249 リベンジマッチと復習マッチ
「きゃああああああああ!!」
観客席の方から悲鳴が聞こえる。その声の方向を見てみると、何者かが出入り口を封鎖している姿が見える。
この場所からは詳しい姿は見えないが、四足獣のシルエットだけは確認できたので人間ではないことは確実だ。
多分なんらかしらの魔物がそこに伏せられていたのだろう。
「ととっ、やっと封鎖が終わったか。せっかくいい場を整えてもらったんだからよ。1人でも多くの人間殺さなきゃ損ってやつだぜ。」
王?は準備が済んだという態度をとった。
今までその態度や適当な会話で場をつないでいたのは出入り口を抑えるための時間を稼ぐためだったらしい。
そこまでやれば、ここにいる人は全員この状況を呑み込めた。
立ち上がった俺は王?に問いかける。
腕の痛みはもう完全になくなっていた。
「なあ、お前は何者?さっき人間がーーーとか言ってたけど、それならお前の種族は?」
少しでも情報を集めたい。
相手がこれで少しでも情報をこぼしてくれれば、今この場でどこまでが信用できるのかがわかるかもしれない。
「ああ、こりゃすまねえな。今から丁寧に殺してくれる相手が誰なのかも知らねえのは気持ち悪いよなあ?なら教えてやるよ。」
王?が自分の名を言おうとする。
「おいーーーー」
だがそれは、後ろに控えていた獣王?によって止められた。
王?も強めに呼び掛けられたためか頭を掻きながら答える。
「わーってるよ。じゃ改めて自己紹介、俺のことは禁忌の魔王とでも呼んでくれや。」
「アタシのことは禁忌の魔女王とでも呼んでもらおうかな?」
王?と女皇帝?は自分のことをそれぞれそう名乗った。
魔王ーーーーそう、魔王だった。
そのくらいは予想はできていたから、正直なところ本名くらい教えて欲しかったものだ。
もしこの世界発祥の魔王とかなら他の奴らが、元の世界の神話などを基にした魔王なら俺がその能力を推測することができたかもしれないのに。
「魔王?魔王だって!!?なら本物の王はどこに!!?」
ライガが禁忌の魔王をみて叫ぶ。
今までそこにいた王が魔族のものだったなら、本物の王はどこにいたのか?
「ギャハハハハ、そんなやついねえよ。」
「こ、殺したというのか!!?」
「そうじゃねえって、ディオニス・エルシャ・アーカイブなんて人間、そもそも存在しねえって意味だって。ギャハハ、鈍いやつだよ本当に。」
禁忌の魔王の体がドロドロと溶け始めた。
皮膚が剥がれ、肉が落ち、その中身を見せつける。
数秒後にはそこには人間だったディオニス王の姿はなく、スケルトンのような骨だけでできた体が立っていた。
「そういうこと、初めからアンタたちは騙されてたってわけ。」
露出のほとんどないドレスによって身を包まれている魔女王がそのドレスを軽く引き裂きその肌を露わにした。
そこにあったのは真っ白な肌と、真っ黒な腕だった。
おおよそ、生命といったものはほとんど感じられない体だった。
王国の国王も、帝国の皇帝も人間ではなかった。その事実は、そこにいるものに多大な衝撃を与えることは容易であった。
「う、嘘だ!あの優しいディオニス王が、貴様みたいな醜い魔王だなんて嘘だ!!きっと本物はどこかに捕らえられていて、貴様らが嘘をついているだけだ!!」
ライガが抜剣して骨の魔王に斬りかかる。
その動きは一寸の迷いもなく、一直線に骨魔王の首を狙っている。
「おぉ!ライガよ。よく戻ってくれたな。儂はお主らが無事に戻ってきてくれて本当に嬉しいぞ。」
「黙れ!!」
ライガの手が一瞬だけ緩んだように見える。
彼の剣は、骨魔王の剣が簡単に受け止めていた。
「はっ、勇者ともあろうものがこの程度で心を揺さぶられるなんて笑わせる。昔の勇者とは大違いだぜ。」
「くっ、ダミアン、リオーラ、アイナ!!みんな!!この魔王を倒すのに手を貸してくれ!!」
1人では難しいと思ったのか、手段を選ばず勝ちを取りに行ったのかは定かではないが、ライガは救援を求めた。
その声を聞きつけ、彼のパーティメンバーがいち早く動く。
「ギャハハ、本当の勇者なら勝手に仲間がよってきてくれるものなんだがな。お前は呼ばないと助けてすらもらえねえのかよ。笑わせるぜ。」
骨魔王の嘲る言葉は止まらない。
日頃の鬱憤を晴らすが如く、ライガをからかい続ける。
「黙れ、黙れぇ!!」
「きゃあああ、誰か、助けてえええええええ!!」
ライガの声に被さるように観客席側から悲鳴が聞こえてくる。
どうやら出口の封鎖とは別の魔物が観客たちを襲い始めたらしかった。
ライガは止められていた剣を引き、そして骨魔王に再び斬りかかる。
「呆れるぜまったくよぉ。困っている人々を助けるのが勇者じゃねえのか?ほら、勇者ライガよ、あそこにいる魔物を倒し、民を救ってほしい。なんてな。そういえば今までこいつがやってきたことって、大体俺が適当にやらせたことだったか。ギャハハ、滑稽だな。魔王の指示で人を助けて、自分の意思では助けられねえのかよ。」
「うるさい!!お前はもう口を開くな!王を騙り、その言葉を口にするな!」
仲間からの援護を貰いながらライガは骨魔王に斬りかかる。
その攻撃はどこか鬼気迫るものがあり、苛烈な攻撃を捌くために骨魔王も丁寧に対応していた。
「どうした!!?みんなどうして動かない!?ここに最悪の魔王がいるというのに、どうして誰も動かないんだ!!?」
そこでライガは再び周りに助けを求めた。
今日、この場所には国中から集められた強者が揃っている。
だからこそ、力を合わせれば打倒はできるはずだと思ったのだろう。
だが、ちょっとだけ待ってほしい。
敵はその骨魔王のやつだけではないのだ。
俺は今、巨大な甲冑騎士と対峙していた。
「済まないライガ!近衛兵の中身も敵だった!!すぐ終わらせていくから救援まで待っていてくれ!!」
一応こちらの状況を後ろ向きなせいであまりつかめていないであろうライガに伝える。
俺たちの前には2人の近衛が立ちはだかり、ライガたちへの道を閉ざしていた。
1人は巨大で、もう1人は小さい。
対極なものたちだった。
「ノア、一瞬で決めるぞ!」
「うん!!『エマネージ』ちゃん、いくよ!」
ハリネズミセットオン、ゴー。の流れで俺は前に出る。
大きな甲冑が俺にその拳を振り下ろしてきた。
こちらは武器なんてものは一切持っていない。
・・・・?どこかで見たような動き?
一瞬、その動きに疑問を覚えた動きであったが、俺はそれを軽くかいくぐりその体を両断するべく剣を振った。
『純闘気』『白闘気』『斬鉄』の三連コンボだ。
俺の剣は甲冑の腹のあたりを叩き壊しそしてそのまま体を切断ーーーーー するようなことはなく、その鎧を壊すだけにとどまった。
「どうして!!?」
「タクミ、下がって!!」
俺は後ろ跳びで頭上から降ってくる鎧を躱す。
そして今の一連の動作で俺が与えたダメージを確認する。
甲冑の腹の部分は綺麗に請われており、その内側の肌が露出しているためすぐに分かった。
「くそっ、まさかのノーダメージかよ。」
「タクミ、どうするの?」
「いや、もう俺の攻撃が聞かなかった理屈はわかっている。おい、暑苦しいだろうからその甲冑もどき脱いでもいいぞ。」
俺は大きな方にそう呼びかけた。
俺がその装備を甲冑もどき、と銘打ったのはそれ自身に防御力がないと悟ったから。
切った瞬間、一瞬も抵抗を感じなかったからだ。
おそらくだが、何か特別な品。
あの鎧の中身の人物が着用しても、その能力に制限がかけられないようにこしらえられた装備だ。
「はっ、バレてやがったか。」
その人物は甲冑を脱ぎ捨てた。
そこから見えたのは見覚えのある顔。
「エイジス・・・お前こんなところで何やってるんだよ。」
かつて雌雄を決した魔王のまがい物だった。
「何って、戦ってんだよ、見りゃわかるだろう?」
何を当たり前のことを、そう返されてしまう。
「チッ、今回も助けを求める人間より、人を苦しめる魔王側についたってことかよ。それはお前が求める格好良さなのか?英雄になりたいとか言ってなかったかお前。」
「はっ、お前ら人間をうち滅ぼせば、魔族に取っちゃあ英雄さ。別に人間に褒め称えられても嬉しかねえよ。」
エイジスは残った甲冑の残骸を振り落として拳を握りしめた。
それを同じくして、小さい方がエイジスの方まで吹き飛ばされてくる。
どうやらリリスたちがやってくれたみたいだ。
「む?だから言ったろう?お前弱いから前に出てくるなって。」
「グッ、俺ダッテ、直接コノテデアイツラニ復習シテヤリタインダヨ。」
小さな甲冑から聞こえたのはこれも聞き覚えのある声だ。
甲冑の頭の部分が外され、そのゴブリン顔が見せつけられる。
「やっぱりあのとき殺した方がよかったわね。」
その姿を確認したリリスがそう言った。
「・・・確かに、これはここまで読めなかった俺の不手際だな。すまん。」
このゴブリンが危ないやつだってのは知っていたのに、人間の言葉を話すというだけで何かに理由をつけて生きながらえさせてしまった俺のせいで、この場所で相手に戦力を与えることになってしまった。
だがいい。あのゴブリンは戦闘力は皆無だ。
あとで殺し直せばいいだけだ。
「タクミ、再開を喜ぶのはいいけど、早く助けに行かないとやばいかもよ!!」
「そうだな。といわけでエイジス、そこを退いてもらうぞ。」
「おいおい、お前は俺をそんなに簡単に倒せると思っているのかよ。一度俺に勝っただけでえらく傲慢になったみたいだな。」
ムッとした顔でエイジスがそう言った。
確かに俺の言動はムカつく態度だったかもしれないが、流石にエイジスの野郎にもう負けてやるつもりはない。
前回一対一で勝てた相手に、多対一で負けるわけにはいかないのだ。
「はっ、あいつ自分が何をやったのかを理解してねえみてえだ。ゴブ、ちょっとすまねえがお前はあっち担当で頼むわ。」
エイジスがゴブリンを片手で持ち上げる。
「了解ダゼ!旦那、ゼッテエ負ケルンジャネエゾ!」
「おうよ。」
そしてそのまま、ゴブリンはエイジスによって観客席まで投げ飛ばされた。
体が小さく軽いからか、よく飛びはしたが途中で急激に減速して難なく着地を決めている。
「これでよし、だな。」
「いいのかエイジス。仲間を別のところにやればそれだけお前の方が不利になるだろう?」
「はっ、この戦場にあいつはついてこれないからな。それなら最適な場所にいて欲しかっただけだよ。それに、俺の近くにいたらあいつは死んじまう。」
エイジスは両足でしっかりと地面を踏みしめた。
何か今から、大きな技を放ちますよと言っているようだ。
そして息を吸い込み始める。
「あの予備動作は・・・『怒りの咆哮』?初発から・・・?いや、違う!!みんな、一旦全力で逃げるぞ!!」
エイジスが息を大きく吸い込む理由なんて1つしかなかった。
『怒りの咆哮』
その身に受けた攻撃を蓄積させ、それを叫び声に乗せて放つという技。
この能力のどこが恐ろしいか。
それは彼の固有スキル『漢なら拳で語れ』によって無効化された攻撃も全てその威力に変換されることだ。
「なあ、お前さんのさっきの一撃、どのくらいの威力がこもってたんだろうな?行くぜ、『怒りの咆哮!!ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!」
エイジスを中心に、破壊の波が放たれた。