231 選出と楔
国王は値踏みするような目で俺たちを見る。
まるで何かを確かめるかのような、そんな目だ。
対する俺は何もできない。
その様子をじっと見ているだけだった。
どのくらいそれが続いただろうか?
国王の方が動いた。
「ふむ、此度の戦争、期待しておる。逃げるでないぞ?」
国王はそれだけ言って去ってしまった。
後半の言葉は以前辞退しようとした俺に釘をさすような意味の言葉なのだろうが、その言葉に何処か憤りのような感情が込められていた気がしたのは気のせいだろうか?
兎に角、王は何処かに歩いて行ってしまった。
たった1人で護衛も付けずにだ。
自分が襲われるということを考えていないのか、それとも襲われても自分で対処できるのか、もしくは、護衛がいると不都合なことがあるのか。
理由はわからないが彼は1人だった。
「・・・さて、そろそろみんなのところに戻ろうか。」
「そうだね。この街、歩いててもあんまし楽しくないよ。」
少しの間街の中を歩いたが、特にこれといったものはなかった。
街の中央には闘技場があるが、それは現時刻は解放されていない。
また、時間が時間なのでどこの店も開いていなかった。
開いているのは冒険者ギルドくらいだ。そこも一応見て見たが、呼ばれて来ている手前依頼を受けるわけにもいかないし、知り合いなどいないのですぐにでて来てしまった。
ある程度探索も終わったし、もういい時間だから俺たちは朝食を取るべくリリスたちの待っている宿に戻ることにした。
宿に戻り、まずは自分たちの部屋に戻ると律識がベッドの上でだらけていた。
だが、別に寝ていたわけでは内容だ。
スキルウィンドウを眺めて何か考えている。
「お、匠。そろそろ?」
「ああ、ある程度見て回ったし時間もいい頃だろうしな。食べに行こうぜ。」
「わかった。ちょっと待ってね。」
律識はそう言ってスキルウィンドウを閉じて立ち上がる。
もう準備はできているみたいだ。
そう思い俺が部屋から出ると、ちょうど隣の部屋からも出てくる奴がいた。
「タクミ!二度寝してた人たちを起こして来たよ!」
俺が律識を呼びに行っている間にノアはリリスたちを呼びに行っていた。
ちょうど向こうも準備が終わったみたいだ。
部屋の中からぞろぞろと出てくる。
まだ眠そうなリリスなどを引っ張りながら、俺たちは食堂に訪れた。
そこにはさっきとは違い、あくせくと働く従業員の姿が見られた。
観るともう既に座席には見覚えのある奴らが一つのテーブルを占拠していた。
「む、タクミ殿ではないか。おはよう。」
「おー、ヴィクレアか。早いな。」
「またまた、どうせタクミ殿のことだ。きっと1時間くらい前に一度来て、まだ営業してないから出直して来たところなのだろう?」
ヴィクレアは俺たちの行動をきっぱりと言い当てた。
少しだけ違う点があるとするならば、1時間ではなく2時間前に来たということだが、些細なさだろう。
「そうだな。さて、俺たちは俺たちで食べるから、お前も自分のパーティで仲良く食べてくれ。」
「ふむ、気遣い感謝するぞ。」
ヴィクレアと軽く会話してから、俺たちは彼女がいるテーブルから少しだけ離れた席に陣取った。
そしてテーブルの方に目を向ける。
メニュー表のようなものはない。少し不思議に思い俺は辺りを見渡したが、それに準ずるものは向けられなかった。
俺がそんなことをしていると、ウェイターが料理を運んでくる。
ああ、なるほどそういう店か。
それに納得した俺はテーブルの上に置かれたものを確認した。
「やっぱ西洋で朝食って言ったらパンなんだろうな。」
いかにも朝食、と言った感じの料理に俺はそう感想をこぼした。
この世界に米はないわけではないし、たまにイアカムが炒飯を作ってくれたりもしたのだが、断然パン率の方が高い。
ここら辺は人の好みの問題なんだろうな。
俺はそう思いながら目の前の皿に手を伸ばした。
「美味しいねー。」
「そうだな〜。」
数日後には戦いがあることが確定しているのにも関わらず、俺たちの空気は軽い。
「あ、そういえば決めることがあったんだった。」
「そんなことあったかしら?子供達にあげるお土産の話?」
人によっては食事が終わり、俺が水を飲んでいるときに唐突に思い出した。
今すぐにっていうわけではないが、早めに決めないといけないことであることには変わりない。
「いや、それもあるかもしれないけど違う。ほら、誰が出るかって話だよ。」
「誰、、、?どういうこと?」
「ほら、戦争のルールは4人パーティだろ?それで俺たちは6人、誰が出場するかを決めとかないと後々揉めそうだろ?」
ギリギリになっていきなり「君出るから」と言われてその相手がどういう反応をするのかという話がある。
普通に引き受けてくれるなら問題ないが、嫌がられることもあるだろう。
そんなことがないように、全員いるこの場で決めておこうという話だ。
「あー。確かに決めないとだよねー・・・まずはタクミは決定だね!!」
納得したノアがまず俺を指名する。
これに関しては仕方ないだろう。ここでごねても最終的にメンバー入りするだろうし、それに何よりもさっき国王に言われた「逃げるな」の言葉が思い出される。
俺が出なかったら後で何を言われるか・・・
「他、誰か希望はあるか?自分が出て見たいーって奴。」
正直俺たちのパーティなら誰が出てもいいと思っている。
律識とリアーゼが一段レベルが低いが、さしたる問題に思えなかった。
「あ、ハイハイ!ボクは出るよ!」
ノアもまあ妥当だろう。手数が必要になるときがあるかもしれないし、それでなくても戦力として申し分はない。
「私も出るわ。私の子が戦うのに、私が戦わないのはおかしいものね。」
リリスはそんな理由から立候補。
まぁ、いいんじゃないかな?戦ってくれるなら有難い。
「となると後1枠空いてるけど・・・3人のうち誰が戦う?」
俺はリアーゼ、エレナ、律識の3人を見ながら投げかける。
3人とも方向の違う強さを持っているため、誰が出るかによって戦い方が変わるかもしれない。
「えっと、タクミ。俺はパスしていいかな?」
「いいけど、、、理由は?」
「ほら、レベルが一番低いし、そもそもノービスだし。」
律識はそういう理由で辞退した。
彼は多様なスキルを使って普通に戦えるレベルまできているが、それでもその根幹はノービスだ。
だからモロな戦いの場というのには出たくないのかもしれない。
「じゃあ後はエレナかリアーゼか・・・ちなみに聞くけどノア、リリス、律識、どっが良さそうとかあるか?」
本人たちからはこれと言った希望は出てきていない。それならば俺たちが決めることもあるだろうと思い、俺は周りに聞いた。
そして帰ってきた答えが、
「私はエレナちゃんかしら?あぁ、、でも危ないことはあんまりさせたくないし。でもリアーゼちゃんも立派な子供・・・あぁ、もう、選べないわ。」
「ボクはリアーゼちゃんを推すよ!」
「俺はエレナちゃんかな?」
意見が見事に分かれた。
「意見は対立か。さて、これどうやって決めようか。そもそもエレナ、リアーゼ、お前たちの方からは何かないのか?」
「・・・・私はなんでもいい。」
「私も特に指定はないです。やれって言われたらやるけど、、って感じかなぁ?」
ここで自主性を見せてくれたら話が簡単にまとまったのだが、そうはならないみたいだ。
ふむ、どうやって決めたものか。もう俺の独断と偏見で決めてしまっていいだろうか?
俺がそう考えていたとき、後ろから声がかかる。
「迷っているのかタクミ殿。」
「あ、ヴィクレア。そうだな〜、お前はエレナとリアーゼどっちがいいと思う?明々後日の戦争のメンバーの話ね。」
「ーーーー?迷っているなら戦わせて決めたらいいんじゃないだろうか?戦って強い方を採用すればいいだろう?」
「それだとエレナ一択になるけど、リアーゼも乱戦とか多人数戦になると結構いい仕事するんだよな。」
言うなれば戦闘員かサポータのどっちを採用するかということなので、直接対決で決めるのはどうかと思うのだ。
「ーーー?それならパーティ戦にすればいいだろう?2人以外の戦力は大体とんとんにしてやればいいはずだ。なんなら、私たちも数合わせとして参加させてもらえるようにうちのリーダーに掛け合ってみようか?」
ふむ。。。。まぁ考えても仕方ないしな。
「わかった。それで頼むよ。俺たちは6人いるから、2人ほど貸してもらえると助かる。」
「わかった。すぐに話をつけてこよう。」
モチベーションが下降・・・ここが踏ん張りどきですね。