213 救助と匠が見えた未来
本日?3度目の投稿。
日をまたいでしまっているから本日と言えないですがね。
お知らせ
211話の後書きの主人公の持っているスキルに『烈風刃』というものがありましたが、これは『風闘気』の間違いでした。『烈風刃』は別のキャラ、具体的には勇者が持っているスキルです。
「先生!今度はこっちの方を見て見ましょう!!」
シャオリが先導をするように俺の前を歩く。
今日は彼女が勝利して手に入れた頼み事の権利で俺と一緒に街を歩いている最中だ。
他の子達もついて来たそうにしていたが、流石にそれを許してしまうと何のためにシャオリが頑張ったのかがわからなくなってしまうため、それは断らせてもらった。
ただでさえすでにその意味が薄れているからな。
ちなみに、他の子達は今日も当然のごとくやって来たライガや俺のパーティメンバーに任せて来た。
ライガが子供達に何かを教えてくれるそうだ。
正直、シャオリも俺なんかと遊んでいるより勇者の授業を受けた方がいいと思うんだけど?
「あーはいはい、えっとこれは?」
シャオリにつられるようにやって来た場所には露店が構えられており、そこには雑多な商品が置かれていた。
「よくわかりませんが、可愛くないですか?」
シャオリがそう言って指差したのはひとつのぬいぐるみ。
紫色と黒色を基調とし、目は見開かれておりその焦点はあっていない。
口は半開きになっているが、唇にあたる部分が少し集めのためこの位置からはほとんど影になっているように見える。
浅黒の肌は何やら悪いものを連想させるような印象を受ける。腕はだらりと長く、座っているのもあって地面に投げ出されている。
そんなぬいぐるみがシャオリの指の先にあった。
・・・・ぬいぐるみ!!?なんだあれ気持ち悪っ
悪趣味にもほどがあるだろう!!?
絶対あれ、闇の教団の儀式の間とかに円を囲うように配置されているとか、ホラーゲームで何もしていないのに後ろを振り向いたら棚から落ちてうつ伏せで倒れているとかそういうアイテムだろあれ!!
俺は心の中でそう突っ込んだ。
「シャオリ、現実を突きつけるようで悪いけどあれは可愛くない。」
「えー、グロ吉くん、、可愛いのに・・・」
シャオリのやつ、この一瞬でもうすでに名前まで決めやがっていた。
こういう行動力は立派だが、ここで発揮して欲しくはなかったな。
つーかシャオリよ。グロ吉くんって本当に可愛いと思ってつける名前なのか?
「あ、じゃああっちは!?」
次に彼女が指差した先にあったのはこれまたぬいぐるみだ。
こっちは比較的まとも、ツキノワグマが鉄製の兜を被り、その前面を開いているぬいぐるみだった。
「うん。クマって実際に遭遇すると怖いけど、ああやってデフォルメされていると結構可愛いよな。」
「いや、それじゃなくてその先のーーーーー」
「その先の?えっと、ああ。あの気持ち悪いぬいぐるみその2」
クマの方じゃなく、その隣にあった魔物の部位をつなぎ合わせたみたいなやつか。
気持ち悪さは先ほど見たやつよりは抑えられ散る。
なんというか、魔王ベルフェゴールが呼び出した魔物の中に同じような奴がいたような?
「う〜、先生はひどいです。」
「酷いって・・・酷いのはあのぬいぐるみの見た目じゃあ・・」
そこまで見て俺たちはその露店から離れた。
基本的に布製品を扱っている店だったのだが、あの気持ち悪いぬいぐるみシリーズは店主の趣味か何かなのだろうか?
そんなことを考えながら俺はシャオリに先導されるがままに歩く。
俺は特に行きたいところとかないからな。好きに歩かせている。
「きゃぁぁぁぁぁ・・・・!!」
ん?今何か微かだけど叫び声が聞こえたか?
「先生!!どうやらあっちみたいです!!」
音の出所を即座にキャッチしたシャオリは路地の方向を指差した。
「どうする?見にいくのか?」
「早くしましょう!もしかしたら手遅れになるかもしれないです!」
シャオリはそれだけ言って先に駆け出してしまった。出遅れた俺もすぐに後を追うように走る。
声の音源はそこまで遠くはない。
路地裏を数回曲がったところで、その現場を目視することに成功した。
そこには高校生くらいの男と、中学生くらいの女が1人ずつ。
男の方は刃物で切り裂かれたような傷が右腕にできており、息を切らしながらも女の前に立っている。
また、それに対峙するのが3人の男たち。こちらは大体40代中盤から後半だろうか?とにかくそこそこ年を食っているな。
メンバー構成は細身の男、大柄な男、小さくて身長が150なさそうな太った男が1人だ。
それぞれの手には若干錆びついた金属製の刃物が握られている。
そしてそれを使い、今にも青年に斬りかからんとしようとしていた。
それを見たシャオリは躊躇うことなく飛び込んだ。
今日は街を見て回る予定しかなかった。それ故に彼女は何も武器のようなものは持っていない。だが、一応武器なしでも使える技はいくつか教えるだけは教えておいたはずだ。
不意打ちなら、あるいは1人くらい倒せるだろう。
「やあっ!!と、えい!!」
不意をついたシャオリは跳躍、からのストンプを小柄で太っちょなーーーーああ、もう子ダルマでいいやーーーー子ダルマにぶち当てる。
攻撃前に叫ぶような声をあげたので、不意打ちの側面は少しだけ薄れてはいるがちゃんと攻撃は入ったみたいだ。
シャオリは一撃を加えるだけ加えて一時離脱した。
「あ、あんたたちは?」
突然の出来事に青年が目を丸くしてこちらを見てくる。
「見たところ襲われているみたいだったけど、よかったら何があったか教えてもらえないか?」
まあ、名乗る必要もないので軽く状況確認だけ。
「はっ、大通りを歩いていたら急に妹が誰かに掴まれて、すぐに追いかけたらこの人たちが妹を連れ去ろうとしていたので、助けようとしてーーー」
そこまで本人の口から聞けたなら大丈夫だな。
「ちょっと力及ばず苦戦していて、油断したところで腕に大きな切り傷を作ってしまいそれを見た妹が絶叫。俺たちに聞こえて今に至る、という感じだな?」
「は、はい!そうです。」
よし、ならあそこにいるのは悪いやつ。俺が倒してしまっても構わないということだな。
「ぐっ、突然やってくれやがったな。だが数が増えても意味ねえってことに気づけよ!!」
「はは、そうだぜ。冴えない丸腰の男と同じく丸腰の子供が出てきたからって、何もできるはずがねえよ。」
「そうだそうだ。ちょっと時間が伸びるだけだ。いや、死体も増えるなぎゃはははは!!」
暴漢三人衆は楽しそうに笑う。
先ほどシャオリが先制攻撃を加えた男も、さほどダメージを負った様子はない。
それを見たシャオリは申し訳なさそうに
「すみません先生。私が下手なばっかりに・・・」
と言った。
「それに関しては別にいい。倒したら倒したで相手が警戒するだけだし、どっちの結果でもさほど変わらないよ。」
「はっ、余裕こきやがって。今に痛い目にあって逃げ出す姿が目に浮かぶぜ!」
ああ、そういえば今日は俺も丸腰か。いつもはこう言った場合にでも武器を持ち歩いているのだが、物騒なものを街中で晒して歩くのはどうかと思うし、『理力結晶の剣』のスキルのおかげで必要は無くなったからな。
ただ、相手から見たら俺が武器を持っているとわからないわけで・・・・というか、ステータス的に大きく差ができてしまったら武器の有無とか些細な差だと思うんだけど、そこらへんはどうなんだろうな?
「じゃあ、最終確認。そっちの2人は今襲われていて、そっちの3人は悪いやつ。そして2人は助けてほしい。これでいいか?」
「ひっ、、はい!!兄さんを助けて!!」
俺の質問に答えたのは今まで泣きそうな顔で黙りこくっていた妹さんだった。
「先生!助けましょう!」
妹さんの言葉を聞いた俺は即座に飛び出した。
速度重視、時間をかけてやるつもりは毛頭ない。
「なっ、疾っ、、、」
「まずは1人目。」
俺は手のひらをそっと大柄な男の方に押し当てる。
そしてそこで『理力結晶の剣』を発動させた。
俺の手のひらから魔力の刃が突き出され、男の方を貫通する。
そして俺はそれを少しだけ下に引いた。
「ぎゃああああっ、痛えよぉ!」
絶叫が辺りに響く。だがここは路地裏であり、光のある場所からはすぐには見つけにくい場所だ。助けは来ない。
恨むならこんなところに人を連れ込んだ自分を恨め。
方を抑えて悶絶しているこいつは今は放置でいい。次に狙うのは細身の男だ。
男は仲間が1人倒されているというのに、反応もできずに俺の接近を許してしまう。
だが、これは仕方のないことだ。
そもそも俺の速度は速度重視の時は通常時の2倍。
通常時でさえ大概の相手より素早い俺を、たかがチンピラごときが捉えられるはずはない。
俺はその速度を維持したまま、小柄の男に突撃する。
男はその衝撃を逃がしきれずに、近くの壁に叩きつけられた。その際に後頭部を強打し、そのまま地面に沈み込んだ。
そして最後は子ダルマだが、そっちはシャオリが処理をしてくれた。
彼女は両足で子ダルマの首を挟み込むと、そのまま体をひねった。
頭部に想像以上の負荷がかかった子ダルマはその重量に耐えきれずになすがままバランスを崩していき、仰向けに倒された。
そしてその顔面に向かって少しだけ遅れて落ちてきたシャオリの肘が直撃する。
うむ、完璧な一撃だ。
「やりましたよ先生!」
「よくやったぞシャオリ。正直な話、今の一撃は殺してしまうんじゃないかと不安に思ったけど、ちゃんと生きもあるみたいだしな。」
「え?悪い人だから別に殺してもいいんじゃないですか?私はそのつもりで技を放ちましたけど?」
「あ、まあそれで手加減して自分が殺されたらバカだからな。間違ってはいないと思うぞ。」
俺とシャオリはそんな会話をしながらここを立ち去ろうとした。
「あ、あの。ありがとうございました!!このお礼はいつか必ずいたしますので、どうかお名前だけでも教えていただけないでしょうか?」
助けた兄弟の兄の方がすがりつくように話しかけてくる。
「あ、タクミです。今は居住区の南寄りにある孤児院で教師の真似事をやって遊んでいます。」
俺は軽く自己紹介だけ済ませてそのまま立ち去った。
お礼とかはいらないけど、子供達の遊び相手は欲しいからな。
きてくれることに期待してどこにいるのかだけでも言っておいた。
相手からしても、助けた人の名前がわからないのは気持ち悪いカモと思ったのも一つの理由だ。
うん、俺だったら名前も明かさずに助けるだけ助けてどっかにいくキャラはモヤモヤするからな。
そんなことを考えながら俺は路地裏を後にした。
「そういえば、今までずっと聞きたかったことを聞いてもいいですか?」
路地から出た直後、シャオリが真面目な顔で話しかけてくる。
「聞きたかったこと?別にいいけど。」
「じゃあ遠慮なく、、、あの、先生はどうして私たちを助けてくれたの?別にあの孤児院出身ていうわけでもなさそうだし、知り合いがいるのとも違うんだよね?」
あ〜、それ?
なんか前にも同じ質問をーーー助けた直後のグレースさんだったっけか?にされた気がするな。
「まあ隠す必要もないから言うけど、俺があの展開があんまり好きじゃなかった。それでちょうどその時、お金をいっぱい持っていたからだな。」
「あの展開が好きではない?ってどう言うことです?」
そのままの意味です。と言ってもいいんだけど伝わらないよな?
ノアはノリで行動しているから俺がこう言うことを言っても掘り下げてこないけど、シャオリはこれだけじゃ納得しそうにないな。
あれだ、多分こいつ数学の公式とかを立て方から覚えないと納得しないタイプだ。
「じゃあ聞くけど、シャオリはあれを放置したらどうなる可能性があったか考えたことがあるか?」
「放置したらーーーーですか?えっと、悪いことが起こった。最悪孤児院が潰れていたかもしれません。」
それは本当に最後の最後だ。
「そうかもしれないな。ただそれに至る経緯というものもあるだろう?そこについては?」
「えっと、よくわかりません。」
うん、いい返事だ。っと、ここまで話して思ったのだが、本当にこれは小さな子供にする話の内容なのだろうか?
シャオリはしっかり者のお姉さんという感じの子だが、まだ小さいということを忘れてはいけない。
「じゃああの後の展開でありがちなのを一つ言おうか。先に言っておくけど、酷い話だから聞きたくなかったらーーーー「聞きます。」おっけー、わかった。聞きたくなくなったら耳を塞いでくれ。」
俺はそう前置きして話し始める。
俺たちがグレースさんを助けなかったらどうなっていたのかという話だ。
当然の前提条件としてあの孤児院は借金を抱えていた。総額500万だ。
それを月ごとに分けて少しずつ返却していくグレースさん。ただ、あの施設に働くことができる大人は彼女1人。
利子によって増え続ける借金を返すのは難しい。それこそ、毎月の返済もままならなかったくらいだ。
そしてついに決壊。
1人で耐えてきたものが限界を迎えた。借金取りはこれには激怒。
これに対してグレースさんはなんでもするから少し待ってくれと言っていたな。
ここまでが実際に起こっていた話だ。
今回話すのはこの先どうなるのかの一つの可能性。様々なゲームで数々の孤児院イベントを見てきた俺が最もありそうだと思った未来の話だ。
グレースさんは男たちから伸ばされた手を振り払うことはできない。もしそうして仕舞えば、頼みを聞いてもらえなくなる。
だから彼女はなすがまま。
ただ、男たちはその場では何もしない。ただ一つ、場所と時間を指定するだけ。そしてそこに来いという指示。
グレースさんはそれに従う。期日を伸ばしてもらうために、それしか方法はない。
そして言った先には男たちの姿。
そこでグレースさんは男たちにいいように弄ばれてしまう。
その日から彼女は男たちの言いなり。借金と期日の話を使い、好きなようにする。
そんな自分を守るべき子供達に見せるわけにはいかない。弱っているところを見せるわけにはいかない。
だから彼女は心を押し殺して必死に作り笑いをする。自分ではよくできていると思いながら・・・
そしてそんな生活が続いたある日、グレースさんは孤児院から姿を消す。
飽きられたか、売られたか。もうそれ以降帰ってくることはない。
唯一の大人を失った孤児院。
年長者がなんとかしようとするが、力が及ぶはずもない。すぐに分解してしまう。
かくして、一つの施設が終わりを告げるのであった・・・・・・おしまい。
俺は以上の内容を子供にも聞かせられるようにある程度ソフトな言い回しを使って話した。
「というのが可能性その1だ。ごめんなちょっと辛い話を聞かせてしまって。」
「うっ、、うっ、、大丈夫です。ありがとうございました。・・・あの、可能性1ということは?」
シャオリはその話の途中から顔色を悪くしていた。ただ、それでも最後まで聞き切った。
「ああ、あと数パターンあるけど、その様子だとこれ以上は聞かないほうがいいだろう。とにかく、あのあとこう言った展開がありそうだなって思って、それで自分たちがなんとかできそうだなって思った。だから助けた。あれ以上見たくなかったから。」
「先生!!先生!!本当にありがとうございました!」
シャオリが俺の胸に飛びついてくる。
個人的には嫌な展開が繰り広げられるのが気に食わなかっただけ、自己満足の塊的な理由なのだが、彼女はそうは思わなかったみたいだ。
俺の胸に飛びつき、腕を肩から後ろの回して強く締め付けてくる。
少し圧迫感はあるが、振り払うことはしない。
できない。
「まあなんだ。最終的に誰も損していないから別にいいじゃねえか。」
借金取りたちは通常の3倍の金が入ってハッピー。
孤児院は存続できてハッピー。
俺もすっきりしてハッピー。
win-winの関係。否、ウィンウィンウィンの関係なのだ!
・・・・なんかこの言い回し、究極生命体になりそうだな。
「損はしてないって、先生はかなりの大金を使いましたよね?ずっと思ってましたけど、貴族の方だったりするんですか?」
「いや?別に?あ、金のことは気にするな。知っての通り先生は金持ちだからあのくらいどうってことはないぞ。つーか金のことなんて子供が気にすることじゃないからな。」
それに、終盤に入ると金があってもどうにもならない問題もあるからな。と俺は心の中で苦笑した。
そう、いくら序盤に倹約プレイをしても、終盤に持っている金は採取的に同じだったりするのだ。
この世界は半ば現実だから、実際はそんなことは起こらないだろうが、金が欲しくなったら高額の依頼をこなせばいいだけの話というのは同じだ。
つまり、金には困っていないから金で解決できることは金で解決するのが一番ということだ。
「ふふっ、先生って本当に素敵ですね。」
「そうか?それなら良かった。」
可能性の話をする前は気分を害してそのまま嫌われる覚悟もしていたのだが、どうやらその必要はなかったみたいだな。