222 瓦礫の山と鬼母
施設外に自らの体をう放り投げ、顔を上げた先で建物が崩壊しているのをみて思った。
・・・やっちまったなぁ。
デストリアスのやつが周りの炎から体力を供給してるのに気づいた瞬間はいい案だと思ったのだが、よくよく考えてみたらここ壊していいはずねえじゃん。
「先生!!?だ、大丈夫なんですか!!?」
そんな俺の心労をしってか知らずか飛び出してきた俺にシャオリが駆け寄ってくる。
俺を心配するようなそぶりは素直に嬉しいのだが、その分罪悪感が身を貫いた。
「あ、あぁ・・・俺なら大丈夫。」
「そうですか?びっくりしましたよ、急に建物に切れ込みが入って倒れていくんですから。」
「そ、そうだな。ちょっと戦いが激化してしまってな。」
こんなに俺がやったと言いづらい雰囲気があるだろうか?
建物を破壊したのが戦闘の余波とかでも、相手の攻撃でもなく俺が進んでやったことだってこと。
でも言い訳させてもらうなら、まだ戦闘が続いているし戦闘の被害と言えなくもない。
それに、そもそももうどうしようもないくらい火の手が回っていたのだ。
このままでは近くに民家にまで燃え移ってしまう。
だから俺が昔の日本の火消しチックな方法で消化してやったということだ。
まったく、この世界の消防隊は何をやっているんだか・・・
「それで、、もう終わったんですよね?」
シャオリが瓦礫となってしまった孤児院に目を向ける。
そこには何も動くものの気配はない。
それだけ見ればデストリアスは建物の崩壊に飲み込まれて倒れたと見るのが自然だろう。
「いや、多分勝負はまだついていないとは思うから一応確認に行ってくるよ。」
俺はシャオリを置いて瓦礫の山に近づいた。
これは俺の感覚で申し訳ないのだが、ことゲームにおいて建物の崩壊で死ぬような奴はほとんどいない。
というよりかは、死んだと思わせておいてまた後で出てくるというのが割と定番だったりする。
その際にはなぜか能力が変わっていたりするのだが、それは演出的なものだからいいとして・・・
とにかく、まだ油断はできない状況なのだ。
デストリアスは建物のど真ん中に位置取っていたな。最後の最後に足止めはしたから崩壊に巻き込まれること自体はしたはずだ。
なら、出てくるならこの瓦礫の山からなのだが・・・
俺は注意深くその山を見る。
それは昨日まで整然と立っていたとは思えないほど崩れている。
動くものの気配はない。
俺はもう少し注意してみて見る。
・・・・ガラッ、
瓦礫の山の一角が、唐突に崩れた。
俺は即座にその場所に目をやる。
今、この山を動かせる人間と言えば俺を除いて1人しかいない。
なれば、あそこにそいつがいるのは確定だろう。
俺は決着をつけるべく、その方向に歩き出した。
そしてその直後、突然俺の後ろの山が崩れる。
「ーーーー何っ!!?こっち!!?」
とっさに振り返る。
そこで目に入ったのは数々の裂傷で体を傷つけているデストリアスの姿。
そしてその手には一振りの剣。
彼がもともと持っていたものは先ほど俺が破壊した。だから今持っているのは別の剣。
炎を固めて作ったかのような、赤々とした剣が強く握りしめられ、今、俺の背中を切り裂かんとしていた。
「俺が生きていると思い込んでいるからこそ、隙が出来たってところか?なんにせよ、間抜けな話だな。」
デストリアスが俺を嘲る。
それに憤慨したいところだが、そうも言ってられない。
今俺が最優先でするべきことは防御だ。
「くっそ、、間に合え、、」
俺はティルフィングを後ろに回そうとする。
だが、完全なバックアタック。
油断をつかれた攻撃。
俺の防御は間に合わなかった。
俺の背中はでかでかと切り裂かれる。
背中のため見えはしないが、多分綺麗な一本の線が背中についていることだろう。
それも、結構深めのやつが。
だが、そんな傷を負っていても俺の背中からはほとんど出血はない。
おそらくだが、切られると同時に焼かれているのだろう。相手の炎属性的な剣が出血を許さないのだ。
「先生!!?だ、大丈夫ですか!!?」
少し離れていたところで見ていたシャオリが焦ったような声を聞かせてくれる。
だ、大丈夫だよ。ちょっと背中を切られただけで、まだ死んでいないからな。
背後から攻撃を受けたことで俺は少し前につんのめりながらも、なんとか正面を向くことに成功した。
「ぐっ、、、やっぱり、、まだ死んでいなかったか。」
「当たり前だ。あの程度で死ぬなら、そもそも俺はここまで生きていない。」
この程度の修羅場は幾度となく経験済みということなのだろう。
あれで自分が死ぬなんて全く考えていない。そんな自身がデストリアスからは感じられた。
だが、その言葉とは裏腹にダメージはでかいみたいだ。
最後に見た時より明らかに息が上がっている。
まぁ、それは俺も同じなんだが。
俺は背中に意識を向ける。
そこから伝わってくるのは以前取得した『痛覚鈍化』のおかげかなんとか耐えられる程度の赤熱感。
意識しすぎると痛くなってくるので、俺は再度前に意識を向けた。
「チッ、あのタイミングで瓦礫が崩れるとか、、、あれがなかったら攻撃を受けなかったかもしれないのにな。」
なんで関係ないところが崩れるかなぁ・・・
「さっきのが偶然だとでも?あの場所、もともと何があったか覚えていないのか?」
俺のぼやきをいちいち拾ってくるデストリアス。
相手方も結構頭にきているのかも。
「あの場所?確か崩れたのは・・・」
裏庭と建物の間くらい?
「そうだ。もう1人巻き込まれた人間がいただろう?」
あっ、、、そういえば子ダルマのことを忘れてた。あぁ、あいつ生きているのだろうか?
動いたってことは死んでないのか?
微妙に心配だが、そもそも襲撃者の命とかどうでもいいな。
「なるほど、納得だ。」
「そうか。じゃあ決着をつけるとしようか。」
デストリアスは確かめるように剣をブンブンと振るう。
そういえばあの剣もちょっと謎だよな。
多分だけど建物が崩れる前、建物内の炎を使って作ったんだろう。
そうでなければあいつの擦り傷だらけの体が意味がわからなくなる。
おそらく、生き残れても供給も武器もない状態だと勝てないと踏んで身を切ること覚悟で武器を作ったんだろうな。
まぁ、経緯とかどうでもいいんだけど。
「はぁ、本当にこれで決着がつくだろうな・・・」
なんか倒しても倒しても復活してきそうで怖いんだけど・・・・
まぁ、相手は鳥じゃないしそんなことはないか。
俺はそんなことを思いながら剣を構える。
動きは次の瞬間だった。
デストリアスが大きく踏み込んでくる。大上段からの一撃だ。
俺はそれに合わせるように剣を上に掲げた。
二つの剣が交差する・・・・と思われた瞬間、デストリアスの剣は真っ二つになり一瞬で修復。
俺の剣をすり抜けるような動きを見せる。
「うっそだろおい!!がっ、、あぁっぁぁ・・・」
俺はとっさに後ろに飛び退いたが、剣の間合いから離れることができずに体を切られてしまう。
くそっ、どうして考えなかった。
あれが炎でできているのなら、それくらいできてしかるべきだろうに・・・
後ろに飛び、そして着地した俺は今度は即座に前進する。
防御を考えても仕方がない。
今はデストリアスの体の炎は消えている。なら、狙うは本丸ただ一つだ。
そう思っての行動だったが、相手がそれに合わせるように剣を振る。
俺はそれを横に跳びのき回避した。
そしてすれ違いざまに一撃を加えようとする。
だが、それは相手方の剣で防がれた。
「くっ、つくづく卑怯な武器だなそれ。」
攻撃時にはすり抜け。防御は可能。
どっちか片方にしておけと心の中で罵倒する。
だが、いくら罵倒しても意味はない。
俺は返しに飛んできた攻撃をそのまま走り抜けることで避ける。
避けてたどり着いた先は子供達が固まって待っている場所だ。
「先生!!?き、傷が・・・る、ルリアさん!!」
まったく、シャオリは心配性だなあ。
背中を向けているから表情は見えないが、また焦ったような顔でもしているんだろう?
傷を間近で見たからか、そんな声が聞こえてくる。
ちなみに、今二発ほど攻撃を食らってしまったが俺自身はそこまで焦っていない。
何せ視界の端に見えるステータスウィンドウのHPの値がまだ7割も残っているからだ。
うむ、普通なら一撃で死にそうなものだが、俺のステータスはそれをたやすく耐えて見せてくれる。
それも少しずつ回復して行っている。
それでもあと五、六発も貰えば死ぬだろうし、相手の攻撃に対する防御ができていないのだから俺が負けそうに見えるのも無理はないが、、、、
だがもう焦る必要はないな。
「心配するなお前ら。俺らの勝ちだ。」
「で、でも先生っ、傷が!!それにあいつはすごい強くて・・・」
「大丈夫だって、ほら、あっち見てみろよ。」
「あっち?あっ、、」
シャオリの視線の先には全速力でこちらに向けて近づいてくるものの姿があった。
その人物は周りには一歳目もくれず、こちらに向かって走ってくる。
「りりすおかーさんが来てくれたー!!」
「おかーさん?おかーさんきたの?」
「あっち、ほらあそこ!」
「ひっく、ひっく、、おかーさんきた?」
遅れて先んじて建物の外にでたシャオリたちに保護された小さな子供達がその視線を追う。
その先にはリリスの姿があた。
それまでは不安でいっぱいだった子供達に、安心の表情が見える。
・・・リリス、随分と子供に懐かれていると思っていたが、ちゃっかり母親のポジションを欲しいがままにしているな。
「私の子達に手を出すのは、、、お前かあああああああああ!!?」
鬼のような怒声を響かせ、我らが母が降臨なさった。
デストリアスは強敵だが、みんなで叩けば怖くない。
一応、リリスの後ろに隠れてノアもいる。
こっちの方はリリスの足についていけずに少しゆっくり目に遠くから走ってきているが、少し待てばこちらも戦力になってくれるだろう。
さて、デストリアス。
さっきの言葉を返そう。
「さあ、決着をつけようか。」