するべきなんだろうな。
まぁ、なんか怖いから話の流れが悪くなるまでは放置するけど。
「だがこいつが自らの手で扉をこじ開けたのは姉貴も見てただろう!!?そもそもそんなことできる時点で危険なやつなんだよ!」
む、失礼なやつだ。ちょーっと力が強いだけだってのに。
それに、俺はスキルの補正で無理やりこじ開けたけど多分リリスなら簡単に開けられたぞ?
「兎に角、こいつらが良いやつか悪いやつかは置いておいてもこの中にいたというのは問題だろうが!!」
「む、それはそうだが、、、まぁいい。お前はここに残れ。私がヒロト様の下にこいつらを連れて行くことにしよう。」
姉の方はそう言って槍を下ろした。
とりあえず話はまとまった感じかな?そしてヒロト様ね。とりあえずそいつがこいつらのボスでここに何かを封印しているということかな?
「ということだ。君たちは私についてきてもらう。来てくれるな?」
「ああ、逃げてもいいことなさそうだしな。ノア、この人が案内してくれるらしいぞ。」
「わかった。ついていけばいいんだね?」
これからどこに連れていかれるかがわからないというのに、ノアは元気だなぁ。
きゅるるるる、、、、
あと、ノアの腹も元気だなぁ。
「ちょっ!!?姉貴一人で連れて行くのか!!?数で勝った瞬間に襲いかかって来たり・・・」
「お前一人増えたところで変わらん。むしろ相手からしたら的が増えていい気分だろうよ。そもそも、私が簡単にどうにかなるとでも?」
おお、随分と弟に辛辣な姉だな。
姉の言葉に弟は「うっ、」と言葉を詰まらせて下を向いてそれ以上は何も言わなくなった。
多分というか確実にパワーバランスに大きな差があるのだろう。
俺のできるだけこの人には逆らわないほうがいいな。そんなことを思った。
「それでは行こうか。それにしてもよかったな。」
「よかった。?」
「ああ。今日の見張りが私たちで。もし他の血気盛んなやつだったら扉を開けた瞬間にドスッとやられていただろうな。」
そのことを聞いて俺は少しゾッとした。
本当にこの人で良かったと思う。
「大丈夫だよ!!そんな人たち、タクミがサクサクーってやっつけちゃうから!!」
こら、ノア!あまりそうやって刺激するようなことをいうんじゃない。
「ほう。一目見た時から我が愚弟では相手にすらならんだろうと思っていたが、やはりお前らは相当な強者なのだな。」
「今のはノアなりの冗談ですよ。不意打ち受けたら逆にサクサクーってやられるのはこっちの方です。」
「じゃあ不意打ちでなければ?」
「相手次第ですかね?」
さっきの弟くらいならスキルの補助を受けなくてもステ差だけで勝てるだろう。
悪いが見た感じ律識でも倒せそうな雰囲気だった。
「相手次第・・・それはあの我が弟のことを見て言っているんだろうな。ふふっ、あれは門番の中でも下の上程度の実力しかないからな。本当、恥ずかしい限りだよ。」
俺の言葉に目の前の女性は愚痴をこぼすようにそう言った。
だがそこまで言うほどだろうか?
確かに俺から見たらそこまでの相手ではあるが、一般人から見たらかなりの強者だぞあれ。
「ねーねー。それよりさー、お姉さんの名前はなんて言うの?呼び名がわからないと呼びにくいんだけど?」
俺たちの会話が聞いていて面白くなかったのかノアが突然そんなことを聞きはじめる。
いや、どっちかで言うと空気が悪かったのか。
「む?そういえばまだ名乗っていなかったな。私の名はソーカという。これでもヒロト様より『武神』の称号を賜りし戦士である。」
姉の方改めソーカは自分のことをそう綴った。
なんか、すっごい普通に会話してたけどかなりすごい人っぽい。
あれだな。槍を向けられたからって喧嘩売らなくて良かったな。
果たしてこんな偉大な姉が上にいてあの弟は真っ直ぐに生きていけるのだろうか?ちょっと心配だ。
「えっと、『武神』ってどんな称号なの?」
「ざっくりいえばこの国最強の称号だ。まぁ、私にはまだすぎたる称号であると思うのだがな。賜った以上それに恥じぬ態度を、それを誇る姿勢を見せなければならん。」
ソーカはそう言って前を向いた。
その目はどこか遠く、遥か高みを見据えているようであった。
というか、今の言葉で確信したわ。俺たちやっぱり国外まで飛ばされている。
それも多分ここは神国だ。
さっきの会話と今のセリフを統合して俺はここがどこなのかを割り出した。
彼らの会話の中でアーカイブ王国、俺たちがいた場所は海の向こうと言っていた。それに加えて国最強の称号。
以前ベイルブレアの図書館で読み漁った時に見た地図で陸続きになっていない国といえば神国くらいしかないのだ。
まぁ、一応他の国の可能性も考えられなくはないけどな。
それに気づいた時、俺は少しだけだが胸をなでおろした。
「む?どうした?何をそんなに安心しきった顔をしておる?」
「いや、飛ばされたのが獣王国と魔国と王国と帝国のいずれかじゃなかっただけ良かったなって。」
魔国はいわずもがんだが、その他の三つはトップが魔王だったっていうことが判明したからな。
今頃国中はパニックになっているのではないだろうか?
考えても今あっちがどうなっているか知るすべは俺たちにはないんだけどな。
「・・・?そうか。」
ソーカの方は俺の思いがわからずにとりあえず頷いた感じだった。
「タクミ、安心するのはまだ早いよ!!他のみんながどこにいるのかわかってないんだから!!もしかしたら危ない状況にいるのかもしれないでしょ!!」
だがノアはこの状況を楽観視していなかった。俺たちしかいない状況、他のみんなも同様に飛ばされたであろうことは予想できていたのだろう。
そしてどこに飛ばされたかわからない。
不安になるのも当然だ。
「そうだな。」
「・・・やはり何か事情があるのだな?」
「そんな感じです。」
「それより、見ろ。街が見えてきたぞ。」
ソーカが遠方を指差す。
その先には確かに街の外壁が見えていた。