22 ボス部屋とドロップ品
「よし、満足いくだけ倒したし、今日はもう帰ろうか」
ハイスケルトンの群れを一掃した俺は、非常に満足したため街に戻ることにしよう。
また何か忘れているような気もするが、気のせいだろう。
「あれ?タクミ、もう帰っちゃうの?」
「ああ、結構すっきりしたしな。俺はもう満足だ。」
「君がよくてもボクが満足してないんだよ!!ほら、せっかくだからあの部屋だけ攻略してから帰ろうよ!!」
そう言ってノアが指さした方向にあったのは、巨大な扉だった。
いかにも重厚な扉であり、その先には何かがあると思わせる作りだ。考えるまでもなく、ボス部屋か何かだろう。
ノアはそこに行ってみようというのだ。
「ふむ、なるほど、それもいいかもしれないな。ちなみにあの先には何があるのかわかっているのか?」
「あそこには確か強いスケルトンがいるっていう噂だよ!!ボクたちの敵ではないね!!」
・・・・強いスケルトンか。
「そうか、それなら大丈夫かもしれないな。念のために言っておくけど、油断はするなよ?」
「任せといて!!ボクもこの子にいいところを見せてあげるんだから!!」
そういうノアの視線は、魔物が落とした魔石を拾いながらついてくる少女の姿があった。
どうやら、彼女は今日は活躍の機会がなくて不満が溜まっているらしい。さっきのハイスケルトンの群れは俺一人で消化してしまったから、ストレス発散ができていないのだろう。
まあ、彼女にストレスがあるかと言われればあまりなさそうではあるが・・・
「よし、じゃあ、開けるぞ。」
俺はそう言ってその扉に触れる。
するとその扉は、俺が触れた瞬間に重い音を立てながらゆっくりと開いていく。
部屋の中は暗く、この位置からでは何があるかを確認できない。
「じゃあ、いっくよー!!」
ノアは自分が一番乗りという風に、真っ先に開いた扉の先に進んでいく。
先ほど油断はするなといわれたことを、もう覚えていないのではないか?そう思わせる突進ぶりだった。
ノアがその部屋に入ると、
―――――ボッ!!
という音が鳴り、部屋の壁に大量に立てかけられていた松明に火がともった。
オーソドックスなボス部屋の演出だな。
そしてそれと同時に、俺の目にその姿が映る。
その姿は、ハイスケルトンのものとほとんど変わりはない。しかし、決定的に違う部分があった。
それは装備品だ。
その骨の魔物は、煌びやかな武具を身にまとっている。
明らかに良い金属で作られたと思う鎧、金色の盾、薄く光を放つ白銀の剣、その姿はどこか歴戦の戦士を思わせる
部屋の松明がすべてともり切った時、そいつは動き始める。その速度は、ハイスケルトンのものとは比べ物にならないほど速かった。
「えええええ!?」
突然動き出した骨の魔物に、驚いたのだろう。ノアは対応が遅れてしまう。
骨の魔物は、一切の躊躇をすることなく、ノアに向かってその剣を突き出した。
そしてその剣は――――俺の剣によって阻まれる。
ぶつかり合った二つの剣であったが、はじかれたのは俺の剣のほうだった。
《斬鉄》のスキルを発動させた一撃であったが、木の剣ではここが限界だったようだ。あの武器、少なくとも攻撃力が30はあるということだろう。
「ッチ、」
俺は今現在持ちうる最大の攻撃が、敵の剣にはじかれたことに不満を覚え、舌打ちをする。
しかし、その舌打ちは攻撃にさらされ近くにいたノアには、別の意味に聞こえたのだろう。彼女はその場から逃げるようにして後方に下がる。
そしてすぐさま、魔法を放つための詠唱をし始めた。
それを見たこの骨の魔物は、すぐさま俺を無視するようにノアのほうに目を向けた。
こいつは知能も持ち合わせているらしい。
ノアの使うウォーターの詠唱は俺の体感では約5秒、その間は俺がこいつを引き付けておく必要がある。
「おら!!この凡骨野郎!!早くこっち向きやがれ!!」
俺はそいつがノアのほうに走っていくより先に、《挑発》のスキルを発動させる。
その効果はすさまじく、今度は俺しか目に入っていないように斬りかかってきた。その動きに無駄はなく、本当に骨でできているのかというくらい人間臭い動き方をしている。
俺は敵の剣をできるだけ受けないよう、回避に努めることにする。
俺の武器では、あの威力を受けきれないからだ。
そして5秒、そのわずかの間に、準備を済ませたノアの魔法が放たれた。それは狙いたがわず、俺の目の前で剣を振り続ける骨の魔物に直撃した。
しかし、ダメージを与えたという感じはしなかった。それを証明するかのように、そいつは先ほどまでと全く変わらない動きで俺に襲い掛かってくる。
先ほどの魔法は、俺に木をとられて避けられなかったというわけではなく、脅威にならないと判断したから受けたということだろうか?
それなら、詠唱を止めに行った理由がよくわからない。
もしかして、最低限の知能はあるが、言語などは理解していないのだろうか?
「ノア!!ほかに何か魔法はないのか!?具体的には聖属性か火属性の魔法がいいんだが!!」
俺は後方にいるノアに向かって叫ぶ。
「今はまだとってないけど、スキルポイントを使えばすぐにでも取れるようになるよ!!聖属性の魔法はポイント不足だから、火属性にするね!!」
俺の言葉を聞いた彼女は、すぐさまスキルウィンドウを開いて、指でそれを操作している。
そしてそのすぐあと、再び詠唱を始めた。
いつもの聞きなれたものではない、別の詠唱だ。
そして、それは5秒という時間が経過した後も放たれることはなく続いている。
それを聞いた目の前の魔物はというと、先ほどの攻撃が思っていたより貧弱だったためだろう。全く意に介さない様子で俺と対峙し続けている。
骨の体のためか、その動きが鈍ることはない。
スタミナなどの概念は存在しないのだろう。それでも、俺がそいつの攻撃を受けるなんてことはない。
これが数時間続いたとしても、よけ続けられそうだと思った。
ノアの詠唱が始まってから、終わるまで結局20秒の時間がかかっていた。戦闘中の20秒は、本当に長い。
1人の時は使うことができないような詠唱時間だ。
「いっけー!!《フレイムピラー》!!」
ノアの声が聞こえた瞬間、俺は骨の魔物は完全に無視して、大きく後方に跳んだ。
あれだけ長い詠唱時間なのだ。その威力もそれ相応のものが飛んでくる、それならできるだけ離れたほうが巻き添えを食らう心配がなくなる。
そう思ったからだ。
そして俺の判断は正しかったようだ。
俺が後方に跳んだ直後、骨の魔物の足元が赤く光ったかと思うと、
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
という大きな音を立てながら、そこから火柱が立ち上がった。
それが見た目通りの威力であるならば、俺の《斬鉄》を使った攻撃なんかよりもずっと高威力だと思われる。
そして炎が晴れる。
その中からは、先ほどまで戦っていた骨の魔物と思しき物体が、よろよろとこちらに向かって歩いてきている。
あの火力の中、こいつは生き残ったみたいだ。しかし、かなり効いたのだろう。
先ほどまでの機敏な動きではなく、何か体を引きずるような動き方をしている。体の一部がもう機能していないのかもしれない。
だが、まだそいつが死んでいないことは確かだ。いや、骨だから死んでいるのかもしれないけど・・・
俺はよろけながらもこちらに近づいてくるそいつに、強めの一撃を食らわせた。
そして無防備のまま、その一撃を受ける骨の魔物。
俺の攻撃を受けたそいつは、そのまま倒れたかと思うとすぐさまその体を灰と魔石に変えた。しかし、今回はそれだけではなかった。
先ほどまでこいつが身に着けていた装備のうち、その剣がその場に残ったのだ。その上、どこから来たのかもわからない宝箱まで出てきている。
おそらく、ボス討伐の報酬か何かだろう。
ゲーム的にはよくあることなのだが、あらためて見るとこの宝箱はどこから来ているんだろうな?
「おーい!!終わったみたいだからこっちに来てくれ!!」
「わかったよ!!今から行くね!!ほら、早くいこ?」
「はい!!わかりました・・・」
俺は骨の魔物が残した剣の詳細を確認しながら、後ろの二人がこちらに来るのを待った。
名前 骨の魔剣
効果 物理攻撃力+40 光属性 (弱)
説明 スケルトンナイトが持っていた剣。高位のスケルトンの骨を使って作られたものだが、何故か光属性である。
うへえ、これ、骨でできているのか・・・
性能はいいが何か使いづらいところがあるな。まあ、関係なく使うつもりだけど。
これでやっと木の剣は卒業だな。
俺はそう思いながら手に持っている剣を腰の剣帯に差す。その時、ちょうどノアたちがここまで来たみたいだ。
「ねえねえ、タクミ、それボクが開いていいかな!?」
彼女は俺の答えを聞くよりも早く、その宝箱に手をかけた。重そうな蓋だが、案外簡単に開いたみたいだ。
「さーて、御開帳だね!!」
勢いよく開かれた宝箱の中に入っていたのは、まさかの骨だった。
「骨だな。」
「骨だね。」
「骨・・・ですね。」
三人とも、微妙なものを見るような反応だ。それでも一応ボス報酬、俺はそのアイテム詳細を確認する。
名前 スケルトンメイジの骨
効果 特になし
説明 杖などの魔法に関するアイテムの素材になる。
見た瞬間にわかってはいたが、これは素材アイテムらしいな。魔石同様にいつか大量に必要になる類のアイテムだろう。
「ほれ、これを持っておいてくれ。」
それを拾い上げた俺は、カバンを背負っている少女に向かってそれを放った。少女はそれを迷わず受け取り、カバンの中にしまい込んだ。
骨を表情一つ変えずに触れる当たり、慣れているのだろうか?
「それじゃあ、今度こそ帰るぞ。」
ボス部屋を攻略し終わった俺は、ノアたちに向かってそう言った。
「そうだね、ボクも満足したしもう帰ろっか。」
「はい、、、、わかりました。」
みんなこれから帰ることに異論はないようだ。いや、若干一名満足していない奴がいるみたいだが、俺としてはちゃんと口にされていない意見は無視だ。
そのままダンジョンの入り口に向かって歩き出す。
行きにほとんどの敵を倒してしまったからだろう。帰りは思ったよりスムーズだった。
流石に全く敵に合わないというわけではなかったが、それでも生き道に比べると少ない。結構歩いて1、2体出るか出ないかくらいだ。
そのおかげもあってか、俺たちはすぐにダンジョン入り口までもどってくることができた。
・・・・ん?
入り口付近に何者かが座り込んでいる。
数は・・・・5人だ。その中の3人はどこか見覚えがある。
―――――――――――――あ!!そうだ!!
そいつらを見た俺は今日ここに来た理由を思い出した。