26 少女の心と炎の中
骨の魔剣は使用者の正しい心を吸い取る。
それが目の前の少女を見た俺が出した結論だった。
自分で出した答えだが、その答えに俺は一番納得がいっている。思えば不思議だったのだ。
何故、闇属性であろう高位のアンデッドの骨から、光属性の武器ができるのかということが・・・
「それが正しいなら、あの剣を壊せば何とかなるかもしれない!!ノア、剣を狙え!!」
「分かったよ!!タクミはできるだけ近づかないように気を引いておいて!!」
俺がひきつけ、ノアが攻撃をする。ここ数日、幾度となく繰り返した連携を俺たちは発揮する。
「ほら、こっちだぞ!!」
俺は《挑発》を発動させ、ノアがそれと同時に魔法の詠唱を始める。選択する魔法は先ほどと同じフレイムピラーだ。
《挑発》を受けた少女は、一瞬だけ俺のほうを見て、すぐに詠唱をしているノアのほうに向かって歩き始めた。
何故だ!?間違いなくスキルは発動したはずだぞ。
俺の困惑をよそに、少女は歩き続ける。
ノアが下手に詠唱の長いフレイムピラーを選択してしまったため、ゆっくり歩いて行っても十分な時間になるのだろう。
「ノアおねえちゃん。ちょっとだけ、邪魔しないでね?」
初めて、少女の言葉を聞いたような気がした。
思い返してみると、少女は様子がおかしくなってから笑い声しか上げていなかったな。
少女は男たちにするように手を伸ばす・・・わけではなく手に持っている骨の魔剣をノアに向かって振り上げいている。
彼女は吸収するつもりはないということか?いや、多分逆だ。
男たちしか、影に取り込むつもりはないのだろう。その理由は、おそらくだが想定できている。
「だから、お前の相手は俺だって言っているだろう!!」
俺は少女が振り上げいてる段階で、その剣に向かって《斬鉄》を発動させた剣撃をお見舞いした。
―――カァン!!
骨と木材がぶつかり合ったとは思えないような音が鳴り響き、少女の持つ剣が大きくはじかれた。
しかし、その剣を手放させることも、叩きおることもかなわない。
一時的に、攻撃を防いだだけだ。
「タクミお兄ちゃんも、邪魔しないでね?」
はじかれた剣を、少女は無理やり引き戻すようにして俺のほうに向けてくる。勢いの乗ったその剣を受けると、俺のほうがはじかれてしまうことは先のボス戦でわかっている。だが、よけてしまうと後ろにいるノアに攻撃が当たってしまう。
その上、まだ《斬鉄》の使用制限が回復しきっていない。そして少女の体には触ることができない。
ある意味、絶体絶命的な状況だ。
「くっそぉ!!何とか、これで・・・・」
剣を盾に使い、その攻撃を受けようとする。
しかし、もともと武器として扱うもの、その性能差、それらの要因から簡単に俺の持っていた剣は叩き切られてしまい、その刃は俺の体に到達する。
斬られたのは、左脇腹だ。
「ぐぅぅ・・・が、」
腹部からくる痛みに、悶えながら俺は少女のほうを睨みつけるように見た。
「これでお兄ちゃんは邪魔できないよね?あとはおねえちゃんに邪魔しないように頼まなきゃね!!」
俺を切り伏せたからか、嬉しそうな顔をして身を抱くようなしぐさをする。その時、ノアの魔法が発動する。
「フレイムピラー!!って、ええ!?タクミ危ない!?」
集中していたのか、彼女は先ほどまでのやり取りはあまり見えていなかったらしい。少女の前で、膝をついている俺を見て、ノアが注意勧告をしてくる。
だが、うまく体が動かない。その魔法は、俺もろとも少女の体を包み込む。
「あああああああああああああああああああ!!」
俺の叫びだけが、あたりに響き渡る。俺はとっさにステータス画面を開き、自分の残りHPを確認する。
名前 天川 匠
クラス 戦士
レベル 30(クラスチェンジ可能)
HP 786/1024
MP 40/40
力 93
魔力 35
体力 100
物理防御力 108
魔法防御力 41
敏捷 55
スキルポイント 25
状態 火傷
物理防御力が高かったおかげだろう。少女の一撃によるダメージは痛みほどのものではなかった。しかし、ノアの魔法はそうはいかない。
俺のHPの値は、見る見るうちに減っていく。フレイムピラーという魔法は、その中にいる間にダメージを与え続ける魔法のようだ。
俺はその炎の中で魔法によるHP現象を見続ける。
600・・・500・・・400・
見る見るうちに減っていくHP、今まで見てきた限りだと、この炎が晴れるまでまだ時間はかかる。
その間、耐えきることができるだろうか?
俺に、その自信はない。
「あ、ああ、タクミ!!早くそこから出て!!」
外から、ノアの声が聞こえる。
俺だってそうしたい。だけど、腹部や火傷の痛みのせいで、うまく体を動かすことができない。俺はそのまま身を焼かれ続ける。
その時――――――俺の体が炎の外へと投げ出される。
目を丸くして、俺は元居た方向を見つめる。
そこには、俺を投げたままの体勢でまだその身を焼かれ続ける少女の姿。その顔はこちらを見て微笑みかけているように見える。
やはり、彼女に俺たちを殺したりどうこうするしたりするつもりはないんだな・・・
炎が収まる前、ノアが投げ出された俺のほうに走ってくる。
「タクミ!?大丈夫!?これを早く!!」
そして俺のもとに、近づいてきたノアは、即座に俺に向かって何かを振りかけてくる。
先ほど盗賊風の男が持っていたものと同じ、回復薬だ。
それをかけられた俺の体は、見る見るうちに回復していく。俺はHPを確認する。
名前 天川 匠
クラス 戦士
レベル 30(クラスチェンジ可能)
HP 712/1024
MP 40/40
力 93
魔力 35
体力 100
物理防御力 108
魔法防御力 41
敏捷 55
スキルポイント 25
状態 影化(弱)
その値は712まで回復していた。回復量にも目を見張るものがあるが、回復薬を使われてみて一番すごいと感じたのは、先ほどまで感じていた痛みをほとんど感じなくなっていたことだろう。
「ノア、ありがとう。助かった!!これでまた戦える!!」
「でも、戦うって言ったって、タクミの武器は壊れちゃったんじゃないの?あの子には触らないほうがいいし、どうするつもり?」
確かに、俺の武器は壊れ、少女に投げ出されるときに彼女に触れてしまったため、状態が影化と出ている。
効果の値が弱と出ているのは、少女なりに抑えようとしてくれたのだろうか?その理由はわからない。
「いや、大丈夫だ、武器ならまだ予備がある。彼女に持たせていたかばんの中に数本、まだ入っているはずだ。ちょっととってきてくれ」
予備というだけあってそれらはすべて木の剣だ。
昨日のことで武器の耐久が気になった俺は今日の朝大量の買い込んでおいたのだが、一緒に買いに行ったはずなのにノアは知らなかったらしい。
例によって店の商品に目をとられていたのだろう。
ノアに取りに行かせたのは、俺は別にやることがあるからだ。
それにしても、少女に持たせる前はそのかばんはノアが持っていたはずで・・・・どうして気づかなかったんだ?
そんな少しふざけたことを考えているとき、ノアの魔法が解けた。
炎の中から、にこやかな笑みを浮かべながら少女があらわれる。そしてその身に纏う影は、一度目のフレイムピラーの時よりは消費されていなかった。
あの剣を持ち続けている影響だろう。要するに、自動回復し続けているのだ。
「あれ?タクミお兄ちゃん、さっきはもうだめかと思ったけど、まだ元気そうだね?」
俺を見た少女は、そう口にする。その声はどこか、嬉しそうだった。
「タクミ、新しい武器だよ!!」
そこにノアが木の剣を投げてくる。一本ではなく、カバンの中にあったものすべてだ。
慌てていたため、カバンもろともそれらが飛んでくる。
「サンキュー、助かった!!」
俺はその中の一本を空中でキャッチして、その剣を正眼に構えた。
「ああ、まだ元気だよ!!お前と遊んでやれるくらいにな!!」
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