254 再臨の少女と人の影
俺たちが駆けつけるとそこではヴィクレア達のパーティ+エリックのパーティがライガのパーティとかち合っていた。
もっと正確にいうならライガのパーティwithロミオだ。
そしてライガの側には骨魔王の姿もある。
俺はそれを確認してすぐさま戦場に飛び込みエリックに状況説明を頼んだ。
「む、タクミ君か!!?聞いてくれ!!我が国の勇者は悪の手に堕ちてしまった。その証拠に見ろ!あの禍々しい力を、僕もなんとか聖剣の力にすがって耐えてはいるが、このままだと危なかったところだ。」
エリックが指す先にはライガの姿。
ただ、そこには見慣れた男の姿はなく、何やら黒いものを見にまとっていた。
何処だったか、俺はアレと同じものを見たことがあるような気がする。
思考を巡らせていると、同じく黒くなったロミオが切りかかってくる。
俺は力任せにそれを弾き飛ばした。
するとロミオが弾かれると同時に今度はライガ達が俺に向かって攻撃を仕掛ける。
そこにはいつものような連携はなく、ただただ本能のままに動くような協調性皆無な動きだった。
そんな烏合の衆になっているライガ達だからこそ、俺はなんとか攻撃をかいくぐり距離を取ることに成功する。
「ギャハハ!!いいねぇ、かつての仲間が敵になるシチュエーション。割と好みの演出だぜ!」
状況から考えるに、これをやっているのはあの骨魔王だろう。
ただ肝心の何をされたかがわからない。
それさえわかれば何とか状況を打開できるかもしれないのだが・・・・
「あ、今おめえ何をされたかわかれば何とかなるかも〜とか思っただろ?図星だな?そんなお前さんにヒントをやるよ。そいつらは今、自分に正直になってるだけだ。まぁ、ちょっと手心加えてその矛先をお前に行くようにはしてっけどよ。」
自分に正直にーーーー?黒いもの・・・
そんなものを俺はやっぱり何処かで見たことがある。
どこだったか・・・・
記憶を深く漁ろうとするとそれを隙と見てかすぐに攻撃が飛んでくる。
今度はヴィクレアやエリックにも攻撃が向いていたことから、俺にきたのは半分程度だった。
俺はロミオの剣を受け流し、その腹部に蹴りを加える。
その衝撃は後ろに抜けるようにロミオを吹き飛ばした。
ロミオを蹴り飛ばした俺の足に何か違和感がある。
俺はとっさに自分の足に目を落とした。
するとそこは黒ずんでいた。
まるであの身体にまとっているものがそのまま俺に移ってきたみたいだった。
この、触れているだけで気が暗くなるような感覚・・・
「ギャハハ!!戦闘不能のやつをこんな危ないところに放置とか、お前らどうかしてるだろ!!」
俺がその黒いものの正体に気付き始めた直後、後ろから笑い声が聞こえた。
骨魔王の声だ。
そいつは俺たちが必死に仲間からの攻撃をいなしている間にこっそり後ろに周り、そこにいた彼女に手を出そうというのだ。
そこには、何者かの攻撃を受けて倒れているリアーゼがいた。
あの状態でも命に別状はない。だが、それは状態が変化しなかった場合の話だ。
まさか骨魔王は動けないリアーゼにとどめを刺すつもりなのでは?
そう思い俺はすぐに後ろに下がろうとしたが、流石にそこは相手の動きの方が早かった。
骨魔王がリアーゼに触れる。
すると先程までは苦しそうに呻き、地面に横たえられていただけだった彼女が、ゆっくりと起き上がった。
「あはっ、、あはははは・・・」
リアーゼは笑顔だった。
だが、その顔には喜色よりは恐怖を感じさせられる。
その裂けんばかりに横に伸びた口角の端は大きく釣り上げられ、まるで三日月のようであった。
そしてその体はロミオやライガ達と同様に黒いものを纏っている。
あぁ・・・思い出した。
あの黒いものーーーーアレは影だ。
以前にもあの状態のリアーゼを見たことがあった。確かアレは森のダンジョンの前でリアーゼに自衛用に骨の魔剣を渡した時だったか。
所有者の光を奪うという隠し能力があった骨の魔剣は、リアーゼの心から光を奪った。
その結果、自我に異常をきたしてただただ欲の赴くままに行動する魔物になったのだ。
「そうとわかれば対処は簡単だ。あの影は光を吸い取る。それを満足させてやればいずれ元に戻る。」
それは以前実証されたことだ。
俺は久しぶりに『光属性付与』のスキルを発動させる。
少し暖かな感覚の後、俺の足に伝播していた黒いものは消えていく。
そして俺はリアーゼの方に走ろうとした。
だが、それは骨魔王が目の前に立ちふさがり阻止する。
骨魔王は一度俺の腕を切り落とした剣で俺の首を狙う。
俺は上に剣を掲げてそれを防いだ。
「くそっ、どけよ!!」
「ギャハハ、断る。仲間同士殺しあう姿が見てえからな。それよりてめえ、俺にばっかりかまってていいのかよ?」
「っ、、どういう。」
「タクミ!!ちょっとこっちやばいかも!!」
後ろから焦ったようなノアの声が聞こえる。
彼女はライガとダミアンの二人に追いかけられていた。
近接戦闘の手段に乏しい彼女はこのままだと追いつかれてやられるだけだ。
それは阻止しないといけない。
「くそっ、ノア。待ってろ今行く!」
「ま、行かせねえけどよ。」
骨魔王の攻撃が激しくなる。流石にこいつに背を向けることはできない。
それをやってしまった瞬間、俺が殺される羽目になるだろうことは容易に想像ができた。
今、剣を交えて実感した。
この骨魔王は俺がこっちに来てから一二を争う強敵だ。
武器の性能はこっちが上、身体能力はさほど差はない。技量もトントン。
本来なら俺の方が有利なはずだが、それを補って余りある搦め手の数々。
状態異常系は俺には通用しないのが幸いだが、それでも物理的に足を止めようとする攻撃や、わざと受け流させてそれを利用する技。
影の腕で物理的に手数を増やすスキル。
どれも面倒な技ばかりだ。
ノアを助けに行きたいのだが、俺は骨魔王にこの場に釘付けにされて動けなかった。
「ノア、俺を呼べ!!」
こうなったら奥の手だ。ノアに呼び出して貰えば俺はあの場所に移動できる。
ノアの前に立ちふさがる壁として立つことができる。
「う、うん!わかった!」
ノアが俺の召喚を発動させる。
「えっ、うそっ!!?」
だが、本来なら俺が彼女の前に出現するはずのその術は、その効果を発揮しなかった。
くそっ、どうなってるんだ。
「その能力はクッソ面倒だからな。『妨害魔術』を発動させてもらったぜ。」
つまり骨魔王がいる限り俺はまともに転移できないということか。
いよいよやばい状況になって来たな。
影を纏うリアーゼは現在律識が抑えてくれている。
ライガ達はノアを追いかけ、リオーラ、アイナはヴィル爺とオリビア、フリッシュが担当している。
そしてロミオはヴィクレアとエリックが抑えていた。
この中で一番やばいのはノアだ。
できれば早めに助けに行きたいのだが、それも骨魔王のせいでできない。
そうやって焦りの心を抱えたまま俺は骨魔王と対峙する。
こいつは俺の持てるスキルを駆使してなお、そこに悠然と佇んでいた。
余裕はそれほどあるわけではないだろうけど、『斬鉄』を乗せた一撃は確実に払い落されていた。
対する向こうの攻撃だが、最初に比べてかなり苛烈になっている。
どこからその膂力が来るんだという骨の腕から繰り出される振り下ろしは、正面から受けると腕にまで大きな衝撃が届くほどだ。
俺の持っている武器が魔剣ティルフィングとかいういい武器でなければ即座に上から叩き切られていただろう。
つまり、理力結晶の剣では相手の攻撃を受け止めることすら難しいのだ。
そうやって戦いが長引いたせいで、ついにその時が来てしまった。
「うわあっ!!!ぐへっ、、」
ライガとダミアンの追撃に、ついにノアが捕まった。