215 それぞれの個性と秘めた力
ルリアが仲間に加わった。これからしばらくは子供達と一緒に自衛訓練を受けることとなる。
だが、途中参加のルリアには知らない話もあるだろう。今まで積み重ねたことを前提として授業をするとすぐについていけなくなってしまうかもしれない。
一応ではあるが彼女の防衛能力はおれにかかっているふしもあるので、ここは慎重にいかなければならない。
というわけでまずはじめにやるべきことはルリアの能力チェックだった。
「ということで今日は転入生がいます。みなさん拍手で迎えてあげましょう。」
俺が高校時代少しだけ期待していたがそんなものは一切なかったイベントのうちの一つ、転入生イベントの体を装いルリアを紹介する。
パチパチパチパチ、
少しだけ閑散とした拍手の中、ルリアは姿を現した。
ちなみに彼女は蒼く肩まである髪、それと同じ眼の色、平民ながらおしゃれを忘れない小奇麗な服が特徴だ。
「さてルリアさん。みなさんに自己紹介をお願いします。」
「は、はい!!ご紹介に預かりました、ルリアと申します。みなさんの足を引っ張らないように頑張るので、どうぞよろしくお願いします!!」
彼女は気合の入りようがよく分かる挨拶をする。大きく頭を下げ、腰は綺麗に折れ曲がっている。
挨拶の様式も俺が思い描いたものだったし、非常に満足だ。だから茶番はこの程度にしてさくっと始めることにする。
「はい、というわけで新しい仲間ができたから仲良くしてやってな。あ、そうだルリアさんは何か得意なこととかあるかな?というかクラスは何?」
戦士か、魔法使いか、ローグか、はたまたノービスか。
個人的なイメージで申し訳ないけどルリアは運動はできなさそうだし魔法使いかな?次点でノービス?
そう思っていたのだが、どうやらこの予想は外れてしまったみたいだ。
「ご、ごめんなさい、私のクラスは神官なんです!!」
ルリアは申し訳なさそうに頭を下げる。
先ほどと同じ角度だが、そこにはどこか動揺が見て取れる。
「ん?神官?」
これはまた珍しいな。俺の世界開始時のクラス選択では神官はなかったから、どうにも別枠として考えられるんだよな。
そもそも、神官は冒険者ギルドじゃなくて神殿とやらに登録に行くらしいし。
「はぃ、、やっぱり難しいですよね?」
「いや、問題はないというか何を問題にしてるのかわからないというか・・・」
「だって神官ですよ?他の方に強くなりたいって言ったらみんな揃って「戦士に守って貰えばいいだろ」っていうクラスですよ?」
「それもそれで別にいいけど、神官も危険な場所に行くことには変わりないし、最低限身を守る手段を持っていてもいいとは思うけど・・・」
「そうですか?そう言って貰えてよかったです!」
納得はして貰えたらしい。
いや、多分ここでダメとか言っても食い下がってきてくれただろうから結局は一緒に訓練することにはなるんだけどね。
「それでまずはルリアさんがどのくらい戦えるのか見たいんだけど、、、ステータスとか見せてもらっても?」
「あ、はい!こちらになります。」
ルリアは何のためらいもなくステータスを開いてこちらに向けてくる。
そこに記載されていたのは以下のステータスだった。
名前 ルリア
クラス 神官
レベル 8
HP 88/88
MP 241/241
力 11
魔力 40
体力 13
物理防御力 19
魔法防御力 44
敏捷 15
スキルポイント 4
状態 正常
「ふむ、レベル8とな。」
「ごめんなさい、レベル低いですよね?」
俺のつぶやきをどう捉えたのか虚ろな目をしたルリアが目をそらしながらそう言った。
さっきといい今といい、どうにもこの娘は自分に自信が持てないらしい。
「いや?街から出ずにこれなら高いほうじゃないのか?えっと、ビビ、お前今レベルは?」
「はい、えっと、、3です。」
「だよなあ。」
魔物を倒せば経験値が入る。これは基本だが、実はクラスによってそれぞれ別に経験値を手に入れる方法もある。
例えば戦士系のクラスであれば体を鍛えれば経験値が入って行くし、魔法使いであれば知識を蓄えていけばいい。
ローグは少し難しくて罠を作ったりすれば経験値が入り、ノービスは食事といった日常的な行動でもほんの少しずつだが経験値は入るらしい。
でもそう言った経験値は魔物を倒した時に得られるものからすればごく僅かだ。
それこそ、何十日とかけてやっと1レベル上げることができるくらいなんだと、、、本に書いてあった。
とにかく、街中でレベル8は割と高水準と見ていいと思う。
何せ初期段階で子供達の中で一番レベルが高いレオンが未だに4だからな。
反面、一度オークの群れを倒すのにくっついていただけのリタは19、これを見れば魔物がどれほどの経験値を蓄えているか分かるだろう。
「まあ、本当に知りたいのはクラスであってレベルではないからそこらへんはどうでもいいんだけどな。そういえば、スキルポイント減ってるみたいだけど、何のスキルをとったんだ?」
レベルが8なら14ポイントはあるはず。それが現在4ポイントだから、何かしらは取得しているのだろう。
それの如何によっては育成方針が変わるかもしれない。
「えっと、『ヒール』と『キュア』と『ヒールアップ』と『ヘルス』と『レスト』の5つです。」
ふむ、聞く限りだと回復系統のスキルを片っ端から取っていっているみたいだ。
これはオーソドックスな神官タイプ。
戦士の後ろで回復魔法を唱え続けるよく見る神官となるだろう。
よかった。リリスみたいに自己強化系のスキルましましとかだったらこの世界の神官全てを疑う必要が出てくるところだった。
それにしてもスキル・・・スキル・・・・何か忘れているような気がする。
子供達のスキルをひけらかしてもらったときもそうだったが、何か重要なことを忘れているような気がするんだよな。
なんだったか・・・・
俺は気まぐれに自分のスキルウィンドウを開き、それをいじりながら考える。
ん?いじりながら?
。。。。あ!!
「そうだ!思い出したあ!!」
「きゃっ、どうなさったのですか?」
「固有スキルだ!!忘れてたのは、おい!律識、すぐに来てくれ!!」
そうだ。そうだよ。どうして今まで忘れていたんだ?固有スキル、物によってはそれだけで食っていけそうな種が存在したじゃないか。
我ながら間抜けな話だ。
子供達に技を教えることを重点に起きすぎて、それぞれの個性を見ることを忘れるなんて、、、これじゃあ先生と呼んでもらえないのも仕方ないな。
「はいはい、呼ばれてやってきた律識さんだよ。どうした匠?何か用?」
「律識、突然で悪いだけどこいつらの固有スキルを調べてやってくれないか?」
「はぁ、今更?いつまでも来ないから忘れてるのかと思ってたよ。」
・・・悪かったな。忘れてたんだよ。
「とにかく、やってくれないか?」
「はいはい、可愛い女の子たちのためだからね。俺も全力で手助けさせてもらうよ。」
全くこいつはブレねえな。いつまでたっても律識の視界にはビビとレオンの姿は映らないらしい。
いや、もしかしたらこれ、ルリアも見ていない可能性もあるな。
「じゃあ、ちょっとだけ待っててね〜。」
律識はそういってスキルを発動させた。
彼のスキル『精密解析』は解析までに少ないが時間がかかる。
彼らにはそれが終わるまでじっと待ってもらい、律識には一気に発表してもらうことにした。
あと、補足情報を加えておくと『精密解析』は一度解析した相手の情報は視界に入れば2度目はノータイムで観れるらしい。
これはステータスに変動があった場合や、スキルを手にした場合にもそうらしいぞ。
そして少しの後、律識による解析が終わった。
「よし、じゃあ発表していくよ。まずは誰からがいい?」
「じゃあ、はい!俺から頼むぜ!!」
まず先にレオンの解析結果が発表される。
レオンが持っていた固有スキルは1つだった。
その名も『ちっぽけな正義感』能力は後ろに守るものがいるとき、物理、魔法共に防御力が上昇するらしい。
「う〜ん?これは喜んでいいのかわからねえぜ。」
まぁ、リリスに聞いたら強力な固有スキルはほんの一握りだというし、プラス効果なだけありなのでは?
「次は、、、とりあえず男を消化しておくか。ビビ君!君のスキルは〜」
ビビの固有スキルは『臆病者』と『罪悪感』だ。
『臆病者』はどんな時でも確実な方法を選びたくなるらしい。
『罪悪感』の方は味方が傷を受けた時、攻撃力がそのダメージに応じて上昇するのだとか。
どっちのスキル名はあれだが、悪くないスキルだった。
「じゃあ次は今日からの人だね。」
ビビの次はルリアだった。
彼女の固有スキルは『献身』
自分のHPとMPを他の人に譲渡するというスキルだ。
回復特化のスキル構成といい、ルリアは人を癒すことしか考えていないのだろうか?
これはいいスキルか悪いスキルか、ちょっと判別が難しいところだな。
「『献身』・・・嬉しいです!」
まあ、本人は喜んでいるみたいだけど、兄のハイデルとかが聞いたら手放しに喜べないと思う。
「じゃあここから本命、まずはリリカちゃんからいってみようか!」
ここから律識のテンションが目に見えて上がった。
本当に欲に忠実に生きているやつだ。抑えてはいるのだろうが、何を考えているのかが浮き出てきている。
リリカのスキルは『従者』ほとんどのステータスの上昇値に補正がつく代わりに、HPと物理防御力にマイナス補正がかかるというものだった。
彼女のクラスはローグで、元々のHPと物理防御も低いので、かなり危険なスキルかもしれない。
「どんどん行くよ!リタちゃん!」
リタのスキルは『間に合わせ』と『自戒』らしい。
『間に合わせ』はステータスに影響を及ぼす効果、つまりはバフ、デバフの効果を引き上げてくれるらしい。
『自戒』は味方へ攻撃がヒットした場合、その半分のダメージを自分が引き受けるみたいだ。
メリットにもデメリットにもなりそうだが、そもそも仲間を撃つなという話だしこれは死にスキルだろう。
「そして次はーーエルザちゃん、これはすごいよ!」
エルザは意外なことに3つも固有スキルを持っていた。
スキル名は『魔力炉』『魔力の泉』『炎環』だ。
説明を聞いて見たが、どれもこれまでとは一線を画すいいスキルたちだった。
まずは『魔力炉』これは一度MPを任意の量消費するが、時間経過で消費したMPの10倍のMPが返ってくるスキルだ。
注意点としては、最大MPより多くは保有できないことには代わりないから、このスキルを使ったら魔法を使いMPに余裕を持たせる必要があることだ。
次に『魔力の泉』これはノアの持っている『活力の泉』の魔力版、大量のMPと大きな魔力を手に入れられるスキルだ。
持っていて損はないだろう。
そして最後、『炎環』これはMPを最大MPの3分の1消費して発動できるスキル。
その効果はHPの全回復だ。
通常なら3回までしか使えないスキルだが、幸運なことにエルザには『魔力炉』というとても相性のいいスキルが備わっている。
彼女のMPは10倍まで膨れ上がり、増えたMPをまた『魔力炉』に突っ込めばさらに増やすこともできる。
『魔力炉』のMPを入れてから増やすまでのラグに弱点ができるが、その弱点を補えば最高クラスの生命力を手に入れられるだろう。
「ふふん、この私ですわよ?当然のことですわ!」
エルザが誇らしげに胸を張っている。
うん、これは誇っていい。異常なまでの強スキルだ。
「そして最後のシャオリちゃん!こっちもこっちでかなりすごいよ!!」
お?すごいの二つ続きか。もしかしたら律識、お楽しみは後にとっておいてくれたのかもしれないな。
変な意味ではなく、普通の意味で。
シャオリの覚えているスキル。これはエルザに引けを取らなかった。
もっと早くに気づいて入ればと悔やまれる気持ちがいっぱいだ。
彼女が覚えていたのは『純真』『烈風帝』『溢れ出る力』だった。
なんというか、シャオリも当然の顔して3つ固有スキルを持っているだな。
俺だって1つなのに・・・まぁ、その1つがある意味こいつらのもの以上にぶっ壊れているから不満はねえけど。
さて、まずは『純真』のスキル。これは比較的まともだ。
効果はたった1つ、心に決めたものを信じている限りステータスに2割増の効果がつくのだと。
・・・すまん、あんまりまともじゃなかったわ。
条件付きだが常に無調整状態の『白闘気』の効果を得られるって言ったら異常スキルだわこれ。
そして次、『烈風帝』
烈風を身に纏い操ることが可能。というのが律識のウィンドウに現れたスキル説明。
より詳しくすると、このスキルを使っている間、使用者は体の周りに風が吹くのだと。
それも、触れただけで手が切れるような鋭い風。
当然使用者は切れないらしいぞ。
で、その風をある程度自分の意思で動かすことができるのだと・・・何を言ってるのだろうか?
ちょっと意味がわからない。多分だけどそれ、アクションRPGの四天王の1人とかが持っているじゃないの?
とにかく、かなりの強スキルであることには変わりなかった。
そして最後、『溢れ出る力』このスキルは取得経験値とステータス上昇にプラス補正がかかるみたいだ。
シンプルながら、誰もが欲しいと思うスキルだろう。
「本当、我が生徒ながらバカみたいに強力なスキル持ちがいて不安になるよ。」
「大丈夫です。私は先生のこと、信じてますよ!」
最後のシャオリのスキル発表を終えた時、そう言ったシャオリの言葉が地味に印象的だった。
俺なんかより、もっと別のものを信じたほうがいいと思うだけどなぁ・・・例えば?お金とか?
「まぁ、とりあえず己が個性を把握したと思うから、今日からはそれを意識して訓練していくことにしよう。」
「「「「はーい!!」」」
自分の固有スキルを教えてもらったからか、えらくご機嫌な子供達の返事を聴きながらこれから少し楽しくなるかもなと俺は期待に胸を膨らませた。
こんなにぶっ壊れスキルを与えて大丈夫なのかって?大丈夫、大丈夫。
これらのスキルはほとんど使われることなく第5章を終えるつもりだから。
だからここで発表したスキルを使うのは、番外編とかになりますかね。
、、、因みに、皆さんはエルザとシャオリはどちらが強いと思います?