229 思いと計略
ベッド争奪戦は最終的に俺、律識、ノアが一部屋。
リリス、エレナ、リアーゼが一部屋使うことになったらしい。
部屋で1人勝手にくつろいでいたら、後から入って来た律識とノアにその報告を受けた。
ただ、これは変動するんだと。
なんでも、戦争開始は3日後。だから1日ごとに部屋を入れ替えるようになったらしい。
リリスがこの部屋割りを許してくれる妥協点がこれだったと言っていた。
だから今はノアと律識が同じ部屋に居る。
「さて、今日はもう遅いし明日に備えて早めに寝ようか。」
街に入った時にはすでに夜になっていた。
明日も朝早くに起こされるだろうしと思い俺はそう提案した。
「あ、じゃあパパッと体を綺麗にしたほうがいいね!!」
ノアがそういって荷物の中から綺麗なタオルを取り出した。
この世界に風呂は一応あるし、こういった高い宿には備え付けられてあることが多い。
だが、今日は時間が時間なので閉まっていたのをここにくるまでに確認できている。
その為、最低限濡らしたタオルで体を拭いておこうと言うことだ。
「ん、じゃあ俺たちはあっち向いてやってるから、何か問題があったら言ってくれよ。」
ノアが服をはだけさせ始めたので、俺は律識とともに後ろを向いて同じことをし始める。
ちなみに、タオルを濡らす手段は最低限に威力を落としたノアの『ウォーター』だ。
後ろ手にタオルを渡したら濡らして返してくれた。
「あ、タクミなら別に見たくなったら振り返っていいからね?」
体を拭くために服を脱ぎ始めた時、後ろからそんな声がかかる。
一瞬ドキッとしたし、振り向こうとしたが隣に律識がいる手前やりにくくてやめた。
すると律識が思っていることを口にする。
「・・・・なあノアちゃん、匠、まさかと思うけど2人って付き合ってるの?」
ノアの俺へのべったり感を感じ取ったのだろう。律識は鈍感ではない。
鋭いわけではないが、ここまで露骨な相手にはすぐに気づく。
「うん、そうだね!ボクとタクミは相思相愛だよ!!」
ノアさん、恥ずかしいからそんなに大きな声ではっきりと言わないでほしい。
ただ、彼女の口から直接聞けて少しだけ嬉しいのも事実だ。
「へぇ〜、どっちから言いよったの?」
「それは一応ボクからだね!!」
「おぉ、ノアちゃん積極的ぃ。」
「でもタクミも結構積極的だったんだよ!!?」
「お、そこのところ詳しく。」
・・・・・当事者である俺を一切気にせずに2人で会話が進んでいる。
ノアはこう言う話って恥ずかしくないのだろうか?俺だったら適当にはぐらかしそうなものだけど。
そして律識も遠慮なく踏み込まないでほしいものだ。まぁ、ノアが楽しそうに話しているし、律識もただの興味本位っぽいから止める気は起きないんだけど。
「そういえば律識、お前の方はどうなんだよ。」
「俺?」
「リアーゼとエレナ、どっちを狙ってるのかなって。」
ただやられっぱなしも癪だ。俺は話題を変えがてら、こいつの意見も聞いておくことにする。
「ふむ、甲乙つけがたいな。というかタイプが違うからどっちが優れているとかないと思う。どっちも可愛い。どっちも聖幼女だ!」
何気なく振ったのだが、案外真剣な答えが返って来た。
・・・聖幼女ってなんだよ。新しいクラスか?
「む、何度も言うけど君にリアーゼちゃんは渡さないからね!!」
ノアはリアーゼの危険を感じ取ったのか釘をさす。
律識はどこ吹く風だ。多分いくら言っても狙うと言う行為自体はやめるつもりはないと思う。
「それにしてもタクミとノアちゃんがねえ・・・いつから?」
そしてすぐに俺たちの話題に戻ってくる。
こいつ恋バナ好き、女子かよ。心の中で律識のやつにそう叫んだが、聞こえるはずもない。
「それは出会った時からずっとだよ!!」
ノアは自信ありげな声でそう答えた。出会った時から・・・思えば出会い自体はそれほどいいものじゃなかったんだよな。
「そういえば匠、気になってたんだけど今の仲間ってどうやって集めたんだ?綺麗な人ばっかりだけど、やっぱりそう言うことを考えていたりする?」
そんなのあのセリフを聞いて律識が邪推するような目をこちらに向ける。
「あー、俺たちの出会い?・・・・どれも微妙な出会いだよな。一番はじめに出会ったのはノアだったな。」
思えば、初めはこんな関係になるなんて思っていなかったんだよな。
俺はノアとの出会いを思い出す。
あの時俺は1人で薬草採集に行ってその帰りだったはずだ。
そこでノアがゴブリンを押し付けて来たのが始まりだったな。色々なゲームで倒し慣れた相手であるゴブリンは俺の敵じゃなかったからその時は良かったけど、ノア、それはMPKと言って悪質行為だからな。
それで街に戻るとこいつが待っていて、それで宿まで押しかけて来て、一緒に行動するようになったんだよな。
「今思えばちょっと懐かしいな。」
「うっ、あの時はごめんね?」
「へぇ、そんなことが、、、リアーゼちゃんは?」
ノアとの出会いを語った後、俺はリアーゼ、リリス、シュラウド、エレナの時系列順に何があったのかを話していく。
律識はそれを真剣に聴いてくれた。
そしてひとしきり話終わった後、
「じゃあそろそろ灯りを落として眠ろうか。」
「そうだな。」
「だね。」
俺たちは眠ることにする。
今まであったことを律識に聴いてもらえて、少しだけスッキリしてよく眠れそうだった。
「あ!ボクはここで寝る!!」
ノアは先んじてベッドに寝転がった俺のベッドに飛び込んで。
そして仰向けの俺の上に乗っかる。
最近はこいつもベッドに入ってくる遠慮というものがなくなって来たな。
最初の頃は一応は了承を得てからおずおずと入って来てたのだけど・・・
俺はダイブして来たノアを両手と体を使って優しく受け止めた。
「あの、匠、耳栓があったら貸してくれるかな?」
そんな俺たちを見て律識が居づらそうな声でそう言った。
こいつは俺たちが何をすると思ってるんだろうか?今まで一度もなかったはずだが、、、、
そういえばそもそもこいつは俺とノアが一緒に寝ているのをあまり知らないんだったな。
「耳栓?何に使うの?」
「それは、ほら、いろいろ聞こえなくするために?」
「いろいろって?」
「こ、声とか?」
純粋なノアの質問ぜめに律識は目をそらしながら答えた。
甘いな律識、こいつは俺に出会うちょっと前までは箱入りだったんだぞ。純真無垢なノアにひれ伏すがいい。
「あのねえリツキ?ボク達そういうのはちゃんと結婚してからって決めてるから!!ね?タクミ?」
・・・ちゃんとした知識は持っていたようで、、、ちょっとだけ悲しい。
「ん、そうだな。ちゃんと節度のあるおつきあいをしないといけないな。」
「だね。お母さんはこの人って決めたらすぐに既成事実ってのを作ったほうがいいって教えてくれたけど、ボクはそういうのは違うと思うんだ。」
エスリシアさん、あなたですか。
娘になんてこと教えてるんですか。そう思いながら、俺はここにはいない者の姿を幻視する。
それとともに、尻に敷かれているカンヘルさんの姿も思い出した。
・・・カンヘルさん。まさかあなたも女性にいいようにやられるタイプの人間ですか?
心の中でそう投げかけた質問に、何も帰っては来なかった。
「そっか。ワンチャン爛れた関係もあるかと思ったけど、匠もノアちゃんも真剣に付き合ってるんだね。それなら俺は何も言わないよ。おやすみなさい。」
律識が灯りの魔道具のスイッチを切って灯りを落とした。
もうそれ以上声を上げる奴はいなく、すぐにノアの寝息が聞こえ始めた。
寝付きのいい奴だ。そう呆れた俺も、少し後に眠りについた。
◇
カタ、カタという音を響かせて歩くそいつは迷いなく仲間との待ち合わせ場所である建物に入った。
そこではもう既に着席している2人の姿。
1人は獅子を人型にしたような姿で、もう1人は真っ白の、ただし右腕からは真っ黒の姿を見せている。
一目見ただけでもわかる。
このどちらも人間ではない。これを見たのがただの人であれば、そこに入った時点で気圧されていただろう。
だが、今入って来たのも人間ではなかった。
全身が骨だけでできた体。
どこに脳がありどうやって思考しているのかとか、どうやって体を動かしているのかとかを問いたくなる異形の姿だ。
入ってきたその骨の人物は迷いなく一つの席に腰かけた。
「すまねえ。待たせちまったな。今日やっとついたぜ。」
「本当、もっと早く来ても良かったんじゃない?」
「そういうなよ。俺が忙しいのはおめえも知ってるだろうが。」
「あの、アタシも同じくらい、というか下手したらあんたより忙しいんだけどぉ?」
白と骨がカラカラ笑いながら言い合う。内容自体は悪態を付き合うようなものだったが、話の内容に似合わずその雰囲気は軽い。
まるで久し振りに出会った旧友との会話のようだった。
「それで、お前が来たということは」
「ああ、ちゃんと連れて来たぜ。死んだらダメージがでかそうな奴・・・と、あいつを殺してくれやがったやつをな。」
「うむ、よくやった。」
獅子が目を細めた。骨の報告を聞き、ようやくこれで計画が進み安堵したためだった。
「それにしてもあいつ、何か感じ取ったのかすげえ拒否ったんだぜ?まあそこは権力で無理矢理なんとかしたから連れて来れたんだが、それをやっちまって周りの貴族がうるせえのなんの。鎮めるのに結構時間がかかっちまったぜ。」
骨は今までの苦労を誰かに聞いてもらいたく吐き出した。
「貴族どもなんてもう好きに言わせておけばよくない?無理に沈めなくても、もう必要ないでしょ?」
白は笑う。まるで自分がそうして来たと言わんばかりだ。
「でもよぉ、少しでもバレる可能性はなくしておくべきだと思うぜ?不審がられたら当日、動きづらくなるかもしれねえ。」
骨は自分の苦労が嘲笑われたみたいで面白くなく、そう言い返す。
少しだけ剣呑な空気が流れ、やがてそれはすぐに霧散した。
「まっ、間に合ったならどっちでもいいよね?」
「だな。」
「それで、これまでは予定通り進んでるけどよ、ここから計画の変更とかしなくていいのか?」
骨は獅子に問いかける。
今回の作戦の発案者は獅子によるものだ。正確を期すなら、今回のような作戦を取れるように数十年ほど前から準備を始め、そして行動に移すと判断したのが獅子だ。
要するに、獅子はこの集まりの参謀的な役割を担っていた。
獅子は笑みを浮かべながら答えた。
「うむ、何も問題は起きていない。このまま行って問題ないだろう。」
その言葉に骨も白も笑みを浮かべる。残念ながらできたのはちゃんとした顔のある白だけで、表情の動かない骨は雰囲気だけだったのだが・・・・
代わりに、カタカタという音はあたりに響いていた。
こう、今回の後ろ半分みたいな話をたまに書いているとなんか強大な敵がいるっぽい感じがしないですか?
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