249 囮と継戦
たった一撃だけではあったが、俺の全力の一撃をそのまま衝撃波として放つエイジスの『怒りの咆哮』の威力は凄まじかった。
彼の立っている場所を中心に地面がひび割れており、本来なら攻撃範囲外まで下がっているはずの俺の場所までその力の奔流が届いた。
ただ、威力減衰が激しいらしく俺に致命傷を与えることはできなかったし、他の戦場までダメージを与えることはできなかったみたいだ。
「はぁ、焦ったけどなんとかやり過ごせたな。もう少し温存されていたらちょっとやばかったかもしれねえ。」
「そうだね。でもその時はボクがタクミを呼んであげるから、安心していいよ。」
こと、俺が回避することだけを考えるならノアさえ攻撃の範囲外にいればいい。
『怒りの咆哮』はそれが範囲攻撃なのと、エイジスの耐久力の高さ故か予備動作が大きい。
多分、妨害は耐えられるのと発動してしまえば回避が難しいからだろう。
だが、そんなことは俺たちには関係がなかった。
ノアの状態にもよるが、ほぼノータイムで遠くへ移動できる俺には、そんな攻撃当たらない。
「ところで匠、あれは誰なんだい?知り合い?」
「知っている仲ではある。あいつはエイジス。武器による攻撃と魔法攻撃に完全耐性を持っている男だ。」
「へえ、状態異常は?」
「おそらくそっちも高い耐性を持っているはず。」
律識からの質問に知り得る限り答えながら、俺は考えを整理する。
エイジスは弱い方の魔王の中でも強い部類に入ると聞いたことがある。
おそらくその理由は固有スキルによる、武器攻撃と魔法攻撃の完全遮断だ。
異常耐性もないよりはあると考えた方がいい。
だが、その防御も絶対ではない。
それは前回の戦いで証明されている。
あいつがスキルによって無効化できるのは、ダメージ計算時に武器攻撃力、もしくは魔力を参照する時だけなのだ。
だからあの防御を抜くには殴ればいい。それだけで事足りる。
俺はそのことを律識に伝える。
「・・・・ふぅん。武器攻撃と魔力を参照するとその時点で無効化。ということは倍率を0に書き換えるスキルかな?」
律識は俺の説明を軽く聞いてそう推論を立てる。
「多分な。」
俺はその察しの良さに苦笑いしながら、剣を鞘に収めようとした。
「匠。匠達は別のところの手伝いに行ってくれ。」
すると律識が決意をしたような顔で俺にそう進言する。
どういうつもりだ?
「ここは俺に任せて先に行けって言ってるんだよ匠。周りは今かなり余裕のない状況だ。特にあのライガって人が一番危ない。だから俺たちは戦力を割ってでも手助けに行くべきだ。」
「・・・エイジスはお前が1人で倒すって?」
「そういうことだね。」
両手から鎖を垂らしながら律識はエイジスの方を向く。
彼は不敵な笑みをうかべながらこちらを見ているだけだった。
会話の途中には襲ってこないのだろうか?フェアプレイが好きだもんな。変身も待ってくれそうだ。
そして、律識の提案だ。
確かに、ライガと骨魔王の斬り合いを皮切りに周りでは戦闘が始まっており、一部では危ない気配もある。
ここで全戦力を投じてエイジスを倒すよりかは、1人が足止めして他の戦場を打開していったほうがいい。
でないと、最悪エイジスは倒せたけどその倍の敵を相手取ってくださいと言われる羽目になるだろう。
彼はそこまで考えて、先の発言をしたのだ。
エイジスを足止めするのは自分がやるといったのだ。
「わかった。周りの戦場を叩きに行く。でも律識、流石に1人じゃ戦わせられないから、リアーゼ、律識を助けてやってくれないか?」
「は、はい!!わかりました!」
リアーゼがいれば律識に万が一があった場合こちらに知らせてくれるだろう。
それに、だいぶ戦いやすくなるはずだ。
いったら悪いが律識は俺たちの中で一番ステータスが低い。
だからエイジスを正面切って倒すのは困難だ。だからこそ、万が一があり得る。
逆に、それがなければ彼はエイジスの足止めならできるだろうとも思った。
「じゃあ匠、他の戦場が全て終わったらこっちも手伝ってもらうけど、別にその前にあれを倒してしまっても構わないんだろう?」
「それ、フラグ。」
俺たちは軽い言葉を交わして、そしてそれぞれが進むべき方向を見た。
「お、話し合いは終わったかよ。ならそろそろ、こっちも動かさせてもらうぜ。」
そしてエイジスも動き出す。
「ここは律識が食い止める。俺たちは二手に分かれて危ない戦場に横槍を入れて行くぞ!!ノア、俺と来い。リリスはエレナと一緒だ!!」
「わかったよ!!よろしくねタクミ!」
「ええ。わかったわ。2人とも気をつけてね。」
「・・・りょーかい。頑張っていっぱい褒めてもらうの。」
俺たちは二手に分かれる。
リリスは帝国の戦士がいる方向、俺は王国の戦士がいる方向だ。
まず、一番危なそうなのはエリック達だ。
彼らは骨の集団に囲まれてジリ貧になっている。
すぐにどうこうなるとは思えないが、もし仮に前を支えているエリックが動けなくなれば、その瞬間彼らに先はなくなる。
「あいつらの周りにいるのはーーーーアークスケルトンだな。ハイスケルトンの一個上だっけか?」
かつて森のダンジョンでみた骨の集団を思い出しながら俺はエリック達の元へ向かう。
ノアは走りながら随時戦力を追加していっている。
そしてアークスケルトンの群れに近づいた俺たちはエリック達を囲むそいつらの後ろを迷いなく強襲した。
「エリック、大丈夫か!!?」
「おぉ!!きてくれたのか我が友よ!こいつらは斬撃が効きにくいので少し手間取っていたところだ。助かったぞ。」
確かに斬撃や刺突を主に使うエリックにはきつい相手に見えそうだが、一応『魔力切り』というスケルトンキラーなスキルがあるのだけど・・・エリックは持っていないみたいだ。
俺としては必須と思ったんだが、彼、ひいてはこの世界の住人にはその気は湧かなかったみたいだ。
俺は次々に『風闘気』の全開使用によってアークスケルトンを切る。
ただ、数が多いので即座に全滅は難しそうだった。
「じゃあマジックイーターくんたち頑張って!!」
そこにノアが移動中に大量に用意したマジックイーターが投下される。
そしてそれは周りのスケルトン達に張り付いて、その悍ましい口を開きそのまま齧り付く。
スケルトン系の魔物は『魔力切り』を持っている戦士にはそこまで脅威ではない。
ということはあれは筋肉の代わりに魔力を使って動いているわけで、魔力を使うためのエネルギー数値はMPだ。
つまり、通常なら相手に直接攻撃ができないマジックイーターはスケルトン系の魔物相手にはその生命力を直接攻撃できるのだ。
十匹程度のマジックイーターがアークスケルトンを咀嚼していく。
そして全てを吸い尽くされた個体はその体を綺麗に残して事切れて倒れていく。
それを確認したら別個体に飛び移る。
それを繰り返していた。
「これでもうすぐここの戦場は制圧完了だよ。タクミ、次はどこを叩く?」
「そうだな。とりあえずは『銀爪』のところだ。エリックが無事になった今、あいつらが一番危ない。」
「だね。あっちにもいっぱいスケルトンがいるみたいだし、このままイーター君達は持って行くね?」
「それで頼む。あとエリック、戦えそうなら危ない戦場を手助けしてやってくれ。戦えないなら身の安全を守ることに全力を注げ。」
「む、助けてくれた君の言葉だ。素直に従って友軍の手助けと行こう。」
よし、これでエリック達は大丈夫だ。俺はどこか戦況に変化はないか周りを調べるーーー主に見るのは自分の仲間達の安否だ。
まずは律識、これはよく抑えているな。
まだ決着はつかないだろうから大丈夫そうだ。
そしてリリス達は帝国側の増援。
それで気になったのが、帝国側にはスケルトンではない魔物が送られている。
それに、どこかエイジスに似た雰囲気を放つ人物もいた。
「そうか。ならお前達はヴィクレアやエルネスの方の救援を頼む。あいつらは戦争で特に体力を消耗しているだろうから、お前達が行けば助かるはずだ。」
「了解だ!!フリッシュ、オリビア、リゼ、行くぞ!!」
エリックの号令で彼らはこれまたアークスケルトンに囲まれているヴィクレア達の救援に向かう。
「それにしても、綺麗に戦場が別れたものだな。」
「だね。乱戦になっちゃってたら助けるのが難しかったけど、これなら案外なんとかなりそうかな?」
式中は王国側と帝国側はそれなりに距離が離れていたのと、それぞれが魔物に囲まれた時にパーティメンバーと離れようとしなかったのが良かったのだろう。
戦争によって体力を削られながらも、アークスケルトンの猛攻をなんとか凌いでいた。
だが、それでも放っておけば確実に負けることには代わりないんだけどな。
俺たちは『銀爪』の奴らを救出すべく走り出した。